機械は、なぜ壊れるのか。50年その原因を調べてきた|株式会社ベストマテリア・木原会長が、80歳を過ぎても現役でいる理由

機械や設備は、いつか壊れます。なぜ壊れたのかを調べて、次に備える。そんな仕事があることを、あなたは知っていましたか?
株式会社ベストマテリアの創業者で会長の木原重光さんは、金属工学ひとすじ、設備が壊れる原因を調べ、対策を立てる仕事を50年続けてきました。定年を迎えたあとに自分の会社をつくり、80歳を超えた今も現役です。
機械は、なぜ壊れるのか。そのリスクを、どうやって数値化するのか。そして50年分の判断を、どうやって次の人に渡そうとしているのか。じっくり伺いました。読み終わる頃には、ひとつの専門を持って働き続けるとはどういうことか、見えてくるはずです。
株式会社ベストマテリア
木原 重光 会長
専門は金属工学。1970年に現在のIHIへ入社し、機械や設備の元になる金属材料を扱う。以来、設備が壊れる原因を調べ、その対策を立てる仕事を続けてきた。定年を迎えたのち、2004年に自ら会社を設立。仲間のエンジニアとともに、プラントの安全な操業を支えるメンテナンスの支援を手がけている。近年は、熟練の技術者が持つ知識をAIに残す取り組みにも力を注ぐ。
壊れる原因を調べて、対策する

編集部木原会長は、金属工学がご専門だと伺いました。まず、これまでのお仕事から教えていただけますか?



そうですね。専門は金属工学という学問です。1970年に、今のIHIに入社しました。材料というのはね、あらゆる機械や設備の元になるものなんですよ。機械も設備も、金属材料を使って作られているわけですね。



普段使っている機械も、もとをたどれば材料に行き着くんですね。



そうなんです。それで、機械や設備はずっと使っていると、いつかは壊れるんですよね。必ずではないですけれども、時間が経てばどこかで壊れる。その壊れる原因を調べて対策をする。それが、ずっと私の仕事なわけです。



壊れたものを直すのではなく、なぜ壊れたのかを調べるんですね。



そうです。「壊れました」という連絡が来て、これはどういうことなのか、原因は何なのかを調べていく。それを商売にしてきた、ということです。



原因がわかれば、次に備えられる。半世紀のあいだ、同じ問いに向き合ってこられたんですね。
定年のあとに、自分の会社をつくった





その仕事を、いまはご自身の会社で続けていらっしゃるんですよね。会社を立ち上げたのは、いつだったんですか?



定年になったあとに独立して、コンサルティングの会社を作りました。2004年ですね。仲間を集めて、20年以上やってきました。



大きな会社にいれば、管理職という道もあったかと思います。専門職を続ける道を選ばれたのは、なぜだったんですか?



私は自分の専門をずっとやってきた人間で、大きな会社の経営を勉強してきたわけではないんですよ。日本の会社では、功績のある方が自然に上がっていきますよね。ただ私としては、自分の専門分野を突き詰めていくほうが面白いと思っていました。



その道を選んで、よかったと思うことはありますか?



ええ。自分で会社を作ったので、80を過ぎてもまだ仕事ができている。そういう意味では、良かったのかなと思いますね。あのまま残っていれば、どこかのポジションに行って、それが終わったら仕事はないわけですから。



働く場所を、自分で用意したんですね。



定年が65歳でも、人生100年時代だとすれば、あと30年ある。そこで何をしようかな、と考えている方は結構いらっしゃるんですよ。弊社にも、この4月に60歳の方が1人入っています。



年齢ではなく、やりたい仕事があるかどうか。そこでこれからの人生の選択をするわけですね。
リスクは、確率と被害の掛け算



その会社で手がけているのが、RBMという仕組みだと伺いました。聞き慣れない言葉なのですが、どういうものなんでしょう?



RBMは、「リスクベースメンテナンス」の略です。リスクという言葉は、いまは一般の方も使いますよね。ただ、私たちの定義でいうと、あるものが壊れる確率と、壊れたときの被害の大きさ。その掛け算をリスクと呼ぶんです。



ということは、リスクを数字で表せるんですか?



表せます。確率は計算で出せますし、被害はお金で計算できますよね。たとえばこの部分は10年に1回壊れます、という確率が出る。そこが壊れると何億円の損害になる、とわかる。掛け合わせれば、金額として表現できるわけです。



なんとなく危なそうだ、で終わらせずに済むんですね。



そうなんです。そうすると、プラント全体の中で、ここはリスクが非常に高い、ここはなかなか壊れないけれど壊れたら大変な被害になる、といったことが見えてくる。リスクの高い順番にお金をつぎ込んでいけば、バランスの取れたメンテナンスができるわけですね。



おぉ…。この手法は、もともとどこかで使われていたんですか?



欧米の、メジャーと呼ばれる石油会社が使っていた手法です。世界中にプラントを持っていますから、日本にあるプラントとアメリカにあるプラントを、リスクで計算すれば同じ次元で比較できますよね。どちらのリスクが高いか、と。それを日本で広めているということです。



国が違っても、同じものさしで比べられる。その確率を出せるのが、壊れる仕組みを研究してきた木原会長たちなんですね。
いまはまだ、機械学習ではないんです



その計算には長年の経験が要りそうですが…、その経験をいまはAIに残そうとされていると伺いました。



ええ。この仕事のすべてをAIでやれるわけではありませんが、熟練の技術者が持っている知識を、AIに少しずつインプットして残していこうとしています。



いま動いているものは、具体的にはどういう仕組みなんですか?



現状はルールベースといって、人のロジックをプログラム化したものです。いわゆる機械学習のようなAIではないんですね。ただ、プラントは何十年も使っていると、ここがこう壊れました、というデータがどんどん溜まっていく。そのビッグデータを学習させて、人に頼らずにメンテナンスをやろう、と試み始めたところです。



長年の記録が、そのまま財産になるんですね。それでも、人が判断する場面は残りそうです。



そういうことです。AIに詳しい人と、私たちの知識を組み合わせて進めていく。いま弊社では、46歳の社員がAIを担当して、私たちの知識と組み合わせる作業をやっています。



技術の引き継ぎ方そのものが、変わってきているんですね。
若い人でないと、できない分野がある





その引き継ぎには、さらに若い世代も関わっているんですか?



そうですね。いま東京都や市のサポートで、近くの大学の学生さんに弊社を見てもらう取り組みをしています。経営学部の2年生、3年生が、学生の目で会社を見て、どうしたらいいかを提案してくれるんですよ。来年就職するという学生さんも、時々来ています。



学生さんと一緒に手を動かしてみて、若い方だからできるなと感じた場面はありましたか?



ありますね。私たちの判断をAIに覚えさせていく作業は、若い人が速いんですよ。一緒にやってみるとわかります。若い人でないと、むしろできない分野がある。私たちが50年かけて積み上げてきたものを、AIを使いながら理解していける。それができるって、素晴らしいなと。



学生さんがAIを使って、実際に形にしたものはありますか?



ブログを3通ぐらい作ってくれたことがありましてね。1日1時間くらいで、パッと作ってしまう。ああいうことができるんですね。だから、仕事というものが相当変わってくるんじゃないかなと思っています。



1日1時間で3本。仕事の速さが変わりますね…! 最後に、経験はないけれどこれから技術者や研究職を目指したい、という20代へ伝えたいことはありますか?



これから世の中がどう変わるか、特に生成AIがどこまで進むか。それをどう取り込むかは、企業もみんな考えていると思うんですよ。私たちより使いこなして、何でもやれるような人が出てくるかもしれない。AIを使いこなすのは、若い人が得意なんだろうと思うんですね。



何でもやれる、ですか…。



学会でも、生成AIがどのくらい使えるかを試しているんですよ。文章を作らせたり、長い文章を読ませて要約させたり。そういうことは得意です。だけど、知識があるわけではないんですね。私たちが持っているようなリスクの判断は、まだできません。そこはまだ、あんまり信じちゃいけませんよ(笑)。



木原会長のお話を伺っていると、私たちが50年分の知識を受け取り、バトンをつなぐ側にいるというのは、それだけでかなり大きなことなのかなと思いました。木原会長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。技術の世界に興味を持った20代の方が、その一歩を踏み出しやすくなるように…キャリア支援の現場から伴走していければと思います。

