「与えられた環境で、まず結果を出す」。株式会社iiもの本舗・片岡社長が語る、挫折から始まった挑戦と人との出会い

希望していた大学に合格したものの、わずか半年で退学。就職活動でも、自分が何をしたいのかわからず、周囲と同じように動くことができなかった。株式会社iiもの本舗の代表取締役社長・片岡信明社長には、そんな学生時代がありました。
その後、ドラッグストア業界へ進んだ片岡社長は、目の前の仕事で成果を出すことに力を注ぎ、20代で約40人が働く店舗の店長を経験。商品の仕入れを担当するバイヤーなども務め、仕事の幅を広げていきました。
現在は、日用品、化粧品、医療機器などの商品開発を手がける株式会社iiもの本舗の社長として、約10人の従業員とともに事業を運営しています。
そんな片岡社長が大切にしているのは、今の能力だけで人を判断しないこと。
進路を選び直した経験や、仕事を通じて生まれた出会いを振り返りながら、働くことへの考え方や若い世代への思いを伺いました。
株式会社iiもの本舗
代表取締役社長 片岡 信明
東京都出身。東京理科大学を半年で退学し、再受験を経て立命館大学法学部へ進学。卒業後はドラッグストア業界の3社で店舗運営や商品仕入れなどを経験。20代で従業員約40人、年間売上約12億円規模の店舗の店長を務める。42歳で現在のグループ会社に入社し、株式会社iiもの本舗の立ち上げに参画。現在は同社の代表取締役社長を務める。
希望した大学を半年で退学。「自分に合う道」を選び直した経験
編集部まずは片岡社長のこれまでの歩みから伺いたいのですが、学生時代はどのように過ごされていたんですか?



実は、大学時代の経験が、その後の人生で物事を決断する時の大きな転機になっているんです。僕は東京出身で、高校はいわゆる進学校に通っていました。頑張って勉強して、現役で希望していた東京理科大学に合格できたんですよ。家族も喜んでくれましたし、自分でもよかったと思っていました。でも、その大学を半年で辞めてしまったんです。



えっ、せっかく合格した大学を半年で辞めてしまったって…。一体何があったんでしょう?



入学してみたら、想像していた大学生活とは違っていたんです。周りの学生ともあまり合わなくて、つまらないと感じてしまったんですよね。今考えると、大学が悪かったわけではありません。僕はもともと人が好きなのに、大学を選ぶ時は数学が得意だとか、偏差値が高いとか、就職に有利そうだとか、そういうことばかり考えていたんです。自分が何を好きなのか、ちゃんと考えられていなかったんですね。



そこから、もう一度大学を受験しようと考えられたんですか?



はい。父に相談したところ、「もう一度受験するなら、今の大学は辞めろ」と条件を出されました。当時は、大学に在籍したまま別の大学を受験する「仮面浪人」という選択肢もあったんですが、父は若いうちに保険をかけながら進むことを僕にはしてほしくなかったんです。進路を変えること自体には反対されませんでした。それで、本当に大学を辞めて、改めて受験したんですよ。



進学先が決まっていない状態での退学とは、思い切った決断ですね。再受験はどうだったんでしょう?



関西の立命館大学に合格しました。次は、いろいろな人がいる総合大学に行きたいと思っていたんです。また本当に学びたいことを再考し、理系から文系に変更しました。立命館大学には全国から学生が集まっていましたし、サークル活動やアルバイトを通じて、ほかの大学の学生とも知り合えました。関西で初めて一人暮らしも経験しましたね。大学生活は本当に楽しかったです。



最初の大学とは、ずいぶん違う学生生活になったんですね。



そうですね。世間からの評価や偏差値よりも、自分に合っているかどうかが大切なんだと、後になってわかりました。最初の大学に進学したことも無駄だったとは思いません。ただ、自分の好きなことを考えずに選んでしまった点は反省しています。あの経験は、その後の仕事の選び方にも影響していると思いますね。
「これから伸びる業界へ行け」。父の助言で選んだドラッグストアの仕事



大学卒業後の就職先は、どのように選ばれたんですか?



そこでも結構悩みました。当時は銀行や証券会社、マスコミ関係などが人気でしたけど、僕は周りと同じように就職活動をする自分が想像できなかったんです。ただ、学生時代のアルバイトを振り返ると、お客様と接する仕事が楽しかったんです。それに、商品を売って代金をいただき、それが会社の収入や従業員の給料につながる。そういう商売の仕組みがわかりやすかったので、小売業界へ進もうと考えました。



小売業にもいろいろありますが、最終的にドラッグストアを選ばれたのはなぜだったんでしょう?



実は、それも父の助言なんです。スーパーやホームセンターなどがある中で、父は当時のドラッグストアを、これから成長する業界だと考えていたんですよ。それと、父が言うには、会社が成長して店舗が増えれば、店長や本部で働く人も新たに必要になる。そうすると、若い社員にも責任のある仕事を任せる機会が増える、と。だから、目先の給料や休日日数だけでなく、若いうちからいろいろな経験を積める業界に進んだ方がいいということでした。父は厳しくて、若い頃はよくケンカをしていましたが、就職についてはよく相談していましたね。



結果的には、その助言が進路を決めるきっかけになったんですね。実際に働いてみて、いかがでしたか?



当時のドラッグストア業界で大手だった会社に入社したんですが、給料もよくて休みも多く、想像以上に恵まれた環境でした。…ところが、僕はそれが少し物足りなくなってしまって。もっと大変な環境で挑戦したいと思うようになったんです。



恵まれた環境を離れてでも、挑戦したかったんですね。



そうなんですよ。結局、最初の会社には1年ほどしかいませんでした。次に転職したのは、群馬県にあった、最初の会社より規模の小さなドラッグストアです。そこで、まずは店長を目指しましたね。店長になると、商品の販売だけでなく、売上や従業員、お金の管理まで任されます。採用にも携わりますから、会社員でありながら経営者に近い経験ができるんですよ。



なるほど。その店長になるためには、どんなことに取り組まれたんですか?



僕の場合は、とにかく結果を出すことでした。例えば、店であまり売れていない、1個5,000円ぐらいするビタミン剤を月に10個売りなさいという目標が出されることがあったんです。普通なら10個仕入れるところかもしれませんが、僕は最初から30個発注してしまうんですよ。



目標の3倍…!最初から目標を大きく上回ることを考えていたんですね。それを売り切るために、どうされていたんでしょう?



30個仕入れたら、1か月で売り切るには1日1個売らなければいけませんよね。では、1日1個売るためには何人のお客様に声をかければいいのか。1人に声をかけて必ず売れるわけではありませんから、10人に声をかける必要があるかもしれない。そうすると、毎日何をすればいいのかが決まってくるんですよ。もちろん、誰にでも声をかければいいわけではありません。興味のないお客様に無理に勧めたら迷惑ですから。お客様をよく見て、どんな方に必要とされる商品なのかを考える。商品のことも勉強して、説明できるようにする。そういうことを繰り返していましたね。



売上目標を達成するために、自分の行動まで具体的に決めていたんですね。



そうです。周りが10個を目標にしている中で、30個売れれば目立ちますよね。「片岡に店長を任せたら、売上を伸ばせるんじゃないか」と考えてもらえるわけです。僕は決して誰にでも気に入られるようなキャラクターではなかったので、評価してもらうには結果を出すしかないと思っていました。大学を辞めたり、就職活動で迷ったりして、友人に劣等感を持っていたところもあったんです。だからこそ、社会に出たら、まずは与えられた環境で成果を出そうと考えていました。
20代で年商12億円の店舗を任される。店長とバイヤーの経験が教えてくれたこと



店長になられてから、特に印象に残っていることはありますか?



20代の頃、従業員が約40人いるお店を任せてもらったことですね。売上は月に約1億円、年間だと約12億円という規模でした。売上の目標や従業員の働き方など、考えることが多くて大変でしたよ。当時の僕は、仕事の経験も人間としての経験も、まだまだ足りませんでしたから。でも、大きな仕事を経験したことで、その後は「あれだけのことを経験できたんだから、やれるんじゃないか」と考えられるようになりました。成果を出せたこと以上に、自分自身が成長できたことが大きかったですね。



20代でそこまでの経験を積めたのは大きいですね。その後も店舗の仕事を続けられたんですか?



いえ、その後は本部に異動して、商品の仕入れを担当するバイヤーになりました。ここでも最初は苦労したんです。というのも、店長の時はお客様や従業員のことを中心に考えていましたが、バイヤーになると取引先の事も考えなければいけません。例えば、店長の頃は、売り場の立場から「どうしてこんな商品を仕入れるんだろう」と疑問に思うこともありました。でも、実際に仕入れる側になると、それまで見えていなかった事情がわかるようになるんですよ。そうして店舗運営と仕入れの両方を経験し、仕事の幅も広がりました。結果、30代で部長職にも就きましたが、経営方針と自分自身との考え方が合わなくなり、最終的に会社を離れることになりましたね。



そうだったんですね…。次の転職先では、どのようなお仕事を?



東京都内の別のドラッグストアへ転職しました。本部で働く話もありましたが、僕はもう一度、店舗の現場から始めたいと伝えたんです。会社が変われば、そこで働く人も仕事の進め方も違います。現場を知らないまま本部で指示を出しても、理解してもらうのは難しいと思ったんですよ。それで店舗から始めて、再び店長になり、その後は本部で仕入れを担当しましたね。



経験があっても、まずは新しい現場を知ることを選ばれたんですね。



そうです。ただ、その会社でも最終的には経営者との考え方に違いを感じるようになりまして。ドラッグストア業界で3社を経験して気づいたのは、いくら仕事で成果を出しても、社長と考え方の相違があったら、同じ会社で働き続けるのは難しいということでした。だから、次に転職するなら、仕事内容や待遇だけではなく、自分が一緒に働きたいと思える人のところへ行こうと考えたんです。
「最後はこの人と働きたい」。20代の出会いが42歳での転職につながった



一緒に働きたいと思える人となると、なかなか出会えない気もしますけど…。



実は、20代で店長をしていた頃に、とある取引先の社長さんと知り合っていたんです。年齢が比較的近いのに、すでに会社を経営されていて、僕にはない考え方や人としての大きさを感じました。ある時、その方から「片岡君、大きなお店で頑張っているね。今度、一緒に食事でもどう?」と声をかけていただいて、それから親しくなったんです。実は、その方が今のグループの会長なんですよ。



えっ、現在のグループの会長だったんですか!



そうなんです。当時から尊敬していましたが、自分には一緒に働くだけの力がないと思っていたので、転職先としては考えていませんでした。でも、ドラッグストアで経験を積んで、42歳でもう一度転職を考えた時、最後はこの人と働きたい、この人の力になりたいと思ったんです。その頃には妻も子どもも2人いましたから、次が最後の転職になるだろうと考えていましたけどね…。気持ちも固まったところで、現在のグループ会社に入社したんです。



長年のご縁が、42歳での転職につながったんですね。そこから現在のiiもの本舗の立ち上げにも関わることになったんでしょうか?



はい。もともとグループは卸売業が中心だったんですが、自社でも商品を開発していこうという話になったんです。そこで、店舗での販売と仕入れの両方を経験してきた僕に、一緒に新しい会社を立ち上げないかと声をかけていただきました。商品をつくるには、使うお客様だけでなく、仕入れるお店のことも考える必要があります。その両方を経験してきたことを生かせると思い、約8年前にiiもの本舗を立ち上げました。





立ち上げ当初、社長になることは念頭に置いていらっしゃったんですか?



いえ、僕は自分が社長タイプだとは思っていなかったんです。尊敬する社長と働けるようになったので、最高のナンバー2になりたいと考えていました。ただ、会社を次の世代へ引き継いでいくには、組織を整えたり、商品のブランドを育てたりする必要があります。その役割を担おうと思い、社長を引き受けましたね。



そのことは、ご家族…特にお父様には報告されましたか?



はい。父に社長になったことを伝えたら、喜んでくれたんですよ。父は昔から厳しくて、店長やバイヤーになった時も、ほとんど褒められたことがありませんでした。でも、その時は「お前のよかったところは、尊敬できる経営者に出会い、その人と働こうと決断できたことだ」と言ってくれたんです。すごいと思える人に気づいて、自分からその人のもとへ飛び込んだことを評価してくれたんですね。そして、父には、あらためて、「これからは、従業員やその家族を幸せにする責任がお前にはある!」と激励の言葉も頂きました。
「結果を出せる人だけが欲しいわけではない」。一人ひとりの力を生かす会社へ





これから会社を次の世代につないでいく上で、どんな組織にしていきたいと考えていますか?



若い人たちに「iiもの本舗で働きたい」と思ってもらえる会社にしたいですね。僕自身、大学を辞めたり、就職活動で迷ったり、転職を繰り返したりしてきました。だから、仕事がうまくいかなかった人や、今の自分を変えたいと思っている人にも来てもらいたい…。順調に進んできた人ばかりでなくてもいいと思っています。



そうした方を迎える上で、採用では何を重視したいですか?



やはり人間力ですかね。その中でも、物事を自分事と捉えることができる自責志向と、常に相手の立場、気持ちになって考えられる協調性のある人がいいですね。



その理由は?



一つ例をあげますと、弊社の商品開発は、企画、製造、マーケティング、デザイナー、営業といろいろな役割の人がチームとなり行います。新製品について全員に意見を聞くのですが、消費者として実際に便利と感じるか?営業でお客様にお勧めできるか?といった自分自身の立場からの意見を求められると同時に、相反する考えに対して、素直に受け入れてみることが大切なんです。それにより結論が変わることも少なくありません。それから、やっぱり、今の能力だけで判断したくはないですね。例えば、100点の能力がある人でも、仕事に気持ちが向いていなければ、50点や60点の力しか発揮できないかもしれません。反対に、70点の人が安心して働ける環境なら、持っている70点の力を十分に発揮できることもあります。だから、最初から能力が高い人だけを求めているわけではないんです。



では、社員の方が力を発揮できるように、仕事の任せ方なんかも工夫されているんでしょうか?



そうですね。本人がやりたいことや、得意なことを中心に任せるようにしています。僕自身、苦手なことはたくさんありますよ。でも、例えばインターネットやパソコンのことなんかは、若い人の方が詳しいこともありますから、教えてもらえばいいんです。苦手なことを無理に勉強させるより、まずは得意な仕事で力を発揮してもらう。そうすると、もっと上手に仕事をするために必要なことが見えてきて、苦手なことも自分から学ぶようにもなると思っています。



最後に、これからiiもの本舗で働くことに興味を持つ方へ、どんなことを伝えたいですか?



自分で何かをつくってみたい人には、ぜひ来てもらいたいですね。「こんな商品をつくりたい」「世の中にヒット商品を出したい」という気持ちがある方です。その中で、先に述べたような様々な役割があります。うちは現在10人ぐらいの会社ですが、自分が社長の間に少なくとも今の3倍に成長させて、次の世代へ・・・と考えております。そうなれば、現在の従業員はもちろん、これから入ってくる方にも楽しく前向きに働いていただけると思います。全員が自分の得意なことや興味を生かして、一緒に良い商品をつくっていきたいですね。



大学で進路を選び直し、ドラッグストアでは目の前の仕事で成果を追い求め、その経験と人との出会いを通じて現在の道を切り開いてきた片岡社長。一方で、今は社員を能力や実績だけで判断せず、それぞれが力を発揮できる環境をつくろうとされています。最初から自分に合った道を見つけられなくても、経験を重ねる中で新しい選択肢が生まれることもある。片岡社長のお話から、そんな可能性を感じました。片岡社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。

