採血の「当たり前」を変える。医療現場の課題から生まれた電子駆血帯「マサキカフ」

採血のとき、なかなか血管が見つからない。「あれ? ちょっと待ってくださいね……」。そう言いながら焦る看護師さんの目を、じっと見てしまう。そんな経験が、あなたにもないでしょうか?
採血を支える道具にも、まだ改善できる余地がある。そんな発想から生まれたのが、株式会社ドリームインポケットが開発・販売する電子駆血帯「マサキカフ」です。
従来のゴム製やベルト式の駆血帯では、締め加減の調整が使う人の経験や感覚に委ねられる面がありました。マサキカフは、ボタンひとつで駆血圧を自動調整することで、適切な駆血をサポートする医療機器です。現在、国内の医療現場に約1,600台が導入され、大学病院からクリニックまで幅広く活用されています。
開発の背景にあったのは、医療現場で日々行われている採血を、道具の工夫によってより使いやすく、安定したものにできないかという問題意識でした。
今回は、株式会社ドリームインポケットの川﨑信也社長に、製品開発のきっかけやマサキカフの特長、これまでの導入実績、そして今後の事業展開について伺いました。異なる業界で培った経験を生かし、医療現場の課題解決に取り組む同社の歩みをご紹介します。
株式会社ドリームインポケット
代表取締役 川﨑 信也(かわさき のぶや)
外資系コンピューターメーカーで営業責任者などを務めた後、ソフトウェア、医療・医薬分野へと活動領域を広げる。製薬会社のMRが使用する顧客管理システムの日本事業責任者などを歴任。2017年に株式会社ドリームインポケットを設立。医師が取得した特許をもとに、採血時に腕へ巻く電子駆血帯「マサキカフ」を製品化し、国内の大学病院やクリニックなどへの導入を進めている。
コンピューターから医療・医薬へ。異業種で培った経験を生かす

編集部川﨑社長は、現在、採血時に腕へ巻く医療機器を開発されていますが、もともとは外資系のコンピューターメーカーにいらしたと伺いました。最初は、どのような製品を扱っていらっしゃったのでしょうか?



外資系のスーパーコンピューターメーカーで、営業の仕事をしていました。当初はコンピューターそのものを扱っていましたが、次第にハードウェアからソフトウェアへと仕事の領域が広がっていきました。



売るものが、機械からソフトへ。そこから医療につながっていくとは、意外な流れですね。



そのソフトウェアが、医療関係向けだったんですね。その後、日本の企業がアメリカの創薬ソフトの会社と合弁で新しい事業を立ち上げることになりまして、私がそこのアジア太平洋地区の事業責任者になりました。ハードウェアからソフトウェアへ、そして医療・医薬分野へと移ってきた形です。



いくつかの段階を経て、医療・医薬の分野へ進まれたのですね。最も長く携わってこられたのは、どの分野ですか?



一番長いのは医薬関係ですね。製薬メーカーには、MR(※)という、お医者さんに薬の情報を届ける営業職があります。MRは先生と面会した記録を残さなければならないので、そのための顧客管理システムがあるんです。私は、そのシステムを扱う会社の日本事業責任者を務めることになりました。
※ MR:医薬情報担当者。医薬品の適正使用に必要な情報を医療関係者に提供する、製薬会社の職種。



MRの方が使うシステムを、日本で展開されていたのですね。かなり大きな事業だったのではないでしょうか?



一時期、日本のMRが6万5,000人ぐらいいたんですけれども、そのうち3万人ぐらいが、そのシステムを使っていましたね。その間に先生方とも親しくなりまして、そのうちのお一人が、現在、弊社の役員をお願いしている美容医療専門の先生なんです。医療現場の課題や今後のことなど、いろいろなお話をさせていただいていました。



前職でのお付き合いが、現在のお仕事にもつながっているのですね。その先生とは、具体的にどのようなお話をされていたのでしょうか?



採血のときに、腕を締めて血管を浮かせますよね。そのために使う道具を「駆血帯(くけつたい)」といいます。従来はゴム製やベルトが使われていましたが、締める強さを適切に調整するのが難しかったんです。誰が使っても適切な強さで締められるようにしたい。それが先生のお考えでした。
採血を支える道具に、新しい選択肢を





誰が使っても同じように締められるようにする、ということですね。採血のときに使うゴムの駆血帯は、確かに毎回きつさが違うような気がします。どうして調整が難しいのでしょうか?



血管には動脈と静脈があります。心臓から血液を送り出すのが動脈で、全身から心臓へ血液を戻すのが静脈です。採血時には、駆血帯で静脈の血液が心臓に戻る流れを適度に妨げることで、静脈が膨らみ、見つけやすくなります。



血管を浮かせる仕組みには、そういう理由があるのですね。知りませんでした。



ところが、従来の駆血帯では、適切な締め加減に調整することが難しい場合があります。締め付けが強すぎると動脈からの血流まで妨げる可能性があり、反対に弱すぎると、採血に必要な静脈の怒張が十分に得られないことがあります。適切な駆血圧は、個人差やそのときの状態によっても変わります。



締めすぎても緩すぎてもいけない。その加減が、使う人によって変わってしまうのですね。



そうなんです。ところが、駆血帯の締め加減については、これまであまり議論されてきませんでした。採血がうまくいかない場合も、個人の経験や技量によるものと捉えられ、経験を積むことで対応するのが一般的だったようです。そうではなく、道具の側で改善できることがあるのではないか、というのが先生のお考えでした。



道具を工夫することで、看護師さんの負担も軽減できるのではないか、ということですね。看護師さんにとっては、どのような場面が負担になるのでしょうか?



少し、気持ちの面にも関わる話ですが、まだ経験の浅い看護師さんだと、採血がうまくいかないこともあります。そういうときに、腕を軽く叩きながら血管を探している姿を、患者さんがじっと見ているじゃないですか。それが、看護師さんにとって大きなプレッシャーになることもあるそうです。



それは、確かに緊張してしまう場面かもしれませんね。



そうした負担を、道具の工夫によって何とかできないか、という話になったんです。
巻いて、ボタンを押すだけ。駆血圧の調整をサポート



道具を工夫することで、採血のときの課題を解決しようと考えられたのですね。



そうです。先生が取得された特許をもとに、私たちが製品化しました。







これが「マサキカフ」なのですね!



人それぞれに、適切な駆血圧というものがあるんです。血圧は人によって違いますし、そのときの体調によっても変わります。マサキカフは、そうした違いに対応しながら、適切な強さで腕を締めるように設計されています。



人によって違う駆血圧を機械が検知して調整してくれるのですね。そうなると、看護師さんが行う手順も変わりそうです。実際には、何をすればよいのでしょうか?



巻いて、ボタンを押すだけです。締める強さの調整は、機械が行います。最近は訪問診療も増えてきていますが、看護師さんが常に同行できるとは限りません。そうした場面でも、製品の特長を生かせる可能性があると考えています。



操作がシンプルなのは、使う側にとっても分かりやすいですね。私も採血は苦手で、いつも目を閉じてしまいます。お子さんとなると、なおさら怖いですよね。



お子さん向けのものもありますよ。熊本県から許可をいただいて、くまモンのマークが入った製品も用意しています。小児科では、くまモンバージョンをご注文いただくことが多いですね。



くまモンですか! 腕に巻くものの見た目が変わるだけでも、受ける側の気持ちはずいぶん違いそうですね。



そこは、お子さんの反応を見ていても違いを感じますね。
大学病院からクリニックまで、広がる導入実績



製品の使いやすさに加えて、お子さん向けの工夫もされているのですね。現在、マサキカフはどのくらい導入されているのでしょうか?



国内で約1,600台を導入していただいています。大学病院をはじめ、多くの医療機関で使っていただいていますし、規模の大きな病院では何十台という単位で導入されているところもあります。もちろん、クリニックにも導入されています。



約1,600台ですか! 大学病院からクリニックまで、幅広く使われているのですね。ほかには、どのようなところに導入されているのでしょうか?



全国に約100店舗ある大手の美容外科では、100台導入していただいています。



店舗数に合わせて導入されているのですね。ほかにも、活用されている場面はありますか?



例えば、透析を受けている患者さんなど、定期的に採血を受ける方の中には、血管の確保が難しいケースもあります。そうした患者さんの採血を支えることも、医療現場における課題の一つです。



繰り返し採血を受ける方にとっては、採血そのものが大きな負担になることもあるのですね。そこは、想像したことがありませんでした。一度導入した病院では、その後も使い続けていただけるのでしょうか?



大きな病院では、一度導入いただいた後、追加でご注文をいただいています。使い始めると、継続して使っていただけるケースが多いですね。患者さんにとっても、担当する看護師さんによる締め加減の違いを少なくできることは、一つのメリットだと思います。



継続して使われ、追加導入にもつながっているのですね。医療現場で役立つ製品として、着実に広がっていることが伝わります。これまで、どのように販売を広げてこられたのでしょうか?



医療機器には、各地域に代理店があるんです。当社は全国で10数社と契約していて、それらの代理店を通じて販売しています。それに加えて、楽天やAmazonなどのインターネット販売も行っています。自社だけで全国を回るのは難しいですが、大きな病院とは直接取引しているところもあります。
医療現場の声を、新しい製品やサービスへ



全国の代理店と協力しながら、販売を広げてこられたのですね。現在は、どのような体制で事業を運営されているのでしょうか?



技術と営業を中心とした少数精鋭の体制で運営しています。新しい販売先の開拓は代理店さんにお願いし、展示会の企画・運営などは弊社で行っています。



それぞれの役割を生かしながら、事業を展開されているのですね。今後、さらに事業を拡大していく予定はありますか?



現在、AIを使った医療機器を扱う会社との連携を進めていまして、そこへのサポートも必要になります。今後、人材を強化しなければと考えています。海外展開も視野に入れていますし、事業をもっと大きくしていきたいですね。



AIを使った医療機器となると、医療の知識がないと難しそうに思えますが……。



それは大丈夫です。技術的なところまですべて知っている必要はありません。製品について説明できるようになれば、仕事を進めていくことはできます。ただ、営業的なマインドは持っていていただきたいですね。それがあれば、マーケティングのことも業界のことも、少しずつ分かるようになると思います。



知識は入社後に学べるというのは、心強いですね。



そうですね。ただ、決まった仕事だけをしてもらうというよりは、幅広い役割をお願いすることになると思います。新しく入る方には、この事業をさらに成長させていただきたいですね。



具体的には、どのような方に入社してほしいと考えていますか?



ぜひ代理店さんと一緒に医療現場へ行って、現場の課題をまず知り、その解決に取り組もうという意欲を持っていただきたいですね。そうすれば、今ある製品を組み合わせて解決できることもありますし、新しいものを作り上げることもできると思います。医療の世界では、AIをはじめとする先端技術の活用が急速に進んでいます。一方、採血時の駆血については、長年にわたり基本的な方法が大きく変わっていません。マサキカフは、先端技術を活用することで、駆血のあり方に新たな変革をもたらすことを目指しています。そして、近い将来、マサキカフが日本国内にとどまらず、世界中の医療現場で活用されることを夢見ています。



現場の課題を知り、その解決に取り組む。マサキカフも、医療現場の声をきっかけに生まれた製品なのですね。医療現場には、日々の業務の中で当たり前になっている課題が数多くあります。株式会社ドリームインポケットは、そうした課題に目を向け、道具の工夫によって解決を目指してきました。約1,600台の導入実績を持つ電子駆血帯「マサキカフ」をはじめ、同社が目指すのは、医療現場で働く方々と患者さんの双方を支える製品づくりです。今後の事業拡大や新たな医療機器分野への展開にも期待が高まります。川﨑社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

