年商100億、それでも一度手放す|株式会社E-LINE・小泉社長の「あったらいいな」を現実にするスモールデータ検証

仕事を頑張っているのに、いまいち手応えがない。転職した方がいいのか、副業を始めるのか、このまま今の会社で積み上げるのか…。20代の頭の中は、「どれが正解なんだろう」という問いでいっぱいになりがちです。

スモールデータを武器にグループ全体の売上を100億円規模まで伸ばし、それでも一度すべてを手放して原点に戻った株式会社E-LINEの小泉社長は、「大きな正解より、小さく試して直し続ける人が強い」と話します。

今回は、小泉社長にスモールデータの現場から生まれた仕事観について伺いました。最後まで読むと、自分なりのキャリアの進め方を考え直すきっかけになるはずです。

お話を伺った人

株式会社E-LINE

代表取締役社長 小泉 聡史

北海道大学大学院(量子理工学系)修了後、リクルートで大規模ITサービス開発とデータ分析を経験し、2010年に株式会社E-LINEを創業。地域に特化したスモールデータ分析で不動産・子ども服・建設・介護など複数事業を成長させ、グループ年商100億円を達成したのち、事業を売却してE-LINEに資本を集中。「あったらいいなを常に考える」を理念に、企画・マーケ・デザイン・開発・カスタマーサポートまでをすべて内製する体制で、ユーザー視点のサービスづくりを貫く。座右の銘は「恩・縁・運」。大学との共同研究や小中学校でのキャリア教育、エンジェル投資などを通じて、次の世代と新しい価値づくりにも挑戦している。

目次

無名から100億円超へ。それでも一度すべて手放した理由

編集部

小泉社長、事前に経歴をざっと追っただけでも「え、これほんと?」ってなるくらい盛りだくさんで…。リクルートに入って、そこから起業して、グループ全体で100億円超えまで行かれているじゃないですか。そのあたりの流れを、まずはざっくり教えてもらえますか?

小泉社長

はい。もともと私は理系でして、最初に入社したのがリクルートでした。そこでプログラミングなど、ITの基礎を一通り叩き込んでもらいました。それで、入社してだいたい3年くらいで独立して、E-LINEを立ち上げたという流れですね。

編集部

学生時代からずっと理系なんですよね。もともと研究者の道も考えられていたとか。

小泉社長

そうですね。北海道大学と大学院では応用理工と量子理工を専攻していて、当時は研究者になる道もありました。ただ、学問の世界だけで完結するより、自分のアイデアを実社会でサービスとして形にしたい気持ちがだんだん強くなってきて。リクルートで働く中でも、「こうしたらもっと良くなるのに」「自分ならこう作りたい」という思いが膨らんでいきました。

編集部

そこで、「自分で場をつくるしかない」と。

小泉社長

はい。与えられた仕事だけをこなすより、自分が楽しみながら社会に新しい価値を出せる環境をつくりたいと思って、E-LINEを立ち上げました。そのときに言葉にしたのが、今のコーポレートビジョンでもある「あったらいいなを常に考える」です。

編集部

E-LINEさんって、今でこそいろんな業種の案件を手がけていらっしゃいますが、創業当初は本当にゼロからのスタートだったと思うんです。そこからどうやって、最初の信頼を積み上げていったのかを教えていただけますか?

小泉社長

本当に誰も知らない会社なので、スモールデータの話をしても、最初はどこに行っても相手にされませんでしたね。そこで、一度「実績そのものを作る」と決めて、当時赤字だった不動産会社の中に外部から入って、スモールデータを使って売上を立て直す実験をしたんです。

編集部

不動産会社の再建…かなりチャレンジングですね。

小泉社長

そうですね。でも、そこでうまくいって、売上を伸ばすことができました。最終的には株式を取得して、その会社を買収する形になりました。ただ、目的は不動産会社を持つことではなくて、「スモールデータでちゃんと成果が出る」という証明をすることでした。そのあとも同じやり方で、子ども服販売の領域、建設会社、老人ホームなどで、スモールデータを使ったマーケティングや戦略づくりを続けました。その結果、グループ全体で見て、売上が100億円を超えるところまでいきましたね。

編集部

本当にすごい規模ですね…!そこまでいっても、今はまた「データ分析」に集中されているのがちょっと意外です。

小泉社長

実は、そこが自分の中での大きな転機でした。売上規模が大きくなるにつれて、正直に言うと、自分の器が追いついていない感覚があったんです。毎日手一杯で、「このまま無理に広げるのは違うな」と。

編集部

普通なら、そこでさらに拡大しがちだと思いますが…。

小泉社長

私はむしろ「一回全部手放そう」と決めました。資本も選択と集中をして、原点の「スモールデータ分析」に戻ったんです。ここからまた、自分のペースで深くやり直そうと。

編集部

「一度広げたものを絞り込む決断」は、本当に勇気がいることだと思います…!

ビッグデータだけでは救えない現場。そこから見えた違和感

編集部

小泉社長がこだわる「スモールデータ」という言葉を、あらためてわかりやすく教えていただけますか?「ビッグデータ」という言葉は聞いたことがあって、「全国何百万人」規模のイメージですが…。

小泉社長

よく聞いてくれました(笑)。ざっくり言うと、人口で言えば100万人未満くらいの規模で見るデータのことです。市区町村レベルですね。私たちがよく扱うのは、30万人とか、80万人くらいの単位です。

編集部

なるほど…!

小泉社長

ビッグデータはたしかにすごいです。全国にモニターがいて、ネットでアンケートを集めて、一瞬で集計できます。でも、報酬目的の回答が多くて、バイアスが強くなりがちなんです。

編集部

わかります。お小遣い稼ぎ感覚で適当に答えてしまう人って、それなりにいますもんね…。

小泉社長

そうなんです。そのデータを、そのままある街の商圏に当てはめても、正直なところ「現場では役に立たない」ということに気づきました。だからこそ、私たちはローカルに特化したスモールデータを集めています。

編集部

ローカルに特化したスモールデータ…。具体的には、どうやって集めているのでしょうか?

小泉社長

基本はオープンデータですね。総務省などが公開している統計がベースになります。ただ、それだけでは足りません。実際に街を歩いて、ガイドのように人に聞いたり、現場で一軒ずつヒアリングすることもあります。かなり泥臭いやり方です。

編集部

おぉ…!意外でしたが、「人海戦術」ですね。

小泉社長

ええ、よくそう言われます。ただ、実はサンプルとして400人くらい取れれば、ある程度傾向が見えてきます。よほど小数点以下まで精度を求めなければ、そこまで大きな人数は必要ないんですよ。

編集部

たしかに。仕事で言えば、自分のチームや担当エリアくらいのサイズですよね。自分の職場の身近な人数、たとえば同じフロアの10人でもいいので、「何が困りごとになっているか」をメモしてみると、それだけでも仕事の改善の種が見えてくるのかもしれないですね。

実験と手放しをくり返す。スモールデータで仕事を作る思考法

編集部

先ほど、スモールデータを使ったマーケティングは不動産だけでなくさまざまな業種に広がっていったと伺いましたが、業種が変わってもスモールデータの考え方は基本同じなんでしょうか?

小泉社長

基本の考え方は同じです。まずはデータを集めて、仮説を立てて、小さく試す。その結果を見て、また直す。これのくり返しです。不動産で言えば「いくらなら借りてもらえるか」という値付けでしたし、他の業種でも「誰に、どんな価値を出せば動いてもらえるか」を、地道に探りました。

編集部

そのなかで、特に印象に残っている気づきってあったりしますか?

小泉社長

パラメータ、つまり「どの条件を使って分析するか」を変えるだけで、まったく違う結果が出ることですね。同じ800人のデータでも、年収だけを見るのか、家族構成を見るのか、身長や体重など身体的な要素も入れるのかで、傾向がガラッと変わります。

編集部

同じ人たちのデータなのに、切り取り方で世界が変わるんですね。

小泉社長

はい。そこが面白いところです。プログラミングの世界で言うと、オブジェクト指向に近い発想かもしれません。目的を決めて、その都度、必要な条件を組み合わせていく。今は開発もアジャイルが当たり前なので、「やりながら変えていく」のが前提です。

編集部

「最初に完璧なものを出さなきゃ」と思い込んでしまう人も多そうですが…。

小泉社長

むしろ逆だと思います。正解のない課題に対して、仮説を立てて、失敗して、直していく。そのプロセス自体を楽しめる人のほうが、これからの時代は評価されるかもしれないですね。

編集部

実際に小泉社長も、一度100億円規模まで広げた事業を手放して、もう一度「原点に戻る」という大きな修正をされましたもんね。

小泉社長

はい。あれも一つの「実験の結果」だと捉えています。自分の器が追いつかないなら、一度リセットして、もう一度深くやり直せばいい。そう考えたほうが、前向きに動けますからね。

編集部

多くのビジネスパーソンも、「失敗=終わり」ではなく、「失敗=実験の一つ」と見られると、いろいろなことに挑戦しやすくなりそうです。

AIとチップと睡眠時間。人間をどう拡張するかという問い

編集部

御社は、「あったらいいなを常に考える」というコーポレートビジョンがありますよね。そこでちょっと個人的に聞いてほしいのですが、「優先タスク最適化自動調整スケジューラー」みたいな、ドラえもんっぽいアイデアがあって…。

小泉社長

優先タスク最適化自動調整スケジューラー、ですか?

編集部

はい。タスクや体調、メンタル状態を全部データ化して、その人に合う1日のスケジュールを自動で組んでくれるツールがあったらいいな、なんてずっと思ってたんです。

小泉社長

それは、すごく興味深いですね…!

編集部

この発想について、小泉社長は率直にどう感じますか?スモールデータを掛け合わせることで、実現できたりするんでしょうか?

小泉社長

本当に素晴らしいと思います。実は、僕たちがやっているスモールデータの考え方にも、かなり近いですよ、それ。タスクの優先度を決めるときも、年齢や体調、気分など、いろいろな項目を見ないと最適化できませんから。

編集部

本当ですか?自分としては、体調やメンタルの波までぜんぶ含めて、「今日はここまでやろう」と決めてほしい感覚なんですよね。自分でタスクの数や優先度を考えるリソースも、できれば作業そのものに回したくて。

小泉社長

その発想が、まさにスモールデータなんです。同じ人でも、どんな項目を組み合わせて見るかで、まったく別の傾向が出ます。実現は可能だと思いますが、パラメータをどう選ぶかが、精度を上げる一番のポイントですね。

編集部

その延長で、私は体内にチップを入れてもいいと思うくらいで…(笑)。今は平日4時間睡眠なんですけど、本音を言うと、1日2時間くらいの睡眠で回せたらうれしいなと。もっとやりたいことを詰め込みたくて。

小泉社長

僕も、その体は欲しいですね(笑)。一つずつ解いていけば、そこに近づくことはできますし、人間が考えるものは大体実現できると思います。あとは、そこまでたどり着くまでの熱意があるかどうかですね。

編集部

とはいえ、「これって寿命と引き換えかもしれないな」と感じる瞬間もあって…。短命でもいいかな、みたいに思う自分もいるんですけど。

小泉社長

その感覚もわかります。ただ、今みたいにこういうアイデアが次々出てくるうちは、まだ大丈夫ですよ(笑)。こういうのを全然思いつかなくなったときが、むしろ本当の意味での老化かもしれません。

編集部

少し安心しました。私はAIも、怖がって使わないよりは、人間にとって便利な存在として、一緒にやっていきたい派なんですよね。

小泉社長

実際、AIが台頭して「仕事が奪われる」と心配される方は多いですが、人間そのものは変わらないと思います。最後に判断するのは、これからも人間です。だからこそ、自分の頭で考える力は、むしろこれからもっと大事になっていくのではないでしょうかね。

編集部

少し話がそれてしまいましたけど、小泉社長とこういう話ができて、個人的にはすごくワクワクしますし、楽しいです…!

職業名より「どう生きたいか」。

編集部

ここまでのお話を聞いていると、小泉社長は「仕事=自己実現の場」という感覚が強いのかなと感じたのですが、仕事のやりがいって、どんなところにありますか?

小泉社長

楽しいのはもちろんですが、「人のためになっている」と実感できることです。お金のために仕事をしたことは、正直あまりなくて。生活していける分だけあれば十分だなと思っています。大事だと考えていることは、恩と縁と運を忘れないこと。いただいたご縁やチャンスにちゃんと応えようとする姿勢が、また次の運を連れてきてくれると感じています。

編集部

仕事そのものを楽しむ、という感覚は小泉社長からすごく伝わってきます。でも、売上100億円を超えた経験をお持ちでも、いい車に乗るとか、高級ブランドに興味がないというのは、若い方にとっては新鮮かもしれません。

小泉社長

ユニクロで十分ですよ(笑)。服は消耗品ですしね。それよりも、自分が楽しいと感じる仕事に時間を使いたいです。

編集部

お金や肩書きより、「自分が楽しいかどうか」を軸にされているからこそ、これから社会に出る若い世代にも、同じ視点を持ってほしいという思いがあるのかなと感じます。そうした考えが形になっているのが、今取り組まれているアントレプレナー教育(自分で仕事や事業をつくる力を育てる教育)なんですよね。

小泉社長

はい。藤田医科大学の先生と一緒に、ここ数年は6000人規模のアンケート調査を続けています。日本はどうしても起業家の数が少なくて、国としても課題になっているんです。ただ、海外をそのまま真似するのではなくて、日本ならではの起業の形があると思っていて、そのヒントを探している感じですね。

編集部

そうした考え方を伝えるために、小中学生向けの出前授業もされているんですよね。そこでは、どんな話をしているんですか?

小泉社長

よく小中学生向けの出前授業で話すのは、「将来の夢を職業名で選ばなくていい」ということです。医者とか、公務員とか、どうしても既存の職業名から選びがちなんですよね。

編集部

たしかにそうですね。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させたマーケターの方も、「好きな動詞で仕事を選びなさい」とおっしゃっていました。食べるのが好きなのか、作るのが好きなのか、みたいな。

小泉社長

まさにその通りですね。パン屋さんになりたい、ではなくて、「作るのが好き」なのか「届けるのが好き」なのか。そこから逆算して仕事を考えたほうが、自分に合う働き方には出会いやすいと思います。

編集部

今のお話を聞いていて、小泉社長が「人を見るとき」に何を大事にしているのかも気になってきました。採用の現場では、どんなポイントを見ているんですか?

小泉社長

そうですね…大きく二つあります。ひとつは、正解のない課題を楽しめるかどうか。もうひとつは、謙虚さがあるかどうかです。経験があるかどうかより、そちらの方を重視しています。AIの時代になっても人間は変わりませんから、最後は人の判断や、人との付き合い方が問われますね。

編集部

そうですよね…!経験の有無より、「正解がないことを面白がれるか」「謙虚でいられるか」を見ている、というのは、これからキャリアをつくっていくビジネスパーソンにとっても心強いメッセージですね。

小泉社長

プライドだけが先に立ってしまって、人の話をなかなか聞けない状態だと、どうしても苦労すると思います。逆に言えば、その二つがきちんとあれば、未経験でも一緒に成長していけるんじゃないかなと思います。

編集部

小泉社長とお話ししていて、「大きな正解より、小さく試して直す」「AIと数字を道具にしながら、人としての謙虚さを失わない」という姿勢がとくに心に残りました。私自身も、自分の一日の使い方をデータとして眺めて、どこを少し変えるかを決めるところから始めてみたいと思いました。小泉社長、今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

「ビギナーズリンク」の編集部です。【スキルの余白は、伸びしろだ。】をコンセプトに、キャリアアップやスキルアップを目指す若年層が「未経験」を「武器」に変えていけるよう、転職や就職に関する有益な情報を発信します。

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