映画「ショーシャンクの空に」に背中を押されて|IT社長と社員に寄り添う公認会計士・野口社長の働き方

AIやクラウドの話を聞くたびに、「自分の仕事はこの先どうなるんだろう」と不安になる方も多いのではないでしょうか。スキルに自信がないまま働き続けていいのか、転職したいけれど一歩が踏み出せない。
そんなモヤモヤを抱える20代にとって、現場で社長と社員の両方を支えている専門家の視点は、大きなヒントになります。
今回は、映画「ショーシャンクの空に」をきっかけに公認会計士を志し、ITベンチャーの社長と社員に寄り添い続けているリライル会計事務所・野口五丈社長にお話を伺いました。
リライル会計事務所 / リライル株式会社
野口 五丈(のぐち・いつたけ) 代表 公認会計士・税理士
中央大学商学部会計学科卒業後、有限責任監査法人トーマツなどを経て、2012年に野口五丈公認会計士事務所を設立。2018年にリライル会計事務所へ社名変更し、ITベンチャーを中心にクラウド会計freeeの導入支援やバックオフィス体制の構築をサポート。
映画との出会いから、公認会計士を志した高校時代

編集部野口社長は、進路を考えるきっかけが映画だったと伺いました。



そうなんです。高校3年生のとき、テニス部の友人に「面白いから見てみなよ」と勧められて、「ショーシャンクの空に」という映画を見たのが始まりでした。



どんなところに影響を受けたのでしょう。



主人公は銀行の副頭取で、濡れ衣で刑務所に入れられてしまうんですが、会計や税金の知識を武器にして状況を変えていくんですね。最後は裏帳簿をうまく使って、ちゃんと仕返しもして、ハッピーエンドで終わる。会計や税金のプロって、すごくかっこいいなと思ったんです。



たしかに、「数字で状況をひっくり返す」みたいなかっこよさがありますね。



当時は理系クラスで、宇宙工学のほうに進もうと思っていました。でも映画をきっかけに「会計の道に行きたい」と思うようになって…。公認会計士になるには、文系の経済学部などに進むケースが多いと知って、高3の秋に理系から文系にクラス替えしました。今振り返ると、けっこう思い切った決断でしたね。



高校3年の秋だと、受験もかなり差し迫っていますよね。



そうですね。でも「やるなら今しかない」と思いました。あのとき動かなければ、今の仕事はなかったかもしれません。



進路をガラッと変える決断ができるのって、20代のキャリアにも通じる大事な力だと思います。今の道に少しモヤモヤしている人は、一度「本当にやりたいこと」を紙に書き出してみるのも良さそうですね。



そうですね。完璧な答えは出なくても、「こっちのほうがワクワクする」という感覚は大事にしてほしいです。僕の場合はそれが、映画と会計の世界でした。



そこから、公認会計士としてのキャリアを歩み始めたと。



試験に受かったのが2005年ごろで、ちょうどSNSが出始めて、ITベンチャーがどんどん上場していた時代です。オフィスにビリヤード台やダーツがあったりして、従来の上場企業とは雰囲気が全然違った。これからはITの領域が伸びると感じて、「ITに強い会計事務所でやっていこう」と決めました。



成長業界のそばで働くという選び方は、20代の仕事選びのヒントにもなりますね。明日、求人サイトを見るときに「自分が伸びると思う業界はどこか」という目線を足してみると、見え方が変わりそうです。
クラウド会計との出会いと、つまずく社長を見て気づいたこと



そこから、クラウド会計に特化していく流れを教えてください。



クラウド会計自体は2013年ごろに出てきて、うちが扱い始めたのは2014年あたりです。最初は正直、使い勝手があまり良くなくて…。そこまで本格的には取り組んでいませんでした。



当時はまだ「新しいツール」くらいの感覚だったんですね。



はい。でも2015年ごろからどんどん改善されて、「これはかなり便利だぞ」と。うちのお客様はIT企業が多くて相性も良かったので、思い切ってfreeeなどのクラウド会計に舵を切りました。とはいえ、2015年の時点では、まだ世の中的には少数派でしたね。2017年、18年くらいになって、ようやく「スタートアップならクラウド会計だよね」という空気が出てきた印象です。



今ではだいぶ当たり前になりましたが、その前から取り組んでいたんですね。なにかこう、現場で感じた課題はありましたか?



一番大きかったのは、「ツールはいいのに、うまく使いこなせない社長さんが多い」ということです。



ITリテラシーが高い人ばかりではない、ということですよね。



そうです。ITに強い社長さんは、自分で調べてどんどん使いこなします。でも、そうじゃない人も大勢います。「最初の設定でつまずいた」「何をどこに入力したらいいのか分からない」という声を、たくさん聞きました。



たしかに、最初の一歩で心が折れてしまう人は多そうです。



だから、単に「クラウド会計を入れましょう」で終わらせず、「御社のケースだと、こういう使い方がいいですよ」「同じ業界のこの会社さんは、こういうやり方でうまくいきましたよ」と、具体的にナビゲートするようにしています。



ツールの導入だけでなく、「伴走してくれる専門家」がいると安心感が違いますよね。



クラウド会計で作業時間が3分の1や半分になった会社さんもあります。そうなると、浮いた時間を資金調達や組織づくり、補助金の申請など、より付加価値の高い仕事に使えるようになる。



書類作業を早く終わらせて、本当にやりたい仕事に時間を使えるのは、20代にとっても大きな武器です。自分の作業を「どう短くするか」を考えるクセをつけると、評価にもつながりやすくなりそうですね。
リモートと出社のバランス、チームワークを守るための工夫





ここからは、社内の働き方についても伺いたいです。御社はリモートワークと出社をうまく組み合わせている印象でした。



今は大体、リモートと出社が半々くらいですね。出社している人がいるので、オフィスの席はけっこう空いています。出社している日は、なるべく近くに座って雑談をするようにしています。せっかく来てくれたので。



対面の何気ない会話から、生まれるものも大きいですもんね。



一方で、リモートの日はバーチャルオフィスの「オービス」を使っています。画面上にアバターがいて、近づくと話せる仕組みです。そこでちょっと声をかけて話したりもします。



リモートでも、偶然話しかけられるような環境を作っているんですね。



そうですね。ただ、リモートが増えたことで、雑談の量が減ってきた感覚はあります。なので、意識的にリアルな時間をつくろうとしています。



具体的には、どんなことをされているのでしょうか。



年に何度か、みんなでワーケーションに行っています。今年は伊豆に行きました。あと、鹿児島・神戸・名古屋・ロサンゼルスに住んでいるフルリモートの社員が4人いるんですが、忘年会や暑気払いのときは、できるだけ東京に来てもらっています。



全国や海外にいるメンバーとも、リアルで会う機会をちゃんとつくっているんですね。



そうですね。実際に会って一緒にご飯を食べると、翌日からのオンラインのコミュニケーションが全然変わります。



子育て中のメンバーも多いとうかがいました。



社員の8割くらいが子育て中ですね。保育園や小学生のお子さんがいる方も多いので、急に熱を出して休まなきゃいけないこともよくあります。



そういうとき、会社の空気はどうですか?



「子どもが熱を出したので今日はリモートにします」とか「病院に連れていきます」という連絡に、ネガティブな反応をする人はいないですね。むしろ「大丈夫?」「こっちはやっておくよ」と自然に声をかけてくれる人が多いです。



素敵です…。いわゆる「子持ち様」という言葉が出てこない環境なんですね。



そうですね。僕自身も子どもがいるので、そういう状況の大変さはよくわかります。「お互い様だよね」という感覚が社内にあるのは、うちの強みかなと思います。
クラウドと地方、リアルとデジタルを行き来する働き方



クラウド会計やリモートワークを活用しながら、地方のお客様や人材も増やしていると伺いました。



はい。クラウド会計とリモートワークを組み合わせると、地方のお客様の支援もかなりやりやすくなります。今はお客様の2割ほどが地方で、36都道府県にお取引先があります。オンライン会議やクラウドツールを使えば、東京に来ていただかなくても対応できます。書類もほとんど電子でやり取りできますし。



都市部と地方で、ビジネス環境の違いはありますか?



東京はどうしても競争が激しいです。お客様の獲得も、人材採用も。地方に目を向けると、競争がそこまで激しくないエリアもあって、東京の賃金水準で募集をかけると、優秀な方からの応募が集まりやすいケースもあります。



クラウドを使えば、地方にいても東京の仕事に関われる。働く場所の選択肢が広がりますね。



そう思います。地方で暮らしながら、リモートで東京の案件を担当する。そういう働き方が、これからもっと当たり前になっていくと思います。



20代のキャリアとしても、「東京か地方か」ではなく、「どんな仕事を、どんなスタイルでやりたいか」で考える時代ですね。



はい。リアルとデジタルをうまく組み合わせる発想が大事です。たとえば、基本はリモートで集中して働きつつ、ここぞというタイミングでは出社して直接話すとか。



場所の柔軟さがあると、ライフステージが変わってもキャリアを続けやすいですよね。



そうですね。引っ越しや子育てなど、人生にはいろんなイベントがあります。そのたびにキャリアをリセットするのはもったいないので、クラウドやリモートをうまく使って、長く働ける形を一緒に考えていけたらと思っています。


スキルに自信がなくてもいい。AIリテラシーと寄り添い力を武器にしよう



野口社長、この記事の読者は「自分に強みがない気がする」「どう動けばいいかわからない」という悩みを抱える方も少なくなくて…。最後に野口社長から、このようにお悩みの方に向けて、アドバイスも伺いたいです。



その気持ちはよくわかります。でも実は、そういう方こそ伸びしろは大きいと思っていて。見方を変えれば「可能性の塊」だとも感じます



可能性の塊、という表現は心強いです。そこから一歩踏み出すには、何から始めると良さそうでしょうか。



今の時代だと、まずはAIの勉強をしてみるのはおすすめです。



AIですか?



はい。どの業界も今、過渡期にあります。僕自身も、少しずつAIの活用を試していますが、「もっと早く触っておけばよかったな」と思うことも多いです。



どんなイメージで勉強を始めると良いでしょう。



はじめから完璧を目指すのではなくて、「会社に入ったとき、ここならAIをこう使えるんじゃないか」と提案できるレベルを目指すイメージですね。ほとんどの会社は、まだAIをうまく使いこなせていません。そこで一歩リードできれば、存在価値を出しやすくなります。



たしかに。どの業界に行っても使える知識ですもんね。



それと、もう一つ大事なのは、「寄り添い力」だと思います。昔は、会計事務所の人間が少し偉そうに税金の話をしているだけでも、仕事になったかもしれません。でも今は、そんな時代ではありません。



たしかに。お客様の立場でも「自分ごととして考えてくれる人」にお願いしたくなります。



僕らの理想は、社長さんの右腕として、本業に集中できる環境をつくることです。そのためには、数字の知識だけでなく、「この社長は今どこに悩んでいるのか」「どうすれば少し楽になるか」を想像する力が必要です。



それは、会計に限らず、どんな仕事にも通じる力ですね。



そう思います。たとえば接客業の経験がある方は、お客様の表情や空気を読む力が自然と身についています。その力は、どんな業界に行っても武器になります。



スキルに自信がない人ほど、「今までの経験の中に、人の役に立てた瞬間はなかったかな」と思い返してみると良さそうですね。



はい。「AIの基礎知識」と「人に寄り添う力」。この2つを意識して積み重ねていけば、今は自信がなくても、必ず仕事のチャンスは広がっていくと思います。小さく始めて、続けていくことが一番の近道だと思います。



今日は「映画がきっかけで進路を変える勇気」「クラウドやリモートで時間と場所をひらく工夫」「AIと寄り添い力を武器にする」というお話が印象的でした。今日からできることとしては、「AIについて毎日5分調べてみる」「身近な誰か一人に、いつもより一言多く声をかけてみる」。この2つを試してみるだけでも、半年後の景色が変わりそうです。野口社長、貴重なお話をありがとうございました!
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