「知らないままで終わりたくない。」元漫画編集者が挑むAI×データの仕事|株式会社APTO 取締役COO狩野さんの思考

ニュースやSNSでは毎日のようにAIの話題が流れてきますが、いざ自分のデスクに向かうと、今日も使っているのは検索とメールと表計算ソフトだけ…。

「AI、気になってはいるけれど、どこから触ればいいのかわからない」。

そんなふうに感じている方もいるでしょう。

今回は、漫画編集者からAIスタートアップへと転身し、データ収集サービス「harBest」の開発に携わっている株式会社APTO取締役COO・狩野洋一さんにお話を伺いました。

知らないことが多い自分を「恥ずかしい」と感じながらも、一つずつ学び、言葉を増やしてきた狩野さんは、AIの現場で何が起きているのか、そして自分の時間の使い方にどう納得感を持ってきたのかを語ってくれました。

読了後には、きっとAI時代の変化を「単なるニュース」ではなく、自分のキャリアを前に進めるきっかけとして捉えるヒントが見えてきます。

お話を伺った人

株式会社APTO

取締役COO 狩野 洋一

大学卒業後、出版社に入社し、青年漫画誌の編集者として漫画やグラビアの企画・制作に携わる。20代後半で退職しフリーランスとして開業。業務委託の一つとして創業期の株式会社APTOに関わり始め、AIデータ収集・アノテーションサービス「harBest」の立ち上げに参画する。現在は取締役COOとして、国内外の企業と共にAI活用に必要なデータ基盤づくりを推進。「知らないままでいたくない」という感覚を原動力に、自ら現場に足を運びながら、AI時代の新しい働き方を模索し続けている。

目次

漫画編集からAIスタートアップへ。30歳前の決断

編集部

狩野さんのご経歴についてですが、もともとは出版社で漫画編集をされていたとお聞きしました。そこからAIスタートアップに飛び込むって、かなり大きな転換ですよね…!

狩野さん

大学を卒業して、最初は神保町の出版社で青年漫画誌の編集をしていました。漫画とグラビアを担当していて、いわゆる「紙の世界」でずっと働いていたんです。

編集部

今のAIの事業とは、すごいギャップを感じます。

狩野さん

そうですよね。ただ自分の中では、「30歳までに独立して、事業をやる経験を積みたい」という思いがずっとありました。なので20代の終わりに会社を辞めて、フリーランスで開業して、複数の業務委託を並行していました。

編集部

その中の一つの仕事として、APTOに関わり始めたと。

狩野さん

そうですね。創業したてのタイミングで、「AIプロダクトを作っているけれど、ビジネスサイドの人がいない」と声をかけてもらって。AIにはもともと強い興味があったので、初期のボードメンバー的なポジションでジョインしました。

編集部

20代後半で全く違う業界に踏み出すのって…、怖くなかったですか?

狩野さん

正直、怖さはありました。しかし、昔からそんなに頭も良くないですし、運動神経がよかったわけでもないので、あまり「キャリア」みたいなものは意識してなかったように思います。どちらかというと、自分の人生の時間をどう使いたいかに納得できるかどうかの方が大事にしていますね。

編集部

履歴書の見栄えよりも、納得感ですね。

狩野さん

そうですね。20代の時間って大切ですよね。あとから振り返ると強く思います。

編集部

たしかに…。もし今の働き方に納得できていない方がいるなら、「キャリアをきれいに揃えなきゃ」ではなく、「自分の時間をどう使いたいか」から考えたうえで、一度舵を切ってみる価値はありそうですね…!

AIブームの裏側にある「人口減少」とデータの課題

編集部

APTOさんの事業内容についても教えてください。今、どんな課題からスタートしているのでしょうか。

狩野さん

ありがとうございます。そもそも、先進国の多くは人口減とともに高齢化が進んでいますよね。そうした中で「どうやって生産性を維持するか」「産業競争力を落とさないようにするか」は、各国共通の課題になっています。そこで期待されているのが、AIです。AIは大きく、データ・アルゴリズム・計算リソースの三要素に分けられると思います。

編集部

その中で、APTOさんはデータに特化していると。

狩野さん

はい。多様な出力形式に応じて精度を高めていくために、画像や動画、音声、テキストといった様々な形式のデータを集めて、「これは何か」「どういう状態か」など、情報を付加(アノテーション)していく。AIが学習したり、モデルを評価できる形にデータを成形するのが私たちの仕事です。

編集部

御社が手掛けた「ピーマン収穫ロボット」の例でいうと、「どれがピーマン」で「収穫すべきタイミング」を判断できるように、専門家が意味付けをしていくイメージですね。

【引用】Wantedly|【COOインタビュー】ビジネスの勝機を捉え、AIで世界を変革するために

狩野さん

おっしゃる通りです。一例ですが、自動運転技術においては、人物や交通標識、車両を高精度に認識できないと当然実用化できません。技術的にできることと、社会として「やっていい」と認可されていることは別なんですよね。

編集部

たしかに。日本だと法整備や、学習用データとして何を使っていいかなど、まだ議論が追いついていない部分もありますよね。

狩野さん

そうですね。だからこそ、AIのポテンシャルだけではなく、安全性や倫理もセットで語られるべきだと思っています。危険なものの作り方や犯罪につながる質問に、AIが簡単に答えてしまうとまずいですよね。

編集部

そこは絶対に避けないといけない部分ですよね。

狩野さん

国外のいわゆるビックテックと呼ばれる企業は、既に自国の言語の安全性に着目して実装しています。安全性の観点からすると、いわゆる危ない質問に自動でブレーキをかける仕組みを整えています。結局は、社会全体で「どこまでを良しとするのか」を議論し続けることが必要なんですけどね。

編集部

データも倫理も含めてAIを理解することは、エンジニア以外の方にとっても避けて通れないテーマですね。

harBestで「誰でもデータをつくる側」になれる理由

編集部

プロダクトについてもう少々伺いたいのですが、スマホさえあれば、誰でもAIの学習データを作れる仕様にしているのは、どんな狙いからなんでしょうか。

狩野さん

AIにとって一番大事なのは、多様なデータの「質」と「量」なんです。例えば、冷蔵庫の温度管理をAIで最適化したいとします。まず思い浮かぶのは、どの時間帯にどれだけ開閉されるのか、中に何がどれくらい入っているのか、どういうものを入れがちなのか、何人暮らしなのか、等はぱっと思い当たりますよね。そうしたデータが大量に、高い品質で、そして個別に必要になるわけです。

編集部

つまりその場合、一般家庭の冷蔵庫の中身の画像データなどが欲しくなるわけですね。

狩野さん

はい。こうしたデータのニーズに応えるべく、スマホで写真を撮影したり、音声を録音することでAIの学習データにするのが「harBest」です。「harBest」を使えばデータ収集もアノテーションも、誰でも簡単に行えます。

編集部

専門家向けの「harBest Expert」もあると伺いました。

狩野さん

はい。お医者さんや弁護士さん、公認会計士さんのような高度な専門家が作るデータもAIには必要です。人手で作られたプロの知識は大変貴重です。精度をより高めていくためにも、特に日本語において「harBest Expert」は非常に有効なツールだと思っています。

編集部

一般的なデータと専門家のデータ。その両方があって初めて、実用的なAIができるんですね。

狩野さん

そうですね。合成データといって、AIで作られたデータを活用する場合もありますし、多様なデータの収集・制作ツールを持っていることが重要ですね。もちろん人間が作ったマニュアルデータも必要不可欠です。

編集部

なるほど…。いやぁ本当に、すごい時代になりました…。

狩野さん

その意味では、スマホで簡単にデータを集められるようにすることは、「AIの現場」を広げることでもあります。特定のエンジニアだけでなく、誰もがAIに関わる社会にしていきたいですね。

知らないままでいたくない。知識を増やす働き方

編集部

狩野さんについて一つ気になったのが、狩野さんが就活のときに書いたという作文のテーマです。「恥」という漢字をテーマに選んだと伺いましたが、なぜ「恥」だったんでしょう…?

狩野さん

当時から、知らないことが多い自分が、なんとなく恥ずかしかったんです。中高生だった時期に、ラジオで紹介された映画や本の話についていけないのが嫌で、家に帰ってから調べたり、図書館で調べたりしていました。そうして「ああ、こういうことか」と理解して、自分の言葉で話せるようになる。その感覚が好きなんですよね。

編集部

図書館と言えば、調べていくうちに山崎豊子さんの本に出会って感銘を受けたとか。

狩野さん

ええ。もう亡くなられてしまいましたが、山崎さんは現場に通って、人に会って、五感で徹底的に取材をしてから作品を書かれているそうです。大学病院や政府機関、海外にも足を運んで、社会にどうしても伝えたいテーマを自分の言葉にしていく…。その姿勢にすごく影響を受けました。

編集部

AI時代は、調べれば何でも出てくる一方で、「自分の言葉」が薄くなりがちな気もしますね。

狩野さん

だからこそ、AIや検索で情報を集める一方で、ちゃんと現場に行って、自分の目で見たり、人と話したりする。両方を行き来することで、自身の言葉に厚みが出てくるのかなと思います

編集部

現場に行く、というお話が出ましたが、APTOは海外の企業と一緒に仕事をする機会も多いと聞きました。やっぱり実際に現地に行かれるんですか?

狩野さん

そうですね。先週は韓国、その少し前は上海にいましたし、今ちょうどメンバーがサンフランシスコに行っています。AIに限りませんが、データ自体がそもそもグローバルな文脈の中にあるので、いろんな国や業界の人と話す機会が自然と増えているのかなと思います。

編集部

「知らないままで終わらせない」と決めて、AIの情報もリアルな現場の話も、どちらも自分の中に取り込んでいく。そんな風に動ける人は、これからの仕事でも強く生き残れそうですね。

納得できるキャリアのために、今日からできること

編集部

AI時代が到来して、キャリアの考え方も多様な選択肢が生まれていると思います。「このままでいいのかな」と悩みながらも、一歩が踏み出せない人からのご相談が弊社には多く寄せられます。キャリアについて、狩野さんはどうお考えですか?

狩野さん

うーん、そうですね…。私なんかがそんな話をするのは大変おこがましいのですが…あくまで私見で…。私個人としては「自分自身が自分の時間の使い方に納得しているかどうか」が重要なのかなと。

編集部

納得しているなら、そのままでも良いと。

狩野さん

そうですね。どうせいずれ自分が死ぬことだけは決まっているので、その間の時間をどう使うかは、自分で決めるしかない。もし、今のままでは後悔しそうだと思うなら、動いてみるのも手かもしれません。

編集部

「動く」というと、大きな決断をイメージしがちですが…。

狩野さん

そんなに大げさな話でもない気がします。使ったことのないAIサービスを触ってみるでもいいですし、大事なのは初動のハードルを下げるといいますが、あまり考えずに体験してみることですかね。それが私の場合は「知らなかったことが一つ減る快楽」につながっているのだと思います。

編集部

それなら、今日からでも始められそうです。

狩野さん

はい。その積み重ねで、自分の言葉で話せることが確実に増えていきます。キャリアチェンジをするにしても、AIとどう付き合うにしても、「自分の言葉」を持っているかどうかが、これからの時代は大きな差になるかもしれませんね。

編集部

といいますと?

狩野さん

既存のAIモデルはデータを元に計算を経て、汎用的な回答に収束するように作られています。いわゆる「偏り」が生まれにくいわけですが、個人の経験や見解、思想は偏ったものです。AIの出力の汎用性が高まるほど、オリジナリティ、独自性といった「あなたの考え」や「あなたのやり方」といった特殊で偏ったものの価値が高まるはずです。

編集部

なるほど、ありがとうございます!今の働き方に納得感があるなら、そのまま突き進めばいい。でも「このまま終わりたくない」と少しでも感じているなら、知らない世界に一歩踏み出してみる。その一歩がAIでも、別の分野でも、きっとビジネスパーソンとしての自分を強くしてくれますよね。狩野さん、本日は色々と貴重なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。狩野さんが手がけている事業を含め、AIの分野にさらに興味が持てた、そんな時間でした。

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この記事を書いた人

「ビギナーズリンク」の編集部です。【スキルの余白は、伸びしろだ。】をコンセプトに、キャリアアップやスキルアップを目指す若年層が「未経験」を「武器」に変えていけるよう、転職や就職に関する有益な情報を発信します。

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