「誰よりも働く」「会社に居続ける」体育会出身・未経験からリサーチ会社の代表へ|SEEDER株式会社・村田社長の【姿勢で道は開ける】仕事論

キャリアは、最初の能力だけで決まるものではありません。
体育会一本で社会に出て、雑務からキャリアをスタートさせたSEEDER株式会社の村田寛治さん。パソコンすらほとんど触ったことのなかった村田社長が、いまや大企業の新商品企画を支えるリサーチ・コンサルティング会社の代表になりました。
特別な才能より、先に磨いたのは“姿勢”。
誰より早く会社に行き、誰より遅くまで目の前の仕事に向き合い続けた1年半。その地道な積み重ねが、仕事を任されるきっかけになり、未来を開く一歩になりました。
「スキルがないから無理なんじゃない。姿勢次第で道は変わる。」
そんなメッセージをくれる取材になりました。
SEEDER株式会社
代表取締役 村田 寛治
大企業の新商品企画・事業企画を支援するリサーチ・コンサルティング会社、SEEDER株式会社を率いる。前職で携わったリサーチ業務を軸に、生活者の行動や価値観を深く読み解く定性調査を行い、企画立案につながる“未来の兆し”を見つけ出すことを得意としている。これまで多様な業界の企業とともに、商品やサービスの企画に取り組み、生活者の声を丁寧に翻訳し、まだない商品・サービスに活かすスタイルが特徴。
パソコンも触れなかった体育会生が「誰よりも働く」と決めた日

編集部村田社長は小学校から大学までずっと野球部で、まさに体育会一本でこられたそうですね。そこから今のSEEDER株式会社を立ち上げるまで、どんな経緯でキャリアを歩んでこられたのか、改めて教えていただけますか?



今はリサーチを軸に大企業の新商品・新規事業の企画をお手伝いする会社を運営していますが、もともとはこういう仕事を狙っていたわけではないんです。大学までは、ほとんど勉強していませんでしたし、仰るように小学校から大学までずっと野球部で、いわゆる体育会の世界で生きてきたタイプです。就職活動もせず、インターンとしてアルバイトをしていた会社にそのまま入社して…。



その会社が、今と似たリサーチ系の会社だったんですよね。



はい。前職で経験した、大企業向けの商品開発・事業開発支援の仕事を、今も中心に置いています。



とはいえ、最初から企画やコンサルができるわけではないですよね。



もちろんできないです。当時はパソコンも、大学時代に数えるほどしか触ったことがなくて。そんな自分が、いきなり企業の支援なんてできません。なので入社して最初は、備品の購入や書類の郵送など、完全にバックオフィス担当でした。



いわゆる「雑務」からのスタートですね。そこで、どんなことを意識されていたんでしょう。



自分が一番何も知らないし、一番スキルがないと思っていたので、「誰よりも時間を使って働くしかない」と決めました。毎朝7時に会社に行って、早くても夜10時。遅いときは深夜2〜3時まで。土日も含めて、1年半くらいそれを続けました。



1年半フルで…想像を絶します。



仕事がない日も普通にありました。でも、帰らない。とりあえず会社にいて、先輩に話しかけて、「何かやることありませんか」と。



おぉ…、完全に“居続ける作戦”ですね。



そうです。最初の数週間は何も起きないんですが、そのうち「なんかいつもいるやつがいるな」となるんです。そうすると、「これ頼んだらすぐ出してくれるし、クオリティは高くなくてもちゃんと出してくれるから、仕事を振ってみるか」と。



そこで少しずつ、仕事の範囲が広がっていったと。



はい。スキルではなく、「ちゃんとやり切る人」という信頼から仕事をもらえるようになりました。
仕事がもらえる人・もらえない人の違いに気づいた



周りには、村田社長よりスキルが高い先輩も多かったと思います。その中で、自分に声がかかる理由はどこにあると感じました?



やっぱり、「この人に頼めばちゃんと返ってくる」という安心感だと思います。スキルがある人でも、期限を守らなかったり、他の仕事やプライベートが忙しくて手が回らなかったりすると、お願いしづらいですよね。



たしかに、仕事を振る側からすると「安心して頼めるか」はかなり大事です。



僕は、とにかく会社にいることで、「頼んだらその日に返ってくる人」になろうとしました。内容はまだまだ拙くても、頼んだことはちゃんとやってくれる。その積み重ねで、少しずつ仕事のレベルも上げていくことができました。



1年、2年と続けるなかで、どんな変化がありましたか?



気づいたら、いろんな役職を任されるようになっていました。もともと社長になろうなんて思っていなかったんですが、目の前のことを一生懸命やっていたら、気づいたら今の立場にいたという感覚です。



いつしか頼られる存在になっていたんですね。



そうですね。個人的には、若いうちは、特に20代は、完璧なキャリア設計をしなくてもいいと思っていて。目の前の仕事をきちんとやり切る人には、必ず次のチャンスが来る。そこでまた全力を出す。その繰り返しでキャリアは積み上がると感じています。



今、不安を抱える若い読者にとっても、かなり心強い言葉だと思います。
未来探索とトライブリサーチで、いわゆる「変な人」から学ぶ



ここからは、今の事業についても教えてください。SEEDERさんの「未来探索」「トライブリサーチ」という言葉が、とても気になっています。



僕らは、新しい商品やサービスの企画をするときに、「未来探索」「トライブリサーチ」という考え方を使っています。簡単に言うと、「ちょっと変わった人」を徹底的に調べるんです。



ちょっと変わった人、ですか。



はい。たとえば「1日3食、昼は12時頃に食べる」というのが、世の中の“常識”になっていますよね。でも、昼ご飯を食べたあとに眠くなって仕事に集中できない、という不満を抱えている人は多い。



たしかに、多くの人が「眠いけど仕方ない」と考えて、思考停止で昼食をとっている気がします。



ええ。でも「そもそも1日3食って誰が決めたんだ」と疑って、1日2食にしてみたり、逆に細かく8回に分けて食事をしてみたり。そうやって、自分の働きやすさを優先して常識を疑う人たちがいるんです。



その、一般的には変な人たちを「未来を先に行く人」と捉えるわけですね。



そうです。僕らはそういう人たちにインタビューして、行動や価値観を細かく聞いていきます。すると、年齢も住んでいる場所も違うのに、似たような行動をしている人が一定数いることがわかるんですよ。



おもしろい…!点で見ると「変な人」だけど、集めると一つの流れに見えてくる。



まさにそうです。その流れをまとめたものが、将来来るかもしれないトレンドになります。そこから、「じゃあ、こういう商品があったら役に立つんじゃないか」と企画を考えていくんです。



具体例でいうと、「多忙族」「義務食と余暇食」のお話が印象的でした。



多忙な人たちの食事の話ですね。インタビューしていくと、「体のために義務的に食べるご飯」と「心を満たすご褒美のご飯」を、きっぱり分けている人がいるとわかりました。



平日は“義務寄りでちょっとだけ楽しめる食事”、休日は“思い切り余暇を楽しむ食事”という感じですよね。



そうです。この考え方がわかると、「義務食寄りだけど、少し気分が上がる商品」や「余暇食だけど、健康へのダメージを抑えた商品」など、いろいろな企画が見えてきます。お客様の“言葉になっていない不満”を想像する…それが大事なんです。



聞けば聞くほど、興味深いお仕事だと感じます。
人の言葉の奥にある“本音”をつかめる人が強くなる





“言葉にならない声”に向き合う姿勢は、働く人にも共通するテーマだと感じます。



つい先日も、大学生の投稿を見たんですよ。 「必死に勉強して大学に入ったのに、自分より勉強していない人のほうが評価されることがある」という内容でした。



うーん。努力してきた人ほど、つらくなる話ですね。



その学生は「自分で頑張ったレポートより、AIで作ったレポートの方が評価が高くて、自分の努力は必要なのか…」と書いていました。そこで、「自分が努力する意味はあるのか」と落ち込んでしまったようです。



評価の基準が見えにくいと、不安になりますよね。



ただ、裏側には「自分の頑張りを正しく見てもらえる仕事がしたい」という気持ちがあるようにも感じました。最近は、机の上だけで完結しない働き方の価値が見直されているとも言われていますしね。



たしかに、現場職に進んで活躍する方も増えています。



頭だけでなく、体や心も使って「自分にしかできない仕事」を探す流れは、今後ますます強くなると思います。どんな時代でも、そこは変わらないはずです。



SEEDERさんのお仕事も、かなり“人”が中心になりますよね。



そうですね。リサーチの一環でインタビューをしていても、相手が自分の感覚をうまく言葉にできない場面は多いんです。そのとき僕らは、「この行動や言葉の裏には、こんな思いがあるのでは」と丁寧に読み取ります。ここが、仕事の核心だと思っています。



社内でも、雑談からアイデアが出ることが多いと伺いました。



はい。僕はタバコを吸わないんですが、喫煙所に行って社員と雑談することもあります。インタビュー内容を共有すると、「それなら、こういう考えもあるのでは?」と別の視点が出てくる。こうしたリアルなやり取りがあることで、企画の質がぐっと上がります。



人と話す中で解像度が上がっていくんですね…!
20代の自分へ。「義務」ではなく、誰かの笑顔のために働こう



これまでのお話を伺っていて、仕事って「相手のことを想像しながら動く力」が最後の決め手になるんだと感じました。村田社長ご自身も、最初はパソコンもほとんど触れなかったところから、その姿勢で道を開いてこられましたよね。そこで、今まさにキャリアに悩んでいる20代の読者に向けて、当時の自分に話しかけるつもりでメッセージをいただけますか?



そうですね…。まず伝えたいのは、時代が変わっても「大事にされる評価軸は大きくは変わらない」と感じていることです。どれだけ環境が変わっても、サービスや商品を選んで価値を感じるのは、今も人だと思っています。



たしかに、最後に「いいな」と感じるのは人の心ですもんね。



だからこそ、目の前の人に「喜ばれるように仕事をする」という姿勢が、一番の武器になると思っています。自分の仕事を「やらされている義務」だけで終わらせず、「この仕事で相手はどう喜んでくれるだろう」と一度考えてみてほしいです。



その一歩目は、どんなところから始められそうでしょう。



例えば、資料を作るとき。「これでいいか」と出すのか、「もう一枚、この図があると相手が理解しやすいかも」と思って足すのか。打ち合わせも、「オンラインで済むけど、直接行ったほうが安心してもらえそうだ」と感じたら、足を運んでみるとか。



ちょっとした“ひと手間”を、自分から足してみるイメージですね。



そうです。その小さな積み重ねで、「この人に任せると安心」「この人と仕事すると気持ちいい」と思ってもらえる。そうなると、仕事が義務ではなく、どんどん楽しくなっていきます。結果として、任される範囲も増えますし、お金もついてきます。



AIと比べて落ち込むより、「目の前の人を喜ばせる」ほうに意識を向けてみる。



そうですね。比べて落ち込むより、自分にしかできない仕事を探していくほうが大事だと思います。相手の笑顔を想像しながら働くことが、結果として自分の強みにつながっていきます。



今日は「スキルがなくても、信頼は時間と姿勢で積み上げられる」「常識を疑って、人の小さな不満に目を向ける」というお話が印象的でした。日々の仕事のどこかに、相手の喜びをそっと増やせる場面がきっとあります。そんな瞬間に気づける人から、働き方は変わっていくのかもしれません。村田社長、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。








