「ありがとう」を増やす仕事|IT FORCE株式会社 陰山社長が語る【社会貢献】のキャリア論

AIやDX関連のニュースを見るたびに、「この先、自分の仕事は誰の役に立つんだろう…」と不安になる20代は多いはずです。仕事が細かく分かれ、オンラインで完結することも増えた今は、自分の仕事が誰を楽にしているのかが見えにくい時代と言っても過言ではありません。

そんな中で、介護や医療の現場に寄り添い、「ありがとうが増えるITサービス」に挑戦しているのが、IT FORCE株式会社の陰山社長です。今回は、介護タクシーのマッチングや公共DXなど、人に必要とされる領域で挑戦を続けてきた理由を伺いました。

読み終わった頃には、「誰のために働くか」というキャリアの軸が少し見えてくるはずです。

お話を伺った人

IT FORCE株式会社

陰山 光孝 代表取締役社長

SI会社でキャリアをスタートし、受託開発と自社パッケージ事業企画に従事。その後、楽天株式会社に入社し開発統括の経験を経て当社を設立。SESとオフショアを中心に経営基盤を構築し、2016年よりセールスフォース導入支援、2022年よりクラウドサービスの提供を開始。座右の銘は「やったもん勝ち」。「アイデアと情熱でイノベーションを巻き起こせ」をモットーに、社会に新しい価値を届ける企業として挑戦を続けている。

目次

受託開発エンジニアから「自分でサービスをつくる側」へ

編集部

陰山社長は、キャリアの初期からずっと開発の現場で経験を積んでこられたそうですが、どんな働き方からスタートしたのでしょうか?

陰山社長

新卒で入ったのは、社員が200〜300人ほどのITベンダーでした。お客様から依頼を受けてシステムを受託開発する会社で、そこで十数年、いろいろな現場を経験しました。

編集部

そのあと、楽天に移られたんですよね。

陰山社長

はい。ご縁があって楽天の開発セクションに入りました。当時は創業から10年も経っていない若い会社で、若いメンバーが大きな仕事を任されていて、とても刺激的でしたね。

編集部

どんなところが一番印象に残っていますか?

陰山社長

「どうしたらできるか」を前提に考える文化があって、「リスクがあるからやめよう」ではなく、「やり方を工夫すればできるよね」と本気で言うんですよ。その空気に触れて、私の中でパラダイムシフトが起こりました。

編集部

その環境は…すごく刺激的ですね。普通は、できない理由を探してしまうのに、そこから発想がひっくり返る経験って、なかなか得られないと思います。

陰山社長

そうですね。いつしか「自分でもやれるかもしれない」と思うようになり、独立しました。それで創業当初は、楽天のシステム開発に参画させてもらうところからスタートしたんです。

編集部

しばらくは受託開発中心の会社だったというわけですね。

陰山社長

はい。創業から7〜8年くらいは、いわゆる「一人いくら」でエンジニアをアサインするビジネスが中心でした。でも次第に、「このままだと、変わり映えがなく面白い人生ではないな…」と感じたんです。もっと会社組織として、新しいことに挑戦したくなりました。

編集部

そこで、ビジネスの形を変えようと。

陰山社長

そうですね。人を時間で出すだけでなく、「案件いくら」で丸ごと引き受ける仕事に、本格的に挑戦しようと決めました。ただ当時は社員30人ほどの中小企業だったので、信用面で案件を取るのは難しい。そこでたまたまご縁があったセールスフォースさんと出会い、パートナー認定をいただいて、お客様のシステム構築を任せていただけるようになった、という流れです。

編集部

20代のキャリアでも、環境で発想が変わるという話は大きなヒントですね。若いうちに「どうしたらできるか」で考える癖をつけると、その後の仕事の選択肢もぐっと広がっていくような気がしました。

資金7万円の瀬戸際で学んだ「投資」と「やめる勇気」

編集部

とはいえ、新しい挑戦には失敗もつきものですよね。セールスフォース事業の立ち上げ期は、かなり大変だったと伺いました。

陰山社長

そうですね。当社にとっては未知の領域だったので、最初の頃は極端な話、30万円で受けた案件に700万円の原価をかけてしまうようなこともありました。予想以上に、工数が膨らんでしまったんです。

編集部

それだけ赤字を出すと、多くの人は心が折れそうです。

陰山社長

実際、創業からコツコツ貯めてきたキャッシュが1億円あったのですが、セールスフォース事業を始めて2年ほどで、残高が7万円まで落ち込んだ時期がありました。「これはいよいよまずいな」と感じましたね。

編集部

私ならメンタル崩壊してしまいそうです…。でも、それでも事業を続けたのは、どういった理由からですか?

陰山社長

楽天時代の経験があったからです。一般的に新規事業の成功確率は1〜3割と言われていますが、実際にうまくいくものもあれば、クローズするものも見てきました。その中で、「振り返りと仮説、検証、そして改善を繰り返し、客観的に判断する」という感覚を身につけていたんです。

編集部

数字だけ見ると怖いけれど、「まだ打つ手がある」と思えた…と。

陰山社長

はい。「お金が減っている」という事実と同時に、「このやり方ならいける」という手応えもありましたし、自分の中では裏付けが作りこめていたので、そこに賭けました。もし本当にダメなら、きっぱりやめればいい。ただ、中途半端に続けるのではなく、やるなら本気でやり切る。そう決めて走り続けました。結果として、2年ほどで黒字転換できました。

編集部

そこから、新しいことには投資が必要・投資するときは勝ち筋を持って挑むという感覚が、より強くなったのですね。

陰山社長

そうですね。やってみないとわからないことは多いですが、なんとなく続けるのではなく、数字や現場の声を見ながら、「続けるか」「やめるか」をはっきり決めることが大事だと学びました。

編集部

小さく投資して学ぶ・合わなければやめるといった考え方は、とても役立ちます。勉強でも副業でも、いきなり大きな勝負をするのではなく、小さく試して振り返る…。その積み重ねが、将来の大きなチャレンジの土台になりますよね。

高齢化社会の課題に向き合う介護タクシーDX

編集部

セールスフォース事業が落ち着いたあと、福祉や介護の領域にも展開されています。そこへのシフトには、どんな背景があったのでしょうか。

陰山社長

私が50歳を迎える少し前、創業から15〜16年経った頃です。この会社を20年、30年と続けるには何をするべきかを真剣に考えました。AIやIoTが進むなかで、従来のSES事業やSI事業だけだと、生き残れないという危機感があったんです。

編集部

そこで、自社サービスの展開を考え始めたというわけですね。

陰山社長

はい。まず、「大手がたくさん参入している領域には行かない」と決めました。そのうえで、「お年寄り向けの市場は、まだシステム化が進んでいないのではないか」と仮説を立てました。そこから、お年寄りの暮らしを良くするサービスをいくつか検討していきました。

編集部

最初はウェアラブル端末を使ったサービスも構想されていたそうですね。

陰山社長

そうなんです。お年寄りにスマートウォッチのようなデバイスをつけてもらい、そこに決済機能を載せるイメージでした。当社は中国からデバイスを安く調達できるルートも持っていたので、ハードとソフトを組み合わせて、誰もやっていないことをやろうと考えていました。ただ、デバイス自体は作れても、日本の既存の決済基盤とどうつなぐかが大きな壁でした。Suicaのようなプラットフォームを再利用しようとしても、簡単には使えない。そこで、「これは無理に追い続けるより、一度やめた方がいい」と判断して、きっぱり撤退しました。

編集部

そこで、「よぶぞー」という介護タクシーのマッチングプラットフォームにたどり着いたわけですね。

陰山社長

そうです。当時、一般タクシーの世界では配車アプリが出始めていました。一方で、介護タクシーのドライバーさんは、「お年寄りに貢献したい」という思いがあっても、予約や集客の仕組みがなくて不安を抱えているのでは、と感じました。そこで、利用者と事業者をつなぐプラットフォームとして立ち上げたんです。

編集部

事業者側は、どのような情報を登録するんですか?

陰山社長

事業者ごとに、「ストレッチャーに対応できる」「車いすOK」「付き添いの介助者も手配できる」といった対応可能なサービス内容を細かく登録していただきます。その情報と、利用者側のニーズをマッチングしていく形ですね。

編集部

利用者の方からの反応はいかがですか?

陰山社長

ご利用者の声を集める掲示板を運用しているのですが、「本当に助かりました」「このサービスがあってよかった」といった声をいただきます。サービス開始当初は、実は多くのマッチングを人手でやっていて、メンバーが電話で間に入って調整していました。土日や祝日も対応してくれたメンバーもいます。そういう時にいただく「ありがとう」の言葉は、チーム全体の大きな励みになりました

公共DXと「やったもん勝ち」の文化が育てる成長環境

編集部

陰山社長は、もう一つの柱として、公共DXにも取り組まれていますよね。こちらについても教えてください。

陰山社長

公共DXでは、東京都環境局様や大阪府の健康医療部様・福祉部様向けに、新しいシステムを導入しています。自治体には、病院や介護施設、保育園などを認可し、定期的に指導監査や更新を行う業務がありますよね。そこをセールスフォース上で効率化するサービスとして、「監査くん」というプロダクトを提供しています。

編集部

自治体側には、どのような課題があったのでしょうか。

陰山社長

一つは職員の方の負担です。サービスや制度が増えて業務が複雑化しているうえ、紙ベースで膨大な書類を持参しなければならず、一度に回れる施設数も限られていました。また、ベテラン職員の退職でノウハウが引き継がれにくくなり、属人化がより深まっているという課題もあります。もう一つはシステムにかかるコスト。自治体ごとに別々のシステムを持っていることも多く、維持費が重くなっていました。

編集部

そこをどのように変えていったのですか?

陰山社長

事業者側からオンラインで直接申請できるようにし、自治体の職員の方はシステム上で進捗を確認できるようにしました。紙のやり取りや窓口業務を減らし、より重要な判断や住民対応に時間を使っていただけるようにするイメージです。

編集部

自治体のデジタルリテラシーについては、正直どのように感じていますか?

陰山社長

最近は、民間企業から入ってこられる職員の方も増えています。また、職員の皆様もITの勉強や活用を考えておられる方が多く、5年先、10年先を一緒に見据えながら、自治体の業務をどうデザインするかを議論できます。自治体職員の皆様の想いをITで下支えする感覚があって、とてもやりがいがありますよ。

編集部

その、未来を一緒につくるという姿勢は、社内でも共通している印象があります。陰山社長が大事にされている「やったもん勝ち」という文化も、まさにその考え方につながっていますよね。

陰山社長

そうですね。「諦めた瞬間に人は自分の思考に負ける」というのが私の考え方です。まずはやってみることを大切にしています。ただ、熱い思いだけではなく、本当に必要か・筋が通っているかをきちんと考えることも同じくらい重要です。

編集部

社員の方が主体的に動いたエピソードはありますか?

陰山社長

たとえばセールスフォース導入の開発チームで、「開発標準を整えたい」と言い出した若手がいました。彼が中心になってルールやテンプレートを作り、チーム全体の品質を上げていきました。いい提案であれば、年次に関係なく任せていく文化があります。

編集部

現場で働く方からも、「いい意味で自由にやらせてもらっている」とお話がありました。

陰山社長

発言しやすいこと、議論しながら進めることは、かなり大事にしています。フラットな組織で、失敗を責めるのではなく、「やってみてどうだったか」を一緒に考える空気をつくりたいと思っています。

AI時代を生き抜く20代へ。「誰のありがとうを増やしたいか」から始めよう

編集部

ここまでお話を伺って、陰山社長が一貫して人の役に立つことを軸に仕事を選んでこられたのが伝わってきました。ITもDXも、結局は人のためにあるものだという考え方ですよね。最後に、これからキャリアをつくっていく20代の方へ、今の時代をどう歩けばいいのか、そのヒントをいただけますか?

陰山社長

まず、ITやシステム開発は「手段」であって、「目的」は社会への貢献だということを忘れないでほしいです。私たちは志あるITサービスを提供したいと考えていますが、それは格好いいスローガンではなく、「目の前の人にどう役立てるか」を真剣に考えるという意味です。

編集部

たしかに、「誰のためのITか」が見えていると、仕事の意味も変わってきますよね。

陰山社長

私は今、上場に挑戦したいと考えています。それは会社としての通過点であり、「私たちのサービスが社会から評価された」という一つの証にもなります。同時に、創業から30年続く会社にしたいという思いも強いです。

編集部

その先は、次の世代にバトンを渡していくイメージでしょうか。

陰山社長

はい。私は55歳になりますが、あと5年なのか10年なのか、代表として走り切った先は、今いる仲間やこれから入ってくる仲間に会社を託したいと考えているんです。

編集部

次のリーダーを選ぶ基準は、どんなところにありそうですか?

陰山社長

今から「この人」と決めるつもりはありません。ただ一つ言えるのは、「会社を長く続け、社会に貢献し続ける」という方向性を、本気で共有してくれる人かどうかです。私に忖度する必要はなくて、同じ目線で議論し、論理的に考え、行動してくれる人がいいですね。

編集部

20代の読者が、今から意識できることは何でしょう?

陰山社長

三つ挙げるとしたら、一つ目は「自分は誰のどんな課題を解決したいのか」を言葉にしてみることです。お金のためだけでなく、「この人たちのためなら頑張れる」という軸があると、仕事に粘りが出ます。

編集部

たとえば、「お年寄りの外出を支えたい」などもそうですね。

陰山社長

そうですね。二つ目は、「未経験を恐れないこと」です。IT業界に来るのは、エンジニアだけではありません。当社のサービスチームには、エンジニア以外のメンバーもたくさんいますし、全く違う業界からキャリアチェンジしてきた方もいます。前職の経験は、必ずどこかで生きます。

編集部

未経験だからといって、最初から諦めなくていい。

陰山社長

その通りです。三つ目は、「どうしたらできるか」で考える癖をつけること。AIの時代は変化が速い分、「無理だ」と思う理由はいくらでも見つかります。でも、「できる前提」で考え続ける人だけが、変化の波をうまくつかめるのだと思います。

編集部

どれも、明日から少しずつ実践できそうなヒントです。

陰山社長

まずは身近な誰かの「ありがとう」を一つ増やすところから始めてみてください。そのために必要な道具として、ITやDXを学んでいけば、自然とキャリアはつながっていくと思います。

編集部

陰山社長のお話の中で、とくに投資して挑戦する・うまくいかなければきっぱりやめる・ありがとうが集まる仕事をつくるという考え方が心に残りました。明日は少しだけ視野を広げて、「自分ならどんな場面で誰を助けたいだろう」と周りを観察してみると、そこから、キャリアの次の一歩が見えてくるかもしれませんね。陰山社長、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

リンク:IT FORCE株式会社_採用ページ

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この記事を書いた人

「ビギナーズリンク」の編集部です。【スキルの余白は、伸びしろだ。】をコンセプトに、キャリアアップやスキルアップを目指す若年層が「未経験」を「武器」に変えていけるよう、転職や就職に関する有益な情報を発信します。

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