外で働くから、人間らしくなれる。|四季と生きる庭師・株式会社芯光庭苑・伊藤社長の”現場”論

「体を使う仕事」はきつそうだからと、転職の選択肢から外してしまう20代は少なくありません。

けれど、日本には、四季と向き合いながら、人の暮らしを支える現場の仕事がまだまだたくさんあります。

一級造園施工管理技士・一級造園技能士として、「芯光庭苑」を営む伊藤哲也さんも、その一人です。

会社勤めから庭師に転身し、今も現場に立ち続ける伊藤社長に、外で働くリアルと、造園の仕事ならではのやりがいを伺いました。読了後、体を動かす仕事をキャリアの選択肢として見直せるはずです。

お話を伺った人

株式会社芯光庭苑

代表取締役 伊藤 哲也

一級造園施工管理技士・一級造園技能士。20代前半に浜松のホテル勤務を経て、オーストラリア・インド・タイを旅し、多様な感性に触れた経験が庭づくりの原点となっている。都内造園会社で公園管理や造園工事、個人宅の剪定に約7年間携わったのち、30代で「植木屋 芯光庭苑」として独立。11年間の個人事業主期間を経て、平成29年5月に株式会社芯光庭苑を設立。「為せば成る」を座右の銘に、お客様一人ひとりに向き合い、庭を通じて自然を感じる豊かな時間を届けている。

目次

会社勤めから庭師へ。外仕事にのめり込んだきっかけ

編集部

伊藤社長のお仕事って、いわゆる「庭師」と呼ばれるもので合ってますよね…?普段どんなことをされているのかと、今の道に進まれたきっかけについてお伺いしてもいいですか?

伊藤社長

そうですね、その解釈で合っていますよ。きっかけについてですが、僕の親が現場系の自営業で、子どものころから現場の仕事を手伝うことが多かったんです。それもあって外で働くことは、自分にはマッチしていると感じていました。ただ、最初に入った会社は、ホテルで働く仕事でした。外の現場ではなく、室内での仕事ですね。それを一度辞めて、海外をあちこち回ったんです。

編集部

かなりアクティブですが、一度リセットされたんですね。日本に戻ってからは、すぐにお庭関連のお仕事に?

伊藤社長

いえ、「何をしようかな」としばらく迷っていました。そんなとき、たまたま求人で見かけたのが造園の仕事で、まずはアルバイトとして始めたんです。そこで外で働く魅力を強く感じて、のめり込んでいきましたね。

編集部

外で働く魅力というと、具体的には…?

伊藤社長

外の空気に触れて、四季を体で感じながら仕事ができるのが大きかったです。

編集部

夏は暑く、冬は寒く…。正直、過酷なイメージもありますが…。

伊藤社長

そうですね。暑い夏も寒い冬もありますが、「人間らしいな」と思えるんですよ。汗をかいて働いて、終わったらちゃんと疲れて眠れる。仕事の悩みやストレスも、外で体を動かしているうちに抜けていく感じがありました。

編集部

デスクワークか現場かで迷うビジネスパーソンは多いですが、「体を動かして働くことも、メンタル面でプラスになる」という視点は大事ですね。

伊藤社長

そう思います。あと、単純なことなんですが、外で食べるお昼ご飯がおいしいんですよ。朝に現場へ行って、作業して、シートを敷いてお弁当を食べる。すごく気持ちがよくて、「ああ、こういう働き方は合っているな」と感じるんです。

編集部

なんか、今のお話だけでも、外で働く気持ちよさが伝わってきますね。そんな伊藤社長の1日の流れも教えてもらえますか?もっと造園のお仕事がどんな感じなのかをイメージしたくて。

伊藤社長

うちは個人のお客様が多いので、現場のお宅に朝8時とか8時半に着くように動きます。会社に一度集合して、道具や材料を積んで、車で向かう感じですね。現場に着いたら作業を始めて、季節にもよりますが、だいたい夕方4時から5時くらいまでです。冬は日が短いので少し早めに切り上げます。会社に戻って道具を片づけて、その日の仕事が終わる…といった流れですね。

編集部

朝は早いけれど、その分、夜はだらだら残業せずに休める働き方ですよね。生活リズムを整えたい若い人なんかには、実は向いている働き方かもしれません。

庭が減る時代に感じた危機感と、四季を守るという視点

編集部

先ほど、外で働くと四季を感じられるのがいい、とお話しされていましたよね。実際の現場にいる立場から見ると、日本の庭や暮らしの変化は、どんなふうに感じていますか?

伊藤社長

そうですね。世代交代や相続のタイミングで、広い庭を削って駐車場にするケースが増えています。庭がどんどん狭くなったり、なくなったりしているのは、現場にいても実感します。庭が少なくなると、家のすぐそばで四季を感じられる場所も減ってしまいます。それがもったいないなと、いつも思うんです。

編集部

四季の変化を、画面ではなく自分の五感で受け取れる場所が減っている、ということですね。

伊藤社長

そうですね。そこに危機感があって、「今の暮らしに合う、新しい庭の形はないかな」と考えるようになりました。広い和風の庭だけが庭ではなくて、今の家や街並みに合うサイズと雰囲気で、四季を感じられる庭を作れないかと。

編集部

たしかに、若い世代の家づくりでは「手入れが大変だから庭はいらない」と考える人も多そうです。でも、「手入れしやすく、今の生活に合う庭」なら、欲しくなる人は多そうですね。

伊藤社長

材料も、自然なものにこだわりながら、耐久性があるものを選ぶようにしています。自然石や木でも、しっかり加工すれば長く使えますから。あとは、庭の仕事だけではなくて、苔玉や小さな盆栽を作ってイベントで販売したりもしています。イベント会場に小さな庭を作って、多くの人に「こんな庭もいいな」と感じてもらえるような発信も続けています。

編集部

日々の施工だけでなく、イベントでの発信もされているんですね。現場とはまた違う形で、お客様と庭の魅力を分かち合える時間になっていそうです。

お客様の期待を超える庭づくり。提案と失敗から学んだこと

編集部

実際に庭を作るときは、お客様からどんなふうに要望を聞いていくのでしょうか?

伊藤社長

うちは、こちらからの提案が多いほうだと思います。お客様のほうも、「庭を作りたいけど、具体的にどうしたらいいかわからない」という方が多いですから。

編集部

なるほど…。たしかに、お客様は庭のプロというわけではないですもんね。

伊藤社長

まずは、「駐車スペースが欲しい」「シンボルになる木を一本植えたい」など、ざっくりした希望を聞きます。そこから、家の雰囲気や暮らし方を見ながら、こちらでデザインしてご提案します。

編集部

プロの目線で言語化してもらえると、素人でもイメージが膨らみますよね。

伊藤社長

そうですね。もちろん、お客様の希望は大事です。でも、明らかにそのままではうまくいかない場合もあります。そういうときは、ちゃんと理由をお伝えして、「こちらの方がいいですよ」と別の案を出します。

編集部

造園のプロから代替案を出してもらえるのは、ありがたいです。

伊藤社長

いつも意識しているのは、「お客様の思いを、いい意味で上回りたい」ということです。言われたことをそのままやるだけではなくて、「こんなに良くなるんだ」と感じてもらえる庭を目指しています。

編集部

期待を少し超える提案ができる人は、どんな仕事でも重宝されますよね。一方で、提案がうまく伝わらなかったり、うまくいかなかった経験もありますか?

伊藤社長

もちろんあります。「こうした方が絶対いい」と思って提案しても、「あれ、思っていたのと違う」と受け取られてしまうこともあります。なので、なるべく事前の話し合いを丁寧にしています。この人なら、こういう雰囲気が好きそうだなとか、暮らし方はこうかなとか、会話の中から感じ取るようにしています。そこは経験もありますね。

編集部

庭は、一度作ったら長く残りますよね。短期の成果ではなく、時間をかけて価値が出る仕事だからこそ、ヒアリングや信頼関係づくりが大事だと感じます。

伊藤社長

そうですね。あと、この仕事は「技術」だけではなく、「人としてどう振る舞うか」も大事です。お客様の家に伺うので、身だしなみや挨拶の仕方も見られます。

編集部

たしかに、おっしゃっていることはすごく腑に落ちます。

伊藤社長

職人として一人前になる前に、人として一人前になることが重要だと思っています。

五感で学ぶ現場仕事と、ネット発信との付き合い方

編集部

最近はSNSや動画で、自社の仕事ぶりを発信する機会も増えていますよね。造園の世界では、そのあたりはどうなんでしょう?

伊藤社長

道具を握るのは得意なんですけど、ネット上の発信となると、うちの業界は正直あまり得意じゃない人が多いですね。インスタをやっている会社もありますが、全体としては発信ベタかなと思います。

編集部

特に若い人は、まずネットで仕事の情報をチェックしてから動くことが多そうですよね。

伊藤社長

そうですね。だからこそ、自分たちの仕事も、もう少し若い人の目につく場所に出していきたいと思っています。最近だと、庭師の団体「庭連(にわれん)」のメンバーとして、東村山でのイベントのリーダーをやりまして、2時間でイベント会場の休憩所を作る企画だったのですが、その様子が庭連のYouTubeに上がっています。

編集部

おぉ…、すごい…!あっという間に、街にお庭のような休憩所が作られましたね!

伊藤社長

あと、NHKの「趣味の園芸」という番組で、僕が作った庭が紹介されて、自分も出演しました。会社名は出ていませんが、作品として見てもらえたのは大きな経験でしたね。再放送もあるようです。

編集部

テレビやYouTubeで仕事ぶりが伝わると、「ちゃんとした職人さんが作っているんだ」と感じてもらいやすくなりますね。

伊藤社長

そうですね。ただ、ネットや動画で、キラキラした部分だけを見るのではなく、その裏にある地道な作業も感じてもらえたらうれしいです。庭づくりは、画面の中だけでは完結しません。土に触れて、木の匂いを感じて、初めてわかることがたくさんあります。

編集部

AIやSNSで情報があふれる時代だからこそ、「自分の体で感じたこと」を持っている人の言葉には、重みが出ます…。

まずは気軽に造園に飛び込んでみてほしい。若い世代へのメッセージ

編集部

伊藤社長は、これまでに若い方も雇ってこられたと思うのですが、今の若い世代と一緒に働いてみて、率直にどんな印象を持たれていますか?

伊藤社長

意外かもしれませんが、今の若い子はすごく真面目だと思います。言われたことはきっちりやります。ただ、「もっとこうしてみたい」と、自分からぐっと踏み込む子は、少し減っている印象もあります。

編集部

そうなのですね…。

伊藤社長

情報が多い時代なので、失敗したくない気持ちもわかります。でも、現場の仕事は、やってみないとわからないことが多いんですよね。

編集部

たしかに、「ちゃんとしなきゃ」とプレッシャーを抱えやすい世代でもあるんですかね。失敗を恐れすぎると、チャレンジの機会を逃してしまいますよね。

伊藤社長

昔は職人の世界って、「見て覚えろ」が当たり前でした。でも今は、それでは通用しません。危ない道具も多いので、ちゃんと言葉で説明して、動作を見せながら伝えるようにしています。ただ、最後の仕上がりの部分は、どうしても感覚も必要です。そこは一緒にやりながら、「こういうバランスがきれいだよね」とか、「この枝は残した方が落ち着くよね」といった形で、少しずつ共有していきます。

編集部

安全なやり方を丁寧に教えてもらえる環境なら、仮に未経験でも安心してスタートできますね。「職人=怖い」というイメージを持っている人の背中を押してくれる考え方です。

伊藤社長

求人でも、「仕事の修行と、人としての修行が両方できますよ」と伝えるようにしています。挨拶や言葉遣い、身だしなみも大事な仕事なので、人として成長したい人には向いていると思います。部活で上下関係を経験している人なんかは、特に馴染みやすいですね。野球部やサッカー部出身の子は、挨拶も自然にできて、現場でも頼もしいです。

編集部

仕事を通じて、人としても成長できる環境なんですね。では、5年後、10年後を見据えて、どんな未来をつくっていきたいと考えていますか?

伊藤社長

業界全体の底上げをしたいです。庭の魅力をもっと広く知ってもらって、若い人にもどんどん入ってきてもらえる業界にしたいですね。日本の庭や職人の技は、世界から見ても胸を張れるものだと思うんです。今は日本の中での活動が中心ですが、いつかご縁があれば、海外にも挑戦してみたい気持ちもあります。

編集部

職人の世界に興味はあるけれど、一歩が踏み出せない若いビジネスパーソンも多いと思います。最後に、そんな方へメッセージをお願いします。

伊藤社長

昔の職人のイメージは、たしかにハードルが高かったかもしれません。でも本当は、もっと気軽に入ってきていい世界だと思います。「やってみなきゃわからないから、とりあえずやってみなよ」くらいの感覚で大丈夫です。外で体を動かして働きたい人、クリエイティブなことが好きな人、人前に出てイベントなどもやってみたい人。そういう人には、庭の仕事はきっと合うと思いますよ。

編集部

一歩踏み出せば、体も心も鍛えられて、四季と一緒に成長していける仕事ですよね。今日は特に、「外で働くことは、人間らしさを取り戻すことにつながる」「職人の仕事は、人としての修行にもなる」というお話が印象的でした。伊藤社長、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。伊藤社長が日本の四季を庭で表現してきたお仕事が、いつか世界の舞台でも生かされて、ご活躍の場が広がることを心から願っています。

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この記事を書いた人

「ビギナーズリンク」の編集部です。【スキルの余白は、伸びしろだ。】をコンセプトに、キャリアアップやスキルアップを目指す若年層が「未経験」を「武器」に変えていけるよう、転職や就職に関する有益な情報を発信します。

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