会社を、絶対に潰したらあかん。|進和建設工業 西田会長の「人生と仕事一体型」の働き方

「仕事は仕事、人生は人生」「ワークライフバランスは大事」。
そう思っていても、仕事を頑張れば人生がしんどくなり、人生を優先すると仕事が不安になる。その行き来にモヤモヤしている20代は、多いのではないでしょうか。
進和建設工業株式会社の西田会長は、家業の倒産と再起を家族で経験し、 「会社を絶対に潰さない」という覚悟を軸に経営と向き合ってきました。
働くことと生きることを分けず、「人生の中に仕事がある」ととらえるその姿勢には、逆境の乗り越え方から、日々の時間の使い方まで、多くの示唆が込められています。
どう働けば心が軽くなるのか、どこまで頑張ればいいのか。
その答えになるヒントが、西田会長の言葉の中にあります。
進和建設工業株式会社
代表取締役 西田 芳明
父が築いた会社の倒産と再起を経験し、家業に戻って経営を支える中で「会社は人の人生を預かる場所」という信念を形成。土地オーナーの想いに寄り添い、賃貸マンションの建設から経営までを一貫して支援する事業を牽引する。技術的な裏づけを重視し、デザイン性とローコストを両立させた建物づくりにこだわる一方、徹底した市場調査にもとづく事業計画の提案や、完成後の入居サポート・点検・管理アドバイスまでトータルで伴走。
父の会社の倒産で知った「会社は人の人生を預かる場所」

編集部今日はお話できるのを楽しみにしていました。西田会長のお話には、いつもどこか“経験からくる重さ”があって、その背景にある出来事を伺いたいと思っていました。



私は今、二代目なんですけども、正直、若いころは建設業界も、親父もあまり好きではなかったんです。自分がこの業界に入るとは、まったく思っていませんでした。



もともとは継ぐ気持ちはなかったんですね。



そうなんです。でも、子どものころは本当に裕福な暮らしをさせてもらっていました。運転手も家庭教師もいて、私をお世話してくれる人が常にいた。今振り返っても、すごい環境やったなぁと思います。



運転手もいたんですか?それはだいぶ恵まれた環境ですね…。



でもね、会社が急に倒産したんですよ。そこから一気に状況が変わりました。家族はバラバラになり、兄弟もそれぞれ違う家に預けられて。友達も、ぱたっと家に来なくなりました。



一気に、生活も人間関係も変わってしまったと…。



そうですね。ただ、そのとき初めて、親父への感謝を強く感じたんです。「あれだけええ暮らしをさせてもらったのは親父のおかげや」と。そこから「親父に恩返しをしたい」という気持ちが出てきました。



なるほど、建設の仕事をやろうと思った原点が、そこなんですね。



はい。建築そのものより、「親父と一緒に作った会社を、もう一度立て直したい」という気持ちが大きかったです。途中から私も会社に入って、一緒にやるようになりました。



倒産を経験されているからこそ、今の経営のスタンスにもつながっていそうですね。



その通りです。あの経験があるので、私は「会社を絶対に潰したらあかん」と思っています。会社が潰れると、社員の人生まで崩れてしまう可能性があるからです。せっかくうちで頑張ってくれている人の人生を、会社の都合で壊したくない。そこが一番大きな理念になっています。
バーカウンターからサウナまで。社員の「心・頭・体」を豊かにする場づくり



西田会長のnoteも拝見したのですが、「お客様に喜んでいただくには、まず社内の輪が大事」と書かれていて、従業員の方への愛情がすごく伝わってきました。実際、社内ではどんなコミュニケーションの場をつくっているのでしょうか。



うちは、事務所にバーカウンターがあります。ワインセラーもあって、お酒がずらっと並んでいます。地下には広い部屋があって、そこでパーティーもできます。フィットネススペースやシャワー室、仮眠室もありますよ。



す、すごい…!まるで大人の遊び場ですね。



屋上にはサウナもあります。今は少し休憩中ですが。また、トイレでも仕事ができるようなつくりにしています。どこにいても、リラックスしながら仕事ができるようにしたいんです。



福利厚生のレベルを超えていますね。



自分では福利厚生と思っていなくて、「心・頭・体を豊かにする場所」と考えています。社員には、一流の空間やサービスもどんどん見てほしい。私自身、子どものころからそういう場所に連れて行ってもらっていたので、その感覚を共有したいんです。



その“体験ごと育てる”感じ、すごく西田会長らしいですね。社内では、そうした場づくり以外にもイベントが多いと伺いました。具体的にはどんな時間を一緒に過ごされているんでしょうか?



毎月、その月に誕生日の人を集めて、200年〜300年位の歴史の古い場所で一流の世界を感じてもらうために誕生日会をしています。表彰旅行もあって、今度は長崎と熊本に行きます。他にも、飲み歩き会や社会科見学もやっていますよ。



社会科見学…!気になります。



新しい事業や商品を見に行ったり、面白い会社を訪ねたりするんですわ。歴史ある老舗のお店にも行くし、最新スポットにも行きます。とにかく「一流を体験すること」を大事にしています。そうやって感性を豊かにしてほしいんです。



働く場所そのものが、学びの場になっている感じですね。20代のうちにこういう環境に触れると、仕事への向き合い方も大きく変わりそうです。
人生の中に仕事がある。ワークライフバランスを自分で設計せよ





先ほどのお話を聞いていると、「ワークとライフを切り分けない、全部一緒や」という価値観が強く伝わってきました。



私は、人生という大きな枠の中に、仕事や趣味、家族との時間が入っていると考えています。仕事で経験したことは、必ず人生にも影響します。良くも悪くもね。せやから、仕事ですぐ諦める人は、人生でも諦めやすくなると思うんです。



私も同感です。「仕事は仕事」と切り分けすぎると、かえって苦しくなりますよね。



そうなんです。以前、ドイツの人と話したことがあって、その考え方が印象に残っています。向こうの人は、きっちり「休む」と決めたら、とことん休む。そのかわり、働くときもやることを明確にして集中する。



オンとオフを自分で決めているんですね。



金曜日の夜に、「土日に何をするか」をきっちり決めるそうですわ。ひとつは自分の能力や学びのための時間。もうひとつは心と体を整える時間。そのどちらかに時間を使う。何となくダラダラ過ごすのではなく、自分のために休日を設計しているんです。



たしかに、ただ休むだけでは、何も変わらないですもんね。



その通りです。仕事の給料も、やりがいも、自分の時間の使い方で決まってきます。



ワークライフバランスという言葉だけが一人歩きして、「とにかく休みたい」になってしまうのは、私も少し違うと思うんです。
「経営者人材」として育ってほしい。主体性と責任感を磨く



いまの“時間の使い方”のお話、とても印象的でした。そういう価値観を聞いていると、ふと気になるのが「じゃあ西田会長は、どんな人と一緒に働きたいのか」という部分なんです。



社内ではよく「経営者人材」「プロ人材」という言い方をします。自分で主体的に物事を組み立てて、形にできる人ですね。



プロ人材、ですか…?



簡単に言うと、自分から動ける人です。私は人に使われるのがあまり好きではないので、自分も社員にも「主体性」を求めます。失敗しても構いません。失敗は課題になって、自分の成長につながるからです。



失敗を恐れずに動ける人、ですね。



そうです。それと、責任感。自分の役割をちゃんと理解して、「じゃあ自分はどうするか」と考えられる人。今だけを見るのではなく、未来から今をどう見るかという視点も大事です。



未来から今を見る、というのは面白いですね。



今やっていることがしんどくても、「これは未来の自分のためになる」と思えたら、踏ん張れます。逆に、未来が見えていないと、ちょっとしたことで諦めてしまう。だから、未来をつくる意欲のある人と仕事がしたいです。



未来を軸に考える姿勢って、すごく西田会長らしいですね。他に、大事にしているポイントはありますか?



愛とか感謝の気持ちですね。誰かのために頑張れる人は、もう一歩踏み出せます。自分のためだけだと、しんどくなったときに止まってしまう。誰かの顔を思い浮かべて動ける人は、少々の逆境でも乗り越えられると思います。



いまの考え方って、人が動ける“条件”そのものを語っていますよね。



私は、問題が起きたら「課題」に変えて、さらに自分を追い込むこともあります。中途半端で止めると、学びが薄くなるからです。底まで行って跳ね返るイメージですね。そこまで向き合った経験は、将来必ず自分の武器になります。



その言葉、すごく力がわいてきます。20代のうちに「任されたことを最後までやり切る経験」をしておくと、どんな職場でも通用しそうですね…!
逆境を楽しみ、人のために働く。20代へのメッセージ





社長のお話を伺っていると、逆境を前向きに受け止めている印象があります。



私は、問題が起きたとき、「これは自分の成長になるな」と思うようにしています。倒産もそうでしたけど、「こんな経験をさせてもらっている」と考えると、少し楽しくなるんですよ。



その感覚、すごくよくわかります。私自身も、逆境を前向きにとらえてきた経験があり、腑に落ちるところが多いです。



いいことやと思いますよ。ただ、みんなが最初からそう考えられるわけではありません。途中でしんどくなって、心を病んでしまう人もいます。それくらい、現実は簡単ではないです。



だからこそ、誰かの言葉や存在が必要なんですよね。



そうですね。人は、好きになった人の言葉だからこそ、素直に聞けるところがあります。人間関係ができていないうちに、正論だけをぶつけても伝わりません。まずは相手を理解して、信頼をつくることが大事です。



西田会長は、その「関係づくり」がとても得意なんだろうなと感じました。



いろんな失敗もしてきましたけどね。だからこそ、人間性も一緒に鍛えていかなあかんと思っています。技術や知識だけでは続かないですから。



いまのお話、働くうえでの核になる部分だと感じました。そのうえで、これから社会に出る20代の方へ、どんな言葉を届けたいでしょうか?



たった一回の人生ですけど、自分だけのものではありません。家族や仲間、お客様。自分の人生を支えてくれている人がたくさんいます。その人たちのために何ができるかを考えながら、思いきり楽しんでほしい。どんな苦労があっても、「楽しんだもん勝ち」です。仕事も遊びも、人生の一部。どうせやるなら、とことん楽しんでみてください。



ありがとうございます。逆境を成長の前ぶれとして受け止めて、「誰かのために楽しみながら働く」。その姿勢が、これからの時代を生き抜く一番の武器になりそうです。今日は「会社は人の人生を預かる場所」「仕事と人生は分けない」という考え方が特に印象的でした。西田会長、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








