あらゆる現場を可視化する──株式会社ビーキャップ 岡村社長が語る「“探すだけの無駄な時間”を減らすビーコン仕事術」

人やモノを探して、オフィスや病院、空港の中をぐるぐる歩き回る。チャットを送っても返事がこない。「あぁ、今日も“探すこと”にこんなに時間を使ってしまった…」と感じた経験がある方も多いはずです。
そんな現場のムダ時間を、ビーコンと行動ログで見える形にしているのが、屋内位置情報サービス「Beacapp Here」を手がける株式会社ビーキャップ代表取締役・岡村正太社長です。
今回は、受託開発から自社SaaSに踏み切った理由や、病院や空港での活用、AI時代の評価の考え方についてお話を伺いました。明日からの時間の使い方・働き方を見直すヒントが詰まっています。
株式会社ビーキャップ
代表取締役社長 岡村 正太
あらゆる現場を可視化する位置情報サービス「Beacapp Here」を提供するソリューションカンパニー、株式会社ビーキャップの代表取締役社長。ビーコンやセンサーを活用した「場の可視化」技術で、物流センターのトラック待機状況やオフィスの利用状況、病院での医療スタッフの行動記録など、人の目では捉えきれない動きを記録し続けている。2014年のサービス開始以来、「すぐに手軽に」使える仕組みにこだわりながら、身近な現場の課題解決と業務効率化に取り組んでいる。
受託開発で燃え尽きかけたエンジニアが、ビーコンに賭けた理由

編集部岡村社長ご自身のキャリアから伺いたいのですが、もともとは、まったく違うビジネスをされていたんですよね?



そうですね。最初は、モバイルアプリをつくるベンチャー企業で働いていました。当時は今みたいに、iPhoneアプリが当たり前の時代ではなかったんです。電話は電話、音楽は音楽プレーヤーでいいでしょう、という空気の中で、「いや、ここに可能性がある」と信じてアプリを企画していました。



まだ誰も正解を知らない分野で、ゼロから企画して提案する。聞いているだけでワクワクします。



すごく楽しかったですよ。スターバックスにこもって、求人アプリの初期版を夜な夜な考えたりもしていました。自分のアイデアが形になって、世の中に広がっていく感覚は、何にも代えがたい経験でしたね。



お話を聞いていると順調そのものですが、一方で「このままでいいのか」と感じる場面もあったそうですね。



そうですね。受託開発ってありがたい仕事なんですけど、とにかく人手と体力がいるんです。面白い案件もある一方で、「この実績と同じものをつくってください」という相談もどんどん増えてくる。案件が増えれば人も増やす。会社の売上を維持するために、そのサイクルを走り続ける必要がありました。



止まらず走り続けるって、根気がいりますよね…。



そうですね。人材の確保も含めて、だんだん負荷が大きくなってきて…。「このまま同じペースでつくり続けるだけでいいのか」と考えるようにもなりました。そこで「開発し続けなくても、安定して収益が上がるビジネスはないか」と本気で考え始めたんです。



そこで「SaaS」や「ログデータ」に目を向けられたんですね。



はい。自分たちのサービスとして継続課金で使ってもらう形にすれば、毎回ゼロからつくらなくても価値を届け続けられる。Googleアナリティクスのように、ログデータがいろいろな判断の原動力になっている事例を見て、これは面白いなと感じていました。そんな時に、Appleから「iBeacon」という規格が発表されたんです。



まさに転機ですね。



ビーコンは、人やモノを検知した瞬間にログが取れる。これをビジネスにできれば、現場の動きをデータに変えて、お客様に価値を届け続けられるんじゃないか。そう考えて、「ビーコンを使ったビジネスをやる」と決めたのが今の事業のスタートでした。
正解は後からわかる。6つのサービスから「現場で本当に使われる形」を探す





そもそものところでお聞きしたいのですが、今の主力サービスである「Beacapp Here」は、どんなことができるサービスなんでしょうか。



一言で言うと、ビーコンとスマートフォンを使って、「誰がどこにいるか」「モノがどこにあるか」を地図の上で見えるようにする仕組みです。オフィスや病院、空港のような広い現場で、「人やモノを探すだけの時間」を減らすためのツールですね。



なるほど。そのBeacapp Hereも、最初から今の形が見えていたわけではないんですよね?



そうですね。「ビーコンを使う」という軸だけ決めて、お客様の声を聞きながら、6つくらいサービスを同時に立ち上げて試していったんです。どれに一番引き合いがあるのか、どれがお客様に喜ばれるのか。そこを見極めながら、今の形に近づいていきましたね。



最初からきれいなストーリーがあったわけではなく、現場で試しながら選ばれていったわけですね。



そうですね。よく「昔からこうなると信じていました」と語られることもありますが、実際は後付けだと思っていて。意思決定のタイミングでは、正直なところ誰にもわからないものだと思っていて…。だからこそ、現場で使ってもらいながら、少しずつ答えに近づけていく方が健全だと感じています。



意思決定の時点では完璧な正解は見えないからこそ、現場で試しながら答えに近づけていく、ということなんですね。実際にBeacapp Hereでも、その「現場からの声」から生まれた使い方があると伺いました。コロナ禍での活用も、その一つですよね。



そうなんです。ある企業さんで、コロナに罹患した方が出た時、「その人が怪しい日にどこにいたのか」「誰と近くにいたのか」を洗い出す必要がありました。そこで、Beacapp Hereで取っていた行動ログを使って、濃厚接触者を探し出すことができたんです。



まさに、現場の困りごとにピタッとはまった瞬間ですね。



これは、お客様との定例会でのブレストの中から出てきたアイデアでした。週1回以上は必ず現場の担当の方と話し合う場をつくっていて、「こんなことに使えないかな」というアイデアをどんどんサービスに取り込んでいます。



若手のキャリアでいうと、「まずやってみて、現場で反応を確かめる」というスタンスは、部署や職種を問わず使える姿勢ですね。
仕事のムダは「見える化」しないと減らない。Beacapp Hereが生む小さな革命





先ほどBeacapp Hereがコロナ禍で活躍したお話を聞かせていただきましたが、基本的な活用の場面ってどんなところでしょうか?



一番イメージしやすいのは、フリーアドレスのオフィスですね。ビーコンを社員の方に持っていただくと、「今、誰がどこにいるか」が画面上で一目でわかります。従来なら、広いフロアを歩き回って人を探していた時間が、数秒で済むようになります。



想像するだけで、「探すだけの時間」が減りそうです。



実際に調査してみると、一番Beacapp Hereを使ってくれていたのは、入社1年目の経理の方だったんです。領収書をまだ出していない人を探すために、チャットやメールだけだと後回しにされてしまい、忘れられてしまうこともある。でも画面を見て、「今ここにいる」とわかれば、すぐに会いに行って「これ出してください」とお願いできる。



経理の方からすると、かなり救われる機能ですね…。



そうなんです。無駄だと感じる仕事が続くと、人のモチベーションは確実に下がります。そこを少しでも減らせるなら、現場の心理的な負担も下げられるかなと。



たしかに、「意味がないな」と感じる作業が続くと、それだけで仕事が重くなりますよね。Beacapp Hereがあることで、その時間を少しずつ減らしていけるわけですね。ちなみに、オフィス以外ではどんな場面で使われることが多いのでしょうか。



病院や倉庫、空港など、敷地が広い現場でもニーズがあります。例えば、空港で利用者が荷物を運ぶために貸し出しているカートの所在地を可視化した事例では、巡回担当の方が1日に20キロ近く歩いてカート整備をしていたものを、画面を見て効率よく動けるようになりました。広い場内に複数設置されているカート置き場を、行ってみたら何もなかった、という無駄な往復がなくなったんですね。



歩く距離だけでなく、「どうせ行っても何もないかもしれない」というネガティブな気持ちも減りますね。



そうですね。「どうせ無駄だろう」と思いながら動くのと、「ここにあるはずだ」とわかって動くのとでは、同じ仕事でも疲れ方が違います。



サービスのコンセプトとして、「ビジネスの体重計」という言葉も印象的でした。



ありがとうございます。体重計って、数字そのものより、「乗りやすさ」が大事だと思うんです。ちょっとしたタイミングでパッと乗れて、数字が出るからこそ、日々の改善に使える。ビジネスでも、データを取ること自体が大掛かりだと、誰も続けられません。だから、うちのサービスもあえて高機能にしすぎず、100〜200人規模の会社でも手軽に導入できる価格と仕組みにしています。
AIが広がるほど、「現場のログ」を持つ人の価値が上がる





ここまでお話を聞いていると、「現場の動きのログ」がいろいろなムダやしんどさを見える化していると感じます。最近は同じ「データ」の文脈で、AIの話題も一気に増えましたよね。岡村社長は、自社のサービスとAIの関係をどう見ていますか?



AIが普及すればするほど、私たちの価値は相対的に上がると思っています。AIはデータがなければ動けません。うちのサービスは、人やモノの動きという「原材料」をつくる立場なんです。現場のログがあるからこそ、AIも賢くなれる…そう思うんです。



なるほど。AIそのものではなく、AIの「ごはん」を提供しているイメージですね。



そうですね。最近はApple Watchのような、デバイスが測る心拍数のデータと弊社の行動ログを組み合わせて分析する構想もあります。どの時間帯、どの動きの時に、どれくらい身体的な負荷がかかっているのか。数字で見えると、現場改善の打ち手も考えやすくなります。



現場の「しんどさ」を可視化して、改善案につなげられると。



はい。医師の働き方改革の文脈では、「病院にどれくらいの時間いるのか」という在院時間のデータを取る取り組みも進んでいます。これまで評価されにくかった「黙ってよく働いている人」の頑張りも、データで見えるようになります。



なるほど。「楽そう」「忙しそう」といった単なる印象や感情論ではなく、ログという数字をもとにすることで、働き方に関する話し合いが建設的にできるということですね。



ええ。ある先生はこう動いていて、ある先生はこういう働き方をしている。そこに事実としてのログがあると、「じゃあ、どう分担したらいいだろう」と前向きに話し合えるんですよね。
仕事は、出会えなかったはずの人と出会う場





評価の話もありましたが、結局は「誰と一緒に働くか」も大きいですよね。



そうですね。私が社長になってありがたいと思うのは、仕事をしていなければ絶対に出会えなかった人たちと、一緒に目標を持って動けていることです。お客様も、社員も、パートナーも、年齢もバックグラウンドもバラバラです。そういう方々と対等に話して、同じ方向を向く経験は、確実に人生を豊かにしてくれると思うんです。



本当ですよね。私もそう思います。



大手企業と一緒に仕事をさせていただくこともありますが、プロダクトがしっかりしているからこそ、そういう場に若いメンバーも参加できる。現場で学べることは、教科書の何十倍も濃いです。



社内の環境づくりについても、社員のみなさんの声をよく取り入れていると伺いました。



はい。平均年齢が30代前半くらいで、みんなで会社を良くしていこうという雰囲気があります。時差出勤や在宅勤務も含めて働き方のルールを試行錯誤しながら整えていますし、住宅手当や家族手当、チケット手当のように、いろいろな体験を仕事に生かしてほしいという制度も用意しています。



子育て中のメンバーが、出社と在宅を組み合わせて働いているお話も印象的でした。



オンライン会議も便利ですが、やっぱり出社して顔を合わせるコミュニケーションには、別の価値があります。同じ空間にいるからこそ生まれる雑談や、隣の人の会話から状況を察する感覚は、画面越しだと得にくいですよね。



たしかに、「何となく会社の今がわかる感覚」は、出社ならではかもしれません。



そうなんです。だから僕は、お客様との会食の場などにも社員をどんどん連れて行きたいと思っています。お客様がどう評価してくれているのか、生の声を聞くと、社員のモチベーションも上がりますから。



最後に、そんな環境で活躍できるのは、どんな20代だと感じますか?



「ちゃんと自分の頭で考えられる人」ですね。たとえば、「相手はこう考えていると思う。一方で自分はこう感じている。だから、こういうことをやりたい」と自分の言葉で説明できる人。AIに答えを丸投げするのではなく、自分なりの仮説を持てる人は、どこに行っても強いと思います。



ありがとうございます。「現場の動きをログにする」「小さなムダを見える化する」という視点に加えて、AIの時代でも評価や安全を守るには、自分の仕事の動きと人との出会いを丁寧に残していくことが大事だという学びをもらいました。岡村社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








