人生は「成長とネタ作り」|自分のために働いた20代から、誰かのために働く現在まで。アプリティ株式会社 井上社長の仕事観

失敗や停滞は、どうしても「遠回り」に見えてしまいます。
結果が出ない時間ほど、その意味を前向きに捉えるのは難しいでしょう。
けれど、アプリティ株式会社・井上正嗣さんは、借金を抱えていた20代の経験も含めて、すべてを「成長とネタ作り」として受け止めてきました。
自分のことで精一杯だった時代から、誰かのために働く感覚へどう切り替わっていったのか。井上さんに、その考え方の変化を伺いました。
アプリティ株式会社
代表取締役CEO 井上 正嗣
2011年にアプリティ株式会社を創業。ウェブサイト制作や動画制作、広告運用などのIT領域の事業を主軸に、家電量販店に営業人材を派遣するウォーターサーバー販売支援の事業や、海外での貿易事業を展開。近年は医療経営士の資格を取得し、千葉県内の総合病院で執行役員として医療経営にも携わり、自社経営と医療現場の双方に関わりながら事業を行っている。
自分のことで精一杯だった、借金だらけの20代


編集部井上社長は、“社長”と呼ばれるより、お名前で呼ばれる方がいいと伺いましたので、本日は正嗣さんとお呼びしますね!



ありがとうございます。そのほうがうれしいです(笑)。



正嗣さんはアプリティ株式会社の代表として十数年会社を続けてこられたとのことですが、具体的にはどんなお仕事をしているのか教えていただけますか?



はい。2011年に会社を立ち上げて、今年で15年目になります。社員が8名で、パートやインターン生や業務委託のパートナーも合わせると20名くらいの規模ですね。事業としては、一つはプレミアムウォーターの代理店として、家電量販店に営業スタッフを派遣して、店頭での販売支援をしています。もう一つは法人と個人向けに、ウェブサイト制作や動画制作、広告運用の代行など、いわゆるネット周りの支援をしています。



さらに、最近は医療法人の経営にも関わっていると伺いました。



ええ。医療経営士の資格を取得して、今は千葉県の地域医療を支える総合病院で執行役員もしています。医療業界は赤字の病院が多く、とても厳しい状況です。そこでこれまでの経験やWEBの知識を活かし採用や広報など、ビジネスの視点からサポートをしています。



会社の代表と病院の執行役員。まさに二足のわらじですが、10代、20代の頃の正嗣さんは、自分のことで精一杯だった時期も長かったとか。



そうですね。その頃の自分は、完全に自分のことでいっぱいいっぱいでした。お金もなかったし、多額の借金も背負っていました。余裕がないので、人のことなんて考えられないですよね。



今の20代も、物価高や将来不安で「自分の生活だけで精一杯」という声が多いです。当時の正嗣さんも、まずは自分のために働いていた感覚が強かったのでしょうか。



はい。最初は完全に自分のためでしたね。借金を返したい、車が欲しい、いい服を着たい…。でも若い頃は、それでいいと思います。特に営業職なら、まずは自分の欲のために結果を出すところからで大丈夫です。
欲しい車を買って気づいた「頑張りの先にはいつも誰かがいた」



自分のために頑張っているうちに、正嗣さんの中で変化が起きたタイミングはありますか?



ありましたね。若い頃は、とにかく欲しいものがたくさんあって、その中でも車は大きな目標でした。借金もありましたし、がむしゃらに営業してお金を貯めて、やっとの思いでポルシェを手に入れたんです。最初はもちろんうれしかった…。ただ、すぐに気づいたんですよね。一番うれしい瞬間は、自分一人で運転しているときじゃなかった。友達や仲間、恋人、家族や親を乗せて、喜んでくれたときに一番心が動いたんです。



自分のために頑張っていたはずが、実は誰かに喜んでほしくて動いていた。そこで気づきがあったわけですね。



そうなんです。欲しい車や家を手に入れても、その喜びは一人だとすぐに消えてしまいます。結局、自分は誰かに認めてほしくて、誰かのために頑張っていたんだなと。だから最初は自分のために走ってもいい。ただ、その先で「自分一人のための頑張りには限界がある」と気づくと、仕事の意味が変わってきます。



御社のクレドに「人生は成長とネタ作り」とありますよね。この言葉も、その気づきと関係しているのでしょうか。



はい。うちにはインターンも含めて若いメンバーが多くて、営業でうまくいかなかったり、研修で学んだ通りに話せなかったりして、落ち込むこともあるんです。でも、僕たちの仕事の失敗で、極論ですが誰かが命を落とすことはありません。だから、失敗したら「またネタが一つ増えた」と考えてほしいんです。



ネガティブに捉えるか、将来誰かに話せるネタだと捉えるか。ここが分かれ道ですね。



そうです。自分の失敗を隠すのではなく「この前こんな失敗をして、上司にこう迷惑をかけた」と、素直に後輩や同僚に話せる人になってほしい。そうやって失敗を共有できる人は、チームから信頼されます。人生には本当の意味での失敗はなくて、全部ネタになると知ってほしいんですよ。



たしかに、20代のうちは特に、失敗から立ち直る経験そのものが、大きな成長になりますよね。今日うまくいかなかったことも、未来の自分のネタになる。そう思えると、働くのが少し楽になりそうです。
「やれるのにやらない人」とは組めないからこそ、仕組みで支える





正嗣さんが一緒に働く人に求める軸として「悪い嘘をつかないこと」と「やれるのにやらない人にはならないこと」を挙げていましたね。ここについてももう少し詳しく教えてください。



その二つは、本当に大事にしています。できないなりに頑張っている人なら、いくらでも応援したくなります。でも、やればできるのに、面倒だからやらない。できていないのに、できているように見せる。その状態では、一緒に戦えないなと感じます。



私自身も、同じことを感じていました。どうして「やれるのにやらない」のかと。



その状態って、結局誰かが損をしているんですよね。やらなかった分の仕事を、誰かが肩代わりしている。嘘も同じで、例えば締め切りに間に合っていないのに「大丈夫です」と言えば、その先にいる取引先やチームが迷惑を受けます。



自分が動かないことで、誰が困るのかを想像できていない…。そこが問題ですよね。



まさにそこです。自分のタスクを放置するということは、誰かに意図的に負担を押しつけているのと同じです。だからこそ、僕は「やれるのにやらない人」とは一緒に仕事ができないと言っています。



とはいえ、性格や過去の経験や環境から、すぐに動けない若手もいますよね。その人たちをどうやって支えているんでしょう?



今うちには三つの事業部があって、それぞれに長がいます。僕は基本的に、その長とだけ厳しい話も良い話もします。現場のメンバーには、感情ではなく仕組みでサポートできるようにしています。



なるほど。長の方に緩衝材になってもらいつつ、仕組みはしっかりと作って支えるということですね。病院でも、職員の方と向き合う中で、同じような課題を感じたりしますか?



そうですね。病院の現場はビジネスの現場に比べよりセンシティブで関わるステークホルダーも多いので、なおさら仕組みが大事だと感じます。アプリティでうまく回っている仕組みを、医療の現場にも応用できないかと、今まさに部長たちと議論しているところです。
鴨川の海とサウナが教えてくれた、頭を空にする大事さ





正嗣さんは、人を大事にするために、自分を大事にすることを徹底されている印象です。



自分の機嫌を取ることは、とても意識しています。経営者は24時間365日、いつでも仕事のことを考えてしまいます。ときには、夢にまで出てくることも…。だからこそ、強制的に頭を空っぽにする時間が必要なんです。



正嗣さんの場合は、それがサーフィンとサウナなのですね。



はい。今住んでいる千葉の鴨川は、家の目の前が海で、サーフィンのメッカでもあります。海に入っているときは、本当に波のことしか考えていません。サウナにもほぼ毎日入っていますが、こちらも思考がすっと軽くなります。



どちらも、体を通じて頭の中をリセットする時間ですね。



そうですね。例えば、仕事がうまくいかず、気力もなくなってしまった人がいるとします。その人には、一度鴨川の海を見て、おいしいご飯を食べてほしいと伝えたいです。悪い流れが続いているときは、無理に次のチャレンジを入れるのではなく、一度リセットした方がいい場合もありますから。



きれいな景色やおいしいご飯で、まず心と体の余裕を取り戻す。そこから次の一歩を考えるということですね。



はい。自分がボロボロの状態で人のために働こうとしても、続きません。さっきの話と同じで、まずは自分自身を大事にして、余裕を取り戻す。そのうえで人のために頑張るから、仕事が長く続くのだと思います。



20代のうちは、とにかく根性で頑張ろうとしてしまいがちです。でも実は「どう休むか」「どう整えるか」を覚えることが、パフォーマンスを上げる近道なのかもしれません。実体験で頭を空っぽにする時間と、集中する仕事時間。その切り替えができる人ほど、これからの時代に強くなれそうです。
自分を満たした先に見えてくる「人のために働く」という感覚





ここまでお話を伺ってきて、正嗣さんの働き方や考え方は、若い頃の遠回りや苦労、経験の積み重ねから生まれているのだと感じました。これから社会に出る若い読者に向けて、メッセージをお願いできますか?



自分は立派な人間ではないので、偉そうなことは言えません。ただ一つ思うのは、特に男性は若いうちにたくさん失敗した方がいいということです。借金を背負った経験から学ぶこともありますし、リスクを取らないと見えない景色もあります。



そうですよね。失敗を恐れて何もしないままのほうが、何も得られないと思います。



ええ。無茶をしろという話ではありません。平穏な人生がいいなら、それも立派な選択です。ただ、何者かになりたいと少しでも思うなら、失敗を恐れずに一歩踏み出すことです。



女性に対しては、どんなふうに考えていますか?



女性の場合は、無理に大きなリスクを取るよりも、技術やスキルを一つずつ積み上げていく働き方が合う人も多いと感じています。だからこそ、努力の方向だけは間違えないでほしいですね。例えばコピーライティングのように、自分の武器になる技術を身につけていけば、働き方の選択肢は広がると思います。



なるほど。男女問わず「自分の武器を一つ持つ」ことが大事だと。



はい。そのうえで、さっきの話に戻りますが、まずは自分の欲しいものを知って、自分を満たすために頑張ってみてほしいです。欲しい服でも、行きたい場所でもいい。全力で働いてそれを手に入れたとき、きっと気づきます。本当は誰かに喜んでほしくて、自分は頑張っていたんだなと。



自分を大事にしながら、少しずつ「誰かのため」にシフトしていく。そのプロセスこそが、キャリアを育てていく時間なのかもしれません。



そう思います。僕たちの会社でも、インターンを含めて若いメンバーが少しずつ成長しています。失敗もネタにしながら、逃げずに一緒に前に進める人と仕事ができたらうれしいですね。



ありがとうございました。今日は「失敗はネタになる」「まずは自分を満たしてから人のために頑張る」という考え方が印象的でした。遠回りに見えた時間も、あとから振り返れば「すべて途中経過だったのだ」と、いつか気づく日がきますよね。正嗣さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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