福祉をもっとおしゃれに、かっこよく。NPO法人琉仁福祉会・田中理事長の「通いたくなる居場所」のつくりかた

福祉の仕事を「自分が働く場所」として考えたことがない人も多いかもしれません。けれど、そこには体力勝負だけでなく、居心地のいい場を整えたり、人の変化にそっと付き合ったりする働き方もあります。
沖縄でNPO法人琉仁福祉会を運営し、就労支援B型事業所や女性限定グループホーム、アパレルやコーヒーの企画まで手がけるのが、田中圭周理事長です。
学生時代、大学病院での実習や、段ボールが積まれた施設を見たときの違和感から、福祉の場のつくり方を自分なりに考え続けてきました。
「自分が明日も通いたいと思える場所」をキーワードに、田中理事長に職場づくりと仕事の向き合い方を伺いました。
NPO法人琉仁福祉会
理事長 田中 圭周
前職では大学病院で精神保健福祉士として約5年間勤務し、医療福祉相談室で相談支援に従事。自分が障害を抱えたとき「福祉っぽい施設に通いたいと思えるか」との問いから、通う人の自尊心を大切にできる事業所づくりを志す。現在は沖縄で就労継続支援B型事業所や女性限定グループホームを運営し、根拠ある支援と多角的な視点で本人と家族の不安の軽減に取り組む。アパレルやオリジナルコーヒーといったプロジェクトも展開し、「すべての人の物心両面の幸福」と新たな福祉文化の共創を目指している。
自分が通いたいと思えない「福祉っぽさ」への違和感からスタートした
編集部田中理事長は、もともと精神科の大学病院でソーシャルワーカーをされていたと伺いましたが、そこから今の琉仁福祉会での仕事にシフトしたきっかけは何だったんでしょうか。
きっかけは、学生の時に単位を取るために行った大学病院での実習でした。そこで、自分の中に偏見があると気づいたことが大きかったです。



偏見、ですか?
受付のフロアで「患者さんと話してきてください」と言われた時、「いかにも障害がありそうな人」を探していたんです。自分は偏見がないと思っていたのに、全然そんなことはなかった。そこから、福祉との向き合い方を真剣に考えるようになりました。



そこから病院勤務を経て、今の事業所づくりにつながっていくんですね。
はい。いろいろな福祉施設を見て回る中で、「いわゆる福祉っぽい場所」に違和感を持つようになりました。段ボールが積み上がっていて、壁紙も多少汚れていても気にしない…。とりあえず居場所はあるけれど、自尊心が上がるような空間ではないと感じたんです。



うーん。たしかに、「ここに通っている」と人に自信を持って言えるイメージではないかもしれません。
そうなんです。逆に自分が通いたい施設ってどんな場所だろうと考えたら、少しおしゃれで、オフィスっぽくて、居心地が良い場所でした。「ここに通っているんだよ」と人に伝えたくなるような空間ですね。それを自分でつくるしかないと思って、今の事業所を立ち上げました。



たしかに、「明日もここに来たいかどうか」で、その場所の見え方って変わりますよね。仕事の職場選びでも、同じことが言えそうです。
B型事業所の「次につながりにくい現実」と向き合って見えたもの





就労継続支援B型事業所を選ばれた理由も、そこにありますか?
そうですね。今のB型事業所は、次のステップにつながる要素が弱いと感じていました。B型でそのまま長く過ごして落ち着いてしまう…。もちろん、それも一つの生き方ですが、「次に進みたい」人にとっては、選択肢が少ないと感じたんです。



田中理事長の事業所では、その部分を変えようとされているんですね。
はい。うちでは、就職を一つの目標にしながら支援をしています。グループの会社も含めて、実際に就職された方もいます。大事なのは、次につながる支援をすること。そのために、利用者さんが「何ができるようになったか」を根拠を持って振り返れるように、支援の質を高く保つよう意識しています。



B型事業所というと、「障害の重い方が行く場所」というイメージもありますが、そのあたりはいかがでしょうか。
障害の重さだけでは測れないと思っています。たとえば、病院から退院して、いきなり週5日、雇用契約で働くのは負荷が大きいです。その間のリハビリのように、週3日から通所して生活リズムを整える。そのステップとしてB型を使う人もいます。だからこそ、「次の支援につなげる場」にしたいなと。



なるほど。いきなり週5日で働くのは大変、という感覚は、一般の働く人にもありますよね。
そう思います。うちでも、「午前中だけ通所して午後は休む」といった形も認めています。他の事業所ではNGの場合もありますが、その人のペースに合わせてステップアップできることが、結果的に長く働く力につながると考えています。



自分のペースを尊重してもらえる環境があると、働くことへのハードルも少し下がりそうです。
女性限定グループホームで「福祉の当たり前」を更新する



現在は、就労支援だけでなく、グループホームも運営されていますよね。
はい。最近オープンしたのが、女性限定のグループホームです。入居者も女性だけ、職員も女性だけという形にしました。



かなり思い切った設計ですね。
行政からも「女性のグループホームが足りない」と聞いていましたし、もし自分に娘がいたら、夜間に知らない男性職員が来る施設に預けたいかと考えたら、正直、難しいなと思って。だったら、思い切って全員女性にしようと決めました。



発想としてはあっても、「人が集まらないから難しい」と諦めてしまうケースも多そうです。
そこは、もともと女性職員が多かったこともあり、職員が職員を呼んでくれる形で、自然と集まってきました。結果的に、女性だけのチームで運営できています。



職員さん同士の関係性も、とても良いと伺いました。
そうですね。NPOの方は、この1年で離職者ゼロです。パートさんも含めて誰も辞めていません。月1回、パートさんも含めた全員で話し合いをして、現場の意見を吸い上げるようにしています。「冷蔵庫を大きくしたい」と声があれば、必要性を確認して、1週間後には導入することもあります。



現場の声がちゃんと形になると、「自分もこの場所を一緒につくっている」という実感が生まれそうですね。
そうですね。みんなが自主的に掃除をしてくれたり、利用者さんのために何ができるかを考えて動いてくれています。一緒に経営している感覚に近いかもしれません。



職場の空気が良いと、それだけで仕事へのストレスはかなり減りますよね。
福祉を「かっこよくする」ために。現場と発信をつなぐしごとづくり





田中理事長のお話を聞いていると、「福祉のイメージを変えたい」という強い思いを感じます。
そうですね。正直、今の福祉のイメージは「かっこよくない」と思っています。だからこそ、福祉の見え方をかっこよくしていく作業が、自分の仕事だと捉えています。



具体的には、どんなところにこだわっているのでしょうか。
グループホーム一つとっても、「他のところと段違いで綺麗だね」と言ってもらえるくらい、内装やインテリア、家具にこだわっています。「場所があればいい」ではなく、「ここなら入りたい」と思えるかを大事にしています。



アパレルやイベント、それにオリジナルコーヒーづくりなど、事業所の外での取り組みも増えていると伺いました。
はい。利用者さん向けにイベントTシャツを作ったら、一般の方から「買いたい」という声が出てきたので、アパレルとして販売するようになりました。事業所では、キッチンカーを呼んだり、違う領域の事業所さんと合同でイベントを開催したりもしています。その時は、全部で100人くらいの方が来てくれました。



地域の人も巻き込んで、「応援したくなる福祉」をつくっている感じですね。
まさにそうです。応援されるためには、まず知ってもらう必要がありますし、ファンになってもらえるきっかけが必要です。コーヒーも同じで、自分でブレンドを考えた豆を、知り合いのプロの焙煎士さんにお願いして商品にしています。今は不定期ですが北谷町の役場にも販売をしに行っています。



役場でコーヒーを手に取った人が、「これ、福祉のNPOなんだ」と知る入口にもなりますね。
そうですね。「障害のある人が頑張って作ったから買う」ではなく、「この商品が欲しいから買う」という状態にしたいんです。そのうえで、「実は福祉の現場から生まれたんだよ」と知ってもらえたらいいなと。商品としての価値で勝負したいんですよね。
「ちょっとのきっかけ」を探しに行こう





福祉に関わっている人はもちろん、ふだんは福祉を意識していないビジネスパーソンにも、響く話が多かったです。とくに、どこで働くかに悩んでいる人ほど田中理事長の視点がヒントになりそうだと感じました。最後に、今の働き方に迷っている人に向けて、一言メッセージをお願いできますか?
まず、福祉で働こうとする人は、いい意味で「変わり者」だと思います。学歴に関係なくいろいろな人が集まる業界ですから、それだけ価値観を広げられる場所でもあります。



たしかに、多様な人との出会いは、自分の幅を広げてくれますよね。
支援員として経験を積んでいけば、サービス管理責任者というポジションにキャリアアップする道もあります。そこまで行くと、月35万円くらいの給料を出している事業所も多いです。目に見えるキャリアルートが用意されている点は、福祉の強みだと思います。



最初の一社目ではなく、セカンドキャリアとして福祉を見るのもあり、というお考えですよね。
そうですね。一番目の選択肢にしなくてもいいと思います。でも、二番目、三番目くらいに「福祉もありかな」と考えてもらえると、イメージが変わるはずです。大事なのは、「業界をよく見て、自分の目で見定めること」ですかね。



自分の目でよく見て選ぶからこそ、「福祉もありかも」と思って入ってくる人が増えていくわけですよね。そういう人たちと関わる中で、田中理事長ご自身は、この仕事を続けていてよかったな、と感じるのはどんな瞬間ですか?
利用者さんに「田中理事長がいたから今の自分がある」と言われると、正直、少し違うなと思います。僕がいなくても、その人が自分の力で歩いていけるのが一番です。だからこそ、「あの時、ちょっと背中を押してくれてありがとう」くらいの距離感がうれしいですね。その「ちょっと」のきっかけになれた時に、一番やりがいを感じます。



誰かに依存させるのではなく、「自分で歩けるようになるまで並走する」という距離感ですね。仕事でモヤモヤしたときも、「ちょっとのきっかけ」を探しに行くこと自体が、あとから自分の武器になりそうです。「自分が明日も通いたい場所か」「誰かの一歩を支えるきっかけになれるか」という視点をどこかで持っておくと、仕事の見え方が少し変わってくるかもしれませんね。田中理事長、今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








