「役者志望の10代」が介護で見つけた“天職”。株式会社ありがたい・井手社長が語る介護×夢×人間力の仕事観

日本はこれから本格的な超高齢社会に入ります。どんなに技術が進んでも、人と人とが向き合う介護の仕事はなくなりません

そんな現場で、デイサービスを通じておじいちゃんおばあちゃんの「生きる目的」を支え続けているのが、株式会社ありがたい 取締役社長・井手雄大さんです。

もともとは役者志望の10代だった井手社長が、なぜ介護の世界に飛び込み、今も第一線で走り続けているのか、お話を伺いました。

介護に限らず「人のそばで働くキャリア」の始め方が見えてきます。

お話を伺った人

株式会社ありがたい

井手 雄大 取締役社長

熊本で育ち、10代で劇団に所属。上京後に始めた介護の仕事で利用者の言葉に支えられ、「自分の働く場所はここだ」と確信する。ボランティアで高齢者向けファッションショーを企画した経験を経て、介護事業の立ち上げメンバーとして株式会社絶好調へ参画。2019年に介護事業部を法人化し、株式会社ありがたいを設立。「自分の大切な人を預けたくなる場所」を理念に、手作りの食事、夢アセスメント、人間力を重視したケアづくりに取り組んでいる。

目次

役者志望の10代が「生活のため」に選んだ介護

編集部

まずは井手社長ご自身のことからお聞きしたいです。もともと役者志望だったと伺いましたが、どんな流れで介護の仕事を始めることになったんですか?

井手社長

私は熊本県の出身で、三人兄弟の次男として生まれました。子どもの頃は野球をやっていて、ごく普通の家庭だったと思います。そんな中学時代に、母から「エンタメの世界に興味ないの?」と言われて、勝手にオーディションに応募されていたんです。そこから15歳くらいで劇団に入り、舞台やミュージカルに出させてもらうようになりました。

編集部

10代で劇団所属って、かなり本格的ですよね。

井手社長

そうですね。レッスンも楽しくて、「自分はこの世界で生きていくんだ」と思っていました。18歳のときに、もっと幅を広げたいと上京を決めたんです。ただ、九州男児の父からは「夢を追うのはいいが、それだけで食べていけるほど甘くない。勉強するか、就職しろ」と言われまして。そこが一番ぶつかった時期でした。

編集部

夢か、現実か…というところですよね。

井手社長

そうなんです。結局、けんか半分で「じゃあ就職するよ」と言って、飛び込んだのが介護の世界でした。正直、そのときは介護に特別な思いや情熱はなくて、「東京で生きていくために選んだ仕事」という感覚でしたね。

編集部

最初はあくまで「生活のため」だったんですね。

井手社長

はい。上京して知り合いもいない18歳には、正直寂しさも大きくて。そんな中で、一番の支えになってくれたのがおじいちゃんおばあちゃんだったんです。

編集部

支え、というと…?

井手社長

私が介護をしているはずなのに、「あなたの頑張る姿を見たい」「いつもありがとうね」と、会うたびに前向きな声をかけてくださって。介護しているつもりが、実は自分のほうが支えてもらっている感覚がすごく強かったですね。

編集部

介護に限らず、20代で仕事を選ぶとき、「最初から志望動機が完璧じゃなくてもいい」と感じるエピソードですね。まず現場に飛び込んでみることで、自分の向き不向きややりがいが見えてくるのだと思います。

おじいちゃんおばあちゃんの言葉で「天職」と気づいた日

編集部

そこから、介護の仕事を「天職だ」と思うようになるまでに、どんな転機があったのでしょうか?

井手社長

途中でモデルの仕事を目指すようになって、一度、介護施設を退職したんです。ありがたいことに、大きな仕事が決まったタイミングでした。それから2年ほどたって、「当時お世話になったおじいちゃんおばあちゃんに、自分の姿を見せたい」と思ったんですね。それで施設を訪ねて、撮影した写真を見せたんです。

編集部

井手社長って、とっても律儀な方なんですね…!その際、反応はいかがでしたか?

井手社長

あるおばあちゃんが、「ちゃんと約束守ってくれたの?ありがとうね」と、泣きながら喜んでくださって。その瞬間、雷に打たれたような感覚になりました。目の前の人を笑顔にできていないのに、「人を楽しませるエンタメをやる」と言っている自分に気づいたんです。「自分が本当にやるべきことは、ここにある」とはっきりわかりました。

編集部

その出来事が、介護に戻る決定打になったんですね…!

井手社長

はい。そこから、目の前のおじいちゃんおばあちゃんをもっと笑顔にしたいと考えるようになりました。ボランティアでファッションショーを企画する非営利団体を立ち上げて、関東の高齢者施設を回ったんです。

編集部

おじいちゃんおばあちゃんがモデルとして歩くファッションショー、素敵ですね。

井手社長

おしゃれをしてランウェイを歩くと、皆さん本当に表情が変わるんですよ。「まだこんなに楽しめるんだ」と自信を取り戻してくださる。その姿を見て、「これは自分にしかできない仕事だ」と感じました。

ファッションショーと手作りご飯でつくる笑顔のデイサービス

編集部

そこから今の「ありがたい」に行き着くまで、どんなステップがあったんでしょう? 流れを聞かせてください。

井手社長

ボランティア活動をしている中で、飲食店を運営する株式会社絶好調さんと出会いました。「食べることは生きること」を大切にしている会社で、夢とありがとうをキーワードにされていたんです。その考え方に惚れ込んで、飲食ではなく「介護事業の立ち上げメンバー」として絶好調に入社しました。そこで介護事業部や施設の立ち上げを経験し、2019年に今の株式会社ありがたいとして法人化した、という流れです。

編集部

ありがたいさんのお食事は、写真で見ても「家庭の温かさ」がすごく伝わってきました。

井手社長

ありがとうございます。普段の食事は、うちの職員が手作りした家庭料理をお出ししています。温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに。季節の食器を使って、見た目も楽しんでいただけるように意識しています。

編集部

本当に“家で食べるあったかいご飯”みたいで、安心感がありますね。

井手社長

絶好調のシェフたちが来てくれる特別な食事会もあります。周年祭やクリスマスなどイベントのときにお願いして、本格的な料理を振る舞ってもらうんです。皆さんすごく喜んでくださいますね。

編集部

夕食まで提供されていると伺いました。

井手社長

はい。ご家族に寄り添うサービスとして、夕食を食べて帰れるデイサービスを行っています。歯磨きや口腔ケアまで済ませてお送りするので、ご自宅ではパジャマに着替えて寝るだけの状態です。

編集部

ご家族にとっても、かなり助かるサービスですね。

井手社長

そうですね。その分、職員には残業をお願いしてしまうこともありますが、「ご家族の生活も支えている」と思うと、現場としてもやりがいにつながります

リハビリと人間力を掛け合わせる、これからの介護の現場

編集部

ありがたいさんの施設は、リハビリの設備もかなり充実していると聞きました。

井手社長

はい。今の介護の現場では、リハビリは切り離せない大事な要素だと考えています。立派なマシンをそろえることも大切ですが、一番重要なのは「人の気持ちを動かせるかどうか」です

編集部

どれだけ設備が良くても、使う気持ちにならなければ意味がないですもんね。

井手社長

その通りです。だからこそ、従業員が「やってみたい」と思える声かけを意識しています。できなかったことができるようになる。できていたことが、もっとスムーズにできるようになる。その変化を一緒に喜べると、利用者さんのやる気も続きますし、従業員のやりがいにもつながります。

編集部

できることが増えていく瞬間を共有できるのって、本当にうれしいですよね。

井手社長

うちでは、介護で行う評価を「夢アセスメント」と呼んでいます。会社の理念「夢とありがとう」から名前をいただいて、皆さんの「思い」や「夢」も含めて目標設定をするんです。

編集部

リハビリの目標と「夢」をセットにしているんですね。

井手社長

例えば「また一人で買い物に行きたい」「孫の結婚式に自分の足で参加したい」など、人生の目標から逆算してリハビリ内容を考えます。そうすると、単なる運動ではなく、「その人の人生を支える時間」になります。

編集部

介護職に求められるリテラシーも、どんどん増えていると感じます。医療的な知識、コミュニケーション力、リハビリの理解…。

井手社長

そうですね。昔は無資格でも始めやすい仕事というイメージでしたが、今は専門性の高い職種として見られるようになってきました。資格によって任せられる仕事も、お給料も変わってきます。ただ一番大事なのは、やっぱり人間力です。資格や知識は、入社後の勉強会や研修でいくらでも伸ばせます。うちでは、専門知識の勉強会だけでなく、人間力の研修やケーススタディも定期的に行っています。

編集部

「人の気持ちに寄り添い、人の気持ちを動かす力」は人にしか磨けないスキルですよね。20代で身につけると、どんな業界でも一生役に立つ武器になりそうです。

20代が介護の世界でキャリアを育てるための一歩

編集部

現場で働く職員さん同士のコミュニケーションについても教えていただけますか?

井手社長

職員同士では、月に一度の全体ミーティングがあります。そこで共有や発表の時間をとったり、チームビルディング研修を取り入れたりしています。単純に、仲が良いほうが良いサービスにつながりますからね。

編集部

やっぱり職場の空気がいいと、サービスにもそのまま表れますよね。

井手社長

施設長クラスになると、私は「小さな経営者だよ」と伝えています。予算管理や人材育成も含めて、自分の施設をどう運営していくかまで任せています。難しい部分はサポートしますが、考えることで大きく成長していきます。

編集部

任される範囲が広いぶん、成長も一気に加速しそうですね。今後の事業の展望についても伺えますか?

井手社長

まだまだ小さな中小企業ですが、数という意味でも年商という意味でも、少しずつ広げていきたいです。数は力になりますし、大きくなることで介護業界に与えられる影響も増えていきます。この業界には、私自身が育ててもらいました。だからこそ、若い人が「ここで働きたい」と思える業界にしていきたいんです。

編集部

採用やキャリアアップの考え方はどうでしょう?

井手社長

私は「やりたいです」と手を挙げてくれた人に任せていきたいと考えています。実力が少し足りなくても、やる気と責任感があれば、会社がサポートしながら育てていけますから。それと、従業員の人生にも、できるだけ寄り添いたいと思っています。ちなみに、一緒に従業員のマンションを見に行ったこともありますよ。

編集部

そこまで…!

井手社長

うちには「大切な人の大切なものを大切にする」という言葉があります。従業員は会社にとって大切な人です。その人が大切にしている家族や暮らしをないがしろにすると、会社のことも嫌いになりますよね。だからこそ、その人の人生プランも一緒に考えていきたい。「ここにいて良かった」と思える職場にしたいんです。

編集部

20代で介護に興味はあるけれど、「知識も経験もない自分にできるのか」と不安な方も多いと聞きます。その点について、井手社長からメッセージをいただけますか。

井手社長

まず一つ目の答えは、「そんな風に思わなくて大丈夫だよ」です。どんな人にも必ず良いところがあります。それを見抜けないのは、上司の責任でもあります。まずは、おじいちゃんおばあちゃんとたくさん話してみてください。良くないところは「それは良くないよ」と教えてくれるし、良いところは「それいいね」と褒めてくれます。人生の大先輩として、たくさんのことを教えてくれます

編集部

介護をする相手、というより「人生の先輩」として見る、ということですね。

井手社長

そうです。障害や病気、認知症にばかり目を向けると、マイナスな部分が気になってしまいます。「この人は人生の大先輩だ」という目線で関わると、良いところがたくさん見えてきますよ。自分たちが経験していない戦争や高度成長期の話、家族との思い出…。そこから学べることは本当に多いです。

編集部

介護の現場に一歩踏み出すこと自体は、意外とハードルが高くない。ただ、「続けること」が難しいイメージもあります。その点はいかがでしょうか。

井手社長

たしかに、つらい場面に出会うこともあります。でも、続ける秘訣はシンプルです。「自分の人生を一緒に考えてくれる会社」と出会うこと。そして、自分自身も「こうなりたい」という人生プランを持つことだと思います。うちとしては、その人の人生に寄り添いながら、一緒にキャリアプランを考えていきたいです。介護の仕事であれ、別の仕事であれ、「人と向き合う仕事がしたい」と思う20代には、ぜひ一度この世界を覗いてみてほしいですね。

編集部

今日は「目の前の人の笑顔を最優先にする」「大切な人の大切なものを大切にする」という考え方が、とても印象的でした。明日は、身近な年上の人の話を5分だけじっくり聞いてみる。そんな小さな一歩から、自分のキャリアを考えてみたいと思います。井手社長、本日は貴重なお話、ありがとうございました。

リンク:株式会社ありがたい_採用ページ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「ビギナーズリンク」の編集部です。【スキルの余白は、伸びしろだ。】をコンセプトに、キャリアアップやスキルアップを目指す若年層が「未経験」を「武器」に変えていけるよう、転職や就職に関する有益な情報を発信します。

目次