「できない」と決めつけない。CosorenSupport株式会社・奥田美保代表が語る、仕事・学び・子育てを「行動」から見る理由

「やりたいことが見つかりません」
進学や就職を前にした若者から、こうした相談を受けることは少なくありません。
CosorenSupport株式会社の奥田美保代表は、キャリアコンサルタントとして、また長年子どもたちの学習に伴走してきた立場から、「やりたいことは、最初から明確でなくてもいい」と話します。
職業名や成績といった分かりやすいラベルだけで人を見るのではなく、その奥にある行動や、本人が言葉にできていないつまずきに目を向けること。その考え方は、若者のキャリア支援、子どもの学習支援、保護者への意思決定支援という、同社のさまざまな事業に共通しています。
今回は、奥田代表が現在の事業を始めるまでの経緯と、仕事・学び・子育てに通底する考えについて伺いました。
CosorenSupport株式会社
奥田 美保 代表取締役
子育てを中心に生活していた時期を経て、東日本大震災を契機に親族が経営するデザイン会社の運営に携わる。顧客ニーズに応える形で、クリエイターに特化した人材派遣事業への転換を進め、その過程で国家資格キャリアコンサルタントを取得。会社運営と並行して家庭教師を続け、子どもの学習支援や進路支援にも長く携わる。2021年、CosorenSupport株式会社を設立。オンライン個別指導「2ndスクールオンライン」の運営をはじめ、子どもと保護者の意思決定支援、中高生の社会参加を支える活動などを行っている。
子育てと会社経営、二つの経験を行き来してきた

編集部現在の会社を設立することは、以前から考えていたのでしょうか。



いいえ。自分で会社を設立し、経営することは、もともと考えていませんでした。子どもが小さい間は、子育てを中心に生活するつもりでいたんです。
転機になったのは東日本大震災でした。親族の会社の運営を手伝う必要が生じ、デザイン会社の仕事に携わるようになりました。
その後、お客様からの要望を受け、会社をクリエイターに特化した人材派遣事業へ転換しました。その過程でキャリアコンサルタントの資格を取得し、「働くこと」や「キャリア」について体系的に学ぶ機会を得ました。



人材派遣事業では、どのようなことを大切にしていたのですか。



派遣社員は毎日クライアント企業へ通います。そのため、自分がどの組織に所属しているのか、どこが自分の居場所なのかを実感しにくいことがあります。
仕事をするうえで、「自分は何者で、どこに所属しているのか」という感覚は、とても重要です。
そこで、派遣先で働いていても、自社の一員であることを感じられる仕組みづくりに取り組みました。
クライアント企業で業務をしている社員全員と、毎日メールのやりとりをしていました。「今日あった、うれしかったことをメールで教えてね」と伝え、送ってくれた内容に対しては、必ず肯定的な言葉を返しました。
また、「どんな些細なことでも構わないので、困ったときにはいつでも相談してね」と伝えていました。
働く人が安心して力を発揮するためには、能力やスキルだけでなく、帰属意識と、困ったときに安心して相談できる環境が大切だと考えたからです。
こうした経験を通して、問題が起きてから対処するだけではなく、人がよりよく働き、よりよく生きるための環境をつくる「ポジティブメンタルヘルス」にも関心を持つようになりました。
やりたいことは、最初から決まっていなくてもいい



現在は、進路やキャリアについての相談も受けていらっしゃいます。どのような相談が多いのでしょうか。



高校生であれば、文系と理系のどちらを選ぶか。大学生であれば、どのような仕事に就くか。その段階で「やりたいことがない」と悩む方は多いですね。
けれども私は、やりたいことは最初から明確でなくてもよいと思っています。
実際に経験してみなければ、自分に合っているかどうかは分かりません。誰かと出会ったり、仕事を任されたり、必要に迫られて行動したりするうちに、自分の関心や強みが見えてくることもあります。
私自身も、大学生の頃から教育事業や会社経営を志していたわけではありません。目の前のことに取り組む中で、後から自分のテーマが見えてきました。
ですから、やりたいことがないから選べない、目標がないから何も始められない、と考える必要はありません。まずは「呼ばれた場所へ、自ら飛び込んでみる」というチャレンジも大切だと考えます。
仕事を「名前」ではなく「行動」に分けて考える





進路を考えるときには、どのような視点が必要でしょうか。



多くの人は、「教師になりたい」「医師になりたい」「デザイナーになりたい」というように、仕事を職業名で考えます。
もちろん、資格や免許が必要な仕事もあります。ただ、職業名だけを見ていると、その仕事の本質や、自分が何に魅力を感じているのかが分からなくなることがあります。
たとえば、家庭教師というのは仕事の名前です。
その仕事を行動に分けると、勉強を教える、相手の話を聞く、時間を守る、理解できていない部分を探す、できるようになるまで方法を考える、といったさまざまな要素があります。
私は、生徒が分からなかったことを理解し、「できた」という表情を見せたときに、大きな喜びを感じます。
つまり、私が好きなのは「家庭教師」という名前そのものではなく、目の前の人ができるようになる過程に関わることなのだと思います。
仕事を行動に分けて考えると、仮に職業の形が変わったとしても、自分が大切にしたいことを別の仕事で実現できる可能性があります。
「勉強ができない」という言葉の奥を見る



学習支援でも、同じような見方をされているのでしょうか。



そうですね。
保護者の方から、「うちの子は勉強ができません」と相談されることがあります。
けれども、「勉強ができない」という言葉だけでは、何が起きているのかは分かりません。
宿題を嫌がるのか、問題文が読めないのか、言葉の意味が分からないのか、計算の手順が分からないのか。あるいは、分からないことを人に言うのが怖いのかもしれません。
以前、小学2年生の子どもに算数を教えていたときのことです。計算問題は好きでどんどん解くのですが、文章題となると、急に機嫌が悪くなってしまうんです。
どうして文章題になると機嫌が悪くなるのだろう、何に困っているのだろうと思いながら、急かさずに様子を見ていました。すると、やがてぽつりぽつりと、「3つずつ」という言葉の意味が分からないと話してくれました。
掛け算の九九を覚えていても、「3つずつ」という言葉の意味が理解できなければ、文章題を解くことはできません。
その子は算数全体ができないのではなく、問題文に使われている言葉のところでつまずいていたのです。



つまずいている場所が、周囲が考えていたところと違ったのですね。



そうです。
計算ができるけれど文章題ができない子のことを、「読解力がない」と判断しがちです。しかし、読解力よりももっと手前でつまずいていた、というケースですね。
こんなときに大切なのは、子どもに「勉強が苦手な人」というラベルを貼らないことです。
何が分からないのかが自分でも分からなければ、質問することはできません。さらに、これまで失敗を責められたり、発言を否定されたりしていれば、分からないと言うこと自体が怖くなります。
そのため私は、「こういうことが分からないのかな」「それとも、こちらかな」と、答えやすい形にして尋ねます。
もし違ったら、また別の言葉を提示します。それを繰り返すうちに、少しずつ自分の言葉で「何が分かっていて、何が分からないのか」を説明できるようになります。
分からないことを安心して表に出せる環境がなければ、どれだけ教材を増やしても、塾に通う時間を増やしても、学習は前に進みません。
仕事の現場で言われている「心理的安全性」にもつながることですね。
「こっそり練習」できる場所をつくりたい



CosorenSupportという社名には、どのような意味があるのでしょうか。



よく読み方を聞かれますが、「こそれんサポート」と読みます。
この「こそれん」は、「こっそり練習」の略です。
勉強が苦手だと思われている人が、もう一度勉強を始める。社会人が新しい資格に挑戦する。人には言いにくいけれど、もう一度やってみたいと思う。
そのようなときに、周囲の目を気にせず、安心して練習できる場所が必要だと考えました。
できないことや迷っていることを、最初から大勢の前で宣言する必要はありません。まずは、こっそり始めてもよい。少しずつできることを増やし、自信がついてから外へ出ていけばよいと思っています。
また、弊社の企業理念は、「お互いに切磋琢磨し、高め合う仲間を増やすこと」です。
人は誰でも、できるようになりたい、今よりもよく生きたいという気持ちを持っています。一方で、周囲からどう見られるかを気にして、行動できなくなることもあります。
だからこそ、誰か一人だけが頑張るのではなく、互いに支え合いながら成長できる場をつくりたいと考えています。
こっそり練習をサポートしたい。この思いを社名にしました。
子育てを家庭だけの責任にしない



今後、さらに広げていきたい取り組みはありますか。



子どもと保護者への意思決定支援を、もっと早い段階から届けたいと考えています。
親になるということは、子どもが大人になっていく過程を支えることです。しかし、親だけで正解を出し続けなければならないわけではありません。
現在、特に都市部では、子育てや教育に関する責任が家庭の中に集中しやすくなっています。
学校選び、習い事、受験、進路、生活習慣。子どもに関する多くの判断が、家庭に委ねられています。そして、その負担が母親一人に集中してしまうケースも少なくありません。
家族以外の人に相談する機会がないまま、親の視野が狭くなり、親子ともに苦しくなってしまうことがあります。
子どもの数が減っているにもかかわらず、子育ての負担が軽くなっているとは限りません。むしろ、一人の子どもをきちんと育てなければならないという責任が、以前より重くなっている面もあると感じます。
少子化を考えるときには、子どもを産む前の支援だけでなく、すでに子育てをしている家庭が孤立しない仕組みも必要です。
子どもにとって家庭が安心できる場所であること。そのために、親も一人で抱え込まず、学校や地域、専門家など、複数の人と一緒に考えられることが大切です。
まとめ:行動に注目して、可能性を見つける
やりたいことが見つからないとき。
勉強ができないと思ったとき。
子育ての正解が分からなくなったとき。
私たちは、職業名、成績、立場といった分かりやすい言葉で、自分や相手を判断しがちです。
しかし、そのラベルの奥には、一人ひとり異なる経験や行動、言葉になっていない思いがあります。
仕事を名前ではなく行動に分けて考えること。
「できない」と決めつけず、どこでつまずいているのかを一緒に探すこと。
子育てを一つの家庭だけに背負わせないこと。
奥田代表の取り組みに共通しているのは、人の可能性を最初から決めず、安心して試し、迷い、練習できる環境をつくることです。

