「エネルギーも食べ物も、他国に頼り切りでいいのか?」アースシグナル株式会社 笠原社長が語る、【循環型未来社会】のつくり方

AIや物価高、災害のニュースが続く中で、「このまま日本で暮らしていけるのか」と不安になる20代の方も多いのではないでしょうか。電気も食べ物も、当たり前のように外国に頼っている今の日本。もしその供給が止まったら、私たちの生活や仕事はどうなってしまうのか…。
そんな問いに向き合い、自然エネルギーを軸に、地域でエネルギーを回す仕組みづくりに挑戦しているのが、アースシグナル株式会社 代表取締役の笠原喜雄さんです。
外壁工事から始まり、太陽光発電、農業、空き家の再生など、次々とチャレンジを重ねてきました。これらの取り組みの背景には、「日本や地元を守る仕事」をどうつくるかという視点があります。今回は、その歩みと根底にある想いについて伺いました。
アースシグナル株式会社
笠原 喜雄 代表取締役
外壁工事会社の創業を起点に、太陽光発電事業へ舵を切り、地域のエネルギー課題と向き合う。住宅用太陽光の黎明期から導入工事に携わり、5年ほどで下請けからエンドユーザーとの直接取引へ事業を拡大。その後は空き家問題に対応する中古住宅リノベーション、農地の上で発電と農業を両立させるソーラーシェアリングへ領域を拡大。現在は電力会社を含むグループを束ね、自然エネルギーと米づくりを組み合わせた「地域で電気と食を循環させる仕組み」づくりを推進。災害時に備えた住宅のエネルギー自立や、地産地消のモデル構築にも注力し、次の世代が安心して暮らせる地域づくりをめざしている。
外壁工事から太陽光へ。「地球からの合図」に気づいた日

編集部御社は創業からかなりの年月がたっていますが、最初から「循環型未来社会」を目指していたわけではないのですよね。



そうですね。会社としては、私が創業してから21年目に入りました。今のアースシグナルという社名になってからは、17期目になります。もともとは一般住宅の外壁工事の会社としてスタートしました。



家の壁を直したり、きれいにしたりする仕事ですね。



ええ。ただ、4年ほど続けていく中で、「本当にこれが自分のやりたいことなのか」と考えるようになったんです。



日々の作業が続く中で、この先のキャリアをどう広げるかを考えるタイミングもありますよね。若手のビジネスパーソンで、同じように迷う方は多いと思います。



ちょうどその頃、日本で「エネルギー問題」がニュースでよく取り上げられるようになりました。住宅用の太陽光発電に補助金が出始めた、ちょうど最初のタイミングです。「太陽の光を電気に変えて、災害時にも使えるようにする」。その話を聞いたときに、「これは人の命を守れる仕事になる」と強く感じました。



外壁工事とは、また違ったやりがいが見えてきたわけですね。



はい。そこで、社名も「アースシグナル」に変更したんです。直訳すると「地球からの合図」。エネルギー問題や災害の多さは、地球からのサインだと思ったからです。そこから太陽光発電の事業に、本格的に取り組み始めました。



とはいえ、外壁からいきなり太陽光となると、かなりジャンプがありますよね。



正直、経験はゼロでした。外壁は「壁」、太陽光は「屋根」と「電気」です。最初は下請けとして、小さな工事からコツコツ学んでいきました。失敗しないように、何度もメーカーに聞きに行って。大変でしたが、「これで災害時の電気を守れる」と思うと踏ん張れましたね。



そこから、どのくらいで今のように直接お客さまとつながるようになったのでしょうか?



下請けとしてスタートして、5年ほど経った頃から、少しずつ一般のお客さまから直接ご依頼をいただけるようになりました。「あの時つけてもらった太陽光のおかげで、停電のとき助かったよ」と言っていただけることも増えてきて。そこで、「やっぱりこの道でよかった」と確信しました。
空き家、農業、高齢化…。日本の課題と向き合って見えた現実



太陽光の事業に取り組む中で、日本全体の課題も見えてきたのではないでしょうか?とくに、エネルギーと食の問題は、これから働く世代にも直結しますよね。



そうですね。太陽光からスタートしましたが、そのあと不動産の事業も始めました。中古住宅にリノベーションを加えて、もう一度住める家として提供する専門店です。きっかけは「空き家問題」でした。



たしかに、全国で空き家が増えている、というニュースを見たことがあります…!



はい。約9年前のことですが、全国で空き家が800万戸と言われるようになりました。空き家が増えると、防犯面でも、景観の面でも、地域の環境が悪くなります。でも、家は直せば使える。ヨーロッパでは当たり前のように、古い建物を直して使い続けていますよね。



あるものを活かす、という発想ですね。



その通りです。創業時から外壁工事で培ってきた知識もありましたから、「中古住宅を買うタイミングで、リノベーションもセットにして提供できないか」と考えました。これも、地域の暮らしを守る一つの形だと思っています。



エネルギーだけでなく、住まいの循環にも踏み込んだわけですね。



ええ。そうして地域で動いていると、次に見えてきたのが「農業」です。ソーラーシェアリングといって、農地の上の高さ4メートルほどのところに太陽光パネルを設置し、その下で農業を続ける取り組みがあります。埼玉県内では、うちが一番多く手がけていると思います。



太陽光で電気をつくりつつ、下では作物を育てるんですね。



そうです。そこから、農家さんの現状を直接知る機会が増えました。後継者がいない、収益が上がらない、続けたくても続けられない。そういう声を、たくさん聞きました。



ニュースでしか知らなかった課題が、目の前の現実になってくる感じですね。



さらに、日本の食料自給率の低さも気になりました。お米ですら、海外産の安いものがどんどん入ってきている。スーパーに行くと、5キロ5,000円の国産米の横に、1,500円くらいの海外産が並んでいる。多くの人が値段で選ぶのは、当然だと思います。



生活が大変な中で、安さを選ぶのは責められませんよね…。私もこの間、スーパーで売られていた海外産のお米を買いましたもん…。



ただ、このまま続くと、日本人が日本のお米を食べなくなるかもしれない。そうなると、「もし海外からお米が入ってこなくなったらどうするのか」と考えてしまいます。エネルギーも、食べ物も、他国に頼り切りのままでいいのか。これは、本当に大きな問いだと思います。
ソーラーシェアリングと地産地消。「電気とお米」で地域を守る



そうした課題を踏まえて、笠原社長は具体的にどんな打ち手を進めているのでしょうか?失敗や試行錯誤も含めて伺いたいです。



一つは先ほどお話ししたソーラーシェアリングです。農地の上で太陽光を発電し、その下でお米などの作物を育てる。私たちはこの仕組みを使って、もう4年間、自分たちで米作りをしています。



電気もお米も、自分たちでつくっているんですね。



はい。電気は自然エネルギーとしてグループ会社の電力会社を通じて地域に届けられています。お米は地産地消を意識して、地域で食べてもらえるようにしています。将来的には、「電気とお米をセットで届ける」ような形もできたらいいなと考えています。



暮らしの土台を丸ごと支えるイメージですね。



もう一つ、私たちは福島県の奈良町に関連会社を持っています。そこでは「地域おこし」「地域課題の解決」に取り組んでいます。若いスタッフが中心となって、地元の人たちと一緒に新しいチャレンジを進めています。



若い世代が、地元のために動いているんですね…!



そうなんです。地域の方々に「一緒に田んぼをやりませんか」と声をかけると、想像以上に協力してくれます。一緒に田植えをしたり、草取りをしたり。皆さん、生き生きとした顔をされているんですよ。「地域の課題」で終わらせるのではなく、「地域の楽しみ」に変わっていく瞬間を見られるのは、とてもやりがいを感じます。



素敵ですね…!



もちろん、事業としては苦労も多いです。新しい仕組みなので、手探りの部分もあります。でも、「地域でエネルギーと食を回す」というゴールがはっきりしているので、ぶれずに続けられています。



地元の人と一緒に手を動かしながら、新しい仕事をつくっていく。これは、どんな業界でも応用できそうな考え方ですね。
災害とエネルギー、SDGsと自衛。これからの時代、働き方をどう描くか



ここ数年は、災害や国際情勢への不安も高まっています。そうした中で、「循環型未来社会」という言葉には、どんな思いを込めているのでしょうか。



よく「循環型社会」という言葉は使われますが、私はあえて「未来」をつけています。リサイクルやリユースだけではなく、「人が生きていくためのエネルギーを、地域で循環させる」という意味を込めているからです。エネルギーとは電気だけではなく、私たちが体を動かすための「食」もそうです。電気と食、この二つが地域の中で回るようにする。昔の江戸時代のように、近いところで作って、近いところで使う。そんなイメージですね。



もしものときに、自分たちだけで生き延びられる状態をつくる、ということでもありますよね。



その通りです。今、日本は食もエネルギーも、海外からの輸入にかなり頼っています。もし、何らかの理由で輸入が止まってしまったらどうなるか。考えたくないですが、考えなければいけないテーマだと思います。



SDGsという言葉も広がりましたよね。



SDGsは、もちろん大事な取り組みです。ただ、日本にとっては「きれいごと」だけではなく、「自分たちを守る自衛の手段」でもあります。自然エネルギーを増やし、地産地消を進めることは、地球のためでもあり、次の世代の日本人のためでもあると思っています。



ニュースやSNSで目にする「地球のため」という言葉の裏に、「自分たちの暮らしを守る」という視点を足すと、働き方の意味も変わってきそうですね。



そうですね。若い世代にお伝えしたいのは、「もしもの時」を一度、自分の頭で想像してみてほしい、ということです。大地震、戦争、サプライチェーンの停止…。暗い話に聞こえるかもしれませんが、その上で、「じゃあ自分は何を学び、どんな仕事を選ぶか」を考えると、キャリアの軸がぶれにくくなると思いますよ。



AIのニュースに目がいきがちですが、足元のエネルギーや食の問題も、同じくらい重要ですね。将来の働き方を描くうえで、「自分や家族、地元の人の暮らしをどう守るか」という視点を持てると、仕事の意味づけがぐっと深まりそうです。
20代へのメッセージ。「日本や地元を守る仕事」を”自分ごと”にするには





お話を聞いていると、笠原社長が大切にしているものが少しずつ見えてきました。そこで、最後に伺いたいのですが、こうした現実の中で若い世代にどんな思いを持っていらっしゃいますか?



まずお伝えしたいのは、「日本をどうしたいか」「自分の地元をどう残したいか」を、一度真剣に考えてみてほしいということです。キラキラした仕事に憧れるのも、もちろん悪いことではありません。ただ、それだけだと、何かあったときに折れやすくなってしまいます。



お金や条件だけで選ぶと、「想像していたのと違う」となった瞬間に、続ける意味を見失いやすいですよね。



そうですね。私たちの業界は、まだ新しくて、技術の進歩も早いです。正直、日々勉強しないと置いていかれます。でも、「自然エネルギーを増やして、社会を良くしたい」「日本の食や暮らしを守りたい」といった思いがあれば、多少の大変さは乗り越えられます。



思いがないと、勉強も続かないですしね。



そのうえで、20代の皆さんに具体的にやってみてほしいことがあります。一つ目は、「地元の課題に目を向けること」です。自分の住んでいる街で、空き家は増えていないか。田んぼや畑はどうなっているか。スーパーのお米の産地表示はどうか。少し意識して見るだけで、いろいろなことが見えてきます。



確かに、普段の通勤や買い物の中でも、すぐにできそうです。



二つ目は、「エネルギーや食に関わる仕事を、一度調べてみること」です。電力会社だけでなく、太陽光、農業、物流、建設、自治体…。いろいろなプレーヤーが関わっています。どこか一つでも、「ここなら自分の力を活かせそうだ」と思える場所が見つかるかもしれません。



業界研究というより、「暮らしを守る仕事」の調査、という感覚ですね。



そうです。三つ目は、「小さく行動してみること」です。地域のボランティアに参加してみる。オンラインでもいいので、地方のプロジェクトを調べてみる。そんな小さな一歩でも構いません。動いてみないと、見えてこないものがたくさんあるので。



机の上だけで考えるより、一歩外に出てみる。その経験が、「自分はどう生きたいか」を考える材料になりますね。



私自身、「日本を守りたい」という強い思いがあります。大げさに聞こえるかもしれませんが、電気やお米、空き家、農業…。一つひとつの仕事は地道でも、全部つながっています。次の世代に、安心して暮らせる国をつくりたい。そのためには、これからの20代、30代の力が絶対に必要です。



日本や地元の未来を、自分のキャリアとつなげて考えること。そのきっかけになるお話を、たくさんいただきました。とくに「電気とお米で地域を守る」「もしもの時を自分の頭で想像する」という考え方が、とても印象に残りました…。笠原社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








