ただバズらせて終わりじゃない。株式会社EmpaC・松山社長が語る『対話でファンをつくるSNS接客』の考え方

SNSやクリエイティブな仕事に興味はあるけれど、「実際どんな毎日なんだろう」「SNS運用って何をしている仕事なんだろう」とモヤッとしている人は多いはずです。
バズっている投稿やおしゃれなフィードは目に入るけれど、その裏側でどんな準備ややり取りが行われているかまでは、なかなか見えてきません。
そこで今回は、アパレル店員からキャリアをはじめ、ファンマーケ企業を経てEmpaCを立ち上げたSNS接客のプロ・松山真衣さんにお話を伺いました。
キラキラしたイメージとは違う泥くさい施策、「バズより対話」を大事にする考え方、そして20代のうちにやっておきたい3つの行動まで。最後まで読むと、SNSの仕事のリアルと、自分がどこから動き出せばいいかがイメージしやすくなります。
株式会社EmpaC
代表取締役 松山 真衣
アパレル企業でEC・SNS担当としてキャリアをスタート。その後、ファンベースの考え方に共感しファンマーケティング会社へ転職。認知からファン化まで一気通貫で支援したいという思いから、2021年4月に株式会社EmpaCを設立し、SNS接客やアクティブサポートを軸に企業のファンづくりを支援。「バズより対話」を信条に、ブランドと生活者の長く続く関係づくりに伴走している。飲食や小売など身近なブランドを中心に、SNS運用から企画設計まで一気通貫で支援するスタイルが特徴。
アパレル店員からEmpaCをつくるまで
編集部松山社長は、現在のEmpaCを立ち上げるまで、最初はどんなお仕事をされていたんでしょうか?



最初に入ったのはアパレルの会社です。店舗で、ECサイトとSNSの担当をしていましたね。当時は公式アカウントからDMでお客様とやり取りする文化が、ほとんどなかったんです。でも私は、フォロワー数を増やすより、一人ひとりにDMでちゃんとコミュニケーションしたいと思って、試してみたんですね。



そこが今の「共感でファンを育てるSNS接客」というスタイルが確立された原点だったんですね。やってみて、どうでした?



数字としてもしっかり売上につながりましたし、それ以上に「お客様のことをちゃんと見るってこういうことなんだ」と実感できたんです。その時に出会ったのが、佐藤尚之(さとなお)さんの『ファンベース』という本でした。



ファンを大事にして、そこから支援を広げていくという考え方が書かれた本ですね。



はい。そのファンベースの考え方が、すごく腑に落ちたんです。それがきっかけで、ファンマーケティングの会社に転職しました。



実際にその会社では、どんなことをされていたんでしょう。



既にファンがたくさんいるブランドさんが多くて、そのファンの方を大切にしながら、新しいお客様にも広げていく支援をしていました。正直、「これはマーケティングの中でも、かなり究極だな」と感じましたね。



究極、ですか。



はい。でも同時に、「認知」「興味関心」「比較検討」「購入」「ファン化」って、全部つながっているはずなのに、自分はその後半だけを支援しているのかもしれない、とも感じたんです。どうせなら全プロセスをちゃんと支援したいなと。



そこから、ご自身の会社を立ち上げる発想になったんですね。



そうです。認知からファン化までを全部見られる会社をつくりたいと思って、2021年4月にEmpaC、エンパシーを立ち上げました。SNSを軸にしながらも、単なる運用代行ではなく「SNSコミュニケーションの会社」としてスタートしました。



キャリアの最初から「ファン」と「コミュニケーション」を一貫して大事にされてきたんですね。「目の前の数字だけでなく、プロセス全体を見る視点」は、あらゆるマーケターにとって大きな武器になりそうです。
バズだけでは終わらせない。フォロワーより「関係性」をKPIにする



一般的なSNSマーケティング会社は、どうしても「フォロワー数」や「いいね数」をKPIに置きがちだと思います。御社は、その先まで伴走されている印象がありますが、その理解で合っていますか?



おっしゃる通りです。多くの会社さんは、いわゆる「興味関心」のフェーズの手前までを支援されている印象があります。それもすごく大事なんですが、私たちは「長く愛されるブランドをつくる」ことまで一緒に目指したいんです。



なるほど。そうなると、KPIの置き方も変わってきますよね。



そうですね。例えば売上につなげたいフェーズなら、「ウェブサイトクリック数」を指標にします。口コミを増やして第三者を巻き込みたいなら、「ハッシュタグの投稿件数」も大事です。既存フォロワーとの関係性を深めたいなら、「エンゲージメント率」を見ます。



フォロワー数やインプレッションも見るけれど、それだけでは終わらせない、と。



はい。フォロワーやインプレッションを追いかけるのは、決して間違いではないんです。ただ、「その先にどんな状態をつくりたいのか」を決めたうえで、順番にフェーズを進めていくことが大事だと思っています。



私も昔、バズを研究していた時期があって。4,000いいねくらいついた投稿があったんですが、詳細URLのクリック率が2%もなくて…。正直「意味ないな」と思ったことがあります。



すごくわかります。バズって、起こそうと思えば案外起こせたりするんですよね。でもそれが購入や来店につながらなかったら、企業さんからすると本当に価値があるのか、と。



EmpaCとしては、「短期的なバズより長期的な共感」を大切にされている印象です。



そうですね。もちろん話題になることも大事なんですが、「面白かった」で終わらせず、その人の行動や気持ちが少しでも変わることを目指しています。そのためには、日々のコミュニケーションの深さが欠かせません。



若いマーケターほど、結果を焦って「数字だけ」を追いかけてしまいがちです。だからこそ、「KPIの先にある関係性まで設計する」という視点は、仕事をするうえでも大きなヒントになりそうです。
SNS接客という「アクティブサポート」。泥臭い一歩がファンを生む



先ほど「日々のコミュニケーションが大事」というお話がありました。具体的には、どんな打ち手を重視されているんでしょうか。



私たちが特に推奨しているのは、「アクティブサポート」と呼んでいるSNS接客です。エゴサーチでブランドの投稿を見つけて接触したり、コメントをくれた方にしっかり返信したり。



まさに「接客」ですね。



そうなんです。リアルなお店では、お客様が帰る時に「ありがとうございました」と言うのが当たり前ですよね。でもSNSになると、せっかく口コミや感想を投稿してくれているのに、企業側が何も返さないケースが多いんです。私は、それがすごくもったいないと思っていて。



たしかに。「まさか企業から返信が来ると思っていなかった」という驚きから、ファンになる人も多そうです。



実際、すごく多いです。「見てくれているんだ」と感じてもらうことが、ファン化の入口になると感じています。



他にもファンづくりのために実践されていることってありますか?



ユーザーさんの投稿を活かした「共創コンテンツ」も大事にしています。お客様の自然な口コミや写真を、店内のポップに使わせていただいたり、ECサイトに掲載したり。ブランド側が一方的に発信するのではなく、「一緒につくっている」感覚を育てていくイメージです。



ファンの声を次のビジネスにつなげていく形ですね。



はい。そういう位置取りをちゃんとやっていくと、お客様とのコミュニケーションがSNS上で根づいていきますし、ブランドへの愛着も深まります。



「でも、毎回レスするのは人的リソースが大変そう…」と感じる方もいるかもしれません。アクティブサポートをうまく回す工夫はありますか?



たしかに、全部を自社でやろうとすると大変です。だからこそ、私たちが代行する価値もあるんですが、お客様側でやる場合は「午前中の30分だけは必ずエゴサとコメント返信をする」など、ルーティンを決めるだけでも違うと思います。



たしかに、それなら現場でも取り入れやすそうです。



あとは「どのユーザーに接触していいか」「どの表現はNGか」といったレギュレーションを最初に決めておくことですね。ここさえ決まっていれば、現場も動きやすくなります。



なるほど…。こうした泥臭いアクションを続けられるかどうかが、「信頼される担当者」になれるかどうかの分かれ目になりそうです。
「対話から逃げない」人が、どんな現場でも信頼される



ここまでのお話を聞いていても、松山社長ご自身が「人と向き合う力」にすごくこだわっていると感じます。これまでのキャリアで、特に苦労した場面はありますか?



いっぱいありますよ(笑)。クライアントさんから厳しいご指摘をいただいて、謝罪の場を設けたこともありましたし、悲しいことにメンバーとお別れしなければいけなかったこともあります。



どれも、かなり心をすり減らす場面ですよね…。



そうですね。でも、いろいろ経験してきて「最後は対話だな」と心から思うようになりました。嬉しいも、怒りも、悲しさも、悩みも。全部、ちゃんと言葉にして話せば前に進むのに、その時間を取らずに逃げてしまうと、どんどんこじれていくんですよね。



耳が痛い人も多そうです…。



若い方を見ていても、相手に気を遣いすぎて本音を言えないケースが多いなと思います。でも、それって結局「対話を諦めているだけ」なんですよね。例えば、苦手だなと思うタイプの人がいたとしても、私はちゃんと対話します。「なんでそうするのか」をシンプルに教えてほしい、と。相手にも相手の理由があるので、それをまず理解しにいくイメージです。



うーん、でもそこまで自分の時間を使って向き合える人は、そう多くない気がします…。



昔は私も、思うようにコミュニケーションがとれずにイライラしたりしていました。でも最近は、「イライラしている時間があったら、話したほうが早い」と思うようになりました。こちらも主体的に質問して、相手の背景を知ったうえで、ここをこうしたいとか直してほしいとか、素直に伝えればいいだけなんですよね。



若い世代に多い「悩んでるんですけど…」という相談も、実はほとんどが、ちゃんと対話したら案外すぐに解決するものだったりしますよね。



本当にそう思います。「忙しそうだったので聞けませんでした」とか。でも、それってただの思い込みで。入社1ヶ月目からでもどんどん質問している子は、やっぱり成長が早いですし。



自分なりに考えたうえで、「ここまで考えたんですがわからなくて、教えてください」と聞けるかどうかって、重要ですよね。



そうです。大事なのは「悩んでいる」と「考えている」を混同しないことだと思っていて。悩むだけなら誰でもできます。でも、考えて動く人は少ない。



グサっときますね…。



とくに若いうちは、プライドは捨てたほうがいいかもしれないと思っていて。わからないことはわからないと言う。素直に聞く。それができる人は、どんな仕事でも必ず可愛がられますから。



たしかに、「対話から逃げない力」を持っている人が、現場で一番頼りにされるのかもしれません。
尊敬する人と過ごす。20代でやってほしい3つの行動





「悩むだけではなく、考えて動くことが大事」というお話がありましたが、とはいえ、何から始めればいいかわからない若いビジネスパーソンも多いと思います。そんな人たちが、対話する力や聞きに行く力を伸ばすために明日からできるアクションについて、何かアドバイスをいただけますか?



そうですね…。私が若い頃にやって良かったと思うのは、大きく3つです。1つ目は「人に会うこと」。2つ目は「身を置く場所を変えること」。3つ目は「友達より先輩と過ごすこと」です。



すごく有益なアドバイスだと感じました。まず「人に会うこと」から具体的に聞かせてください。



高校生の頃の私は、「将来何をしたいかわからない側の人間」でした。でも、とにかくいろんな人に会いに行くようにしたんです。自分の知らない世界を、人を通して取り込むイメージですね。



なるほど。2つ目の「場所を変える」は、けっこうハードル高めに聞こえます。



私は実際に、住む場所を変えました。環境を変えると、コミュニティが変わるんです。「この時期はこの人たちと一緒にいたな」という区切りみたいなものが、人生の中にいくつかできていきます。



たしかに、引っ越しや転職は、コミュニティの切り替えになりますよね。



そうなんです。同じ場所にずっといると、どうしても視野が狭くなりがちです。だからこそ「次のステージで一緒にいたい人たちがいる場所」に、自分から飛び込んでいくのは大事だと思っています。



そして3つ目、「友達より先輩と過ごす」。これも意味深です…!



これも、かなり意識してきたことです。もちろん友達は大切なんですが、キャリアの相談を友達だけにしても、正直あまり意味がないと私は思っていて…。自分がなりたい姿を、すでに叶えている先輩と一緒にいること。デザイナーになりたいなら、尊敬できるデザイナーさんに会いに行く。そういう人たちからしか、教科書には載っていない生き方は学べないんですよね。



たしかに、友達同士で「ムカつくよね」「やだよね」と言い合っていても、何も変わらないですもんね。



そうなんです。だから友達とは、仕事のことを一切考えずに思い切り遊べばいいと思います。一方で、キャリアに本気で悩んでいるなら、「本音でフィードバックをくれる先輩」を見つけてほしいです。時には耳の痛いことも言ってくれるような人ですね。



今のお話って、そのまま「どんな人と一緒に働きたいか」にもつながりますよね。EmpaCで働くメンバーにも、そういう素直さやフィードバックを受け取る力を求めているのかなと感じましたが、実際の採用の場面ではどうでしょうか?



はい、うちはポテンシャル採用もしていますが、ただ、「モノを売る」仕事なので、マーケティングやブランドに興味があることは大事かなと思います。あと、クライアントワークなので、細かいやり取りやスケジュール調整が嫌いすぎる人は、正直向いていないかもしれませんね。



厳しいけれど、大事なポイントですね。



SNSってトレンドの世界なので、仕事の時間に関係なく情報をキャッチアップするのが好きな人は、すごく向いていると思います。そういう方と一緒に、自社のプロダクトやブランドも育てていけたらうれしいですね。



今日教えていただいた「人に会う」「場所を変える」「友達より先輩と過ごす」という3つは、どの業界のビジネスパーソンにも通じる行動だと思いました。明日から一つだけでも試してみるだけで、見える景色が変わりそうですね。また、わからないことを素直に聞くなどの積極的な対話が、キャリアの景色をきっと変えてくれるはずだと感じました。松山社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








