大学中退から水道インフラの担い手へ|関西水道用品株式会社 戸梶創社長の「ニーズで選ぶ働き方」

水道は、蛇口をひねれば「当たり前に」出てくるもの。けれど、その当たり前を支える仕事の中身を知る人は、意外と多くありません。
汚れる・しんどい・クレームもある。そんな、決して楽とは言えない現場で、水道インフラを支え続けているのが、関西水道用品株式会社の戸梶創社長です。
大学中退から家業に入り、「ニーズのある場所で働く」という視点でキャリアを積んできた戸梶社長。そこには、華やかな肩書きよりも、求められる仕事を選び続けてきたリアルな試行錯誤があります。
今回は、インフラを支える仕事のくわしい内容や、「自分にとっての仕事の土台」を考え直すヒントを、戸梶社長に伺いました。
関西水道用品株式会社
代表取締役 戸梶 創
祖父が創業した関西水道用品株式会社の三代目社長。大学中退後、就職に苦戦したことをきっかけに家業へ。水道資材の販売だけでなく、検針業務やメーター交換、軽微な修繕工事など、水道インフラの現場を担う事業の拡大に注力。現場のきつさやクレーム対応と向き合いながら、若手に知識と技能を継承し、成果が見える評価制度づくりにも取り組んでいる。
大学中退から家業へ。遠回りから見えた「ニーズで仕事を選ぶ」という視点

編集部まずは、戸梶社長のご経歴から伺わせてください。どうして今の水道関連の事業に携わるようになったのでしょうか?



もともと、ここは祖父が作った会社で、父が継いだんです。なので家業といえば家業なんですけど、僕自身は「継ぐつもりはない」と思っていました。自分で別の仕事をしたいな、と。ただ、正直に言うと「これをやりたい」というものがなくて…。大学でもちゃんと勉強しないで、遊んでばかりいたんです(笑)。



大学生あるあるですね(笑)。



気がついたら、もう在学できる期限が来てしまって、「あ、終わったな」という感じで中退しました。



「やりたいことがないまま、大学も途中でやめた」というエピソードは、今の若い方にとってもすごくリアルな話だと思います。



そうかもしれないですね。で、いざ就職しようと思ったら、やっぱりうまくいかなかったんです。学歴も経歴もきれいじゃない。採用する側からすると、やっぱり一番最後の候補になるか、そもそも枠に入れてもらえない。そこではっきり感じました。「自分がやりたい仕事」より、「世の中が求めている人材」の方がニーズがあるんだな、と。



なるほど…。シビアな話ですが、そこで家業に戻る選択肢が出てきたんですね。



そうです。会社の方でちょうど欠員が出て、「ちょっと手伝いませんか」と声をかけてもらいました。最初は「次の就職先が決まるまでの間」という軽い気持ちだったんですけど、世の中そんなに甘くないなと痛感して。だったら、今あるこの仕事をちゃんとやろうと腹をくくりました。



遠回りしたからこそ、「ニーズのある場所で働く」という感覚が身についたんですね。



はい。自分の希望だけで仕事を選ぶと、挫折しやすくなるのかな、なんて思うこともあります。
誰もやりたがらない現場で気づいた、水道インフラの重さとお客さま対応



家業に入られた当初は、どんなお仕事が中心だったのでしょうか?



当時は、物品販売がメインでした。水道資材を水道局さんや工事業者さんに納める、いわゆる「物を売る仕事」です。でもだんだんと、水道局から「検針や作業もやってくれませんか」と要望をいただくようになって。そこから、検針やメーター交換、軽い修繕工事といった業務を広げていきました。



水道検針や修繕のお仕事って、一般の人からはなかなかイメージしづらいですよね。



そうですね。正直に言うと、あまり「みんながやりたい」と言うような仕事ではないかもしれません。汚れますし、体力も使いますし、「朝早く来て」「夜でも来て」と言われることもあります。でも、水道って止めてはいけないインフラですよね。誰にとっても必要なものなので、そこには絶対にニーズがあります。



体力的にもメンタル的にもハードなお仕事だと思います。ちなみに、業務の中で特に気を遣う場面ってどこですか?



検針業務で一番気を遣うのは、お客さまの料金に直結するところですね。読み間違えると、そのまま請求金額が変わってしまいますから。二重チェックを入れたり、体制を工夫したりして、ミスを減らすようにしています。



そうなると、現場のプレッシャーも大きいですよね。



そうですね。それに、水道は全員に配られるものなので、本当にいろんな方がいます。中には、検針に伺っただけで「不法侵入だ」と警察を呼ばれたり、「なんで水道局なのに場所がわからないんだ」と強く責められたりすることもあります。そういうお宅は要注意箇所として申し送りをして、対応を工夫しています。



想像するだけでしんどいですね…。普通の訪問販売なら、「二度と売りません」で終わるところですけど、水はそうはいきませんし。



そうなんです。「そんな言い方をするなら水止めたらええやん」と言いたくなることも、正直あります(笑)。でも水道は生活の基盤なので、こちらが感情で止めるわけにはいきません。だからこそ、現場で対応するスタッフには、肝が据わっていることと、丁寧に説明し続ける根気が必要になります。



クレーム対応や細かい確認作業って、どんな仕事にもつきものですよね。水道のように命に近いインフラの現場で学ぶ「落ち着いて向き合う力」は、どんな業界でも評価につながると思いました。
物売りから現場サービスへ。入札の壁と「評価される仕組み」づくり



会社としては、どのように事業を広げてこられたのでしょうか?



もともとは祖父の代から、物さえ売っていれば成り立つ時代でした。父の代までは、半分くらいはそんな感じだったと思います。でも、水道局の仕組みが変わっていったんです。昔は、水道局が材料を全部買って、工事業者は工事だけをする。今は工事の入札の中に、材料調達も含まれるようになりました。



なるほど。競争の仕組みが変わったわけですね。



はい。水道局の仕事は原則として入札です。1年ごとの契約を取り合うので、とても不安定でした。議会からも「随意契約では透明性がない」と見られますから、競争性と適正価格をきちんと求められます。そこで普通に競争しても、うちのような小さい会社はなかなか勝てません。



そこから、どう打ち手を変えたのでしょうか。



一つは、検針業務を引き受けるようになったことですね。もう一つは、検針用のハンディ端末のソフト開発など、少しずつ業務の幅を広げたことです。さらに最近は、大型の契約を複数年で取るやり方が増えてきました。そこでは大きな会社さんが全体の契約を取って、その中の一部として、うちの得意な業務を任せていただく形になっています。



得意分野に絞って、長く付き合える形を作ってきたんですね。



そうですね。「誰でもできる」仕事は、安くてもやる会社さんが現れます。でも、うちのように「冬は寒く夏は暑い過酷な現場での作業や、細かい作業も引き受ける」と決めてやっていると、だんだん声がかかるようになる。ニーズが減らないところに、会社としての生きる道を見つけてきた感じです。



そうやって、誰もやりたがらない仕事を引き受けてきた分、「それをどう給料や評価で返すか」も大事になってきますよね。社内の評価の仕組みは、どんなふうに考えてこられたんでしょうか。



僕自身がこの会社に入った時、「何を頑張れば給料が上がるのか」が全然見えなかったんです。とりあえず周りの人の仕事を楽にしようと動いても、それが売上に直接つながるわけではない。会社の業績も、自分の給料も変わらない。「ああ、この会社は本当に畳むんだろうな」と思った時期もありました。



そこから、評価の仕組みを変えていったんですね。



はい。今は、水道メーターの交換なら「何個替えたか」、営業なら「どれだけ粗利を出したか」というように、できるだけわかりやすく評価しています。「頑張ったら給料が上がるよ」と言うと、みんな本当に頑張ってくれますから。全体としては、うちの平均年収は日本の平均より、だいぶ上にできていると思います。



評価のルールが見えると、「何を頑張ればいいか」がはっきりしますよね。仕事の成果とお金のつながりがわかる経験は、どこへ行っても必ず役に立つと思います。



そうあってほしいですね。今は、全体をまとめる人たち向けの評価基準も、外部の専門家に依頼して作り始めたところです。
地域の水道を守る人が、水道局から民間の社員に変わりつつある今





今の水道業界って、水道局と民間の会社の役割は、昔と比べてどう変わってきているんでしょうか?



今は、水道局は自分たちで何でもやるというより、仕事をどんどん民間に委託に出している状況なんです。昔のように、「水道局の職員さんが全部わかっていて、何でもできる」という方は、かなり減ってきています。



なるほど。そうなると、地域の水道を実際に支えている人たちの顔ぶれも変わってきますよね。



そうですね。地域の水道を担う人たちが、水道局の職員さんから、民間企業の社員へとシフトしている時代だと思います。うちの会社も、その一員として動いているという感覚があります。



関西水道用品さんの場合は、具体的にどんな部分を担っているんでしょうか。



検針の業務、水道メーターの取り替え、軽い修繕工事などですね。どれも地味ですけど、止めてはいけないインフラを動かすうえで、欠かせない作業です。高齢化や人手不足もあって、「そこをちゃんとやってくれるところ」に、仕事の依頼が集まるようになってきています。



まさに現場を持っている民間企業が、地域のライフラインを支える主役になりつつあるわけですね。



そう思います。だからこそ、若い人には、ここでしっかり知識と技能を身につけてほしいんです。水道の仕組みや現場の作業がわかる人は、この先も業界の中で必ず必要とされます。



たしかに、地域に根づいたインフラの仕事って、一度技術を覚えると、どこに行っても強みになりますよね。若いうちに「手に職」をつけたい人には、大きなチャンスかもしれません。



はい。派手さはないですけど、「この地域の水を支えているのは自分たちだ」という実感を持てる仕事です。そこにやりがいを感じてくれる方には、ぜひ飛び込んでほしいですね。
「稼げるから続ける」その先に見えてきた責任と一歩目



ここまでお話を聞いていると、体力も気力も求められる仕事だと感じます。それでも、戸梶社長が水道の仕事を続けてこられた理由は何でしょうか?



一番シンプルに言えば、「稼げるから」です。きれいごと抜きで言うと、そこが続ける理由のスタートでした。誰もやりたがらない仕事でも、ちゃんと対価をいただけるなら、それは立派な仕事ですから。



そこから、社長としての責任も生まれてきたんですね。



そうですね。今は社員も増えてきて、みんなの給料を払う立場になりました。彼らの生活がありますし、将来いきなり放り出すわけにはいきません。だから、仕事を安定させること、次の世代にバトンを渡すことも、自分の役割だと思っています。



将来的には、後継者に事業を託すイメージもお持ちですか?



一応そういう想定にはしています。ただ、その人が社内から育つのか、外から来てくれるのかはわかりませんし、もし誰も現れなかったら、同じようなことをしている会社に吸収してもらう道もあるかもしれません。水道の仕事自体が途切れない形を、何かしらで残したいですね。



会社としての行き先だけじゃなくて、「水道の仕事自体をどう残すか」まで考えておられるのが印象的です。せっかくなので、その視点もふまえて、これから働き始める若い方にはどんな一歩から始めてほしいか、アドバイスをいただけますか?



そうですね…。まずは、「誰もやりたがらない仕事を一つ引き受けてみる」のがいいと思います。きれいで楽な仕事だけを選ぶと、どうしても競争が激しくなります。でも、ちょっと泥臭い仕事や面倒な仕事を引き受ける人には、必ずニーズがある。そこから信頼が生まれて、次のチャンスにつながります。



たしかに、「あの人に頼めば大丈夫」という信頼は、どの職場でも一番の武器になりますよね。



もう一つは、「何を頑張れば評価されるのか」を自分から確認することです。上司に聞いてもいいし、会社の制度を読み込んでもいい。評価の軸が見えると、「なんとなく頑張る」から「ここを伸ばす」に変わります。それがわかれば、学歴や経歴に自信がなくても、仕事で挽回するチャンスは必ずあります。



ありがとうございます。どんな職種でも、「ニーズのある場所で、評価の軸を意識して動く」ことが、20代のキャリアを強くしてくれそうです。



そうですね。肩書きや学歴より、「この人に任せたい」と思ってもらえるかどうか。そこを意識して、目の前の仕事を一つずつこなしていけば、きっと道は開けると思います。



今日は、学歴やきれいな経歴にこだわらず、「ニーズのある場所で、誰もやりたがらない仕事を引き受ける」という考え方が印象的でした。明日からは、自分の職場で一つだけ面倒な仕事を引き受けてみる。そして、「何を頑張れば評価されるのか」を一度上司に聞いてみることで、キャリアが動き出すかもしれません。戸梶社長、今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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