コロナ禍の修羅場で店を守り抜いた23歳店長|肉屋の台所・芦澤社長が語る「続ける覚悟と逃げる判断」

飲食や接客の仕事は魅力がある一方で、「大変そう」「続けられる気がしない」と感じる20代の方は多いのではないでしょうか。とくにコロナ禍を経験した世代にとっては、働く意味やキャリアの選び方がこれまで以上に重たいテーマになっているはずです。
そんな中で、コロナ禍の真っ只中で飲食の現場を守り、店長から役員、そして代表へと抜擢されたのが、「肉屋の台所」芦澤社長です。
和食、不動産、そして再び飲食へ。現場で起きたこと、人との向き合い方、そして「続ける・逃げる」の判断基準まで、すべて現場目線で語っていただきました。
株式会社 肉屋の台所
芦澤 慶 代表取締役社長
和食店での下積みを経て、飲食と不動産の両業界を経験。23歳で「肉屋の台所」入社と同時に店長に抜擢され、現場を支えながらブランドの法人化にも関わる。副社長を経て現職。黒毛和牛の焼肉食べ放題業態を軸に、全体戦略から店舗開発、SNS映えを意識した商品企画まで幅広く牽引。
和食・不動産を経て、再び飲食へ戻った理由

編集部芦澤社長は、今でこそ「肉屋の台所」で代表を務めてらっしゃいますが、最初から飲食一筋というわけではないんですよね?



そうですね。もともと僕は不動産会社に勤めていたんですけど、母も含めて飲食に携わっていて、自分自身も和食の現場で6〜7年働いていました。飲食業の大変な部分も実際に見てきたので、一度は不動産業界に行ってみようと思って転職したんです。



一度は飲食から離れたんですね。そこから、また飲食に戻ってきたのはなぜでしょう?



ふと、自分はどんな仕事が合っているのかを考えたんです。今でいう診断テストじゃないですけど、そういう感覚で。結果的に、やっぱり飲食だなと思いました。人と接するのが好きでしたし、現場で動いている方が自分らしく働けるなって。



そうして、「肉屋の台所」に出向する形になった、と。



はい。23歳で入社したタイミングでコロナショックがあって…。会社として大きな判断が必要な状況でもありましたが、そんな中で肉屋の台所に出向しました。それで、早々に店長となり、のちに、役員にならないかと言われまして…。



店長を経て役員に…!すごい…!ちなみに、入社早々に芦澤社長が若くして店長に抜擢された理由って一体何だったのでしょう?



親会社の意向もありましたけど、逆に、若かったのが大きいと思います。伸びしろがあると見てもらえたんでしょうね。



なるほど…!



周りには実績を残している社員さんもたくさんいましたし、年上の方も多かったですが、でも若いからこそ任せてもらえた部分もあると思っています。



若さを「経験がないから不利」と捉えるのか、「伸びしろがあるからチャンス」と捉えるのかで、キャリアの広がりはかなり変わりますね…!20代で仕事の方向に迷っている人も、今の話はヒントになりそうです。



僕も最初からまっすぐ来たわけじゃなくて、遠回りもしてます。でも、その遠回りも含めて今の仕事につながっている感覚はありますね。
コロナ禍での店長1人営業。現場で感じた限界と続けた理由





お話にあった通り、芦澤社長が飲食に戻ったタイミングは、まさにコロナの直撃期ですよね。当時の現場は、どんな状況だったのでしょうか。



とにかく過激でしたね。緊急事態宣言が4回出て、そのたびに営業時間の変更や休業がありました。店長は働きますけど、一般社員やアルバイトはシフトに入れないので、「店長1人営業」みたいな日も普通にありました。



想像するだけでしんどいです…。当時は、お客さんの入りも読めなかったですよね。



そうですね…。補助金や給付金の申請をしながら、とにかく「会社と社員をどう守るか」を考えていました。売上は落ちている。でも国からは「お酒は出しちゃダメですよ」と言われる。その中で、何を選んで、どこで踏ん張るか、決断の連続でしたね。



飲食だけでなく、ホテルや観光などの業界は、どこも本当に厳しい時期でしたよね。そんな苦しい状況下でも、ズバリ、なぜ辞めなかったのでしょうか?



僕はもともと独立志向だったんです。「3年以内には独立する」と決めて肉屋の台所に入っていました。その3年目のタイミングで「役員をやらないか」という話をもらって…、ここで逃げるのか、もう一歩踏ん張るのか、自分の中でかなり揺れました。



厳しい状況から学べることもありますもんね。



そうですね。コロナみたいなことは、またいつか起きるかもしれない。その時に「前にこういう経験をしたから、次はこう備えよう」と言えるかどうかで、経営者としての重みが変わると思っています。だからこそ、あの3年間はきつかったですけど、逃げずに現場に立ち続けてよかったなと。



20代で仕事を選ぶ時、「楽そうかどうか」だけで決めてしまうと、いざという時に踏ん張れる経験が足りないのかもしれません。芦澤社長はあのとき耐え抜いた経験が、今の仕事の土台になっているんですね。



はい。あの3年で折れなかった人は、たぶんどの業界に行ってもやっていけると思います。
現場の信頼は「続けること」と「伝え方」でしか積み上がらない





現場のマネジメントのお話もぜひ伺いたいです。飲食の現場は、社員だけでなくアルバイトも多いですよね。日々、どんなコミュニケーションを心がけていますか?



うちは年に1回、社員とアルバイトを含めて集まるイベントもありますが、日常の中で「言いやすい空気」を作ることを意識しています。僕自身が若いということもあって、比較的話しかけやすい雰囲気だとは思いますね。



とはいえ、きれいごとだけでは回らないのが現場ですよね。当日欠勤の連絡が来て突然シフトに穴が空いたり…。こういうことって、飲食の現場では頻繁に起きると聞きます。



ありますね。そこは会社によって線の引き方が違うと思いますが、僕は「回数」で線を引いています。1回、2回なら「大丈夫?気をつけてね」で終わります。でも、1か月に1回ペースで3か月連続で当日欠勤していたら、それはもう信用の問題です。そういう人は、「シフトに入れないよ」と伝えます。



厳しいけれど、職場としてはとても大事な線引きですね。



厳しく言い過ぎると来なくなってしまいますし、甘くしすぎると現場が回らない。だから言い方はすごく考えます。昭和の板前時代みたいに怒鳴るのが普通だった時代も知っていますが、今はそれでは人が続きません。



たしかに、「残業するな」「残業しろ」という単語だけでは、本当に伝えたい本質が伝わりませんよね。



そうなんです。本当は「時間内に終わるように段取りを組もうね」という話なのに、言い方を間違えるとただの説教になってしまう。だから僕は、モチベーションをどこまで落とさずに本音を伝えるかを大事にしています。高圧的に言っても、その場は動きますが、長くは続かないので。



20代で初めて後輩やアルバイトを任された時、「どこまで厳しく言っていいのか」「どこまで寄り添うべきか」で悩む人は多いです。今のお話は、まさに現場のリアルなヒントですね。
AIが厨房に入っても、人と人の温度はなくならない





芦澤社長のお話を聞いていると、結局は「人との向き合い方」が仕事の軸になっていると感じます。言い方ひとつで相手のモチベーションが変わったり、続くかどうかが決まったり。一方で、今はAIやロボットが急速に増えていますよね。こうした変化の中で、飲食の仕事はどう変わると感じていますか?



僕は、AIで一番早く変わるのは、キッチンの職人だと思っています。



キッチンの職人、ですか…?



はい。すでに海外では、ピザ生地の温度や焼き加減を、細かく制御できるシステムキッチンが出ているんですよ。寿司も、シャリの固さや温度を機械がかなり再現できるようになってきています。



おぉ…!職人技だと思っていた部分が、どんどん機械で再現されていく世界ですね。



そうです。じゃあ職人がいらないのかと言うと、僕はそうは思っていません。ただ、「職人だから価値がある」というだけの時代ではなくなっていく。機械の方が安くて、早くて、安定しておいしい。そうなったときに、飲食の価値はどこに残るのか、という話です。



たとえば、失恋してふらっと入ったバーで、バーテンダーが話を聞きながら状況にぴったりのカクテルを作ってくれる。ああいう時間は、AIでは代わりがきかないですもんね。



そうですね。人の感情に寄り添って、距離感を測りながらサービスをするところは、まだまだ人間の仕事です。でも、AIを扱えるようにはならないといけないとは思いますけどね。
20代に伝えたい「逃げてもいい・でも仲間は大事」という感覚





お話を聞いていると、コロナ禍の混乱やAIの変化、人との距離感に悩む場面など、「続ける・辞める」とは別に心が揺れる瞬間がたくさんあったのではないかと感じました。そんな時、芦澤社長は自分の気持ちとどう向き合っていたんでしょうか。



はい。僕は「とにかく我慢して続けろ」という考えではないです。無理をして体や心を壊すのは違うと思っています。嫌なら逃げるという選択も普通にあると思っています。



逃げる=悪い、というイメージを持つ人も多いですが、芦澤社長の考えはかなりフラットなんですね。



そうですね。逃げるにしても、続けるにしても、どちらも本人が選べばいいと思っています。ただ、どんな場面でも「仲間がいるかどうか」がすごく大事で。そこがあるかないかで、同じ状況でも踏ん張り方が変わります。



仲間の存在で耐えられる瞬間って、確かにありますよね。仕事って一人だけだと本当にきつい時がありますし。



そうなんです。一人の馬力には限界があります。120の馬力を出せる人もいれば、80の馬力しか出せない人もいますけど、誰でもどこかで限界は来ます。でも「この人たちと一緒だから頑張ろう」と思えると、越えられる場面が確実に増えます。



芦澤社長ご自身も、仲間に支えられて今がある感覚なんですね。



そうですね。現場に立っていた時も、若い子たちが頑張ってくれていたので踏ん張れたと思います。僕一人では絶対に無理でした。志の高いメンバーとやれていたのは大きいです。



その仲間意識が、続ける時の支えになったと。



そうです。あと、よく「芦澤さんメンタル強いですよね」と言われるんですけど…別に強いわけじゃないんですよ。落ち込む時は普通に落ち込みます。でも、立ち直るのが早いだけなんです。悩んでもしょうがないことってあるじゃないですか。考えても結果が変わらないなら、そこに時間を使わないようにしています。



すごくわかります。考えても変わらないことは割り切る、という感覚。



はい。七転び八起きみたいに、倒れても起きればいいだけだと思っていて。悩んで止まっているより、一回落ち込んでパッと切り替えた方が自分には合っています。



芦澤社長のお話を聞いて、過酷な状況でも現場を支え続けた姿勢に、覚悟の形はいろいろあるんだと感じました。いましんどくて、続けるか迷っている方にとって、少しでも参考になればと思います。芦澤社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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