「人も犬も楽しく働ける職場」を、全力で作る。|トリミングサロン FunPlace 金原取締役の”伸ばす育て方”

犬が好き。その気持ちをきっかけにトリマーの道へ進む人は少なくありません。でも現場に立つと、かわいいだけでは向き合えない責任の重さに戸惑い、立ち止まる20代も多いです。

その現場で、新卒のつまずきや不安にまっすぐ寄り添い続けているのが、トリミングサロン「ファンプレイス」の金原取締役です。

自身も失敗から学び直し、今は20代スタッフの心と技術の成長を支える存在です。今回は、職場で折れない心のつくり方や、Z世代との向き合い方、プロとして育つための最初の一歩などを伺いました。

お話を伺った人

株式会社 FunPlace

金原 あずさ 取締役(メンタルヘルス・マネジメント検定試験Ⅱ種 合格)

動物病院でのトリミングと看護業務を経験し、後輩指導をきっかけにトリミングの理論を学び直す。JKC公認校で2年間ショートリミングを学び、公認資格を取得。卒業後にファンプレイスへ入社し、現場の技術指導に加えて、人材教育や20代スタッフのメンタルケアに携わる。トリミング、健康チェック、物販選定まで幅広く現場を支える。

目次

最初は“なんとなく”選んだトリマーという道

編集部

金原取締役は、はじめから強い意志を持ってトリマーを選んだわけではないと伺いました。まずは、そのスタートについて教えてください。

金原さん

よく「小さい頃から犬が大好きで」「自分の犬を可愛くしてもらうのを見て憧れて」という志望動機を聞くんですけど、実は、私にはそんなきれいな話はなくて。高校で進路を決める時に、特別やりたいことがなかったんですね。

編集部

いわゆる“王道のきっかけ”ではなかったんですね。そこから、どうトリマーの道に進んだんでしょう。

金原さん

家族が犬好きだったので、「トリマーとかどう?」と提案されて。「じゃあそうしようかな」と、本当に軽い気持ちでトリマーの専門学校に通い始めました。今思えば、かなり運任せのスタートだったと思います。

編集部

そこから、動物病院でのお仕事につながっていくわけですね。

金原さん

はい。18歳で専門学校に入り、20歳で卒業して地元の動物病院に就職しました。せっかく病院に勤めているならと、認定看護師の資格も取らせてもらって。トリミングだけでなく、看護の面からも犬と向き合う時間が増えました。

編集部

その後、もう一度学校に通い直されたと聞きました。かなり大きな決断ですよね。

金原さん

仕事をしたての頃は、自分の感覚だけでなんとなく仕事をしていたんです。でも3年目で初めて後輩ができて、教える立場になった時に、はっとしました。「感覚で覚えたものは、感覚では教えられない」と。理論的に説明できる技術がないと、後輩も不安になってしまうんです。

編集部

そこで、トリミングの理論を学び直そうと。

金原さん

はい。業界ではJKCという大きな団体があって、その公認校に再度入学しました。2年間、ショートリミングの世界で活躍されている先生方から学び、公認資格も取得して卒業しました。そのタイミングで、今の会社ファンプレイスに転職した流れです。

編集部

やりたいことが決まっていないところからのスタートでも、学び直しと環境選びで仕事は変わっていくんですね。

現場で知った責任の重さと、自分の甘さ

編集部

学生の頃と、実際に現場で働いてからのギャップは大きかったのではないでしょうか?

金原さん

そうですね。卒業したらトリマーになれた気になっていて、「もう一人前だ」なんて思うこともありました。でも現場に出たら全然うまくいかなくて。迷惑もかけましたし、社会人マナーも含めて未熟でした。今でも当時の自分を思い出すと、反省ばかりです。

編集部

具体的にエピソードを聞いてみても良いですか?

金原さん

トリマーは刃物を使う職業なので、常に危険と隣り合わせです。でも道具の扱いが未熟で、私は不安定な動きをすることもあったんです。本当はプロとして一番気をつけないといけないところなのに、「犬が動いたから仕方ない」と、他責にしていた時期がありました。

編集部

ワンちゃんのせいにして、自分の未熟さから目をそらしていた…と。

金原さん

そうなんです。でもある日、全く動かない子犬のチワワちゃんを危ない目にあわせそうになってしまって。しかも初めてのトリミングの子で、本来なら仔犬の特徴をよく理解して一番慎重にならないといけないのに…。その時は、もう言い訳のしようがなかったです。

編集部

そこで、はっきり向き合わざるを得なくなったんですね。

金原さん

「あ、これは完全に自分の未熟さだ」と。今まで「動いたから」と言い訳していたけれど、動かなくても私の危なっかしい手つきでびっくりさせてしまっているじゃないかと。頭がパッと切り替わりました。そこから細かく何を変えたかは正直覚えていないんですけど、「プロとしての意識を変えなきゃ」と決意した瞬間だったのはよく覚えています。

編集部

失敗はつらいですが、そこで自分を直視できるかどうかが分かれ道ですよね。どんな仕事でも、「うまくいかない理由」を周りに求めるのか、「自分に何が足りないか」を考えるのかで、その先の成長スピードが変わると感じます。

価値観の違う世代をつなぐ、現場の伴走者として

編集部

今は採用や育成にも関わられていると伺いましたが、どのくらいの方たちを見ていらっしゃるのでしょうか。

金原さん

会社全体でいうと、従業員は二十数名で、ほとんどが20代の女性です。いわゆる新卒の子から、マネージャーのような役職の子まで、役職に関係なく人材育成の部分に関わっています。技術というより、人間力の方を主に見ている感じですね。

編集部

20代半ば〜後半のマネージャーもいれば、新卒もいる。世代感が少しずつ違うメンバーが同じ現場で働いているわけですね。

金原さん

はい。私自身はいわゆるY世代寄りで、今の新卒はど真ん中のZ世代です。同じ20代でも、10年違うだけで感覚が全然違うんですよね。まずはそこを理解しないと、指導しても届かないなと感じています。

編集部

代表的なのは、どんなギャップでしょうか。

金原さん

例えば、マネージャー側からすると「注意したら、不貞腐れた」と感じる場面があります。でも新卒の子から話を聞くと、「じゃあどうすれば良いかと考え込んでしまった」とか、全然違う景色が見えてきたりします。

編集部

双方の気持ちを聞かないまま決めつけてしまうと、溝が深まってしまいますよね。

金原さん

そうなんです。だから、私が間に入ることが多いです。マネージャーには「その態度だけで決めつけるのは早いかもしれないよ」と伝えて、新卒の子には私から声をかけて気持ちを聞く。「あのとき、実はこう思っていたみたいだよ」と、双方に橋渡しをしていきます。

編集部

昭和的な「上の常識が絶対」という教え方ではなく、お互いの価値観を知ったうえで歩み寄る。まさに“楽しく働く”という御社の理念を体現されていると感じます。こうした姿勢は、どんな職場でも20代の評価を大きく変えるポイントになりそうです。

金原さん

ありがとうございます。私はずっと、心の健康イコールお店の健康だと思っていて。従業員の心がボロボロだと、刃物を扱う仕事ですし、ワンちゃんにネガティブな影響が出る可能性もゼロではありません。だからこそ、まず中で働く人のメンタルケアを大事にしたいんです。

編集部

素敵な考えです。実際に従業員の方のストレスチェックなども行われているんですよね。

金原さん

はい。ワンちゃんの健康チェックだけでなく、従業員のストレスにも目を向けています。私自身、育休中にメンタルヘルスマネジメントの資格も取得しました。母親になったことで、若い子たちを見守る包容力のようなものも少しずつ育ってきた気がしています。

犬の体と情報の両方を見るリテラシーの磨き方

編集部

今、ワンちゃんの健康チェックという言葉も出てきましたが、ファンプレイスさんは、カットだけでなく健康面のサポートも大切にされていますよね。現場でどんなことを意識しているのか、教えてください。

金原さん

トリマーは、まず“触る範囲”が他職種と比べて圧倒的に広いんです。体のすみずみを触るのは、動物業界の中でもトリマーくらいだと言われることもあります。ふとしたしこりに気づいて病院を勧めた結果、早い段階で処置できた、というケースもあります。

編集部

なるほど。単に「きれいにする」だけではなく、健康状態をチェックする役割も担っているんですね。

金原さん

そうですね。物販もかなりこだわっていて、フードも、信頼できるメーカーさんのものだけを置くようにしています。犬のフードは全成分表示の義務がないので、パッケージや宣伝の言葉だけでは見えない部分も多いんです。

編集部

だからこそ、メーカーの方から直接お話を聞いたり、ご自身のワンちゃんで試したりされていると。

金原さん

はい。「プレミアム」と名乗るフードもたくさんありますが、本当に信頼できるものを見極めるには、数字だけでなく自分の目と体感が大事だと思っています。うちで扱うフードは、従業員自身が自分の犬に使って「これは良い」と実感できたものが中心です。

編集部

ネットの情報だけを信じるのではなく、自分で確かめたものをお客様に届けるわけですね。

金原さん

そうですね。見えない部分を一生懸命探るよりも、「ここは信頼できる」と思えるメーカーさんと深く付き合って、その情報をお客様に丁寧にお伝えする方が健全かなと感じています。

編集部

情報があふれる時代だからこそ、「何を選ぶか」「どう説明するか」という力が、どの仕事にも求められている気がします。目の前の現場で見たことと、自分で集めた情報をつなげるスキルは今後も必要とされそうですね。

“犬が好きなだけ”では足りない。これからトリマーを目指す人へ

編集部

この記事の読者には、「ワンちゃんが好きだから、ゆくゆくはトリマーになりたい」と考えている方もいそうですが、このように未経験からトリマーを目指す人が、絶対に忘れてほしくないことって、何かありますか?

金原さん

まず、「犬が好きなだけじゃ見れない仕事だ」ということですね。自分よりずっと小さな命を預かる仕事なので、可愛いだけでは続かないです。健康状態にも目を配らないといけない。簡単な仕事ではないと思います。

編集部

人間の言葉を話さない相手だからこそ、より深い責任が必要になりますよね。

金原さん

はい。良かれと思ってしたことが、犬にとっては迷惑なこともありますし、犬が出しているサインを間違って読み取れば、コミュニケーションもすれ違ってしまいます。そのうえで、後ろには必ず飼い主さんがいらっしゃるので、人間同士のコミュニケーション力も必要です。

編集部

よく「人と話すのが苦手だから、動物の仕事がしたい」という方もいますが、現実はそう単純ではないのですね。

金原さん

そうですね。実際にそういう希望で入ってくる方もいます。でも、動物とだけ向き合う仕事は基本的にないと思っていた方がいいですね。特にトリマーは、飼い主さんとの会話なしには成り立ちません

編集部

技術だけでなく、人としての部分も磨き続ける覚悟が必要なんですね。

金原さん

そのとおりです。学生の間は、自分でお金を払って学びに行きますよね。でも4月1日からは、お給料をいただきながら技術を提供する側になります。同じトリミングでも、立場がガラッと変わる。その自覚を持てるかどうかも大きいと思います。

編集部

御社の新卒の方が、「働くって本当に難しいですね」としみじみ話していたというエピソードも印象的でした。

金原さん

はい。でも、その一言が出た時点で、もう一歩前に進めていると思うんです。「難しい」と感じられるのは、真剣に向き合っている証拠ですから。つまずいたり、怒られたり、自分の未熟さに落ち込んだりしながら、それでも辞めずに向き合ってほしいと思います。

編集部

犬の命、飼い主さんの気持ち、自分の成長。多くのものを同時に抱える仕事だからこそ、そこで得た視点はどんな職種にも活きると思います。明日からできることとして、「人や環境のせいにしていることはないか」を一度振り返ってみると、自分の伸びしろが見えてくるかもしれません。本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

リンク:株式会社 FunPlace_ 採用ページ

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この記事を書いた人

「ビギナーズリンク」の編集部です。【スキルの余白は、伸びしろだ。】をコンセプトに、キャリアアップやスキルアップを目指す若年層が「未経験」を「武器」に変えていけるよう、転職や就職に関する有益な情報を発信します。

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