「当たり前を疑え。」買取の風景を変えた、常識破りの現場力|株式会社CurioTech小林社長の仕事観

リユースの世界では、「買取は店でやるもの」「広告はネットで打つもの」そんな前提が長く続いてきました。その“当たり前”を丸ごと疑い、まったく別の構造をつくったのが、株式会社CurioTechの小林社長です。
スーパーの一角での催事買取。
広告費はプラットフォームではなく仲間に投資。
会社は辞める前提で一緒に働く。
どれも大胆に見える決断ですが、小林社長はいつも「目の前のお客さんがどう動いているか」を出発点にしています。
常識に寄りかからず、自分の足で考える。その姿勢が、買取の風景そのものを変えてきました。小林社長の言葉から、“当たり前を疑う”という行為がどれほど力を持つのかが見えてきます。
株式会社CurioTech
小林 慶太郎 代表取締役
古物商の世界で約8年間、真贋判定と相場の目利きを鍛えたのち独立。リユース周辺の事業に複数挑戦し、7つの事業を手放しながら、自分が最も価値を出せる領域を探り続けた。法律改正の追い風を受け、ショッピングモールで行う「催事買取」に着目し、現場と数字の設計から仕組みを再構築。現在は、催事買取事業と独立・副業を前提とした組織づくりの両軸で事業を進めている。
催事買取にたどり着くまでの遠回りと決断
編集部小林社長は古物商で長くお仕事をされていたそうですね。その経験が、今の催事買取につながっていく背景をまず伺えますか?



もともとは、古物商のサラリーマンだったんです。だいたい8年くらいですかね。お客さんから商品を買って、問屋さんや市場に売る、いわゆるC2Bのリユースの世界にいました。



出張買取や店舗買取など、よくあるモデルですよね。



そうです。昔は出張・店舗・郵送の3つしか買取方法がなかったんですよ。しかも法律上、お客さまのご自宅か、こちらの店舗や会社の敷地でしか売買ができなかった。それが7年くらい前に法律が変わって、お客さまの家でも店でもない場所でも取引ができるようになったんです。それでショッピングモールやホームセンターの一角でやる、今の催事買取の形が生まれたんです。



まさに新しいマーケットが開いた瞬間ですね。



そうですね。ただ、そこに飛び込むまでが長かったです。会社を作ってから今の事業に当たるまでに、実は7個くらい事業を潰してるんですよ。システム開発とか、越境ECの支援とか、リユースに間接的に関わる仕事もいろいろ試しては、刺さらなくてやめて…の繰り返しでした。



7つ…相当チャレンジされてきたんですね。



もう、やっては潰しての連続でした。でも最終的に残ったのが、僕が一番できることだったんです。ひとつのモノがいくらくらいか、本物か偽物か。そこを見抜く力だけは、サラリーマン時代に叩き込んでもらえたので。



自分が積み上げてきた武器に、法律の追い風が重なったわけですね。



はい。法律で新しい場所が開いたこと、自分が「いくらで買えるか」と「本物を見切る」ことができたこと、そしてショッピングモールや大手さんのブランドを借りられること…この3つがちょうど良くそろった時に、「できることをちゃんとやろう」と決めて、今の事業に振り切りました。



たしかに、その3つがそろうのは大きな転機ですよね。20代のキャリアでも、いきなり天職を当てるより、目の前の仕事で身についた力と、時代の変化が重なる場所を見つける方が、結果として遠回りしないのかもしれませんね。
「買取は怖い」を変えたかった。スーパーやホームセンターから始めた常識破り





小林社長のお話を聞いていると、従来の当たり前をひっくり返してきた人という印象があります。催事買取という発想も、かなりチャレンジだったのでは?



最初は僕も「こんな場所に大事なものを持ってくる人なんていない」と思ってました。だって、スーパーとかホームセンターの一角ですからね。



たしかにそうですよね。でも、実際には違ったと。



ぜんぜん違いました。世の中には、買取を使ったことがない人の方が多いんです。お店に入るのが怖い、どんな人が出てくるかわからない、家に上げるのも不安…。そういう人たちが、普段から買い物に来ているスーパーの催事だと、ふっと相談に来てくれる。



たしかに、顔が見える安心感がありますね。



そうなんです。店舗や出張って、お客さんからすると、店員ガチャみたいなところがあると思うんですよ。この人か…って。郵送なんて顔も見えない。けど催事だと、誰が査定するか、チラシを配っている段階で見えている。いつものスーパーで、「こんにちは」と挨拶している人が、その場で買い取る。



心理的なハードルはかなり下がりますね。



だから僕らは、とりあえず相談していい窓口でありたいんです。スーパーで買い物袋をぶら下げたまま、「ちょっと聞きたいんだけど」でいい。単価が低いものでも、なんでも持ってきてくださいねって。



しかも一度開催した場所で、定期的に催事をされているんですよね。



はい。多いところだと、ほぼ毎月やらせてもらっています。年間だと600イベントくらいですね。同じエリアで何回もやると、「あの買取屋さん、また来てるな」と覚えてもらえて、「次いつ来るの?」って声をかけてもらえるようになる。



なるほど…。何度も開催することで、地域の方との距離がぐっと近くなるんですね。20代で営業や接客をする人にとっても、お客さまが不安に感じている“見えない怖さ”をどう下げるかという視点は、どんな業界でも武器になりそうです。
グーグルに広告費を払うより、仲間に還元する。人に投資するビジネスモデル



催事買取の裏側には、かなり戦略的な数字の設計があると伺いました。



そうですね。リユースって、扱う商品はすべて一点物じゃないですか。状態も値段もバラバラ。その中で事業を成立させるには、どう顧客数を増やすか・どう単価を維持するかの設計がすごく大事なんです。



従来の出張や店舗、郵送のモデルだと、そのあたりが難しかったんですかね。



1人1日5件くらいが限界なんですよ。車であちこち回ったり、店舗で来店を待ったり、郵送で電話してもつながらなかったり。ところが催事だと、その施設にいる人が全部リードになる。1人あたりの商談数がまったく違う。



なるほど。数のレバレッジが効くわけですね。



単価はどのモデルもそこまで変わらない。でも、顧客数のKPIは催事の方が圧倒的に優れていた。だから、いかに現場で集客できるかに投資するモデルに振り切ったんです。



その投資の仕方が、また特徴的ですよね。



はい。僕は、グーグルに広告費を4万円払うなら、スタッフに2万円ずつ渡したい、という考えです。例えば「着物 買取」みたいなキーワードでグーグルのリスティング広告を出稿すると、クリックだけで数百円しますからね。



リスティング広告は本当に高騰していますよね…。



だったら、そのお金をスタッフに払って、服装や美容に使ってもらい、綺麗な身なりで商店街を歩いてもらった方が宣伝になります。僕らは、現場でチラシを配ったり話しかけたりしているメンバーの人件費やチラシ代を、全部CPAとして計算しているわけです。



CPAは、ざっくり言うと「1人のお客さまを集めるまでにかかった費用」のことですよね。だからこそ、フィールドセールスの平均年収も高く設計されているんですね。



そうですね。ちゃんと数字が合うから、しっかり払える。しかも制服は全員オーダースーツって決めていて、スーツ代やシャツ、靴もまとめて会社で支給しています。朝は必ず全員の身だしなみ動画を撮って、だらしなかったらその場で家に帰します。



えっ、本当に帰れって言うんですか?



本当ですよ。髪型ひとつ、眉毛ひとつ、指先まできちんとしてこそ、お客さまの大事なものを預かる側としてスタートラインに立てると思っています。



す、すごい…。20代のうちは、「なぜこの給料がもらえているのか」を数字で説明できる感覚を持てると、どんな環境に行っても強いですよね…。人に投資する会社で働くことは、自分の市場価値の計算式を体で覚える機会にもなりそうだと思いました。
仲間は大事。だけど、巣立ってもらっても構わない。



小林社長は、仲間との関わり方をとても大事にされている印象があります。実際、御社は副業や独立もOKにされているそうですね。



はい。うちは「副業OK・独立OK」です。というか、むしろそのつもりで使っていいよと言っています。みんなそれぞれ、将来なりたい姿があって当たり前だと思うので。



事業を手伝ってもらいながら、同時に自分の夢を育ててもいい、というスタンスなんですね。



そうです。店を持ちたい子もいれば、事業を立ち上げたい子もいるし、家業を継ぐ予定の子もいます。だから「この会社に骨を埋めろ」みたいなことは言わないです。むしろ、やりたいことの手段として使いなさいという考え方ですね。



かなり珍しい会社の関わり方だと思います。



普通に考えて、会社っていつか辞めるものじゃないですか。辞め方だけ綺麗なら、辞めたあともどこかでまた仕事で会えますし。だから、「辞めるかもしれない前提」で付き合えばいいと思うんです。



そこまで割り切っているからこそ、社員の方も自分に正直に働けるのかもしれませんね。



うちは透明性や即時性を大事にしていて。思った通りに手元に返るという感覚が若い子に向いてるはずなんですよね。フランチャイズを始めた理由も、実はそこに近くて。



フランチャイズは、仲間が商売敵にならない形にしたい、というお話がありましたよね。



そうです。独立したい人に「ゼロから頑張って」と言うと大変なので。だったら僕の看板を貸して、一緒に大きくした方がいいし、こっちも仲間を失わずに済む。財布だけ分けて、商売としては同じ方向を見るという形です。



仲間として支えつつ、相手の人生の次のステップにもきちんと向き合う。そういうバランスなんですね。



そうですね。みんな家族が大事で、1円でも多く欲しくて、1秒でも早く帰りたい。それでいいんです。だからこそ、働く中で「何者かになる準備ができる場所」にしたいと思っています。
20代へのメッセージ。「何者かになる前に、何者かになれる自分をつくれ」



そんな、何者かになりたい20代に向けて、一番伝えたいことを教えてください。



やりたいこととか、なりたい自分があるのはいいと思うんです。ただ、そのためには「やりたくないこと」もやらなきゃいけない。それを避けて通るのは無理だと思っています。



耳が痛いけれど、大事なことですよね。



若いうちは、まずはちゃんと成果を出している大人に言われたことを、黙ってやってみた方がいいです。脳死でやれ、っていうと言い方は悪いんですけど(笑)。ごちゃごちゃ言っても、やってみないとわからないことばかりなので。



御社では、未経験の方も多く採用されていると伺いました。



はい。経験とかスキルは、慣れればなんとでもなります。それより大事なのは考え方です。何者かになるってことは、何かで他者に寄与している状態です。フォーミー(自分のため)だけでは、何者にもなれない。フォーユー(相手のため)をどれだけやれるか。そこをすごく見ています。



だからこそ、会社としても「誰にどう残すか」という考え方を大事にされているんですね。



そうです。うちでは入社して最初の3ヶ月は有期雇用にしていて、その間に一定のスコアと、人間関係が作れていなかったら、どんな経路の採用でも問答無用で卒業です。ぬるっと残さない。それくらい、「他者に寄与する」という感覚を大事にしています。



その一方で、目標設定の伴走もかなり丁寧にされていると。



最初に必ず、「君はいつまでに何になりたいのか」「なぜそうなりたいのか」「どうやって、誰とやるのか」を言語化してもらいます。その自己実現のための仲間やお金、時間、環境は会社が提供する。だからこそ、君自身は自分の約束を守りなさい、というスタンスですね。



御社を“本業”にしても、“副業”にしてもかまわないけれど、ここで「何者かになれる自分」をつくってほしい、というメッセージに聞こえました。



まさにそうですね。人のためにちゃんと動ける自分をここでつくってくれたら嬉しいなと思っています。



今日は、「常識を疑ってみること」「人に投資する発想」「何者かになる前に、何者かになれる自分をつくる」という考え方が、強く心に残りました。まずは目の前の仕事をもう少し丁寧に扱いながら、日常の姿勢を整えていきたいと思います。小林社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








