海外でのたこ焼き屋からAI(人工知能)の世界へ|株式会社アノテテ 岸本社長のキャリア転換術

今の仕事をこのまま続けていいのか、ITやAIの仕事に興味はあるけれど、未経験で踏み出せない。

そんな悩みを抱える20代にとって、新卒内定を捨てて海外でたこ焼き屋を開業し、今は業務特化AIエージェント開発やAIチャットボットを手がける株式会社アノテテの代表を務める岸本渉さんの道のりには、キャリアの選び方を考えるうえで参考になるヒントがいくつもあります。

一見バラバラに見える選択の裏側には、「頼まれたらまずやってみる」「経験から得たものは次の経験の材料にする」という共通したスタンスがありました。

AIを「人の能力を拡張する道具」と捉える考え方や、未経験から別のフィールドに移るときの一歩の踏み出し方など、岸本社長の話は、迷いながら働く20代が自分のキャリアを組み立てるための具体的な材料になってくれます。

お話を伺った人

株式会社アノテテ

代表取締役 岸本 渉

大学卒業時は人材会社への入社が決まっていたものの、あえて進路を転換し、海外でたこ焼き屋を立ち上げた異色のキャリアの持ち主。帰国後にデジタルハリウッドでWeb制作を学び、株式会社ジーピーオンラインでディレクター兼営業として経験を積む。2022年にAI事業を分社化し、AI事業会社として株式会社アノテテを設立。業務特化AIエージェントの開発やAIチャットボット「Tebot」の提供を通じて、企業のAI実装をプロダクトと伴走支援の両面から支えている。

目次

新卒内定を捨てて海外たこ焼き屋へ飛び込んだ理由

編集部

岸本社長は今、話題のAI(人工知能)のど真ん中でお仕事をされていますけど、もともとAIやITの世界に興味があったのでしょうか?

岸本社長

いや、全然そんなことなくて。むしろ最初は海外でたこ焼き屋をやっていて…。

編集部

えっ、海外でたこ焼き屋ですか?

岸本社長

そうなんです。大学を卒業して、人材系の会社から内定をいただいて、内定者研修も楽しくて、「ここで頑張ろう」と思っていたんですが…。

編集部

その会社には入社せずに、たこ焼き屋で、しかも海外…。一体、何が…?

岸本社長

まず海外に興味を持ったきっかけは、大学でゼミ幹事をしていて距離の近かった教授が、スタンフォード大学に客員教授として渡米されていて、「時間あるなら一度おいで」と誘ってくださったことです。初めての一人海外で、1週間ほど色んな国の人たちとドミトリーで一緒に過ごしました。英語は拙かったんですが、それでも受け入れてもらえる経験を通じて、「自分が当たり前だと思っていた世界はすごく狭かったんだ」と気づかされました。 

編集部

世界の広さと、自分の可能性を感じた瞬間ですね。

岸本社長

そうなんです。そこから「英語をちゃんと学びたい」と思って、今度はセブ島に短期留学に行きました。そこで出会った日本人の方が「ここで事業を始めるんだ」と話されていて、「じゃあ僕も何かやりますわ」と勢いで乗ったのが始まりです。

編集部

その「何か」が、たこ焼き屋だったと。

岸本社長

そうなんです。経営の知識もほぼなくて、屋台からスタートして、のちにテナントも借りて、たこ焼きやラーメン、丼ものなど、いわゆる日本のB級グルメを出していました。

編集部

かなりハードそうですが、結果としてはどうだったんでしょう?

岸本社長

その日食べていけるかどうか、くらいですね。大成功とは言えないですけれど、1〜2年弱、自分で全部回してみたのは本当にいい経験でした。20代のうちに、失敗してもまだ取り返せるタイミングで大きく飛び込んだことは、本当に良かったなと思います。

編集部

まさに「新卒カード」を手放してでもやってみた大きなチャレンジですよね。

岸本社長

そうですね。当時はそこまで深く考えていなかったんですが、「30歳になったらやらないだろうな」とは思っていました。頼られたことに応えたい気持ちも強くて、「頼まれ事は試され事だ」と自分に言い聞かせていましたね。あとは、「どうせ出来ないだろう」といったようなことを言われることもあったのですが、それに対する反骨精神みたいなものもありましたね。

編集部

仕事でも、若いうちにこうした挑戦をしておくと、後から来るプレッシャーへの耐久性が強くなりそうですね…!

屋台経営で見えた「クリエイティブ」と仕事の軸

編集部

たこ焼き屋の経営はトントンだったとのことですが、そんな中でどんな学びがありましたか?

岸本社長

全部自分でやるしかなかったので、自然といろいろ身に付きましたね。出店場所の交渉から、仕入れ先の開拓、採用や従業員管理、看板づくり、メニュー表、SNS発信まで、全部です。フェイスブックページを自分で作ったり、リアルのポップを描いたりしているうちに、「デザインって面白いな」と思うようになりました。

編集部

「こういう仕事もありだな」と感じたわけですね。

岸本社長

そうですね。帰国するタイミングで、屋台経営を通じてデザインや発信に面白さを感じていたこともあり、「この方向で専門性を身につけたい」と考えるようになりました。それでデジタルハリウッドに半年通って、Web制作を体系的に学びました。

編集部

おぉ…。先ほどの短期留学の話もそうですけど、岸本社長って、思い立ったら行動っていう決断力がすごいです。そこで、Web制作やプログラミングを一通り学ばれたんですね。

岸本社長

はい。Webサイトの作り方や簡単なプログラムなどを学んだのですが、なぜか先生から「あなたはしゃべりなさい」と言われたんですよね。デザイナーやエンジニアよりも、クライアントと話しながら方向性を決めていくディレクタータイプだと。そんな流れで、卒業制作の作品を企業さんに見ていただける「クリエイターズオーディション」という場に出させてもらって、そこで今の親会社であるジーピーオンラインと出会いました。 ホームページ制作の会社で、最初はディレクターと営業を半々で、その後は営業をメインに7年ほど続けましたね。

編集部

なるほど。そこから今の親会社さんに入社されたわけですね。海外での屋台経営と、制作会社でのディレクション・営業。一見バラバラですが、根っこの部分はつながっているように感じます。

岸本社長

たこ焼き屋では、お客さんの反応を見ながらメニューや売り方を変えていましたし、制作会社ではお客様の課題を聞いてサイトの形に落とし込んでいく。職種は全然違いますけど、「相手が困っていることに対して、自分なりに手を動かして応える」というやり方はずっと変わっていないですね。 

編集部

確かに、職種は変わっても「頼られるのがうれしいタイプ」という軸はずっと変わっていないのかなと感じました。

岸本社長

そうかもしれないです。結局、何をやるかより、誰かに「助かりました」と言ってもらえるかどうかが、自分にとっては一番大事なんだなと思いますね。

自社AIモデルから方針転換。Tebot誕生までの試行錯誤

編集部

制作会社で経験を積まれて、そこからAI事業に入っていく流れについてはいかがですか?

岸本社長

親会社で新規事業をつくろうという話になり、その責任者に指名してもらいました。ただ、最初は本当に「何をやるか」すら決まっていなくて、カオスな状態からのスタートでしたね。

編集部

ゼロからの事業づくりですね。

岸本社長

たまたまグループ会社のつながりでAI企業さんと出会い、資本提携をしてAI事業を始める方針になったんです。それが2021年頃で、当時は自社で日本語向けのAIモデルをつくることにもチャレンジしていました。ただ、「よし、できたぞ」と思ったタイミングで、2022年の終わりにChatGPTが出てきたこともあって、急激に市場環境が変わりました。

編集部

当時はかなりの衝撃だったのを、私も覚えています…。

岸本社長

「自分たちでモデル開発を続けるか」「ビッグテックが提供するモデルを前提に、別の価値を出すか」という判断が必要になりました。そこで僕たちは後者を選び、モデルをつくる側ではなく、それを活用して企業の現場に届ける側に振り切ったんです。

編集部

その中で生まれたのが、自社のAIチャットボットサービス「Tebot」なんですね。

岸本社長

はい。SaaS型のチャットボットとして、BtoBのお客様向けに提供しています。Tebotの強みは大きく三つあって、まずは「画面がシンプルで使いやすいこと」。次に「初期設定や運用を、営業・サポートがかなり手厚く支援すること」。最後に「価格を抑えて導入ハードルを低くしていること」です。

編集部

まさに「痒いところに手が届く」設計ですね。チャットボットを入れたものの、設定が難しくて止まってしまう会社さんも多いと聞きます。

岸本社長

そこは意識しています。安価なツールを買ったのに、自社で全部やらないといけなくて挫折するケースは本当に多いです。Tebotでは、営業担当やサポートが「どの質問にどう答えるか」「どの情報を読み込ませるか」まで一緒に考えて、なるべくお客様の工数を減らすようにしています。

編集部

それだけ手厚くやると、社内のリソース的には大変ではないですか?

岸本社長

無理はずっとしています(笑)。ただ、自己資金でやっている分、外部から過度なプレッシャーがかからないようにしていたり、広告費をあまりかけずにSEOやコンテンツで集客したりと、構造的に負担を抑える工夫はしています。

編集部

なるほど…。新しい技術を追いながら、事業として回る仕組みをつくるのは大変ですよね。

岸本社長

モデルのアップデートも、だいたい2週間に1回くらいのペースで対応しています。AIの世界は変化が速いですが、そこでアップデートを止めてしまうと、一気に価値が下がってしまいますから。

編集部

そうした「試しながら直す」サイクルを回す力は、どんな職種でも必要になっていくと思います。小さく失敗しては修正する経験を重ねておくと、AI時代の仕事でも活きてきそうですね。

「AIは能力を広げる道具」未知への不安に寄り添う働き方

編集部

AIの技術がどんどん出てくる一方で、「なんだか怖い」「よくわからないから触りたくない」という声もよく聞きます。岸本社長は、その不安をどう見ていますか?

岸本社長

わからないものが怖いという感覚は、すごく自然だと思います。でも、触ってみると便利さがわかって、今ではほとんどの人が当たり前に使っていますよね。

編集部

やっぱり「まず触ってみる」が一歩目なんですね。スマートフォンもそうでしたけど、一度触ってみると便利さがわかって、気づいたらほとんどの人が当たり前に使っていますよね。出始めたころはみんなガラケー派で、「そんなの絶対使わない」「そんなの流行らない」と言っていた人が多かったのに。そういえば最近だと、ChatGPTのアプリで悩み相談をする人も増えていますよね。

岸本社長

悩み相談は入り口としてすごくいいと思います。僕自身もそうでしたけど、一度仕事で使ってみると、もう手放せなくなるんですよ。自分だけでは思いつかなかった発想が出てきたり、今まで半日かかっていた作業が数分で終わったり。そこまで来ると、AIへの見方が完全に変わると思います。 

編集部

その「仕事に生かす部分」で、多くの人がつまずいている印象があります。

岸本社長

だからこそ、僕たちはBtoBの現場で「AIって大丈夫なの?」という不安を一つずつ解いていく役割を担いたいと思っています。セキュリティの話も含めて丁寧に説明したり、「まずはこういう使い方をしましょう」と動くものを見せたり。うちの受託開発では「完成品を見てから発注できるBoost Dev」というAI・システム開発サービスも提供していて、実際に触ってから判断してもらうようにしています。

編集部

それなら、心理的なハードルも下がりそうです。

岸本社長

AIは、ただの便利ツールというより「人の能力を拡張する道具」だと思っています。日本はこれから人材が減っていきますし、一人あたりの生産性を上げていかないと社会が回りません。20代の方がAIを味方につけられたら、同じ時間でもっと価値を出せる人材になれるはずです。

編集部

たしかに、そのとおりですね…!

岸本社長

実際に、前職ではITとは関係のない営業をしていたメンバーが、うちに来てからITサービスの営業をしつつ、AIを使って自分で簡単なシステムを作るようになりました。業務効率化のツールを作ったり、新しいサービスの企画まで出してくれたりしています。これも、AIがあったからこそ短期間で実現できたことです。

編集部

それはすごいですね…!未経験からITに挑戦したいと思っている20代にとっても、大きな希望になると思います。AIを怖がって遠ざけるか、うまく肩を組むかで、キャリアの選択肢は大きく変わりそうですね。

「地獄を乗り越える力」とAI活用で、未経験からキャリアを変える

編集部

ここまでお話を伺ってきて、岸本社長が「どんな人と一緒に働きたいか」も気になりました。ちなみに、岸本社長ご自身が採用面接に参加されることもあるんですか?

岸本社長

そうですね、毎回出ていますよ。面接のときは、経歴だけでなく「この人は地獄を見たことがあるか」「そのときどう乗り越えたか」をよく聞きます。あまりストレートには言えないですけれど(笑)。

編集部

かなり核心に迫る質問ですね。

岸本社長

自分が「これは地獄だった」と感じた出来事と、そこからどう行動したかは、その人の素の部分が出ると思うんです。全部を人のせいにしたのか、自分で考えて動いたのか。その違いは、仕事でもはっきり現れます。

編集部

最終的には、「自責で考えられるかどうか」を見ているということですか?

岸本社長

そうですね。たとえば、やったことのない仕事を任されたときに、「どうやったらできるか」を自分なりに考えて動けるかどうか。全部を人に聞くだけだと、なかなか血肉になりません。たこ焼き屋のときもそうでしたが、わからないなりにやってみて、失敗して直していく姿勢がある人は、伸びやすいと感じます。

編集部

まさに、今の職場や仕事にモヤモヤしている20代に、そのまま届けたいメッセージです。「まったく経験がないから自信が持てない」という声をよく聞くので…。

岸本社長

経験がないのは当たり前なので、そこは気にしなくていいと思います。大事なのは、「今までどこに時間を使ってきたか」と「これからどこに時間を使うか」です。

編集部

そうですよね。もし本気で変えたいなら、まずは今の環境でAIを使ってみるとか、仕事以外の時間で小さなプロジェクトをやってみるとか、できることから始めてみたら全然変わってきそうですよね。あとは、今日のお話を聞いて、「自分の地獄エピソード」と「そこからどう動いたか」を言語化しておくことも、転職や面接で役に立ちそうだと感じました。

岸本社長

それはおすすめです。過去のしんどかった経験を、ただの嫌な思い出で終わらせるのか、「ここで自分はこう変わった」と説明できる材料にするのかで、印象は大きく変わりますから。そこにAIの活用も加われば、「自分で考えて動ける人」だと伝わりやすくなると思いますよ。

編集部

ありがとうございます。AIを味方にしながら、自分の地獄=失敗談や辛かったこと、そしてそこからどう脱却したのかもちゃんと自分の言葉で語れる人でありたいと、強く感じました。今日は岸本社長のユニークな経歴をお伺いして、経験の深さと、それを淡々と仕事に落とし込んでいる姿勢が印象に残りました。AIが当たり前になっていく中でも、こうした視点があれば、働き方の選び方はまだまだ広げられると感じます。岸本社長、本日はどうもありがとうございました。

[ 会社紹介 ]  

株式会社アノテテは、「AIを事業に実装する」ことを支援するテクノロジーカンパニーです。

AIチャットボット「Tebot」やRAGシステム「ShareMind」などのSaaS提供に加え、完成品を見てから発注できるAI・システム開発サービス「Boots Dev」で、失敗しないAI導入を支援することを得意としています。

スピード感と柔軟性を強みに、企業のアイデアを迅速に形にし、実装まで伴走することが私たちの役割です。

目次