「3年間、うちでお勉強しませんか。」株式会社Keishin・髙田社長が、資格も経験もない20代に最初に任せているフロントの仕事

求人サイトを開くと、資格必須、経験者優遇の文字が並ぶ。読み進めるほど、応募できそうな仕事が1つずつ減っていく…。そんな経験は、ないでしょうか。

株式会社Keishinの髙田新太郎社長は、資格も経験もないところから始めていい、と言います。「いろんなことができない反面、覚えていけばいろんな道がある」。そう伝えて、入った方の最初の3年をフロントという仕事に充てています。その理由は、管理会社と入居者と業者の間に立ち、現場も自分の目で見て、業界を丸ごと覚えてもらうためです。

今回はそんな髙田社長に、銀行員から建物メンテナンスの会社を興すまでの道のりと、いま力を入れている若手社員の育て方について、じっくりお話を伺いました。読み終わる頃には、資格がなくても始められる仕事があるのだと、思えてくるはずです。

お話を伺った人

株式会社Keishin

代表取締役 髙田 新太郎

東海銀行(現三菱UFJ銀行)に25年勤め、営業の管理職を務める。2002年の合併を機に退職し、新築アパートを手がける工務店へ移る。そこで管理会社向けの建物メンテナンスに出会い、2004年に株式会社Keishinを創業。大阪市中央区の本社と八尾営業所、東京営業所の3拠点で、賃貸マンションやアパートの清掃、設備点検、小修繕から大規模改修までをワンストップで手がけている。現在同社のスタッフは約80名。

目次

東海銀行としての営業は、これが最後だ

編集部

髙田社長は、もともとは銀行にお勤めだったと伺いましたが、これまでの歩みから伺えますか?

髙田社長

東海銀行というところで、営業に25年携わっていました。最後は営業の管理職をしていました。ただ、2002年に会社が合併することになり、それを機に退職したんです。当時43歳でした。

編集部

合併となると、会社に残るという道もありますよね。

髙田社長

ありました。ただ、東海銀行としての営業は、これが最後だと考え最後に支店別の業績対抗で全国ナンバーワンを取るぞ、と意気込んでやり切った結果、無事にそれが叶ったんですよ。部下も含めて、全員が一丸となってやってくれて。ただ、長年やってきた銀行も支店もなくなるし、すべてやり尽くしてしまった感があったので、もう銀行はいいかな、と。

編集部

最後の年に全国一位…!それで、次に何をするかは、決めていらしたんですか?

髙田社長

まったく何も考えてはなかったですね。何か商売はしてみたいな、というのはあったんですけど、何をすればいいかは考えていませんでした。

編集部

なるほど…。銀行を退職した身として、いま銀行にいらっしゃる方を見て、思うことはありますか?

髙田社長

大変だなあ、と思いながら見ていますね。というのも、自分が若い頃に言っていたようなことを、いまの銀行の方々も言われるので。お客様のため、と言いながら頭を下げて回るわけですからね。

編集部

営業と商売は、髙田社長のなかでは別のものなんですね。

髙田社長

銀行はコンプライアンスもあって、やれることに限界があるんですよ。しかも、お客様のためとか言いながら、実は銀行の収益のため、というところもありましてね。それなら独立して、今まで培ったものを生かして、お客様に喜んでもらえる形のものをやりたいな、と。そんなところはあったと思います。

頭を下げるより、頼まれる側になりたかった

編集部

そこから、どう動かれたんですか?

髙田社長

取引先だったお客様から声をかけていただいて、大和ハウスさんの新築アパートを手がける工務店に、1年8ヶ月ほどお世話になりました。銀行を離れて初めて一般の企業に入ったので、勉強させてもらう期間でしたね。次に何をするかを決めるための、リハビリのようなものでした。

編集部

そこで、いまの仕事に出会われたと。

髙田社長

ええ。工務店でしたから建築のことはわからなかったんですけど、そこのグループ会社が、大和リビング(管理会社)さんとのお取引がありまして、そこの仕事に携わる機会があり、初めて管理の業界を目の当たりにしたんです。それが入り口でした。

編集部

金融から不動産へ、ずいぶん畑が違いますよね。なぜ、そこで独立しようと思われたんでしょう?

髙田社長

もう40を過ぎていたので、失敗はできないんですよ。それで、ある程度安定したものを求めたときに、この業界は管理会社さんの先にオーナーさんがいて、入居者さんがいて、物件がある。賃貸ですから、修繕もメンテナンスも必ず付いてくるんですよね。

編集部

仕事が途切れにくい業界だ、と。

髙田社長

ええ。そこは大きかったですね。あとは、管理会社のご担当の方々を見ていると、当時の自分の部下のような若い方ばかりでして、入居者さんからのクレーム、オーナーさんからのクレーム、上司からの叱咤激励と、逃げ場がない状態になっていました。これは大変だよね、と…。この人たちの役に立てる仕事ができないかな、と思ったんです。

編集部

大変そうだと見ているだけで終わらないところが、すごいですね…!

髙田社長

あとは、銀行の頃はお客様に頭を下げて、なんとかこれをやってください、という頭下げ営業がメインだったんです。だから起業するときには、あなたに頼めば何とかしてくれるよね、と言われる側になりたかった。それができる業界だな、と思ったんです。

困ってる人と、それができる人を繋ぐ役

編集部

あらためて、いまの事業内容を教えていただけますか?

髙田社長

建物メンテナンスがメインの仕事です。お客様は、アパートやマンションを管理されている管理会社さん。具体的には、清掃、消防設備や給排水設備の点検、小さな修繕工事から大規模改修や防水塗装のような、建物全体の工事も扱っています。

編集部

管理会社さんご自身が動かれるわけではないんですね。

髙田社長

そこまでの体力がないんですよ。例えば入居者さんのトイレが詰まった、電気が切れて真っ暗だ、というときに、管理会社さんは動けない。だから業者に依頼する流れになるんです。うちは職人を抱えていませんが、業者さんのネットワークを持っていまして専門業者さんを手配して現場を収める、困ってる人と、それができる人を繋ぐ役割が我々のミッションです。

編集部

それは、銀行時代のお仕事と重なりますか?

髙田社長

重なりますね。銀行でもビジネスマッチングをやっていたんですよ。買いたい人と売りたい人の情報を集めて、引き合わせる。そういう業務が好きだったんでしょうね。困っている人がいて、それをカバーできる人がいれば繋ぐ。根っこは同じです。

編集部

最初のお客様は、どうやって見つけられたんですか?

髙田社長

工務店でお世話になっていたとき、グループ会社の役員を任されて、大和リビングさんの窓口をやりなさいと言われたんです。年間で1000万あるかないかの取引を引き継いで、手探りで提案を重ねました。そうしたら取引が密になって、管理会社さんを相手にするメンテナンス会社、という大枠が見えてきました。

編集部

そこで、独立を切り出されたと。

髙田社長

方向性が見えたので、自分は別で会社を起こしたいが、いかがなものかと社長に相談しました。そうしたら、その社長は新築が本業で、小さなメンテナンスにはあまり興味がなかったんですね。せっかくお前がやってきたのだから引き続きやれよ、と。のれん分けのような形でスタートさせてもらいました。

専門学校、『Keishin』

編集部

そこからいまに至るわけですね。現在、採用を強化されているのは、どのあたりでしょう?

髙田社長

一番人が欲しいのは、排水管や貯水槽の清掃をやる水回りのメンテナンススタッフですね。ただ、この仕事はあまり知られていなくて。募集をかけても、なんの仕事だろう、というところで見向きもされないんですよ。

編集部

資格が要るお仕事なんですか?

髙田社長

特別な資格は要りません。仕事をやっていく上で講習を受けて、認定をもらうものはありますけどね。あとは、フロントという部隊でも、あと2人は必須だろうということで募集をかけています。

編集部

フロント、という呼び方をされているんですね。具体的にはどんなお仕事なんでしょう?

髙田社長

管理会社さんと、入居者さんと、業者さん。この三者を取り次ぐ仕事です。管理会社さんから依頼を受けて、業者さんを手配して、現場を収めて、報告を出す。もちろん、二次対応があればそこまで面倒を見ます。うちは現場で起きることをワンストップで受ける会社として売っていますから、全部フロントが受けるんですよ。

編集部

未経験からでも、そこに入れるものなんですか?

髙田社長

入れます。実際、「資格はありません、経験はありません、業界は知りません」という20代の子が応募してくるんですよ。だから面接では、業界を知らないとうちに来ても何もできない、と必ず伝えます。ただ、何もできない反面、日々実践で覚えていけばその先にいろんな道があると。

編集部

できないことを数えるより、これから覚える前提で見ていらっしゃるんですね。

髙田社長

そうなんです。それで、まずフロントを経験しなさい、と伝えます。フロントの子たちは現場にも行かせるので、担当物件を屋上から1階まで一通り見るんですよ。資格がないので個別点検はせず、目視で見るだけです。ただ、消防設備も水回りの設備も目の当たりにできる。肌で感じられるじゃないですか。

編集部

人とのやり取りと、現場と。両方を1年目から浴びるわけですね…!

髙田社長

それを3年やれば、一丁前になるのかなと。いまFM事業部の頭をやっている人間も、3年はずっとそれをやってきましたから。だから面接では、こういう言い方をするんです。「専門学校、Keishin。3年間うちでお勉強しませんか」と。そうすると、意外と受けがいいんですよ。

3年のあとは、道が分かれていく

編集部

その3年が終わったあとは、どうなるんでしょう?

髙田社長

道が分かれます。宅建や管理業務主任者のような資格を取って、管理を極めてもいい。あるいは消防をやりたいなら、3年の間に必要なものを取って現場の部隊へ移ればいいんです。実際、管理はもうやりたくない、消防のスペシャリストになりたい、というスタッフもいますのでね。そういう人の評価の仕組みも、いま作っているところです。

編集部

なるほど。いま働いていらっしゃる現場の雰囲気は、いかがですか?

髙田社長

本社は20名ほどで、全般的に若いので和気あいあいとやっていますね。ただ、八尾のほうは年齢層にばらつきがあって、清掃や巡回の部署は上が60歳を超えていて、若いと20代半ば。お父ちゃんと息子みたいな感覚で、バランスよくやってくれています。ただ、昔は人が辞めるたびに、また入れての繰り返しでした。教える人間がいなかったのが、非常に反省点でしてね。若い子が入ってきても教える人がいない。だから辞める。この形がずっと続いたんですよ。

編集部

そこから、何が変わったんでしょう?

髙田社長

あるお客様の仕事が入って、一気に3人を採用したんです。そうしたら、その3人が、「俺これわかんねえんだけど」と積極的に話し合うようになりましてね。年齢層も近いので、連帯感がすごく強くなったんです。

編集部

教え合いが生まれて、続く会社になったんですね…!それでは最後に、御社がこれから目指していかれるところについても教えてください。

髙田社長

3年後に25周年という節目がありましてね。サラリーマンが25年、起業して25年です。ただ、まだ高田商店なんですよ。株式会社Keishinになっていない。

編集部

個人商店を脱ぐには、何が要るんでしょ?

髙田社長

チームごとに目標を立てて、自分たちで収益を上げていける体制ですね。実際、各チームにリーダーがいて、それを取りまとめる次の経営層も育てています。39歳と36歳と28歳の3人で、3年後には役員になってもらうつもりです。だから、26年目からのビジョンは、私ではなくこの子たちが考える。その土壌を作るのが、いまの目標ですね。

編集部

資格はありません、経験はありません、業界は知りません。そう言って面接に来た20代を、髙田社長は3年かけて一丁前にしていました。私たちだって、資格も経験もないところから、始めていい。そう思えるお話でした。髙田社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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