「魚が好きというより、人間が好きなんです。」株式会社アクア総合企画MUKASA・向佐社長が、トラックの運転手からレンタル水槽の会社をつくるまで

「好きなことを仕事にしよう」とは、よく言われます。でも、その好きなことが見つからずに立ち止まっている方もいるのではないでしょうか。

株式会社アクア総合企画MUKASAの向佐順社長は「僕、人間が好きなんですよ」と話します。もとはトラックの運転手で、20年前にまだ誰もやっていなかったレンタル水槽の仕事に飛び込み、いまは病院やオフィスなどに美しい水槽を届けています。

トラックの運転手だった向佐社長が、なぜ誰もやっていない仕事を選んだのか。そして、人間が好き、という言葉はどこから来ているのか。詳しくお話を伺いました。読み終わる頃には、例え好きなことが見つかっていなくても、始められる。そう思えているはずです。

お話を伺った人

株式会社アクア総合企画MUKASA

代表取締役 向佐 順

トラックの運転手として働き、29歳の頃に「ありがとう」と言ってもらえる仕事を探し始める。犬を貸し出す商売を断念したのち、レンタルアクアリウムに出会う。2005年にフランチャイズ第1号として開業し、2007年に法人化。2011年に独立。「日本でいちばん親切なレンタル水槽会社を目指して」を理念に、病院やオフィス、撮影の現場まで水槽を届けている。

目次

犬をレンタルする商売を、考えていたんです

編集部

水槽をレンタルする、というお仕事は初めて伺いました…。向佐社長は、もともと魚がお好きだったんですか?

向佐社長

魚が好きで、というストーリーのほうがいいのでしょうけど、実は全然違うんですよ(笑)。もともとは犬を飼っていましてね。その可愛い犬を公園で散歩させるのをレンタルでやったらどうかな、と思ったんです。

編集部

魚ではなくワンちゃんのほうから始まっているんですね…!

向佐社長

それで「犬 レンタル」「レンタルペット」で検索したら、色々と情報が出てきまして。調べていくうちに、怪我の問題もあるし、どう揃えるか、どう教育するか大変そうで、これは犬が好きなだけの素人が手を出せる分野じゃないな、とわかったんです。そんな時に、たまたま熱帯魚が出てきたんですよ。

編集部

検索の途中で、たまたま。

向佐社長

僕、昔は熱帯魚を飼っていたこともあって、嫌いじゃないし、これが仕事になるのかな?と思って。興味を持って色々調べていったら、東京の会社がレンタル熱帯魚をフランチャイズ展開しますよ、やりたい方いませんか、と募集を募っていたのを見つけて。手を挙げて行ったら、1番目だったんですよ

編集部

その募集を見て、最初に応募された方だったんですね。

向佐社長

そうなんです。本部からすると、フランチャイズ展開するために第1号を成功させないと、次が続かないわけです。そういう観点で、随分と色々なことを教えていただきました。そこから始まったというのが、実はスタートですね。元々僕、トラックの運転手なんです。

編集部

トラックの運転手から水槽へ。周りの反応はいかがでしたか?

向佐社長

反対されました(笑)。ただ、いま考えると、反対される頃に始めるビジネスがうまくいくんですよ。みんなが「それいいじゃん」と言っている時はダメです。当時は競合もいませんでしたし、誰よりも先にやってみたというのは、良かったところだとは思いますね。

綺麗な水槽を見て、嫌な顔をする人はいない

編集部

犬は難しくて、魚ならできそうだと判断されたのは、具体的にどこを見てだったんですか?

向佐社長

これは途中からわかったことなんですけど、犬猫って苦手な人がいるじゃないですか。でも、綺麗な水槽を見て「うわっ」となる人は、基本いないんですよね。目の前に綺麗な水槽があったら、女性でも男性でも、ご年配でも子どもでも、頬が緩むと思うんですよ。人を幸せにする力があるな、と。

編集部

たしかに、水槽が苦手という方は思い浮かびません。でも実際には、レンタルしてるのって水槽だけじゃないですよね?

向佐社長

水槽も、中の魚も、ディスプレイも全部レンタルです。2週間に1回お伺いして、水を替えて、掃除をして。60cmの水槽で30分から40分ぐらいですね。会社に来て車に乗って、病院に行って、会社に行って、個人のお宅に行って帰ってくる。そんな感じで1日ぐるぐる回っています。

編集部

そうですよね、魚のお世話もセットとなると。置いて終わりではなく、通い続けるお仕事なんですね。

向佐社長

そうです。水槽って、綺麗だと価値があるんですけど、汚いと急に不潔になっちゃうんですよ。特に人が見て過ごす場所に汚い水槽があると、もうマイナスのイメージしかない。だから常に綺麗に保っておかないといけません。世の中で綺麗だなと思う水槽は、おそらくほとんどプロが管理していると思います。

編集部

置きたくても管理まではできないからそれもお願い、というニーズが多そうです。

向佐社長

水槽って、以前は「魚を飼うために買う」ものだったんですよ。でもいまは鑑賞するもの、見るものになっています。知識がある方は、YouTubeで調べて自分でやっちゃうんですが、不安な方こそ、弊社に任せてくださいますね。

クラゲが、泳いでくれなかったんです

編集部

病院やオフィスに置かれる水槽のほかに、変わったご依頼もあるんですか?

向佐社長

CMや撮影の依頼を結構受けますね。とある依頼で、演者さんのバックで金魚を泳がせないといけなかったんですが、ちょうどこのタイミングで泳がせるっていうのが、なかなかうまくいかなくてですね。

編集部

泳いでください、とお願いするわけにもいかないですもんね…。

向佐社長

金魚なんかは少し、お腹を空かせておいて、ちょうど撮る時に上に浮かんでほしいので餌を入れるとか、餌の匂いの液体を入れるとか。そういうテクニックは色々あるんですけどね。

編集部

断食に、餌の匂い…!

向佐社長

ご機嫌を取っています(笑)。そんな感じで現場ではやっていますね。ただ、1回、クラゲがまったく泳いでくれないということがありました。高感度カメラが備え付けてあって、スタジオの時間も決まっている中で。

編集部

時間が決まっている現場で、それは…。

向佐社長

もう泣きそうになりましたね、あの時は。現場でヒーヒー言ってましたよ。

編集部

でも、そうやって大きな水槽ごと運ばれるとなると、運搬の知識も必要になりますね。

向佐社長

大きな水槽を運ぶ時の荷締めの仕方なんかは、やっぱり前職のトラック運転手の仕事が活きているかもしれませんね。大きいもので2mぐらい、水が2トン入るので、設置してから満水にするのに2、3時間待たないといけない水槽もあります。

魚が好きすぎると、この仕事は難しい

編集部

そこまで扱われるとなると、魚がお好きなだけでは務まらないお仕事なんでしょうね。

向佐社長

僕、人間が好きなんですよね。人間にニコニコしてもらうためには、魚が調子良くて、水槽が綺麗じゃないといけない、という考えで。で、めちゃめちゃ魚が好きな方がこの仕事をやると、失敗しちゃうかもしれないですよね。

編集部

好きなほうが向いていそうですが、逆なんですか?

向佐社長

こだわりが出てしまって、あれもできない、これもできない、となるんですよ。たとえば水槽の中に、本物ではない草を入れるじゃないですか。魚が好きで本当に詳しい方だと、プラスチック製だから水質に影響が出るんじゃないか、と考えてしまったり。ビー玉を入れたりして綺麗な水槽を作れば、お客さんは喜んでくれるんですけど、それは魚に良くないんじゃないか、と考えてしまう。

編集部

どうしても、人間以上に魚ファーストという発想になってしまうんですね。

向佐社長

そうなんです。そういうのもあって、弊社は魚を飼ったことがない方のほうが、教えやすいですね。自宅で水槽を飼う技術と、僕らが2週間に1回、30分40分だけしか見られない中で維持する技術は、全く違うものですし。独特の管理方法を持っていないとできないので。

編集部

人間が好き、という話に戻るのですが、この仕事で一番喜びを感じられたのは、どんな時ですか?

向佐社長

県立がんセンターに、緩和ケア病棟というところがあるんです。治療をするのではなく、痛みを取りながらご家族と時間を過ごしていただくスペースで、そこにもう10数年、置いていただいていましてね。僕らは患者さんと接することはあまりないんですけど、ロビーの水槽について、ご家族の方からすごく感謝されるんですよ。

編集部

どうしても、暗い話になりがちな場所ですもんね。

向佐社長

そうなんです。入院患者さんとご家族が話す時に、他愛もない話ができると。看護師さんからも、ご家族が「ここにずっと水槽を置いておいてほしい」とおっしゃっていた、という話を聞くことがありますね。

編集部

水槽の前でだけ、別の話ができる…。

向佐社長

あとは、また全然違う話ですけど、フェラーリやランボルギーニをお持ちのお客さんのところに水槽を入れた時に「何千万の車を買った時より、水槽を入れた時のほうが感動したわ」と言われたのも嬉しかったですね。

調べすぎるな、と言いたいですね

編集部

そういうお話を伺うと、「日本でいちばん親切なレンタル水槽会社を目指す」という言葉にも納得します。

向佐社長

もともとは僕、サービス業を全くやっていなかった人間ですからね。だから、たとえば僕が美容室を開いたとして、美容室で日本一は無理なんです。相当な競合がいますから。でも、水槽だったら日本一を目指せそうだなと思って。

編集部

誰もいないところを選んだからこそ、目指せるというわけですね。ちなみに、そういう観点から、いまキャリアで迷っている若い方に何か伝えたいことはありますか?

向佐社長

メディアさんを否定することになっちゃうかもしれないですけど、調べすぎるな、と言いたいですね。だって調べると、怖くなっちゃうじゃないですか。それで、一歩が踏み出せなくなっちゃうと思うんです。

編集部

調べているうちに、動けなくなってしまうと。

向佐社長

いまの若い方に、それをするなというのは環境的に無理なんですけどね。わかってはいるんですけど、たまに目をつぶってほしいというか。頭でっかちになるとやった気になっちゃうけど、実際やるとできないじゃないですか。

編集部

たしかに、調べた分だけ、進んだ気になってしまうことってありますよね…。水槽レンタルといったようなニッチな道を目指すことについては、どう思われますか?

向佐社長

ニッチって要は隙間なので、みんなやれとは思わないですね。僕はたまたま、ニッチなところを目指したらうまくいっただけなので。ただ、ちょっと人と違うものを誇りに思ったほうが楽しいですよね。みんなと一緒で安心するんじゃなくて、違うところを大事にしてもいいんじゃないかな、と思うんです。それがその人の武器であって、一番自分に合う武器を探す時期が、若い頃だとも思うので。20代は転職して、自分に合う職種を見つけるのもいいと思うんですけどね。

編集部

人と違うところが、その人の武器になる。向佐社長の原点は、水槽でも魚でもなく、人が好きで、喜ぶ顔を見たいという気持ちでした。好きなことは、分野や対象とは限らない。誰かに喜んでほしい、というその気持ちも、立派な出発点なんですね。向佐社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。 

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