捨てずにつなぐ「撤去・買取」の仕事|株式会社ケイコーポレーション 森田社長が語る、AI時代に残る【人の判断】の価値

AIが進んでも「人間による現場の判断」はなくならない。
そんな声を、撤去・買取の仕事を担う株式会社ケイコーポレーションの森田社長から聞きました。不要になった設備を次の場所へつなぎ、捨てずに活かす。この仕事は、環境の追い風もあり、いま確実に広がりを見せています。
一つとして同じ現場はなく、毎回異なる条件を読み取りながら形にしていく。その積み重ねが、お客様の感謝と自分の専門性につながっていくのだと言います。
変化の大きい今、人が判断する場はどこにあり、どんな環境で成長できるのか。そのヒントを森田社長に伺いました。
株式会社ケイコーポレーション
森田 渉 代表取締役
前任社長からの事業承継を機にケイコーポレーションへ参画し、2024年より代表取締役に就任。工場やプラントの生産ライン撤去、店舗設備やホテルの残置物処理、ICT機器の大ロット回収、太陽光発電所の撤去など、多様な現場を扱う事業を統括する。創業以来の実績と独自の買い手探索をもとに、買取ネットワークを全国規模で構築。企業の「次の挑戦」を支えるため、環境配慮と低コストを両立した撤去・回収の仕組みづくりを進めている。
経営のプロが「撤去・買取」の世界に飛び込んだ理由

編集部森田社長は、もともとケイコーポレーションで働かれていたわけではないと伺っています。このお仕事に関わるようになった経緯を改めて教えていただけますか?



はい。私がケイコーポレーションの代表に就任したのは2024年3月末で、まだ1年半ほどのタイミングです。もともとは株主である株式会社G&Company側におりまして、前任の藤田が同社へ株式を譲渡した流れの中で、会社に関わるようになりました。そのタイミングで、代表を務める役割をいただいた形です。



経営のプロとして外から関わっていたからこそ、「この会社に入ろう」と決めた理由が気になります。どんな魅力を感じたのでしょうか。



一つは、業界としての将来性です。我々のビジネスは、広く言うと法人向けのリサイクル・リユースです。不要になった設備や機械を、どう再流通させるか、どう素材として活かし直すか。SDGsや環境意識の高まりの中で、今後確実にニーズが増える分野だと感じました。



たしかに、環境への向き合い方はここ数年で一気に変わりましたよね。



そうですね。少し前までは、「環境は大事だけど、ほどほどでいいよね」という空気も正直ありました。ただ、金融庁がサステナビリティの情報開示に踏み込むなど、「実態のある取り組みをしないと評価されない」流れが強くなってきた。そこで、大企業も本気になりました。



その中で、不要物の「捨て方」も見直されてきたと。



はい。今までゴミとして捨てていたものを、どうにかリサイクル・リユースできないか。廃棄せずに再資源化することで、温室効果ガス排出量をどれくらい減らせるのか。そうした問いに応えられるパートナーが求められるようになりました。



だからこそ、撤去や買取の会社にも高いレベルが求められるようになったわけですね。成長する市場で経験を積めることは、20代のキャリアにとっても大きな武器になりそうです。



そう思います。この業界は、地域ごとに小さな会社が多く、まだ大手が一社で取り切っている世界ではありません。その中で、当社は売上で60億円弱と、業界内では比較的大きなプレイヤーです。ここからさらに合従連衡が進むときに、真ん中あたりで求められるポジションを取れる。そこも大きな魅力でしたね。
お客様にまっすぐ感謝される仕事の面白さ





森田社長ご自身が「この仕事、いいな」と感じているポイントも教えてください。やりがいのイメージが持てると、20代も仕事を選びやすくなります。



端的に言うと、お客様にとても感謝される仕事だということです。世の中には、本当は必要のないサービスを、頑張って売らなければいけない仕事もありますよね。一方で、我々が扱うのは「もういらなくなったもの」です。



たしかに、処分って多くの企業にとって「困りごと」ですよね。



そうなんです。今までお金を払って処分していたものを、「場合によっては当社がお金を支払って引き取ります」と提案できることもある。手間も減り、コストも下がる。そうなると、お客様は本当にストレートに喜んでくださいます。



「まさか買い取ってもらえるとは思わなかったよ、ありがとう」という声がもらえる仕事ですね。



はい。そういった言葉をいただくことは本当に多いです。自分の人生をかけてやる仕事なら、単に売上や利益だけでなく、お客様から評価される仕事のほうが健全だと思うんです。そこはこの事業の大きな魅力ですね。



たしかにそうですね…!「感謝される仕事」は、やりがいと評価の両方につながりそうです。



そうですね。しかもこの仕事は、一件一件がほぼオーダーメイドです。たとえば山奥の工場から大きな機械を一部撤去して買取するケースを想像してみてください。工場内のどのようなルートを辿れば稼働中の生産ラインへの影響を最小限にして「モノ」を運び出せるのか。運び出した「モノ」を搭載を搭載できるトラックの適切なサイズはどのようなものか。その適切なサイズのトラックは工場までの山道を通れるのか。もし山道を通れないなら、機械は現地である程度分解する必要があるのか。そのための機材は持ち込めるのか…。



現場ごとに条件がまったく違うわけですね。



はい。同じ現場は一つとしてありません。だから、営業も現場側も、お客様の希望や制約条件を丁寧に聞き取りながら、一件ごとにプランを組み立てる必要があります。自分の工夫で現場がうまく回ったとき、パズルが上手く組みあがったような爽快感と感じる人は多いと思いますよ。



現場で考える余白が大きい分、決められたマニュアルをこなすより、自分の頭と足で仕事を作っていく感覚に近いですね。そうした経験は、「考えて動ける人材」として評価される土台になりそうです。
「分ければ価値になる」400社ネットワークの作り方





実際に、どんなモノに需要があるのかも気になります。撤去や買取の対象はかなり幅が広そうですよね。



そうですね。我々は法人のお客様が持つあらゆるモノを対象にしています。次の使い道が見つけやすいのは、やはり中古のパソコンやスマートフォンなどのICT機器ですね。スペックや年式で相場が見えますので。



たしかに、そこはイメージしやすいです。一方で、難しいモノの例もありますか?



例えばホテルの客室リニューアルの案件です。テレビや机、椅子、ベッド、化粧台など、一度に大量のモノが出てきます。ベッドのマットレスは、特に難しいですね。かさばるので輸送費が高くなりがちで、名前のないマットレスは中古需要がつきづらい。結果として、廃棄物として処分せざるを得ないこともあります。



でも、多くのケースでは丸ごと廃棄物にしてしまうわけではないんですよね。



はい。我々の業界では「分ければ分けるほど価値が出る」という考え方があります。例えば、我々が広く取り扱っている中古PCの中にも、完全に壊れていて電源がつかないような、リユースしようがないモノも混じってきます。そのまま廃棄してしまうとその重量に応じた処分費用がまるっとかかってしまうわけですが、これを分解して、中の基板、金属、ケーブルなどに分けていくと、それぞれに別の買い手が存在します。本当に廃棄しなければならないのは重量シェアで見てもごくわずかです。当社も、埼玉県坂戸市の拠点で一部の品目を分解して、素材ごとに貯めて売ることをしています。



なるほど。「どう分けると価値が出るか」を知っていること自体が、仕事の武器なんですね。



そうですね。ただ、そこに万能の教科書があるわけではありません。公的な資格もほとんどなくて、基本は経験の積み重ねです。そこで重要になるのが、買い手側のネットワークです。



聞けば教えてくれるプロの方たちがいると。



はい。社内には「基板の達人」と呼ばれるメンバーもいますし(笑)、基板を見ただけで「これは1枚〇〇円くらい」と大体の値付けができる人もいます。でも、それも最初から詳しかったわけではありません。最初は皆、ゼロからのスタートです。



そこからどうやってプロになっていくのでしょう?



我々がこの20年弱で一番蓄積してきたのは、「聞ける相手」のリストです。今は常に相談できる先が約400社あります。「この商材ならあの会社さんに聞こう」「あのプラントならこう扱ってくれることが多い」と、先輩社員の頭の中にはネットワークの地図が入っています。新しく入ったメンバーも、その地図を共有してもらいながら、実際に電話や訪問で話を聞きに行く。そうやって、自分の得意分野を増やしていくイメージですね。



なるほど。知識だけでなく、人とのつながりを使いながら経験を積んでいく仕事なんですね。現場ごとに判断が変わるからこそ、「機械的に処理する仕事」とはちょっと違う印象を受けました。
AIには置き換わらない、「現場×誠実さ」の仕事





こうした現場判断が多い仕事は、テクノロジーが進む中でどう変わっていくのかも気になります。最近は20代から「AIの普及によって自分の仕事がなくなるのでは」という声もよく届きますが、森田社長はどう見ていますか?



正直に言うと、我々のコア業務がAIに代替される未来は、少なくとも5年10年というスパンではあまり見えていません。もちろん見積書の作成など、事務的な部分は効率化されていくと思います。ただ、現地でモノを見て、動線を考え、安全を確認して、関係者と調整する。そこは人間の仕事のままだと思います。



生成AIがいくら発達しても、「現場に行って重たい機械をどう動かすか」は画面の向こうでは決められないですもんね。



はい。加えて、誤解を恐れずに言えば、この業界は「テクノロジーに詳しい人」「新しい物事を取り入れることが大好きな人」が集まる業界でもありません。だからこそ、世の中のビッグトレンドに過度に振り回されないという面もあります。



とはいえ、20代は「ポータブルスキルを身につけないと」と焦りがちです。その点はどう考えていますか?



たしかに、経理や人事のように、どの会社でも通用するスキルは魅力的に見えます。ただ、ポータブルということは、競争相手も多いということです。よほど突き抜けた専門性がないと、厳しい戦いになります。



なるほど。逆に、御社で身につく知識は、外からは手に入りづらい“ニッチな専門性”ということですね。



そう思います。例えば「この設備は素材としていくらの価値があるか」「この基板はどこの誰に売るべきか」といった感覚は、他社でそのまま使える場面がそんなに多くはありません。だからこそ、「中途採用ですぐに取れる人材」もほぼいない。長く会社にいてくれた人ほど、替えのきかない存在になります。



長く続けるほど評価される土台があるのは、安心してスキル投資ができますね。



私の役割は、そうやって長く腰を据えて働いてくれる人たちに、きちんと報いる環境を整えることだと思っています。AIの流行に振り回されるより、「人として誠実であること」「逃げずに現場と向き合うこと」を大事にしている人が評価される世界です。そういう意味では、20代のうちから人間力で勝負したい方には向いていると思います。



AIに負けない「現場×誠実さ」の仕事は、これからの時代の安定したキャリアづくりにもつながりそうです。
伸びている場所に身を置く。20代へのメッセージ





ここまでのお話を踏まえて、最後に20代の読者へメッセージをお願いします。これから働く場所を選ぶうえで、大事にしてほしい視点は何でしょうか?



一つ挙げるなら、「成長している場所に身を置く」ということです。これは業界でも、会社単位でも構いませんが、上り調子のところにいるかどうかで、個人のチャンスの量はかなり変わります。



今の日本は、労働人口も減少していて、シュリンクしている市場も多いですよね。



そうなんです。市場全体が毎年少しずつ小さくなっていくと、新しい挑戦もしづらくなりますし、新しいポストも空きにくい。どうしても守りの戦いになりがちです。その中で、環境意識の高まりやコンプライアンス強化の追い風を受けている私たちの業界は、やはり魅力があると思っています。



たしかに、「成長している土俵に立つ」こと自体が、キャリアのリスクヘッジになりそうです。



もちろん、どんな会社でも、自分が何も努力しなければ評価はされません。でも、伸びている会社や業界の上昇気流に乗ることで、自分の人生も一緒に上に運ばれていく感覚は確かにあります。



まずは「どこなら成長を実感できそうか」を考えることが、最初の一歩かもしれませんね。



はい。そのうえで、自分が興味を持てるかどうかも大事です。伸びているからといって、まったく関心の持てない分野だと続きませんから。成長している場所かどうか。そして、自分が心から「面白そうだ」と思えるか。この二つを軸に、会社や業界を選んでみてほしいですね。



今の仕事にモヤモヤしている20代も、「環境を変える」という選択肢を持っていいのかもしれません。



そう思います。いきなり大きく飛ぶ必要はありませんが、「自分が成長できる環境ってどこだろう」と考えて、一歩踏み出してみる。その積み重ねが、10年後のキャリアを形作るはずです。



今日は、環境の追い風の中で積み上がってきた現場の工夫や、「分ければ価値になる」という視点、そして誠実さを軸にした働き方のお話がとくに印象的でした。成長している場所で、自分の役割を静かに磨いていく。そんな姿勢が、長く働く強さにつながるのだと感じます。森田社長、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








