「一番やってはいけないのは、フィットしない会社に入ること」株式会社人材研究所・曽和社長が語る、“受かるための面接”より大切なこと 

「面接では、どうすればいい印象を与えられるだろう」
「自分の強みをうまくアピールしなければ」

就職や転職を前にすると、面接に受かるための準備に意識が向きがちです。

しかし、株式会社人材研究所の代表取締役社長・曽和利光さんは、「一番やってはいけないのは、落ちることじゃなくて、フィットしないところに間違って入っちゃうこと」だと話します。

京都大学で心理学を学び、リクルートをはじめ3社で人事を経験した後、40歳で独立。現在は採用や人材育成、組織づくりなど、企業が抱えるさまざまな課題の解決を支援しています。

30年以上、人と組織に向き合ってきた曽和社長によると、面接官もまた、思い込みによって応募者を正しく評価できていないことがあるといいます。

では、求職者は何を基準に会社を選び、面接では何を伝えればいいのでしょうか。

曽和社長のこれまでの歩みとともに、面接官の見極め方や、自分に合う会社を見つけるための考え方をじっくり伺いました。

お話を伺った人

株式会社人材研究所

代表取締役社長 曽和 利光

京都大学教育学部教育心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社。人事採用部門で経験を積み、ゼネラルマネージャーを務める。その後、ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスで人事責任者を歴任。2011年に株式会社人材研究所を設立し、代表取締役社長に就任。採用、人事制度設計、人材育成、組織開発など、人と組織に関する幅広い支援を行っている。

目次

心理学から人事の世界へ。3社での経験が変えた「いい会社」の考え方

編集部

曽和社長が人事のお仕事を始めたきっかけから教えていただけますか?

曽和社長

もともと大学では心理学を勉強していて、本当はカウンセラーのような仕事をやってみたいと思っていたんです。ただ、僕はよくしゃべる方なので、カウンセリングは向いていないかもしれないなと思って(笑)。

編集部

(笑)。なるほど、そこで少し違う方向に目を向けられたんですね。

曽和社長

それと、臨床の分野は病気の方など、支援を必要としている方を対象にすることが多いですよね。もちろん、ものすごく社会的意義のある仕事です。でも僕は、普通に働いている人たちにも、いろいろな悩みや大変なことがあるだろうと思ったんですよ。そういう人たちが元気に働けるようになれば、社会全体の力も上がっていくんじゃないかと。そんなときに、先輩から人材ビジネスの話を聞いて、「こういう仕事があるんだ」と知りました。それがきっかけでリクルートに入社して、人事の仕事を始めたんです。

編集部

そこから、ずっと人事のお仕事を?

曽和社長

そうですね。もう30年以上になります。リクルートが一番長かったんですけど、その後はライフネット生命保険、最後にオープンハウスで人事の責任者をやらせていただきました。この3社で働いたことは、自分の考え方が変わる大きな経験になりましたね。

編集部

どのような変化があったのでしょうか?

曽和社長

3社とも、すごく個性の強い会社なんです。でも、それぞれ全然違うやり方で成功しているんですよ。リクルートにいたときは、僕自身もリクルートの価値観に染まっていて、「こういう会社がいい会社なんだ」と思っていた部分がありました。でも、別の会社に移ってみると、全く違う価値観でもちゃんと成り立っている。そこで、正解は一つじゃないんだと気づいたんです。人間が多様なんだから、その受け皿になる組織も多様な方がいい。ガツガツ働くのが合う人もいれば、そうではない人もいる。どちらがいい、悪いという話ではないんですよね。それぞれが自分に合った会社を見つけて、そこで活躍できればいいと思うようになりました。

編集部

なるほど。実際に違う会社を経験したからこそ、そう感じられたんですね。

曽和社長

はい。それで40歳になったときに、一つの会社の人事責任者として働くのではなく、いろいろな会社を支援する仕事がしたいと思ったんです。それまでは自分が所属する会社を良くすることが一番でしたけど、もっと社会全体に目を向けて、さまざまな会社がそれぞれの持ち味を生かせるようにしたいと。そうして2011年に人材研究所を立ち上げました。

編集部

今は具体的な業務で言うと、採用のお手伝いが中心なんでしょうか?

曽和社長

採用もそうですし、人事制度の設計や育成、マネジメント、離職の問題など、幅広い課題に関わっています。僕らは「人と組織の可能性の最大化」と言っているんですが、そのお手伝いをしているということですね。

「このタイプだから、こういう人」は間違い?人を見極める難しさ

編集部

採用では、応募者の性格や適性を見極めることも大切ですよね。例えば、「こういうタイプの人は営業に向いている」といった分類は、実際の採用でも役立つものなのでしょうか?

曽和社長

うーん、そうですね。例えば、働くうえで人間関係を大切にする人もいれば、知的好奇心を満たしたい人もいる。市場価値を高めたい人もいれば、待遇を重視する人もいますよね。だから、ある程度タイプ別に考えることはできると思うんです。ただ、そこで気をつけないといけないのが、人間ってそんなに単純に分けられるものじゃないということなんですよ。同じような価値観を持っていても、一人ひとり違う部分はあります。それなのに、「この人はAタイプだから、こういう人だ」と決めつけてしまうと、結局、目の前の相手をちゃんと見なくなってしまうんです。

編集部

なるほど。分類すること自体ではなく、それだけで決めつけてしまうのがよくないんですね。

曽和社長

そうです。僕自身も適性検査をつくったりしていますし、職務適性の研究など、パターンを勉強すること自体は大切だと思っています。ただ、僕がよく言うのは、「パターンは勉強した方がいい。でも、目の前に一人の人が来たら忘れろ」ということなんです。どのパターンに当てはまるかばかり考えていたら、相手そのものを見なくなりますから。最近流行っているMBTI診断のようなものも、ある程度の見立てをつけるためのガイドとして使うのはいいと思います。でも、それだけで人を決めつけていいものではないんです。

編集部

たしかに、診断結果だけではわからないこともありますもんね。では、実際の採用では、どうやって相手のことを理解していくのでしょうか?

曽和社長

まずは信頼関係をつくることですね。採用する側とされる側って、はじめはお互いに疑い合っているようなところがあるじゃないですか。だから面接官も自分のことをきちんと伝えて、「この人になら話してもいいかな」と思ってもらうことが大切なんです。

編集部

面接ってどうしても緊張しますし、相手がどんな人かわからないと、求職者側は無難なことしか話せなくなりそうですもんね。

曽和社長

そうなんです。そうして本音を聞けるようになって初めて、その人が何を大切にしているのか、どんなことに興味があるのかがわかる。そこから、その人に自社のどんな部分が合うのかを考えていくんです。誰にでも通用する言葉があるわけではなく、一人ひとりを理解することが出発点なんですね。

明るく堂々とした人が高評価?面接官も正しく人を見られるとは限らない

編集部

求職者目線だと、面接官が自分のどこを見ているのか気になります。実際には、どんなところで評価が分かれるのでしょうか?

曽和社長

これが難しくてですね。そもそも、多くの面接官が正しく人を見極められているとは限らないんです。人間が面接をすると、どうしてもバイアス、つまり思い込みや先入観が入りますからね。

編集部

面接官も人間ですもんね…。本人は公平に評価しているつもりでも、無意識のうちに自分が好感を持つタイプの人を高く評価してしまうこともありそうです。

曽和社長

面接では、外向性と情緒安定性が高い人が評価されやすいという傾向があるんです。外向性は外の世界に関心が向いていること、情緒安定性はわかりやすく言えば堂々としていることですね。こうした特徴を持つ人は、会社がどんな採用基準を設けていても、面接という方法では高く評価されやすいんですよ。

編集部

それは、なんとなくわかる気もしますね…。元気でハキハキしている人は頼もしく感じますし。でもそれでいくと、面接で評価されにくいポイントもあるのでしょうか?

曽和社長

あります。例えば、誠実さや知的能力ですね。真面目にコツコツ取り組むとか、物事をきちんと考えるとか、そういう特徴は面接ではなかなかわからないんです。でも、実際の仕事の成果との関係で言えば、誠実さや知的能力の方が重要になることも多いんですよ。つまり、明るく堂々と話せる人が高く評価される一方で、本当は仕事ができる人が評価されないこともあるわけです。

編集部

話し方や第一印象だけでは、わからないことも多そうですね…。

曽和社長

そうなんです。だから、人事の世界でも、人間が行う面接の精度が問題になっているんですね。面接官自身が、自分にはどんなバイアスがあるのかを認識して、それをコントロールしなければいけない。ただ、実際には十分にトレーニングを受けていない人が面接を担当することもあるじゃないですか。だから僕は、人事担当者には理想的な面接官になりましょうという話をしますし、求職者には、面接官が必ずしも正しく評価してくれるわけではないことを知っておいてほしいと思っています。

細かく聞いてくる面接官は、むしろいい面接官かもしれない

編集部

求職者側から、いい面接官かどうかを見分ける方法はあるのでしょうか?

曽和社長

一つは、どれだけ細かく質問してくるかですね。例えば、アルバイトの経験について「都心の大きなカフェで働いていました」と答えたとします。でも、都心といっても歌舞伎町なのか丸の内なのかで全然違いますよね。大きなカフェといっても、どれくらいの規模なのかわからない。そこで、「どこのお店ですか」「何人くらいで働いていたんですか」「どんな仕事を担当していたんですか」と細かく聞いてくる人は、いい面接官だと思います。具体的な事実を確認して、そこからその人の能力や性格、価値観を理解しようとしているからですね。逆に、「へえ、そうなんだ」で終わってしまう人は、詳しいことを知らないまま勝手に想像している可能性がある。その想像に、バイアスが入ってしまうんですね。

編集部

細かく聞かれると、少し緊張してしまいそうです(笑)。

曽和社長

そうですよね。でも、「めちゃくちゃ細かく聞くな」と感じるくらいの人の方が、実はいい面接官だったりするんです。気持ちよく話せたからといって、必ずしも正しく評価してもらえているとは限らないんですよ。

編集部

反対に、こちらから会社について質問するときは、何を聞くといいのでしょうか?

曽和社長

僕は、面接官本人について聞くといいと思います。例えば、「なぜこの会社に入ったんですか」「働いていて面白いことは何ですか」「自分では、この会社のどこを変えた方がいいと思いますか」といった質問ですね。

編集部

会社のことというより、面接官自身のことを聞くんですね。

曽和社長

よく、若手の採用担当者に「御社の将来のビジョンを教えてください」と聞く人がいますけど、その人は社長じゃないんだから、答えられないこともあるじゃないですか。それよりも、その人自身が実際に経験していることや、働いていて感じていることを聞いた方がいいと思うんです。もちろん、相手が全部正直に話してくれるとは限りません。それでも、その人の言葉を通して会社を知ることはできますから。

「よく見せる対策」と「ちゃんと伝える対策」は違う

編集部

最後に、これから面接を受ける若い方に、アドバイスをいただけますか?

曽和社長

よく「どうやったら面接に通るか」とか、「どうやって自分をよく見せるか」という話になりますよね。それも大事ですけど、一番やってはいけないのは、落ちることじゃなくて、フィットしないところに間違って入っちゃうことだと思うんです。

編集部

受かること自体が、ゴールではないということですね。

曽和社長

そうですね。合わない会社に入って苦しんでいる人はたくさんいますから。だから、よく見せようとするための対策は、あまりしない方がいいと思っています。

編集部

ただ、面接に向けた準備そのものが必要ないわけではないんですよね。

曽和社長

そうなんです。「よく見せるための対策」と「ちゃんと伝えるための対策」は別なんですよ。

編集部

その違いについて、もう少し教えてください。

曽和社長

例えば、面接で「お客様に寄り添った提案を心がけています」と話す人がいますよね。でも、それだけでは実際に何をしたのかわからないんです。どんなお客様に対して、何を考えて、どんな行動をしたのか。そこまで具体的に伝えて初めて、相手もその人の能力や性格、価値観を理解できるようになります。

編集部

自分を飾るというより、相手が自分のことを具体的にイメージできるようにするんですね。

曽和社長

そうです。自分がやってきたことを、相手がきちんとイメージできるように準備しておくことは大切です。一方で、実際以上によく見せようとして、違う人物だと思われたまま入社してしまうと、その後が大変ですよね。だから僕は、うまく見せるための準備ではなく、自分を正しく理解してもらうための準備を頑張った方がいいと思っています。

編集部

ここまでのお話を聞いていると、それは求職者だけではなくて、企業側にも相手を正しく知ろうとする姿勢が必要になりそうですね。

曽和社長

そうですね。僕らは人事側の支援をしているので、企業に対しても、応募者が余計な面接対策をしなくても済むように、きちんと話を聞いてあげましょうと伝えています。結局、面接って「受かるか、落ちるか」だけの場じゃないと思うんです。自分がどういう人間なのかをきちんと伝えて、会社のこともきちんと知って、そのうえで「ここなら自分はやっていけそうだ」と思える場所を見つける。そのための時間なんじゃないでしょうか。せっかく働くなら、無理に自分を変えて入った会社で苦しむより、自分らしく力を発揮できる場所に出会ってほしい。僕は人事の仕事を30年以上やってきましたけど、最終的にはそこが一番大事だと思っています。

編集部

大学で心理学を学び、人事の世界に入ってから30年以上。独立後はさまざまな企業の採用や育成、組織づくりを支援してきた曽和社長。その長い経験の中でたどり着いたのが、「いい会社の正解は一つではない」という考え方でした。人によって大切にしたいことは違い、会社にもそれぞれ違った個性があります。「一番やってはいけないのは、落ちることじゃなくて、フィットしないところに間違って入っちゃうこと」30年以上、人を採用する側と組織をつくる側の両方を見てきた曽和社長だからこそ、この言葉には重みがあります。目の前の合否だけにとらわれず、自分をきちんと伝えながら、相手の会社についても知っていく。その先に、自分らしく力を発揮できる場所との出会いがあるのかもしれません。曽和社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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