「柔道がなくなった自分が、社会にどこまで通用するのか試したかった。」株式会社志道館・坂東社長が、柔道を“体力・礼儀・考える力を鍛える教育”にした理由

柔道の技術だけではなく、体力や集中力、礼儀、そして「できないことから逃げずに向き合う力」まで育てていく。

株式会社志道館の坂東真夕子社長が、柔道を通じた教育で大切にしていることです。

現在は「文武一道塾 志道館」「志道館学舎(運動教育型 幼児園)」を運営し、子どもたちの育成に取り組む坂東社長ですが、自身も長く柔道選手として競技に打ち込んできました。中学1年生で柔道を始め、オリンピック出場を目標に大学まで競技を続け、卒業後は警視庁へ。26歳まで選手として活動しています。

しかし、引退したときに初めて直面したのが、「これからどう生きていくのか」という問いでした。

警察官としてキャリアを積む道ではなく、民間企業への転職を選択。その後、営業や人材育成の現場で多くの人を見てきた経験から、「人の土台は、子どもの頃の教育によって大きく変わるのではないか」と考えるようになります。

一度は柔道の世界を離れた坂東社長が、なぜ再び柔道に戻り、「勝つため」だけではない教育を始めたのか。

これまでのキャリアと、柔道を通じて子どもたちに身につけてほしい力について、じっくりお話を伺いました。

お話を伺った人

株式会社志道館

代表取締役 坂東 真夕子

中学1年生から柔道を始め、オリンピック出場を目標に競技へ打ち込む。大学卒業後は警視庁に入り、26歳まで柔道選手として活動。引退後は民間企業へ転職し、営業や人材育成などを経験したのち、教育事業で起業。現在は「文武一道塾 志道館」「志道館学舎(運動教育型 幼児園)」を運営し、柔道を通じた子どもたちの育成に取り組んでいる。得意技は大外刈り、内股。

目次

「柔道がなくなった自分」が、社会にどこまで通用するのか試したかった

編集部

坂東社長、柔道選手として長く競技を続けてきて、26歳で引退されたときは、かなり大きな転機だったんじゃないでしょうか。

坂東社長

そうですね。それまではオリンピックという大きな目標があって、そこに向かって進めばよかったので、生き方について悩むことはあまりなかったんですよ。でも、引退して初めて目標がなくなったときに、「これからどうやって生きていこう」と考えました。アスリートのセカンドキャリアという言葉がありますけど…、警視庁で働いてはいたものの、社会人としてはすごく遅れたスタートなんだな、という感覚もありましたね。

編集部

でも、警察官として、そのまま働き続ける選択肢もあったんですよね。

坂東社長

ありました。周りに相談すると、「もったいないから警視庁は辞めない方がいい」と言われましたし、私自身も悩みました。ただ、そこは自分が夢を叶えられなかった場所でもありましたし、警察という少し特殊な組織が本当に自分に合っているのか、という思いもあって。それよりも、柔道がなくなった自分が、社会にどこまで通用するのかを試してみたいと思ったんです。それで、民間企業へ転職しました。

編集部

民間企業へ移ってからは、何度か転職を経験されたんですよね。

坂東社長

そうですね。キャリアアップや年収アップも意識しながら何社か経験して、会社員として最後に勤めたのがジブラルタ生命でした。そこで営業所長として、人材育成に関わっていたんです。フルコミッションの営業の世界だったんですけど、同じように人を採用して、同じ研修を受けて、同じ商品を売っているはずなのに、ものすごく差が出るんですよ。売れる人もいれば、なかなか売れない人もいる。それを見ながら、「この違いって何なんだろう」とずっと考えていましたね。

編集部

何が違ったんでしょう?答えって、出ましたか?

坂東社長

すごく当たり前の話なんですけど、結果を出す人って、当たり前のことを当たり前にできるんですよね。努力できるとか、周りに気を使えるとか、嘘をつかないとか、時間を守るとか。逆に、なかなか結果が出ない人は、言い訳が多かったり、本当に頑張らなきゃいけないところで頑張りきれなかったりする。仕事って、営業に限らず体力も使いますから、体調管理も含めて全部自分に返ってくると思うんです。

編集部

たしかに…。でも、そういう部分って、大人になってから急に身につけようとしても難しいですよね。

坂東社長

そうなんですよ。時間を守るとか、嘘をつかないとか、そういう当たり前のことを大人になってから教育し直そうとしても、なかなか難しい。それで、目の前の大人たちを見ながら、人って、子どもの頃にどんな家庭で育って、どんな教育を受けたのかで変わるんだろうなと感じたんです。だったら、自分が人生をかけるなら教育事業なんじゃないかと思って。それが起業につながりました。

子どもにまず身につけてほしいのは、「基礎体力」

編集部

そこで、柔道そのものを教えるというより、柔道を通じて人を育てようと考えたんですね。

坂東社長

そうですね。柔道を通して子どもたちに何を得てほしいかと考えたとき、私はまず基礎体力だと思っています。やっぱりフィジカルって大事なんですよ。

編集部

柔道の技術より先に、体を作る。

坂東社長

そうですね。「健全な精神は健全な身体に宿る」ではないですけど、自分自身も疲れていたり体調が悪かったりすると、メンタルが落ちることがあります。だったら、まず体を動かす。体が整えば、おのずと心も整ってくると思っています。今は心の知能指数のことをEQなどと言われますけど、EQだけを高めようとしても難しいと思うんですよね。体力がつけば集中力も続くようになりますし、できることが増えれば、それが自信にもなって、いろいろなことに積極的に取り組めるようになる。実際に子どもたちを見ていると、それはすごく感じます。

編集部

志道館の稽古も、柔道の技だけをずっと練習するわけではないんですよね。

坂東社長

そうですね。90分のプログラムの中で、柔道の技術そのものを練習しているのは20分から30分くらいです。それ以外は、走る動きだったり、パワー系だったり、回転運動だったり、いろいろな動きをバランスよく取り入れています。幼児ならハイハイやクマ歩きのような動きもやります。小学校を卒業するくらいまでに、まず体の基礎をしっかり作っておく。その後、柔道を続けるのか、別のスポーツをやるのかは本人の自由でいいと思っているんです。

編集部

柔道を続けること自体がゴールではない、と。

坂東社長

はい。一度柔道から離れたとしても、大人になってから健康のためにまたやってみようと思ってくれてもいい。子どものうちにしっかり基礎を作っておけば、何をするにしても応用できると思っています。

できないことを、自分の力で乗り越えていく

編集部

実際に志道館に通っている子どもたちは、どんなところから成長していくんでしょう?

坂東社長

最初に入ってきたときは、当たり前ですけど何もできないんですよね。なので、まず柔道着に着替えるところから始めます。帯を結ぶことも、低学年の子にとっては結構難しいんです。最初はできなかったことが、続けていくうちにできるようになる。

編集部

大人からすると当たり前に見えることも、子どもにとっては一つの挑戦なんですね。

坂東社長

そうですね。子ども自身も、「できないことが恥ずかしい」と思っていたりするんです。でも、それを自分の努力で乗り越えていくわけじゃないですか。そこから逃げるのではなくて、自分でできるようになるしかない。今の言葉でいうと、レジリエンスというんでしょうか。折れても立ち直る力ですね。そういう力は、柔道というか、運動を通して身についていくんじゃないかなと思っています。

編集部

単に技が増えるだけではなく、「できなかったことができた」という経験そのものが自信になる。

坂東社長

そうだと思います。体力がついて、集中できるようになって、できることが増える。それがまた自信になって、今度は自分からいろいろなことに取り組めるようになる。そういう変化を見られるのは、すごく大きいですね。

「文」と「武」を切り離さず、子どもの土台を作る

編集部

「文武一道塾」というネーミングにも、坂東社長の教育への考え方が表れているんでしょうか。

坂東社長

そうですね。私は、体だけ鍛えればいいとは思っていないんです。柔道自体も、実はかなり考える武道だと思っていて。

編集部

たしかに、オリンピックの試合なんかで綺麗に一本勝ちしている場面をよく見ますけど、あれってかなり計算された動きのもと、成り立っていますよね。

坂東社長

そうなんですよ。志道館では、例えば技を教えるときも、「ここをこう動かすと、なぜ相手の体勢が崩れるのか」というところまで、なるべく子どもたちに説明するようにしています。右だけではなく左でも技の練習をしますし、一つに偏らず、いろいろな動きを経験してもらうんですね。

編集部

体を動かしながら、同時に考える力も使う…。

坂東社長

はい。柔道を通じて体だけを鍛えるのではなく、集中力だったり、考える力だったり、できないことに向き合う力だったり、いろいろなものを育てたいと思っています。結局、それって柔道だけで使う力ではないんですよね。学校でも仕事でも、人と関わるときでも、全部につながってくると思います。

一度柔道を離れたからこそ、今は柔道で人を育てている

編集部

26歳で選手を引退して、一度は柔道とは違う世界へ出た坂東社長が、今こうして柔道を使った教育を仕事にしているわけですけれど。あらためて振り返ってみて、今の選択は率直にどう感じていますか?

坂東社長

総じて、楽しいですね。人から与えられる仕事ではないので、そこが大変なところでもあるんですけど。私は警視庁を辞めてから、いくつか会社を経験してきました。キャリアアップという理由もありましたけど、正直、仕事に慣れてくると「こんな感じか」と飽きてしまうこともあったんです。でも、経営は何年やっても飽きないですね。

編集部

それだけ長く続けていても、経営は「こんな感じか」とはならないんですね。

坂東社長

ならないですね(笑)。常にいろいろな課題がありますから。それを克服するために、「どうしていこうか」と考えたり、学んだりする。その繰り返しなので、そこが面白いと思っています。

編集部

大変なことを、楽しい・面白いと捉えることができるのって、さすが元柔道選手というか…、強いですね。

坂東社長

もちろん大変ですし、将来の保証があるわけでもありません。でも、人から与えられた仕事をこなすというより、自分で考えて、自分で動いていく仕事なので、そこは自分にすごく合っているんだと思います。

編集部

一度は柔道を離れ、「柔道がなくなった自分が、社会にどこまで通用するのか」を確かめるように別の世界へ飛び込んだ坂東社長。さまざまな仕事を経験した今、再び柔道と向き合い、子どもたちを育てる側に立っています。ただ強くなることだけを目指すのではなく、体を作ること、考えること、できないことから逃げずに向き合うこと。坂東社長が大切にしているのは、柔道の技術そのものよりも、柔道を通して、その先の人生でも使える力を育てることなのだと感じました。競技者としての柔道は26歳で一区切りつきましたが、形を変えながら、今も坂東社長の仕事の中心に柔道があるんですね。坂東社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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