「認知じゃなくて、思い出してもらうんです。」株式会社エストVISION・池田社長が語る、ファンが生まれる関係のつくり方

マーケティングでは、「認知を取る」「集客する」といった言葉がよく使われます。
一方、株式会社エストVISIONの池田孝治社長が大切にしているのは、その先にある「思い出してもらうこと」です。
大学でマーケティングを学び、その後もマーケティングの仕事に携わってきた池田社長。ファン作りを強く意識するきっかけになったのは、エンターテインメント企業でマーケティングを担当していた頃、競合企業のファンイベントを訪れたことでした。
売上や知名度だけではなく、企業とお客様の間に感情的なつながりを作ること。現在は株式会社エストVISIONで、企業のマーケティングやブランディングを支援しながら、その考えを伝えています。
そもそも、ファンとリピーターは何が違うのか。どうすれば「思い出してもらえる存在」になれるのか。そして、その考え方は企業だけではなく、私たち一人ひとりにも当てはまるのでしょうか。池田社長に伺いました。
株式会社エストVISION
代表取締役 池田 孝治
大学でマーケティングを学び、その後はエンターテインメント企業などでマーケティング業務に携わる。現在は株式会社エストVISIONの代表取締役として、企業のマーケティングやブランディングを支援。企業だけでなく、アーティストやアスリートなど個人のファン作りにも取り組んでいる。
ファンは、リピーターではなく「感情でつながっている人」

編集部今、エストVISIONさんでは「ファンを作りましょう」と企業に伝えているそうですね。ここでいうファンって、一度買ってくれた人にまた買ってもらう、という話とは違うんですか?



違いますね。よく「既存のお客様に2回、3回と売ったほうが効率がいい」と言われますけど、それだけではないんです。ファンって、リピーターではなくて、エモーショナルな結びつきじゃないですか。 単にもう一度買ってもらうというより、そういう関係を作ることを経営の方向性として考えていきましょう、という話なんです。



「集客する」と「ファンを作る」では、そもそもの発想が違うんですね。



そう思います。「集客」をキーワードにすると、どうしても「値段を下げよう」という方向に行きがちなんですよね。でも、「ファンを作る」と考えると、「そもそもうちの会社の優位性って何なんだろう」「なぜ自分たちを選んでもらうんだろう」と考えるようになる。だから、私たちは「ファン作り」という言葉をキーワードにしているんです。



安くして人を集めるのではなく、「なぜこの会社なのか」を考えるところから始まる…。



ファン作りって、何か一つ施策をやれば終わりという話ではなくて、会社としてどうありたいのかというところに関わってくると思うんですよ。
競合のファンイベントを見て、「これはやばい」と思った



池田さん自身が、そこまで「ファン」を意識するようになったきっかけは何だったんでしょう?



昔、マーケティングの担当者として働いていた頃ですね。競合に、すごく濃いファンを持っている会社があったんです。一方で、自分が勤めていた会社も売上は大きかったし、ブランドとしての価値もあった。でも、「うちには、どれくらい濃いファンがいるんだろう」と考えたときに、この先ちょっと心配だなと思ったんです。



売れてはいる。でも、その会社自体を応援してくれる人がどれだけいるのかは別だったと。



そうなんです。特にエンターテインメントって、ヒットビジネスなので当たり外れの波がすごくあります。当たっている年はいいけれど、そうでないときは苦しい。そのときに、ファンのお客様がいてくだされば、事業を下支えしてくれるんじゃないかと思ったんですね。



なるほど。そう考えると、ファンの存在はかなり大きいですね。



その競合の担当者とは実は競合でありながらも仲が良くて、ファンイベントに招待してもらったんです。行ってみたら、ファンの熱量に圧倒されて。「これはやばい」と、ものすごく危機感を持ちました。 会社の中では、まだ誰もそんなことを考えていなかったんですけど、「うちのブランドにもファンを作らないとダメだ」と考えて、その翌日から動き始めました。広告戦略の予算配分を変えたり、社内を説得したり。



翌日から動いたんですね。それって、すぐに売上にも表れたんでしょうか?



いや、すぐには出ないんですよ。今もマーケティングコンサルタントとしてお客様とお話しするときには、「ファン作りはすぐに結果が出るものではありません」とお伝えしています。3か月後の売上を上げるための施策はできますが、中長期で見たときに、ファンを作っていく方向と矛盾しない範囲でやらないといけない。今すぐファン作りに大きな予算をかけられなかったとしても、「自分たちはこの方向へ進む」という一貫性は、最初から持っていたほうがいいと思います。
認知じゃなくて、思い出してもらうんです





では、普通のお客様が「ファン」になるには、何が必要なんでしょう?



まず、ファンになっていただくには、認知じゃなくて、思い出してもらうこと。 大事なのはそこですね。難しいマーケティング用語は置いておいて、お客様の頭の中の「浅い引き出し」に入るようなイメージです。何かあったときにパッと思い出してもらうには、何かしらの引っかかりが必要なんですよね。



「名前を知っている」だけではなくて、「そういえば、あの会社があった」と浮かぶ状態にするということでしょうか。



そうです。そのために、お客様がその会社に対してどんな感情を持つのかを考えるんです。感心してもらうのか、感謝してもらうのか、共感してもらうのか。最近は、共感を軸にするケースが多いですね。



そこで初めて、SNSやYouTubeなどの具体的な施策を考えるんですね。



そうですね。大きな施策を打つことよりも、まず経営の方針として考えていただくことが一番大事です。例えば「三方よし」とおっしゃる経営者の方はたくさんいますけど、「どこまで真剣にそれを思っていますか」という話なんですよね。まず経営者自身が納得して、「自分たちの会社なら、どういう形になるのか」を考える。その次は社員の方です。



経営者だけが理解していても、会社としては一貫しないですもんね。



おっしゃる通りです。私がブランディングをお手伝いするときは、社員の方にも入っていただきます。会社によってはチームを作ってもらうこともありますし、複数の部門から参加してもらうこともあります。全部を社内だけでできるようにする必要はありません。ただ、会社という組織として同じ方向を向くところまでは、最低限やらないといけないと思っています。



発信についても、その方向性から外れないことが大事なんでしょうか?



大事ですね。例えば、もともとInstagramやXをやっている企業でも、「商品を告知する場所」という考えだけで運用しているケースはあります。もちろん告知すること自体が悪いわけではありません。でも、自社のブランドに関心を持っていただくという目的で考えると、今出したほうがいい商品もあれば、「今の流れには合わないから出さないほうがいい」というものもある。そういう一貫性が整ってくると、反応も良くなっていきます。



なるほど…。ファンが増えると、売上以外の部分でも会社にとってプラスがあるんですか?



あります。ファンになってくださった方とはコミュニケーションができるので、「自分たちが進んでいる方向は間違っていないか」ということも確認しやすいんですよね。



たしかに、言われてみるとそうですよね。では逆に、そこまで意識していなくても、自然とファンがつく会社もありますか?



ありますね。意図していなくても、個性が際立っている会社は、結果的にファンができやすいと思います。わかりやすい例でいうと、Appleにはスティーブ・ジョブズという強い存在がいましたよね。経営者自身がすごく尖っていて、「自分はこれをやりたい」というものがはっきりしていると、そこについていく社員もいるし、お客様もついてくる。



万人に好かれようとするより、「自分たちはこれをやる」がはっきりしている…。



そうですね。やりたいことがはっきりしているというのは、大きいと思います。そういう会社は、結果として一貫性も保たれやすいんですよね。
自分の「ファン」を増やすなら、まず人の話を聞く



ここまで企業の話でしたけど、この考え方って個人にも当てはまりませんか?「この人を応援したい」と思ってくれる人が周りに増えることも、一種のファン作りですよね。



そう思います。弊社では企業だけではなくて、アーティストやアスリートなど、個人のファン作りもお手伝いしています。今は著名人でなくても、一人の人間として「自分はどういう人なのか」というパーソナリティを作っていくことは大事だと思いますね。



一般の個人が、自分の周りの人との関係において、今すぐできることってありますか?



これは、実はすごく簡単だと思っていて。人の話を聞くことです。 友達でも仕事相手でも、自分の周りの人間関係の中できちんと相手の話を聞く。自分のスタンスとしてそれを意識していけば、おのずと味方は増えていくと思います。



話を聞く…。ただ、聞いているうちに、何かアドバイスしてあげたくなったりしません?



わかります(笑)。何か爪痕を残したくなったり、「こうしたほうがいいですよ」と言いたくなったりする。でも、それって多分、余計なことも多いと思うんです。相手が本当に求めているところにピッタリ合うことを言えるならいいですけど、それよりもまず、「この人はちゃんと自分の話を聞いてくれる」と思ってもらえるかが大事だと思います。



問題を解決することより、「ちゃんと向き合って聞いてくれた」ということ自体が残る場合もあるということですね。



そうですね。一緒に泣いてくれた、ということでも、それは記憶に残るじゃないですか。そうすると、最初にお話しした「思い出してもらえる存在」になる。逆に、適当に相槌を打っていただけなら、良い意味ではなかなか思い出してもらえないですよね。



企業のファン作りで話していた「感情」が、ここでもつながってくるんですね。



そうですね。感心してもらうのか、感謝してもらうのか、共感してもらうのか。それも、その人自身のパーソナリティによりますけど。どれか一つだけという話ではなくて、一つを意識し始めれば、ほかの部分にもつながっていくと思います。
「いい質問ができる若手」は、それだけで記憶に残る





これから就職や転職をする若い方だと、「思い出してもらう」というのは面接でも関係してきそうです。



そうですね。若い頃って、面接に行ったときに「質問することの重要性」って、まだあまりわからないじゃないですか。特に新卒の面接だと、「何か質問ありますか」と言われても、福利厚生だったり、求人票に書いてあることしか聞けなかったりする。でも、企業側って、そのときに「この人はどんな質問をする人なのか」というところを、ものすごく見ているはずなんです。



質問の内容だけで、その人が何を考えているかが結構見えますよね。



そうなんです。いい質問ができる人って、それだけで記憶に残りますよね。もちろん、自分のための質問が悪いわけではありません。ただ、それが「報酬はいくらですか」という話だけではなくて、「この会社で自分はこういうことを実現したい」と考えていることが伝わる質問だったら、「この人は自己実現についてちゃんと考えているんだな」と感じますよね。



企業のファン作りも人のファン作りも同じで、「どうすれば相手の中に残るか」という話につながってくるんですね。



そうだと思います。企業でも個人でも、相手の感情に何かが残るから、あとで思い出してもらえるんです。だから、何か特別なことをするというより、まず相手の話をきちんと聞いたり、自分が何を考えているのかを伝えたり、そういうコミュニケーションを今からでも積み重ねていくことが大事なんだと思います。



ここまでのお話を聞くと、「思い出してもらう」ために必要なのは、派手に目立つことではないんですね。企業なら、自分たちは何を大切にする会社なのかを考え、社員と共有し、お客様とのコミュニケーションを続けていく。人なら、まず相手の話をきちんと聞く。そして、自分が何を考え、何を大切にしている人なのかが伝わる関わり方をする。池田さんが話す「ファン作り」は、単に人を集めるためのマーケティング手法ではなく、何かあったときに「あの会社」「あの人」と思い出してもらえる関係を積み重ねていくことなのだと感じました。池田さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

