仲間が帰ってこられる場を守る。|株式会社フジヤマ工業 福田社長が語る「現場で働く」という選択

キャリアを選ぶとき、体を使う現場の仕事は「きつそう」「将来が見えない」と、最初から候補から外してしまう人もいるかもしれません。でも、本当にそれだけで判断してしまっていいのか、不安に感じている方も多いはずです。

そんな中で、高校中退から現場一筋で働き続け、仲間と立ち上げた会社をリーマンショックや耐震偽装問題の中でも守り抜いてきたのが、株式会社フジヤマ工業代表取締役の福田一貴さんです。

断熱材ウレタンフォームの施工現場で汗をかき続けてきた福田さんに、「人」と「仕事」とどう向き合えば自分のキャリアを自分の力で切り開けるのかを伺いました。現場の仕事を含めて進路を考えるヒントや、明日から試せる小さな一歩が見えてきます。

お話を伺った人

株式会社フジヤマ工業

代表取締役 福田 一貴

高校中退後、大工見習いやトラック運転手を経て、同級生の誘いで断熱材ウレタンフォーム施工の世界へ。仲間と班を組んで現場を回る中で「このメンバーと働き続けたい」と思い、フジヤマ工業を設立。リーマンショックや耐震偽装問題で仕事が激減した時期も、「職人が帰ってこられる場をなくしたくない」と会社を守ってきた。今も現場に立ちながら、会社に戻れば従業員や協力会社の声に耳を傾け、これからの仕事のかたちを模索している。

目次

高校中退から現場一筋へ。出会った「ウレタンの仕事」

編集部

福田社長って、もともと今のウレタンの仕事をしていたわけじゃないんですよね?今のお仕事に行き着くまで、どんな道のりだったんですか?

福田社長

高校は途中で辞めてしまって、そのあと大工の見習いをしたり、トラック運転手をしたり、いくつか仕事を転々としていたんです。どれもやってみたんですけど、「一生やりたい」と思える感じではなくて。

編集部

そうした中で、今の硬質ウレタンフォームの仕事に出会われたんですね。

福田社長

そうです。同級生がこの仕事をしていて、「アルバイトで1日1万5千円もらえる」と聞いたのが最初のきっかけです。当時としてもかなりいい日給でしたし、どんな仕事かも全然知らなかったので、「そんなに出るならやってみようか」と。

編集部

最初はお金に魅力を感じて、という流れだったんですね。

福田社長

はい。でも実際に現場に出てみたら、「これは面白いな」と思ったんです。普通の建設工事って、工場で作られた製品を現場で取り付けることが多いじゃないですか。うちの仕事はトラックに材料と機械を積んで、現場で2種類の液体を混ぜて、ホースで運んで、その場でウレタンフォームを作っていく。現場でモコモコ膨らんでいくのを、職人がコントロールしていくんです。

編集部

たしかに、ちょっと「秘密道具」みたいでワクワクしますね。

福田社長

当時は今以上に特殊な職種で、現場でも機械トラブルがあると全体の工程が止まってしまう。その分、周りの職人さんや監督さんもすごく気を使ってくれて、「大丈夫?」「何か手伝おうか」と声をかけてくれたりして。人に必要とされている感覚もあって、気づいたら数年続けていました

編集部

若いうちに「これは面白い」と感じられる仕事に出会えるかどうかって、その後のキャリアに大きく影響しますよね。最初の動機が「お金」でも、やってみて面白さを感じたら、そこからがスタートなのかもしれません。

福田社長

そうですね。僕も最初は深く考えていなかったですから。続けているうちに、この仕事でどうやって食べていくかを考えるようになりましたね。

仲間とつくった会社を直撃した「仕事ゼロ」の一年

編集部

それから独立してフジヤマ工業を立ち上げられた経緯も、教えていただけますか。

福田社長

二つ目に入ったその会社では、社員としてではなく、いわゆる「手間受け」という形で仕事をしていました。材料費は元請けさんが全部負担して、僕らは職人としての技術と、働いた分の手間賃だけを請求するスタイルです。何人かで班を組んで、「福田班」のようなグループ単位で現場に入っていました。

編集部

なるほど、会社というより、「チーム」で稼ぐイメージですね。

福田社長

そうですね。ただ、だんだん大手ゼネコンさんの方針が変わってきて、「孫請けのような形はよろしくない」「現場に入る職人も社員化してほしい」という流れが出てきたんです。おそらく国からの通達も背景にあったと思いますが、このままだと今のやり方は続けられないなと。

編集部

みなさん、それぞれ個人で社員になっていくイメージですよね。

福田社長

そうです。でも僕は、「このメンバーと一緒に仕事を続けたい」という気持ちが強かったんです。だったら、いっそ自分で会社をつくって、そこにみんなが来てくれればいいんじゃないかと。深く練り込んだビジネスプランがあったわけではなくて、「仲間と仕事を続ける場を残したい」というのがスタートでした。

編集部

20代のビジネスパーソンの多くが、「誰と働きたいか」で職場を選ぶといった話を聞いたことがあります。福田社長の決断は、まさにその延長線上ですね。

福田社長

そうかもしれないですね。ただ、創業して2〜3年経ったところで、リーマンショックと耐震偽装の問題が重なってしまって。全国の現場が一斉に止まったんです。設計の見直しや許可の出し直しが必要になって、工事が進められなくなってしまった。仕事が、ほぼゼロになりました。

編集部

とくに耐震偽装の件は、当時は毎日ニュースになっていましたよね…衝撃的でした。

福田社長

ええ。当時は日給月給が当たり前で、仕事がない日は給料が出ない世界でした。1カ月に10日しか現場がない、半分しか出られない、そんな状態が1年くらい続いたんです。ウレタン以外の仕事を探して、他の現場の手伝いに行ってもらったりもしましたが、それでも出勤日は半分くらい。精神的にもきつかったですね。

編集部

景気の波や社会問題の影響を、現場は一番最初に受けますもんね…。

福田社長

そうですね。いい時も悪い時もある、というのは身をもって学びました。

「場をなくしたくない」から続ける。会社を残すための試行錯誤

編集部

そんな中でも会社を続けてこられたのは、どんな思いがあったからなのでしょうか。

福田社長

一番は、「この場をなくしたくない」という気持ちですね。仕事がある時期、ない時期、お金がある時期、苦しい時期、いろいろありましたけど、やっぱり職人たちが帰ってこられる場所を守りたいなと。最近は僕も現場に出るだけでなく、会社にいる時間を増やして、帰ってきたみんなと話すことが多くなりました。

編集部

現場で一緒に汗をかくだけでなく、戻ってくる場所の空気をつくることも、社長の大事な仕事なんですね。

福田社長

そう思うようになりました。正直、思い通りに仕事があるわけでもないですし、売上も安定しているとは言い切れません。それでも、この場を続けるにはどうしたらいいか、ということばかり考えています。

編集部

フジヤマ工業さんのホームページを見ると、現場は明るい雰囲気に感じました。福田社長の試行錯誤があるからこそ、従業員のみなさんがやりがいをもって働けるのではないでしょうか。

福田社長

従業員同士は、わりとワイワイやっていると思います。ただ、僕には本音の悩みはあまり直接は来ないですね(笑)。作業の相談はしてくれますけど、私生活や将来の不安は話しづらいんでしょう。代表という立場もありますし。

編集部

それは多くの会社で共通する構造かもしれません。ただ、社員同士で話せる関係があるのは、とても大きいと思いますよ。

福田社長

そうですね。僕のところには、ぐるっと回って耳に入ってくることが多いです。それを聞きながら、どう改善できるか、何かやりようがないかを考えています。今は現場作業以外の仕事も、材料メーカーさんと相談しながら少しずつ準備しているところです。まだ「人を増やそう」と言える状況ではないですが、将来に向けて動いている段階ですね。

編集部

「会社は自分の給料をくれるところ」というだけでなく、「自分と仲間の場をどう守るか」という視点を持てると、仕事の見え方が大きく変わりそうですよね。

福田社長

そうですね。僕自身も、立ち上げた理由はそこに近いですから。

外国人技能実習生と日本の若者。AI時代に残る「体を使う仕事」

編集部

今、現場で働いている方々の年齢層は、どんな感じでしょう?

福田社長

一番若い子たちは20歳前後ですが、20代は全員が外国人です。職長をやっている職人は50代が中心ですね。若い日本人は、実は今は採用していなくて。仕事量の見通しが不安定なこともあって、今すぐ人を増やす状況ではないというのもあります。

編集部

なるほど。外国人の若い方と、日本の若い方で、働き方への向き合い方に違いは感じますか?

福田社長

やっぱり違いますね。外国人実習生の子たちは、「家族のためにお金を稼ぎたい」という目的がはっきりしています。だから、自分が稼ぐために何をしたらいいかを、必死で考えるし、よく聞いてきます。理由が自分のためだけじゃなくて家族のためなので、覚悟が違うんだと思います。

編集部

日本の若い世代は、良くも悪くも「最悪、なんとかなる」という空気がありますよね。失業保険や生活保護などの制度もありますし。

福田社長

そうだと思います。現場の仕事って、特に夏は本当に過酷です。ウレタンを吹き付けるときは化学反応で熱が出ますし、閉め切った室内で作業することも多い。楽な仕事ではありません。あと、以前の建設業は日給が高くて、「きついけど若いころからそこそこ稼げる」という魅力があったんですけど、今は社会保険や有給などをきちんと整えるぶん、見た目の給料で差をつけづらくなっているのも現実です。

編集部

でも、需要はすごく高いと思うんですよね。ホワイトカラーの仕事はAIに置き換わりやすい一方で、こうした現場の仕事は簡単には自動化されませんし。

福田社長

そうですね。ロボットや機械が入ってきたとしても、現場で状況を判断したり、機械の調子を見たり、最後は人の仕事になる部分が必ず残ると思います。ただ、それを「かっこいいからおいでよ」と無理に言うつもりはなくて。見た目やイメージだけでは続かない世界なので、「面白い」と思えるかどうかと、「この収入でやっていける」と自分で納得できるかどうかが大事かなと思います。

編集部

キャリアを考えるときって、「楽そうだから」「AIに代替されないから」だけで選ぶと、どこかで苦しくなりますよね。自分が「面白い」と感じられるか、自分なりに納得できる生活をつくれるか。そこを軸に考えると、現場の仕事も有力な選択肢になりそうだと思いました。

まずは汗をかいて、仕事と人を知ってほしい。

編集部

現在、この業界や現場の仕事に興味がある20代もいらっしゃるはずです。そのような方に向けて、メッセージをお願いできますか?

福田社長

偉そうなことは言えないんですけど、すべては「人」だと思っています。自分一人では何もできないですから。従業員も、協力会社の人たちも、お客さんも、全部「人」です。仕事イコール人、という感覚ですね。

編集部

お金を払う人も、一緒に働く人も、みんな「人」ですもんね。

福田社長

そうです。僕は難しいことを考えるタイプではなくて、その場その場で「こうしたほうがいいかな」と積み重ねてきただけなんですけど、その後ろにはいつも人との付き合いがありました。

編集部

20代の読者が、これから仕事を選ぶときに大事にしてほしいポイントを、あえて挙げるとすると何でしょうか。

福田社長

ポイントは三つかなと思います。一つ目は、「とりあえずやってみる」こと。最初から完璧な仕事なんて見つからないので、まずは現場でも何でも、汗をかいてみる。二つ目は、「自分のためだけじゃなく、誰のための仕事か」を考えること。家族でも、お客さんでも、仲間でもいいので。三つ目は、「続けるだけの理由を自分で見つける」ことですね。給料でも、人間関係でも、仕事の面白さでも、何でもいいから。

編集部

その三つがあれば、どんな業界でも成長していけそうです。

福田社長

今の若い人たちは、僕らの時代より選択肢が多い分、迷うことも多いと思います。でも、どんな仕事でも、最初はきついところから始まります。そこで一度、体を使って働いてみて、「働くってこういうことか」と自分の肌で感じてほしいですね。そのうえで、「自分はどうしていきたいか」を考えていけばいいんじゃないかなと思います。

編集部

お話を聞いて、「この仕事が面白いと思えるか」「誰のための仕事か」という言葉がとても印象に残りました。現場で汗をかいて、人と向き合いながら働く経験は、必ずキャリアの土台になると思います。私自身も、福田社長のように「人と仕事」のつながりを少しずつ育てていこうと思いました。本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

リンク:株式会社フジヤマ工業_採用ページ

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この記事を書いた人

「ビギナーズリンク」の編集部です。【スキルの余白は、伸びしろだ。】をコンセプトに、キャリアアップやスキルアップを目指す若年層が「未経験」を「武器」に変えていけるよう、転職や就職に関する有益な情報を発信します。

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