昭和気質のテレビ現場をアップデート|株式会社スター照明 岸野社長が語る、若手が息をしやすい職場づくり

テレビやネットで、毎日のようにニュース映像を目にする私たち。けれど、その「現場」を支える人たちの働き方までは、なかなか想像がつきません。とくにテレビ業界には、いまだに「体育会系」「昭和っぽい」というイメージを持つ20代も多いのではないでしょうか。
そうした旧来の空気が色濃く残る報道の現場で、「若い人が息をしやすい職場に変えていきたい」と動いているのが、創業1958年の照明会社を継いだ女性トップ・岸野社長です。
家業として受け継いだ会社を、日本テレビの報道現場やドローン撮影、SNSでの採用広報など、時代に合った形へシフトさせている岸野社長に、仕事観と人材への思いを伺いました。
株式会社スター照明
岸野 美由紀 代表取締役
美容業界でサロン経営に携わったのち、家業である株式会社スター照明へ合流。創業1958年・68期目の同社で、テレビ映像の照明業務や、カメラマン・VEスタッフの派遣事業を担う。約10年前から事業に関わり始め、先代である父の逝去を機に代表取締役へ就任。日本テレビの報道番組を中心に多くの現場を支えながら、若手育成や働きやすさの改革、ドローン研修など新しい技術導入にも積極的に取り組んでいる。
美容業界から報道の照明会社へ。家業を継いだきっかけと覚悟

編集部岸野社長のご経歴についてですが、実は今の会社に関わる前は、まったく別の業界にいらしたんですよね?



はい。もともとは美容業界で働いていました。自分でサロンを経営していて、エステもカウンセリングもやるような仕事だったんです。



たしかに、雰囲気からもそれが伝わってきます。そこから、いまの照明会社に関わることになった経緯は?



実は、今の会社は実家の事業なんです。同族経営で続いてきた会社で、創業は1958年。いま68期目に入っている、かなり歴史の長い会社です。



そんな老舗を継ぐことになったんですね。



そうですね。とはいえ、代表になったのはここ3年くらいで、それまでは約10年ほど、少しずつ会社に関わるようになっていました。父が亡くなったこともあって、本格的に代表に就くことを決めたんです。



美容のお仕事をされていたところから、テレビ映像の照明や撮影の世界へ。かなり大きな転換ですよね。



はい、本当にまったく別世界でした。ですが、家族が長く守ってきた事業を、自分の代で終わらせるわけにはいかないなと。覚悟を決めて、飛び込んだ形です。



20代で「やりたいこと」と「継ぐ・守る責任」の間で迷う人も多いですが、岸野社長のように一度別の世界を経験してから家業に入る道もありますよね。経験を掛け合わせられると、仕事の幅も広がっていきそうです。
報道の現場にあった「命の危険」と、時代とともに変わった安全意識



御社の事業内容についても伺わせてください。ホームページも拝見しましたが、報道取材に強い会社でいらっしゃるとか。



はい。いまは主に、日本テレビさんのニュース番組の現場に、カメラマンや「VE」と呼ばれるスタッフを派遣しています。VEは照明や音声のセッティングをする、いわば撮影のアシスタントですね。



まさに、日々ニュースを支えている裏方のプロ集団ですね。



そうですね。もともとは「照明の会社」としてスタートしているので、照明自体のお仕事も残っています。機材と一緒に現場に入り、照明だけを担当する仕事も、いまも続けています。



報道の現場というと、災害や事故など、過酷な場面も多いイメージがあります。なにか印象に残っている出来事はありますか?



私自身は現場には出ていないのですが、会社としては忘れられない出来事があります。30年以上前、雲仙・普賢岳の火砕流の取材で、弊社の社員が殉職したんです。



そんなことが…。



はい。そのこともあって、今でも毎年、現地にお花をお供えしており、私も実際に現場に足を運んだこともあります。



文字どおり「命がけ」の仕事だったのですね。



昔は本当にそういう現場が多かったと思います。でもこの40年ほどで、世の中の流れは大きく変わりました。いまは台風のときに外に出て「とにかくすごい映像を撮ってこい」なんてことは絶対にありません。ホテルの中からガラス越しに撮影するなど、安全面はかなり配慮されるようになりました。



それでも、災害現場に向かう取材はゼロにはならないですよね。



そうですね。地震や災害現場に行くことはありますから、「こういう現場に行く可能性もある」という説明は、入社前にはきちんとしています。そこはごまかさず、お互いに理解したうえで働いてほしいと思っています。



自分の仕事が「誰かの暮らしや安全につながっている」と実感できるのは、報道ならではですよね。
「中間管理職で止まる声」を変えた、LINEと直接対話のマネジメント



岸野社長が代表になられてから、会社の中で一番変えたいと思ったことは何でしたか?



とにかく「社員との対話を増やすこと」です。私が入る前は、中間管理職がいて、そこで社員の声が止まってしまう状態が続いていました。現場の不満は中でくすぶっているのに、トップにはまったく届いていない。



現場あるあるですね……。



そうなんです。社員は不満がたまる一方で、上は「問題ない」と思っている。会社の雰囲気として、一番良くない状態だなと感じました。そこでまず、私と社員が直接やり取りできる「公式LINE」を作ったんです。



社長と一対一でLINEできるんですか?



はい。「何かあったらここに連絡してね」と伝えていて、若い子から年配の方まで、いろんな相談が来るようになりました。現場には一緒に行けませんが、日本テレビさんの建物にはよく足を運んで、帰ってきたスタッフとお茶をしたりもします。



トップが自ら足を運んで話を聞いてくれる会社って、意外と少ない気がします。



若い子からすると、「社長と直接話せる」というのは安心感につながるみたいで。プライベートの悩みまで話してくれることも多いのですが、いまの若い方たちは、仕事でガンガン出世したいというより、「プライベートを充実させたくて、そのために仕事もほどほど頑張ります」という感覚の人が多いように思います。でも、それでいいと思っているんです。仕事でやるべきことをきちんとやってくれれば、たとえば推し活のために頑張るでも、何でもいい。



価値観を否定しないスタンスなんですね。



はい。だから「今、推し活どうなの?」って、こっちから聞いたりもします(笑)。そうやって会話していると、少しずつ本音も出してくれるようになりました。



一方で、テレビ業界はまだまだ根性論も残る世界だと聞きます。



そうですね。報道も含めてテレビ業界全体が、古い体質のところが多いと思います。私と同じような関係会社の経営者さんも、かなりご年配の方が多くて、「昔はこうだった」という全盛期の話をよくされるんですね。でも、若い子たちにとっては、もはやピンとこない世界なんです。



たしかに、時代が違いますもんね。



それでも若い人を育てないと、業界全体が衰退してしまいます。だから、価値観の違いに戸惑いながらも、「なぜこう考えるんだろう」と受け止めていくしかないなと。中間管理職も人事を見直して、いまは若手のライフスタイルにきちんと向き合える女性を置くようにしました。



若い世代の価値観を否定せず、「どうすれば力を発揮できるか」を一緒に考えてくれる上司がいるかどうかで、仕事の続けやすさは大きく変わりますよね。20代で会社選びをするときも、こうした「対話をしてくれるトップや上司」がいるかどうかは、ひとつのポイントになりそうです。
古いテレビ業界に、新しい技術とネットの視点を持ち込む





事業面でも、時代に合わせていろいろとチャレンジされていると伺いました。技術面や働き方では、どんな変化がありますか?



使う機材は、創業当時から比べるとまったく別物になっています。昔はカメラを担いで、フィルムの時代のように手で回して…という世界でしたが、いまはパソコンを使って操作したり、データでやり取りしたり。新しい機材が入るたびに、メーカーさんの研修を受けて覚えていきます。



そう聞くと、「デジタルに強い若者」の出番も多そうですね。



そうなんです。若い子たちは本当に飲み込みが早いので、新しい機材にもすぐ慣れてくれます。最近だと、ドローン撮影の研修に行っている入社5年目の女性社員もいますよ。



ドローンまで! 一気に最先端なイメージになりますね。



ドローンを使いこなせるようになれば、災害現場などでも、危険な場所に人が行かずに映像を届けられるようになります。噴火の現場を上から撮るなど、今まで撮れなかった映像も可能になりますしね。



まさに「技術の進化が現場を守る」ですね。



そうですね。とはいえ、業界全体としてはまだ昭和っぽさも残っています。だからこそ、私としてはYouTubeのお仕事など、ネット媒体にももっと踏み込んでいきたいと思っています。



すでに、YouTube案件も入ってきているとか。



はい。照明の本業のほうでは、YouTubeさんのお仕事も少しずつ増えてきています。予算感もテレビとは全然違いますし、若い人たちの興味もネット側のほうが高い。学校の学生さんも、「テレビよりYouTubeをやりたい」という人のほうが圧倒的に多いんです。



そんな中で、テレビ報道の価値はどんなところにあると感じていますか?



ネットニュースもたくさんありますが、やはり「早く正確に伝える」のはテレビだと思っています。YouTubeで流れているニュース動画も、元をたどればテレビの映像だったりしますよね。とくに地震や災害のときは、テレビの情報が一番頼りになる。



たしかに、いざというときに真っ先につけるのはテレビかもしれません。



だからこそ、「報道の仕事はなくならない」と思っています。そのうえで、YouTubeやネットの映像も取り入れていく。古いテレビ業界の良さを残しながら、若い人がワクワクできる現場にしていきたいですね。
未経験でも飛び込める。映像業界を目指す20代へのメッセージ





映像・報道の仕事に興味がある20代も多いです。岸野社長としては、どんな人に、この仕事の楽しさややりがいを知ってほしいですか?



報道の現場もテレビの仕事も、いま世の中で何が起きているかを、いち早く肌で感じられる場所です。まだ誰も知らない情報に出会えたり、それを映像として形にしたり。そういうところにワクワクできる人には向いていると思います。



たしかに、ニュースで流れている映像を「自分が関わっている」と思えたら、誇らしいですよね。



そうですね。それに、いまの若い方たちはTikTokやYouTubeで、自分で動画を撮るのにも慣れていますよね。どの角度がいいか、どんな光がきれいか、自然と研究している。そういう感覚は、そのまま仕事にも活かせると思います。



御社では、未経験の方もウェルカムだと伺いました。



はい。体力はそれなりに必要ですが、未経験でも全然大丈夫です。先輩たちが現場でOJTをしながら教えていきますし、研修もあります。テレビ局でアシスタントのアルバイトをしていた、くらいの経験があれば、なおさら入りやすいですね。



編集やポストプロダクションに興味がある人も多そうです。



そうですね。「編集をやってみたい」という子には、編集の現場をご紹介することもできます。人数は多くありませんが、実際にそういう現場に行っている社員もいます。募集では大きくは打ち出していませんが、映像のいろんな分野へ広がるチャンスはあると思います。



採用活動の面でも、工夫されているんですよね。



はい。求人媒体も少しは使っていますが、あまりお金はかけていません。それよりも、自分たちで写真を集めてリール動画を作ったり、専門学校に出向いて若手を連れて行き、インタビュー形式で話をしてもらったり。Zoomで説明会をするときも、そのリールを見せたりしています。



社長ご自身が前に出て発信されることも増やしていきたい、と。



そうなんです。本当はホームページにも私の顔を出そうとしたのですが、最初は上層部に「載せるな」と言われてしまって(笑)。でも、インスタをやろうか、もっと情報発信をしようか、といろいろ提案は続けています。採用を強化したい今だからこそ、会社のリアルな雰囲気を知ってもらいたいので。



最後に、この業界を目指す若い方へもメッセージをお願いできますか?



そうですね。まずは、映像やニュースが好きかどうか。人の役に立つ仕事がしたいかどうか。そこに少しでもワクワクするなら、未経験でもぜひ一歩踏み出してみてほしいです。体力と気力があれば、技術はあとからついてきます。自分のこだわりや感性を生かして、「自分だから撮れた一枚」を積み重ねていく。その過程を楽しめる人と、一緒に現場を作っていきたいですね。



映像をつくる仕事は、20代のうちから「自分の感性で勝負できる」キャリアでもあります。スマホでの動画撮影や編集、ニュースを見る習慣など、すでに持っている小さな経験も、プロの現場では立派なスタートラインになりますね。そして、岸野社長のように若い世代の価値観に耳を傾け、働きやすさを一緒に考えてくれるトップがいる環境は、これから現場をめざす人にとって大きな安心にもなるはずです。 岸野社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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