木造でまちと暮らしをつくる建築士|株式会社MS Architects 濱田社長が語る“とにかく対話する”ことの重要性

住まいや保育園、福祉施設など、毎日の暮らしを支える建物の世界に興味はあるけれど、「何から学べばいいのか」「建築業界未経験の自分にもできるのか」と不安を抱える20代は少なくありません。
図面やデザインのかっこよさだけでなく、そこに暮らす人や働く人の一日をどこまで想像できるかが、建築の現場では大切になってきます。
「建物をつくるのはAIではなく人」と語り、木造のまちづくりから個人住宅まで幅広く手がけているのが、株式会社MS Architects 代表取締役の濱田政和さんです。
学生時代からの思いをつなぎ、設計事務所を引き継いだ濱田社長に、「とにかく対話する」ことを軸にした仕事の向き合い方と、建築業界を目指す方へのアドバイスを伺いました。
株式会社MS Architects
代表取締役 濱田 政和
大学で建築学科を専攻し、設計事務所への就職を目指して前身事務所に入社。個人住宅や保育園、福祉施設、商業施設など、暮らしに関わる建築の設計・監理を担当。まちづくり系NPOを立ち上げた前代表のもとで、建物だけでなく地域や日常の過ごし方も視野に入れた仕事に従事。社名変更のタイミングで事務所を継承し現職。企画段階の相談から設計、確認申請、工事監理、引き渡しまで一貫して関わり、木造を含む構造提案と施主・現場との対話を重ねながらプロジェクトを進めている。
大学の建築学科から設計事務所の代表になるまで

編集部濱田社長は、大学で建築を学んで、設計事務所一筋で歩んでこられたんですよね。建築の道に進もうと思ったきっかけや、バックボーンについて教えてください。



はい。おっしゃるように、僕は大学で建築学科を専攻していまして、在学中から「卒業したら設計事務所に勤めたい」と決めていました。なので就職活動も、ハウスメーカーやゼネコンなどには行かず、設計事務所だけに絞って受けていたんです。



最初からかなり絞った選択をされたんですね。



そうですね。今の会社は、実は2年前に社名を変えていまして、僕が入社した頃は別の名前でした。その会社に入って、前の代表から事務所を引き継ぐ形で、社名変更のタイミングで代表になりました。



学生の頃から、建築のどんなところに魅力を感じていたのでしょうか?



もともと理系寄りの頭だったので、ものづくり全般には興味がありました。自動車や機械、パソコンなど候補はいくつかあったんですけど、建築を選んだ一番の理由は「広く一般の人にわかりやすい」ことでした。自分が住んでいる街の建物や道路がどうできているのか、都市はどういう考え方でつくられているのか。そういうことに興味を持ったのがスタートですね。



都市計画といっても、土木寄りの分野もあれば建物寄りの分野もありますよね。



はい。都市計画の中でも、道路や橋などの土木系もあれば、建物を中心とした建築系もあります。僕はやっぱり「建物」そのものに興味があったので、建物を設計する仕事を選びました。



MS Architectsさんは、いわゆる住宅だけでなく、まちづくりにも関わっていらっしゃいますよね。



前の代表がまちづくり系のNPOを立ち上げていて、設計業務以外にもまちづくりの活動をしていたんです。そこに惹かれたのも、就職先として魅力的に感じた理由の一つでしたね。



建物だけじゃなくて、まちそのものを良くしていく活動にも惹かれた、というところが印象的です。
家・保育園・福祉施設…暮らす人の声から課題を見つける


入社後、初めて担当した保育園/RC造・鉄骨造・木造の混構造 写真:吉田誠



お客様や地域の方とは、どんなやりとりから設計を始めるのでしょうか?



つくる建物の用途によって話す内容は変わりますが、共通しているのは出来上がった後の暮らしを一緒にイメージすることです。例えば戸建て住宅なら、完成直後の家族構成だけでなく、5年後10年後の生活をどうしたいかを伺います。



部屋数や広さだけの話ではなく、その先の生活のイメージまで聞いていくんですね。



そうですね。「子どもが小さいうちはこんな暮らしをしたい」「子どもが巣立ったらこうしたい」といった話を共有してもらって、それに合う間取りや部屋数、動線などを提案します。お客様が想像していた以上の形を出したいという気持ちでやっていますね。



住宅以外にも、保育園や福祉施設など、日中に人が長く過ごす場所もたくさん手がけていらっしゃいますよね。



はい。保育園や福祉施設は、運営の実態が法人や事業者によって全く違います。なので「どういう考えで事業をしているのか」「何を一番大切にしているのか」を丁寧に聞くところから始めます。



運営の方針まで踏み込んで聞いていくんですね。



そこがわからないと、いい提案ができないので。もちろん、子どもや高齢者が使う建物なので、バリアフリーや素材、手すりの高さなど、こちらからお伝えするべき基本的な配慮もあります。そのうえで、「園庭と0歳児室は近くにして保育したい」「人が集まれる場所をつくりたい」といった要望に合わせて、具体的な形に落とし込んでいきます。



建物が完成することがゴールではなく、その先の生活の質をどう上げるかを一緒に考えているように感じます。



そうですね。僕たちは、細かい要望をたくさん引き出すよりも、「暮らしのシーン」をイメージしてもらうようにしています。



そのためには、具体的にどんな質問をされるんですか?



「子ども部屋は2つ欲しいですか?」よりも、「この部屋はどういう時間帯に、誰がどう使いますか」「日中は家族の誰がどこに集まりやすいですか?」といった聞き方をします。その方のライフスタイルや趣味、好みなどから、提案の引き出しを広げていくイメージですね。



たしかに、その聞き方だと、自分でも気づいていない「本当に大事なもの」が見えやすくなりそうです。仕事でヒアリングをするときにも、「スペック」ではなく「使われるシーン」を聞いてみると、相手との信頼関係が変わってきそうですね。
コストと安全を両立させる木造の挑戦と、実務の8割



住宅だけでなく、商業施設や宿泊施設など「事業性のある建物」も多く手がけていらっしゃいますよね。そういった案件では、どんな点を意識されていますか?



事業性のある建物は、必ず「お金の話」がついてきます。建設費や工事費だけでなく、ランニングコストも含めて事業計画が成り立つかどうかを、一緒に考える必要があります。そこに、設計側としてどう貢献できるかを意識していますね。



具体的には、どんな工夫をされるのでしょうか。



僕たちの事務所では、意匠だけでなく構造の提案もすることが多いです。最近は国が木造の利用を後押ししていることもあって、鉄筋コンクリート造や鉄骨造よりも木造の方が、比較的工事費を抑えられるケースが出てきました。



地震大国の日本だと、鉄筋コンクリートのほうが安心、と考える人も多そうですが…。



もちろん、耐震性能はきちんと確保しなければいけません。耐震等級という性能の基準があって、それを満たせば木造でも十分に安全な建物になります。



なるほど…!とっても勉強になります。木造というと、温かみや風合いの良さも特徴ですよね。



そうですね。東京駅前でも木造ビルの計画が進んでいて、ようやく多くの企業が高層の木造建築にチャレンジし始めた段階です。ただ、まだ始まって10年経つかどうかくらいなので、これから20年、30年経ったときにどう評価されるかは、これからわかっていくところですね。



建築の世界は、革新的なデザインや新しい技術にチャレンジしつつも、安全性やコストとのバランスを取る必要がありますよね。



それは本当にそうです。よく誤解されがちなのが、建築の仕事は「デザインが8割」だと思われていることです。実際には、僕が先代から言われてきたのは「10割の仕事のうち、デザインに使える時間は2割」という感覚でした。



残りの8割は、どんな仕事になるのでしょう。



一番最初は、敷地や周辺環境の調査ですね。役所に行って建築基準法などの法令を確認して、この土地ではどんな建て方ができるのかを調べます。建ぺい率や容積率、景観条例などもありますから、それに違反していないかチェックが必要です。



たしかに、レゴブロックのように「好きな形を積めば終わり」という世界ではないですよね。



そうなんです。法令や事業性、施工のしやすさなど、目に見えにくい部分の検討やヒアリング、プレゼン資料作成が8割くらいを占めます。そのうえでようやく、残りの2割でデザインを検討するイメージです。



華やかに見える仕事ほど、裏側の地道な部分が大きいのかもしれませんね…。
AIが進んでも建物をつくるのは人。現場と対話する力


80名が生活する障害者支援施設/手前の活動棟はRC造壁に木造屋根を採用 写真:吉田誠



ここまで伺っていると、「人との対話」がかなり大きなウェイトを占めているように感じますが、お客様ではなく現場の方とは、どんなコミュニケーションを意識されていますか。



結局、建物をつくっているのは人なんですよね。AIがつくっているわけではなくて、現場で働く職人さんたちの手です。その人たちときちんと会話や交渉ができないと、図面どおりの建物はできません。



たしかに、図面だけ渡して「お願いします」では済まなそうです。



現場の方も、人なので楽をしたい気持ちはありますし、できるだけシンプルに作りたいと思うのは自然なことです。ただ、守らなければいけないルールや性能もありますし、「こういう仕様にしたい」というこちらの希望もある。その間をすり合わせていくのが、設計者の役割の一つですね。



お客様との対話とは、また違う難しさがありそうです。



そうですね。お客様には暮らしのイメージを引き出す対話が必要で、現場には図面の意図をきちんと伝える対話が必要です。どちらか片方だけでは、いい建物になりません。



弊社エージェントにご相談にこられる20代の中には、AIツールを使えることが強みになる一方で、人と話すことに苦手意識を持つ方もいます。



AIやデジタルの力を使うのは、とてもいいことだと思います。ただ、最終的に建物を使うのは人ですし、作るのも人です。だからこそ、人と人が顔を合わせて話す部分を手放しすぎないほうが、仕事はやりやすいと思います。



AIで図面を描ける時代になっても、「なぜこの形にするのか」を自分の言葉で説明できる力が求められるということですね。



そうですね。それと、こちらが楽しく仕事をしていないと、お客様にも現場にもそれが伝わってしまいます。辛いときや大変なときもありますが、どこかに楽しさを見つけながら、人ときちんと向き合うことが大切だと思います。
未経験でも建築業界を目指したい20代へ





弊社では、これから建築業界を目指したいという方からも頻繁に転職相談を受けるのですが、採用や面談を通じて、御社はどんな方と「一緒に働きたい」と感じますか?



「お客様のために頑張りたい」と言える人ですね。働く環境や休みも大事ですが、それだけだとやっぱり難しい。建築の仕事は、人の暮らしや人生に関わるので、誰かの役に立ちたい気持ちは必要だと思います。



未経験から建築を目指す方も、少なくないと伺いました。



そうですね。大まかに言うと、建築学科卒の方が一番多くて、その次が別の学部を出た後に2年ほど専門学校で建築を学んだ方。それよりさらに手前に、「全く別分野だけれど建築に興味が出てきました」という未経験の方がいます。



その一番手前の層の方は、いきなり設計事務所に入るのはやはり難しいでしょうか。



いきなりでも絶対に無理、とは言いませんが、かなり大変だと思います。同じ年齢で建築を専門的に学んできた人たちと一緒に働くので、自分がどこまで知っておく必要があるかを理解しておいた方がいいですね。専門学校で学ぶのも一つですし、業界の会社でアルバイトをしてみるのも一つの方法かなと思います。



なるほど。「一から教えてもらえれば頑張ります」というスタンスについては、どう感じられますか?



業界の最低限のルールや礼儀のことなど、こちらから教えられる部分はもちろんあります。でも、その業界の歴史や有名な建築家などは、自分で勉強しないと身につかないですよね。そこまで含めて「教えてもらわないと働けません」という姿勢だと、正直厳しいかなとは思います。



仕事としてお金をいただく以上、「プロとしてどこまで自分で学べるか」はどの業界でも共通のテーマですよね。



そう思います。うちはいわゆる大手企業ではないので、OJTや研修の枠がしっかりあるわけではありません。入社したら、かなり早い段階から実務に出てもらう形になります。そのぶん、先輩がフォローしますし、誰かの作業を手伝いながら覚えていける環境はつくるようにしています。



若いうちから、実務の一部を任せてもらえるのは大きな成長の機会になりそうです。



将来的には、お客様と直接打ち合わせができるようになってほしいので、自分が説明しやすく、相手にも伝わりやすい資料づくりを心がけてほしいです。それができるようになると、自分の提案にも自信が持てるようになりますから。



最後に、濱田社長が思う「働くとはこういうことだ」ということをキャリアに悩む読者に伝えたいです。何かメッセージをお願いできますか?



僕らの仕事で言うと、お客様に満足してもらうことはもちろんですが、自分も納得できるものを出したいんです。自分が「これはちょっと…」と思うものを人に提供し続けるのは、しんどいですからね。その両方を叶えるためには、自分で考えて考えて、責任を持って仕事をやり切ることが必要だと思います。



自分も納得できる仕事を、誰かのために全力でやり切る。その姿勢があれば、業界や職種が変わっても、必ず評価されそうです。



建築業界の中にも、意匠設計だけでなく、設備設計や構造設計、営業など、いろいろな役割があります。自分に合う仕事がどこかにあるはずなので、興味があるなら、一度業界の全体像を知るところから始めてもらえたらうれしいですね。



今日は「暮らしのシーンから考える」「8割の実務を丁寧にやる」「建物をつくるのはAIではなく人」という言葉が特に印象に残りました。目の前の一人の一日を思い浮かべながら、地道な作業でも少しずつ丁寧に積み重ねていくことが、信頼や評価につながっていくのだと思いました。濱田社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








