「センスがない」のではなく、絞り出す訓練をしていないだけ。株式会社エコトバ・棕澤社長に聞く、キャッチコピーが生まれるまでの量→質の作業

センスがある人にしかできない仕事だから、自分には向いていない。そう思ってクリエイティブな仕事を避けてきた経験はないでしょうか?

株式会社エコトバの棕澤和宏社長は「センスじゃなくて、訓練なんです」と話し、コピーライターとして長く、言葉を出し続けてきました。

「大学生のとき、コピーライターという仕事をテレビで見かけて面白そうだと思った。」始まりはここからだったそうです。キャッチコピーは実際にどうやって生まれるのか。そして、なぜ現在ドレッシングをつくって販売することになったのか。詳しくお話を伺いました。

読み終わる頃には、「センス」と呼ばれているものの正体が、少し見えてくるはずです。

お話を伺った人

株式会社エコトバ

棕澤 和宏 代表取締役

大学在学中にコピーライターの養成講座へ通い、個人事務所に入る。ネーミング、キャッチフレーズ、インタビュー記事と仕事の幅を広げ、2007年に株式会社エコトバを設立。広告の企画・制作のほか、動画やWebサイトの制作も手がける。2014年には自社商品「子供が野菜をモリモリ食べちゃうドレッシング」を発売。

目次

就職活動もしつつ、別のルートでライターのプロダクションへ

編集部

棕澤社長は、これまでコピーライターとして長くお仕事をされてきたようですが、そもそも、この仕事を選ばれたのはどうしてだったんですか?

棕澤社長

大学に行って、将来は何の仕事に就こうかと考えた時に、ちょうどコピーライターの方がテレビによく出ていて。「あぁ、こういう仕事があるんだな」と、興味関心を抱いたのがきっかけでしたね。

編集部

テレビで見かけて、面白そうだな、と。そこからどうやって、その世界に入られたんでしょう?

棕澤社長

専門学校ではないんですけど、養成講座みたいなところにちょっと顔を出して、そこからコピーライターの個人事務所に潜り込んだのがスタートです。

編集部

就職活動とは、また別のルートだったんですね。

棕澤社長

普通に就職活動もしてたんですけど、そっちはそっちで芳しくなくて。なので同時並行でやっていて、じゃあコピーライターでやってみようか、と。ただそれも、たまたま拾ってもらったようなもので。

編集部

拾ってもらった、というところから始まって…。 事務所に入られてからは、どんなお仕事をされたんですか?

棕澤社長

ライターを始めて一番最初の仕事は、ネーミングだったんですよ。あとは時代的に新聞、雑誌、ポスターなど紙媒体が多かったですね。

編集部

商品名を考えたり、短文のキャッチーなワードを捻り出したり、といったことですよね。それだけでなく、説明のための本文そのものも書かれるんですね。

棕澤社長

企画書も含めテキスト関連全般が仕事です。最近は広告は減ってインタビュー記事が多いですね。まさに、こんなインタビュー記事です(笑)。

センスじゃなくて、訓練なんです

編集部

ちなみに、キャッチコピーってどうやって生まれるんでしょう。センスが必要なイメージですが…。なにか考え方のコツみたいなものって、あるんですか?

棕澤社長

基本的には、まず数を出すということなんですよ。たとえば牛乳の広告を出そうとなったら、関連する事象ってあるじゃないですか。牛がいる、牧場がある、白い液体である。そういうものをずっと、ある種マトリックスにして埋めていきながら、面白い考え方やフレーズを探していく。良い悪いは別として、いったん数だけ、バーッと。

編集部

良い悪いを一旦置いて、関連するワードをまず埋めていく。はじめは質より量、ということなんでしょうか?

棕澤社長

そうなんです。まず量をどれだけ生み出せるか。脳みそから無理くりひねり出すんです。カラカラに乾いた雑巾をもう一絞りして一滴出す、みたいなイメージで。

編集部

なるほど…。まずは泥臭い作業をこなして、それからなんですね。コピーライターってちょっとキラキラしてるイメージがあったので、意外でした。

棕澤社長

これはもうセンスじゃなくて、訓練ですよね。軍隊が30キロの荷物を背負って走るようなことを、自分の脳みそに対してやるっていう。当然ダメなものもいっぱいあるわけだから、そのあとで、これダメ、これダメ、これダメと言って、残ったものをさらに組み替えて…みたいな作業ですよね。

編集部

センスじゃなくて、訓練。

棕澤社長

あとは、ターゲットの属性によって、どんな表現が刺さるんだろうな、と考える作業もあります。そのために、日ごろから常識や知識を広げておく必要はありますね。

編集部

情報をキャッチするアンテナを張っておくのも、大事な仕事なんですね。数を出して、削って、組み替えて、最後に1つ残す。そこまでして残った言葉は、広告の中でどういう役割を持つものなんでしょう?

棕澤社長

広告では、ワンビジュアル・ワンキャッチという言い方があるんです。目を引くようなビジュアルがあって、それを切り取るようなキャッチフレーズが書いてある。何十案も出して最後に残った1行が、そのビジュアルの隣に置かれるわけですね。言葉の役割は、そのビジュアルが何の話なのかを決めることなんです。ビジュアルと言葉、この2つが広告の最小単位で、日本語にすると絵と言葉なんですよ。

編集部

絵と、言葉…。…あっ。

棕澤社長

そうです。それで、社名も「エコトバ」としました。関西風に言うと、ええことば、とも読めますし。原点というか、初心みたいなところを忘れずにいたいな、という意味を込めました。

広告は、売れるまでのごく一部でしかない

編集部

いまは広告のお仕事だけでなく、動画やWebサイト、それに自社商品のドレッシングまで手がけていらっしゃいますよね。ここまで広げてこられた背景には、何があったんですか?

棕澤社長

ひとつは、自分の興味関心ですね。もうひとつは危機管理です。ずっと同じ仕事だけをこの先も変わらず続けられるのか、という不安はありますから。

編集部

この先も続けられるのか。その不安は、どのあたりで感じられたんでしょう?v

棕澤社長

さっきもチラッと話しましたが、広告制作の仕事は減っています。それに、広告って、その商品が売れるまでのパートのごく一部を担当しているだけじゃないですか。プロモーション全般を手がけるような大きな仕事だとまた別なんですけど、結局一人ひとりは、その中の新聞広告を担当します、パンフレットを作ります、とどんどん細切れになっていくので。

編集部

自分が書いた言葉が、そのあとどうなったのかは見えないままなんですね。

棕澤社長

そういうものに対する不満というか、もうちょっと俯瞰で見られるような立場でやりたいな、と。ただ、そういう仕事を振ってくれる人は誰もいないんですよ。じゃあ、自分で商品化してみようかな、というのが出発点ですね。

編集部

振ってくれる人がいないなら、自分でつくってしまう。ただ、広告と商品開発では、やることがまったく違いますよね。

棕澤社長

そうですね。ただ、話の順番としては、いきなり食品の商品開発をしよう!ということでもなくて、きっかけが先にあったんですよ。

給食のサラダがおいしい」と言う娘の言葉がヒント

編集部

きっかけが先、と言いますと?

棕澤社長

子どもの給食…なんですよ。サラダが出た日は、「給食のサラダ、ホントにおいしい」って娘が毎回言うんですよね。そんなに美味しいんだ…と思って、どうやって作っているのかを給食センターまで聞きに行ったことがあるんです。「きっとドレッシングが美味しいんですよ」と言われて、レシピも教わってきて。

編集部

お子さんの一言で、わざわざ現場まで聞きに行かれたんですね…!

棕澤社長

それで、自分でも作ってみて本当に美味しかったので、近所の人たちに作ってあげたり、レシピを教えたりしたんですよ。でもそのまま再現するのは、どうやら難しかったみたいで。

編集部

レシピを伝えたのに、同じ味にはならないんですね。

棕澤社長

結局、また作って!という話になる。だったら瓶詰めしてお店で売ったらどうなるかな?というのがそもそもの始まりですね。そこからコンセプトやパッケージ、ネーミングを考えて、という実験の要素が強かったです。ちなみに商品化の際には保存のことも配慮してレシピを色々変更しています。あとオリジナルと呼んでいる1種類以外は、全くの自社開発のレシピです。レシピを伺った栄養士さんも、面白がって応援してくれました。

編集部

子どもが野菜をモリモリ食べちゃうドレッシング」という名前もそこからなんですね。この振り切り方は、すんなり決まったんですか?

棕澤社長

いや、揉めたんですよ(笑)。当時一緒にやっていた仲間もいて、本当に子どもに振り切っちゃっていいのか、という話になりました。ただ、そこは振り切ってしまった方がわかりやすいからいいと、僕の意見を通しました。

編集部

売る相手を絞ったほうが、届く…。2014年に発売して、11年も続くロングセラー商品ですよね。

棕澤社長

これ、1本800円以上するので、自分のために買うかと言ったら微妙ですよね。。。でも子どものためだったら、「無添加のものを食べさせたい」という親心で買ってくれるんじゃないか、というマーケティング的な読みもありますね。

絞り出す作業をしないと、絞り出せない

編集部

自分のためには買わないけれど、子どものためなら買う。私はお話を聞いていて、自分のために買いたくなってしまいましたけどね…! 発売から11年、ここから先も広げていくとしたら、何が要りそうですか?

棕澤社長

私は広告屋さんなので、最初のコンセプトやPRはイメージできるのですが、販売量をスケールするノウハウが足りない。大掛かりに販促資金を投入するまでの商品でもないよなあと。なので地道にリピート客を増やす方向で頑張っています。

編集部

つくることと、売ることは別の知識・スキルですしね…。

棕澤社長

売ることに注力はしたいですけど、リソースが全然足りていないですね。販売を拡大すると、そういう事務の手間だけはどんどん増えるわけで。卸の会社さんが何箇所かあって、そうじゃない仕入れ先もあって…。月末の請求で、もう発狂しそうになります(笑)。

編集部

ところで、AIの導入などはいかがですか。

棕澤社長

事務作業もそうですが、本業のコピーライティングもAIに奪われそうですよね(涙)これまでも案出しで、こういう考え方でこの方向性で10個、20個考えて、みたいなことはAIにやらせてみたこともあるんですけど、やっぱりね、なんか良いアイデアが出てこなくて。

編集部

10個、20個出させてみても、使えるものが出てこない。そこはまさに、棕澤社長が訓練してこられた部分ですよね。ただ、思ったんですけど、今からこの仕事に入る方は、最初からAIがある状態で始めると思うんです。同じように、出して絞っての訓練をするでしょうか…?

棕澤社長

AIがすでにある時代にこの業界に入ってきた人って、そんなことしたくないかもしれないですよね。ただ、人間的な感覚をどう盛り込んでいくかって、結構大事だと思ってるんですよ。訓練をすっ飛ばしちゃうと、どうしても機械に頼りたくなっちゃうじゃないですか。つまり、絞り出す作業を経験しないと、絞り出せないんですよ。AIの言っていることの良し悪しの判断も、結局つかないと思うんです。

編集部

良し悪しの判断ができるようになるために、若いうちにやっておいたほうがいいことはありますか?

棕澤社長

私、メンターみたいな存在がいないことが、ずっと悩みなんですよ。この人を目指していけばいいんだ、というのがないまま始めたので。若い時は、おっさんたちが何を言ってるんだと思っていたんですけど、そんな中からも、この人についていこうという人を決めておけばよかったな、と。この仕事って、結局は自分の中で考えている時間が長いんです。誰かと共同で作業することもまずないので、なおさら、そういう人が1人いたほうがいいと思いますね。

編集部

絞り出す訓練は、1人でもできる。でも、その良し悪しを教えてくれる人は、自分ではなかなかつくれないんですね。センスがないから向いていない、ではなくて、数を出す訓練を始めること。そして、この人だという相手を決めておくこと。どちらも、今日から始められることのような気がします。棕澤社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

目次