読んで書き続ける人が生き残る「書く仕事」|株式会社ミニマル 丸茂社長が語る、”紙編集”の責任の重さ

書くことを仕事にしたい。ただ、「この先も食べていける働き方なのか」と考えると、足が止まってしまう人もいるはずです。
AIで文章を作ることが簡単になった今こそ、人間の編集者やライターに何ができるのかが問われています。
そこで今回は、紙の編集とライティングを軸に少数精鋭の制作チームを率いる、株式会社ミニマル代表取締役・丸茂健一さんにお話を伺いました。
旅行雑誌の編集から独立し、法人化へと進んできた丸茂社長の歩みから、「書く仕事」で評価され続けるための考え方をのぞいてみます。
株式会社ミニマル
代表取締役 丸茂 健一
大学卒業後にインドや南米、アフリカなどを旅したのち、旅行雑誌の編集部に入りライター・編集者としてキャリアをスタート。旅行雑誌編集部や制作会社勤務、フリーランスを経て2010年に株式会社ミニマルを設立し、書籍や大学案内、企業パンフレットなど紙媒体を中心に手がける。少数精鋭のチームで、読み手と取材先の双方に誠実な「書く仕事」を続けている。
海外放浪から編集の世界へ。「真面目に続けたら仕事が途切れなかった」

編集部丸茂社長のご経歴は事前に拝見しているのですが、改めて「どうやって編集の世界に入られたのか」を、社長ご自身の言葉で教えていただけますか?



はい。大学を卒業してすぐは、しばらく海外を放浪していたんです。インドや南米、アフリカをあちこち回っていました。帰ってきたときに、その旅を文章にしたいなと思って。たまたま旅行雑誌の編集部にご縁があって、そこで働き始めたのが最初です。



最初から編集者をめざしていたわけではなかったんですね。



そうですね。最初はライター寄りで文章を書いていて、そこから編集の仕事も覚えていきました。何年かして、その雑誌自体がなくなってしまって。親会社に拾ってもらう形で移り、会社案内やパンフレットを作る仕事をするようになりました。



そこから独立して、今の会社につながっていくんですね。



はい。前に勤めていた会社は200人くらいの規模でしたが、給料がなかなか上がらなくて。子どもも生まれて、「このままでは生活が厳しいな」と思ったんです。そこで、会社を辞めて、最初はフリーランスで雑誌の仕事をしていたんですが、次第に一人では受けきれないくらい仕事が来るようになって、2010年に会社にした、という流れですね。



独立直後から仕事が途切れないのは、すごいことですよね。



たまたまですけど、前職のときのお客さんが「個別にお願いしたい」と言ってくださったんです。編集の仕事って、真面目にやっていれば意外と続くんですよ。約束を守って、変なことをしなければ、「またこの人に頼もう」と思ってもらえるんです。



目の前の仕事をきちんとやることが、そのまま次の仕事やキャリアにつながっていくんですね。若いうちから「今の評価は、次の仕事の入口になる」と意識しておくと、働き方が変わりそうです。
紙の編集で鍛えられた「読み手に優しい」段取りの感覚





法人化した現在のミニマルさんの事業内容についても教えていただけますか?



業態としては編集プロダクションですね。メインは紙の仕事で、書籍やムック、企業のパンフレット、大学案内などを多く手がけています。もともとは編集とライティングだけをやっていて、撮影とデザインは外部の方にお願いしていたのですが、デザインのニーズも増えてきたので、今は社内にデザイナーもいます。



紙媒体の編集について、ざっくりと、一本の案件の流れを教えていただけますか?



そうですね。まず、お客さんから「こういうものを作りたい」という相談が来ます。それで、何ページで、どんな目的で、誰に配るのかをヒアリングして、見積もりとスケジュールを決めるんですね。そこから取材の段取りをして、お店や人にアポイントを取り、取材と撮影を行います。



ふむふむ、イメージが湧いてきました。



取材が終わったら原稿を書いて、カメラマンの写真と一緒にデザイナーに渡します。デザインが上がってきたら、お店や取材先にも確認してもらって、間違いがないかチェックのうえ、最終OKが出たら印刷所にデータを渡す、という流れですね。



なるほど。なんというか、印刷所に持ち込む手前までの工程を全部見ている感じなんですね。ちなみに、いわゆる「紙の編集」と、ウェブメディアの編集はどう違うのでしょうか?



うーん、まったく別物ですね。紙媒体は一度出てしまうと修正がきかないので、誤字一つにもシビアになります。ウェブは後から直せる分、紙媒体と比べてスピード重視になるかもしれませんね。それと紙の編集者は、年間の企画を考えたり、読者の動きを想像したりする時間が長いです。だから、情報の選び方や企画の組み立てが得意な人が多い印象ですね。



なるほど。私もこうやって取材後に原稿執筆をして公開作業をするんですが、「後から誤字が見つかって直す」パターン、けっこう多いです…。



優秀な編集者って、セレクトショップのオーナーみたいなものだと思っていて。たくさんある情報の中から、「面白いところ」「おいしいところ」だけを選んで、つまらない部分をきちんと外す。どの順番で出したら一番伝わるかを考え抜く。その経験値が求められますね。



それはある意味、どの仕事にも通じる力ですよね。「相手にとってわかりやすい情報の順番を考える」という姿勢は、職種を問わず評価されるスキルになりそうです。
「誰でもライター」時代に、プロとして食べていく人の違い



弊社のエージェントにご相談に来られる若い方から「ライターになりたい」「編集の仕事がしたい」という声をよく聞きます。丸茂社長から見て、ライターという仕事はどんな職業でしょうか?



ライター自体は、間口がすごく広い仕事だと思います。日本語が書ければ、とりあえず始められますからね。僕もそうですが、アルバイトでライティングを始めて、そのまま仕事になった人も多いと思います。



今は、副業のウェブライターも増えていますよね。



そうですね。クラウドソーシングで、文字単価いくらという案件もたくさんあります。ただ、「名乗れば今日からライター」ではあるけれど、「それで食べていく」はまた別問題です。



その差は、どこにあるんでしょう?



本気のクライアントワークになると、責任の重さが桁違いなんです。大学の取材や、大企業の社員インタビューなどでは、取材相手も組織も大事な情報を預けてくれています。そこで中途半端な原稿は出せません。一本5000字くらいのインタビュー記事で、報酬が5万〜8万円になることもありますが、その分、求められるレベルも高いんです。



取材前の下調べや、事実関係を確かめる作業も含めると、かなり時間がかかりそうですね…。



そうなんです。取材相手がどんなことを大切にしているかを調べたり、関連する情報を確認したり。書いた後も「この数字は本当に正しいか」「この言い方で誤解されないか」を何度も見直します。ショートカットがきかない仕事なので、正直コスパは良くないかもしれません。でも、その分やりがいがあります。



「書く仕事がしたい」と思う人にとっては、「副業で少し書いて終わり」ではなく、「責任の重さもセットで引き受ける覚悟」が必要ということですね。奥が深いです…。
AIが文章を書く時代に、人にしか出せない「人間くささ」を残す





最近はAIで文章を書くことも当たり前になってきました。ミニマルさんでもAIツールは活用されていますか?



文字起こしは、みんな普通に使っていますね。昔に比べてかなり精度も上がりました。でも、たまにすごく優秀なときもあれば、「急にバカになった?」みたいなときもあります(笑)。



わかります(笑)。モデルが変わるだけで、文章の雰囲気がガラッと変わることもありますよね。



そうそう。バージョンアップで、理系の推論は強くなったけど、なんだか文章が固くなったな、みたいなこともあります。AIのほうが頭が良さそうな文章を出してくる時代なので、下手にそのまま使うと、かえって浮いちゃうんです。



確かに、「ここだけ急に論文っぽい」という文章、すぐわかります。



AIが参照しているのは、論文やお堅い記事も多いからでしょうね。だからこそ、「あえて人間っぽい乱れ」を残すことも大事だと思っています。完璧すぎないリズムとか、「この人らしい口癖」とか。



AIの力は借りつつ、最後は自分の言葉で整える、ということですね。



そうですね。結局、「この人が書いた文章だから読みたい」というニーズは、これからも残るはずです。好きな作家さんやライターがいるなら、真似して書いてみればいい。たくさん読んで、自分の感覚に近い文章を取り込んでいく。そうやって、自分だけの言葉が少しずつできていきます。



AIに任せきりにせず、「AIのアウトプットを自分で読み直して、自分の言葉に直す」という習慣を持てるかどうか。この差が、AI時代の働き方では大きなポイントになりそうです。
本を読んで文章を書いて、現場にくっついて学ぶことの重要性





最後に、これからキャリアを作っていく20代に向けて、お話を伺いたいです。ライターや編集者を目指す人に、編集のプロとして丸茂社長が伝えたいことは何でしょうか。



一番は「本を読め」です。なんでもいいから、とにかく本を読む。小説でもエッセイでも漫画でもいい。



漫画でもいい、というのがうれしいです。どこかの研究で、東大生の家には本がたくさんあった、という話もありますよね。細かい数字は覚えていませんが、「本が身近にある環境」は、それだけで力になると思います。



そうですよね。漫画のセリフ一つとっても、「ここに小さい『っ』が入るから臨場感が出る」とか、「あえてセリフをなくして記号だけで感情を見せる」とか、細かい工夫がたくさんあります。そこから学べることも多いんですよ。



本ではなく、最近はショート動画だけで情報を取る人も増えています。それについては、率直にどう思われますか?



情報を知るだけなら、それでもいいと思います。ただ、文章には文章にしかない良さがあります。登場人物の顔も、景色も、自分の頭の中で自由にイメージできる。これは、どんな時代になっても変わらない楽しさです。



そうですよね。あと、読むことと同じくらい、「書くこと」を続けるのも大事ですよね。



そうですね。ブログでも、映画のレビューでも、なんでもいいので、文章を書いてみることです。文学部で真面目に本を読み込んでいた子は、やっぱり文章が上手い。それと同じで、読んで書いてを続ければ、誰でも前よりは確実にうまくなります。



やっぱり「読む」と「書く」を続けることが、一番の近道なんですね。とても勇気が出るお話です。せっかくなので、その「書く仕事」をしている皆さんが、どんな環境で働いているのかも聞いてみたいです。



今は10人くらいの少人数でやっていて、みんな出社することが多いですね。忙しいのでピリッとしている瞬間もありますが、会社っぽくない、いい意味でゆるい空気もある。服装も、だらしなくなければ自由です。



現場で学ぶ機会も多そうですよね。



そう思います。隣にプロがいて、会話が聞こえてくるだけでも勉強になります。ある認知科学の研究者は、あらゆるスキル伝達手法のなかで、「親分の斜め後ろで仕事を見る」のが一番学習効果が高い、と語っていたりもします。だから若いうちは特に、「現場にくっついていく」ことを意識するといいと思いますよ。



編集に限らず、どんな仕事でも、プロのすぐそばで空気を感じる時間は、あとから大きな財産になりますよね。最後の最後に、丸茂社長にとって「働く」とは何か、一言で教えてください。



僕、趣味らしい趣味がないんですよ(笑)。だから、仕事そのものが自分の一番大きな活動です。働くって、「自分が生み出したものが評価される場に出ること」だと思うんですよね。お金のために働くのはもちろん大事ですけど、それ以上に、「自分の仕事が誰かにきちんと評価されるか」を意識していきたいですね。



お金だけでなく、「自分の言葉や仕事が、人からどう評価されるか」を大事にする。その姿勢は、どんなキャリアを目指す20代にとっても、長く仕事を続けるうえでの軸になりそうです。今日は「目の前の仕事を真面目に続ける」「本を読んで書いてみる」「現場にくっついて学ぶ」というお話が印象的でした。まずは一冊本を手に取り、気になった一文を書き写してみる。そんな小さな一歩から、自分だけの言葉とキャリアが育っていくはずです。丸茂社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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