「どのみち、1から学び直しなんです。」株式会社かえでプロダクション・羽根社長が、業界初の未経験者採用で見ている”真っさらなほうがいい”という基準

「未経験歓迎」と書いてある求人でも、結局は経験のある人が採られるのだろう…。そう思って、応募をためらったことはないでしょうか。

もとは塾で教えていた株式会社かえでプロダクションの羽根大介社長は、「どのみち、1から学び直しなんです」と語り、経験のあるなしで線を引きません。

京都で小中高の教材をつくる会社を経営し、業界では珍しい未経験者の採用を続けてた羽根社長に、今回は業界で初めて未経験者の採用を始めた理由と、入ったあとの育て方について、じっくりお話を伺いました。

読み終わる頃には、未経験採用を積極的に行う会社が何を見ているのか、少しわかってくるはずです。

お話を伺った人

株式会社かえでプロダクション

代表取締役 羽根 大介

長く塾講師を務めたのち、塾用教材の出版社へ移り、編集と営業の両方を担当。2009年に株式会社かえでプロダクションを設立。小中高の学習教材について、執筆・編集・校正から組版・印刷までを手がける。業界では珍しい未経験者の採用を早くから続け、現在は18名の社員が全科目の教材をつくっている。

目次

体で覚えてもらった方がいいんじゃないかな

編集部

かえでプロダクションさんは、小中高校生の教材をつくっていらっしゃるとのことですが、代表である羽根社長は、もとは塾の講師だったんですよね。

羽根社長

そうです。塾講師を長くやっていて、そのあと塾用教材の出版社に移りました。そこで教材を作っていく中で、いくつか当たったものがありましてね。

編集部

当たったもの、といいますと?

羽根社長

例えば理科の教材で使った「なぞり文字」ですね。英語では昔からあったんですけど、それを理科に持っていったのは、たぶん私が最初でした。というのも、暗記科目の教材って、覚えてほしい重要単語が黒い太字で刷ってあるのが当たり前だったんですよ。そこを、太字ではなくうすい文字にして、生徒さんが上からなぞって書く形に変えたんです。

編集部

見て覚えるものを、書いて覚えるものに変えたわけですね。それは、何から着想を得たんですか?

羽根社長

勉強が苦手な子を観察していると、ぼーっと聞いていることが多くて、単純に書く動作が少ないんですよ。だったら「いま言ったことを書いてください」と言えば、手が覚えます。つまり、体で覚えてもらった方がいいんじゃないかなという考えからですね。

編集部

目の前で生徒さんを見ていらしたからこそ、出てきた発想ですね。

羽根社長

当時は、ちょうど学力が二極化していました。塾用教材は学力の高い層向けが多かったんですけど、個別指導の教室が増え始めて、基礎からやり直す子に向けた教材が足りていなかった…。そこに、私の作った教材がはまった、という経緯もありますね。

教科書って、我々のような一般人でも関われるんだ

編集部

出版社でヒットを出されて、そのまま勤め続ける道もあったと思うんです。会社を辞めて独立されたのは、何が理由だったんですか?

羽根社長

塾で教えていた頃から、塾の中だけで完結するのが引っかかっていたんですよ。あとは、他社さんの教材はどんなものだろう、という興味もありました。みんな自分が使ったものしか知らないと思うんですけど、日本全国にはものすごい種類の教材があるんですよ。それを見たくて、勤めていた出版社を辞めて、自分で編集プロダクションを立ち上げました。

編集部

教材を見たいという思いが、そのまま独立につながったんですね。立ち上げたばかりの頃は、どんな仕事から入られたんですか?

羽根社長

まだ一人でやっていた頃に、教科書の関連会社さんから「ちょっと変わった問題を考えてくれ」と頼まれましてね。ちょうど「思考力」という言葉が出てきた時期で、教科書と一緒に配られる副教材のネタを出しました。そうしたら、それを見た大学の教授が「この人、面白いね」と言ってくださって。

編集部

教授のお墨付き…!どんなネタだったんですか?

羽根社長

金の冠を水に沈めて、本物かどうかを重さから確かめる、という問題ですね。当時はそういうネタが全然なかったんですけど、気がついたら教科書に普通に載っている内容になっていました。それで初めて、教科書って我々のような一般人でも関われるんだとわかったんです。だったら行けるところまで行こうじゃないか、と。

編集部

そこで、決意を固められたんですね。

羽根社長

教材は極端に言えば誰でも作って発表できます。ただ、教科書は国が認定しないといけないものなので。教育の本質に関わろうと思ったら、行き着くのはそこなんですよ。

編集部

その世界には、同じような会社がたくさんあるものなんですか?

羽根社長

それが、法人は少ないんです。こんな世界があるのか、というぐらい私も知りませんでした。個人でやられている方が多くて、片手で数えられるぐらいでしたね。ただ、入ってみると意外と自分の肌に合ったという感じですね。

編集部

個人でやられている方が多いというのも、意外でした…。

いまの学習指導要領は、知らないはずなんですよ

編集部

社員の方は、いま何人ぐらいいらっしゃるんですか?

羽根社長

18人ですね。弊社は社員全員に、執筆も編集もやってもらっています。執筆は外部に回すのが普通なんですけど、社内でできることを売りにしてきました。

編集部

執筆までとなると、教材や教育の経験がある方を集めていらっしゃる感じですか?

羽根社長

それが逆でして。この業界はずっと経験者採用しかやってこなかったんですけど、法人として未経験者採用を始めたのは、たぶん私が業界で初めてです。

編集部

業界で初めて…!なぜ、そこに踏み切られたんですか?

羽根社長

小中高と、みんな教育を受けてきた側じゃないですか。ただ、いまの学習指導要領は知らないはずなんですよ。20代を超えたら、自分が習ったことは覚えていても、いまのは知らない。つまり、どのみち1から学び直しなんです。それなら経験者でも変わらないので、だったら真っさらなほうがいいんじゃないかと。

編集部

たしかに、言われてみるとそうかもしれませんね…。

羽根社長

そうなんです。しかも、大人になってから学び直すと、意外と頭に入ってくるんですよ。割り算の仕組みはなぜこうなんだろう、というのは、いまのほうがよくわかります。つまり、未経験の方でも覚えるのに時間がかかるわけではないんです。だったら育てやすいですし、伸びる余地もたくさんあります

編集部

実際には、どんな方が入ってこられるんですか?

羽根社長

本当にバラバラですよ。メーカー系の研究職もいれば、営業職も営業事務もいます。あとは学校の先生や塾講師だった方も。全員が教育出身というわけではないです。

働きやすい会社は、作れる

編集部

未経験で入られた方は、そこからどうやって仕事を覚えていくんでしょう?

羽根社長

とりあえずやってみる、というところからのスタートになりますね。小中高の12年分の勉強内容を、入社して数ヶ月で身につけるのは無理ですから。しかも、1科目ではないんですよ。

編集部

文系の方なら国語や英語、と決まっているわけでもないんですか?

羽根社長

それが、決まってはないんですよ。教えるのが上手な人が、問題を作るのが上手とは限らない。なので、やってみて合う科目を見つけるのに半年はかかります。文系だった方が理系の科目をやっているパターンもありますよ。

編集部

半年かけて、その方に合うところを探していかれるんですね。

羽根社長

私は、そもそも即戦力という考え方をしていないんです。だから、ゆっくり育てて、ゆっくり身につけてくれたらいいと思っています。現場では先輩にみっちり教えてもらう形ですね。あと、うちは役職がないんですよ。

編集部

役職がない…!

羽根社長

肩書きがあるのは私だけで、あとは全員同じ立場です。経験が違うだけで、先輩後輩というのも形だけですね。ただ、この仕事はやればやるほど技術がついていくので、先輩たちがよく面倒を見てくれています。

編集部

全員同じ立場。それでは採用のときは、どういうところを見ていらっしゃるんですか?

羽根社長

性格診断のテストをやっています。ただ、能力は後から育つので、初めから全部そろっている方は求めません。むしろ欠けていていいですし、バランス感覚を中心に見ますね。

編集部

入ってから伸びる前提で採っていらっしゃると。長く働かれる方も多いそうですね。

羽根社長

平均年齢は28~29歳ぐらいですね。22~23歳で入って、気がつけば10年近くという社員もいます。あとは、長く続くのは福利厚生を強化しているのもあると思います。大企業ではないので高い給料は出せないんですけど、働きやすい会社は作れるんじゃないかなと思っているんです。

編集部

たしかに、そこは会社が決められるところですね。ちなみに、福利厚生でいちばん人気のものは、何でしょう?

羽根社長

無料の自動販売機ですね。社内に3台あって、ボタンを押したら出てきます。というのも、飲み物は毎日絶対に飲むものじゃないですか。毎回コンビニに買いに行くのを見ていたので、出勤したら飲み物がある状態のほうがいいのかなと。あとは育児手当で、子供1人につき月1万円をお渡ししています。

実は私たちが、教育の最前線なんだよ

編集部

ずっと働きたくなる会社ですね…!でも求人は、いまは募集を止めていらっしゃるんですよね。

羽根社長

今は充足しているので、急ぎではないです。ただ、この業界は必ず忙しくなる時期があるんですよ。教科書が変わると、必ず仕事が発生する業界なので。

編集部

その教科書が変わる時期は、決まっているものなんですか?

羽根社長

検定が4年に1回で、その大元になる学習指導要領は10年ごとぐらいに変わるんです。実は次の2030年に、教科書が全部変わることがもう確定していまして。そうなると、ドリルもワークも宿題も全部変えないといけないんです。それを誰がやっているかというと、我々なんですよ。

編集部

通常の何倍もの仕事が、一気に…!

羽根社長

だいたい2、3年前から動き始めるので、今年の秋に新しい指導要領が出れば、教科書メーカーさんが一斉に動きます。そこで人が必要になりますね。求人ではよく「実は私たちが、教育の最前線なんだよ」という言い方をしています。

編集部

教育の最前線。未経験の方にも刺さりそうですね…!

羽根社長

自分たちが作った問題で合否が決まる可能性もありますから、子供たちの人生を左右しかねない重要な役割ではあります。ただ、失敗は別にしていいんですよ。問題は、失敗した後にどうするかだけなので。そこをちゃんとやっていける方であれば、この仕事は頑張れば誰でもできるかなという気がします。

編集部

失敗そのものより、そのあとを見ていらっしゃるんですね。最後に、羽根社長がこれから目指していかれるところを教えてください。

羽根社長

この会社を始めた時は考えもつかなかったんですけど、日本の教育の根元になる本の編集に、名前を残したいなと思っています。実は教科書には全部、後ろに奥付といって、どこの誰が何をしたかが書いてあるんですよ。そこに、弊社の名前が載るようになっていきたいですね。

編集部

教科書の後ろには、どこの誰が作ったかを書いた奥付が。羽根社長は、そこに会社の名前を載せたいと話していました。その名前を一緒に載せる人を、経験のあるなしでは選んでいません。羽根社長が言うように、いまの学習指導要領は、経験者でも知らないからです。応募をためらう理由が1つ減った、そう思えるお話でした。羽根社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。 

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