「結果を出すには、自分が行動するしかない。」株式会社つなぐて・今村社長が、役者時代の経験を介護の未来に生かすまで

19歳から21歳まで、大阪で舞台役者として活動。USJでパフォーマンスを経験し、舞台では演者だけでなく裏方もこなし、チケットを売るために自ら営業もする…。そんな日々を送っていた今村亘志さんが、その後選んだのは介護の世界でした。
未経験・無資格から介護職として働き始め、資格を一つずつ取得。現場経験に加え、マネジメントや事業所運営も学び、2023年には株式会社つなぐてを設立。現在は訪問介護を中心に、障害のある方の住まいを支える賃貸事業や相談支援なども展開しています。
その根底にあるのは、「目の前の利用者さんを支える」だけで終わらず、社会全体で見たときに何が必要なのかまで考えるという姿勢です。そして社員に対しても、「会社で活躍する会社人ではなく、社会で活躍する社会人になってほしい」と伝え続けているそうです。
一見するとまったく違う「役者」と「介護」。しかし今村社長のお話を聞いていくと、今の経営につながる原点は、むしろ役者時代にあったことが見えてきました。
これまでのキャリア、介護業界への思い、人を育てるということ、そして障害のある方が地域で暮らし続けられる社会について、詳しくお話を伺いました。
株式会社つなぐて
代表取締役 今村 亘志
19歳から21歳まで大阪で舞台役者として活動し、USJでのパフォーマンスなども経験。その後、介護業界へ転身。未経験・無資格から介護職として経験を積み、国家資格を取得。現場業務に加え、マネジメントや事業所運営にも携わった後、2023年に株式会社つなぐてを設立。現在は訪問介護を中心に、障害福祉サービスや相談支援、賃貸住宅事業などを展開。
舞台役者から介護の世界へ。未経験・無資格から始まったキャリア

編集部今村社長は、介護の仕事を始める前は舞台役者をされていたんですよね。



そうです。19歳から21歳まで、大阪で舞台役者をしていました。USJでパフォーマンスをしたこともあります。ただ、それだけでずっと生活していくのは難しいなと思って、仕事を探し始めたんです。



そこから介護を選ばれたのは、何かきっかけがあったんですか?



小学生の頃に祖母がくも膜下出血で倒れまして…。僕自身が介護をしていたわけではないんですけど、家族が介護をする姿や、社会福祉法人の方々とやり取りする様子を間近で見ていて、「自分も介護をやってみようかな」と思い、21歳のときに業界へ入りました。



とはいえ、最初は未経験・無資格ですよね…。不安はなかったですか?



もちろん、わからないことだらけでしたけど、勉強しながら働くのが結構楽しかったんですよ。簡単な資格から少しずつ取っていって、最後は国家資格まで取得しました。自分が着実にスキルアップしているのがわかる。それが楽しかったですね。



そこからは、ずっと介護業界で経験を積まれたんですね。



そうですね。最後の5年くらいは、大阪のサービス付き高齢者向け住宅で働いていました。そこでは介護の現場だけではなく、マネジメントや事業所運営も学ばせてもらいましたね。それで2023年、30歳のときに独立して株式会社つなぐてを立ち上げました。



独立は、前から考えていたんですか?



もともと独立志向はありましたね。いろいろな会社で働く中で、「自分だったらこういう会社をつくりたい」「業界に対してこういうことをやりたい」という思いが強くなっていったんです。会社員だと、会社の考えと自分の考えが合わないときに動きづらいこともありますよね。だったら、自分でやってみようと思いました。
「会社人」ではなく、「社会人」を育てたい





具体的には、どんな会社にしたいと思っていたんですか?



人を大切にする会社ですね。社員にはいつも、「会社で活躍する会社人ではなく、社会で活躍する社会人になってほしい」と伝えています。



会社の中だけで評価される人をつくりたいわけではない、ということでしょうか。



そうです。もちろん、目の前の利用者さんに全力を尽くすことはすごく大事です。でも、「この人が喜んだから、それで終わり」でいいのかという視点も必要だと思っていて。僕たちの仕事は税金や公的な制度によって成り立っている部分もあります。だから、「社会にとってどうなのか」「この業界全体で考えたらどうなのか」という視点まで持ってほしいんです。



現場だけではなく、もう少し広いところまで見てほしい…と。



そうですね。たとえば介護や福祉のサービスって、人手が無限にあるわけではないですよね。何でもかんでも福祉で担おうとすると、本当に支援が必要な人にまで手が回らなくなる可能性があります。掃除だけが必要なのであれば、場合によっては民間の掃除サービスを使う方法もある。その一方で、福祉サービスがなければ生活できない方には、きちんと必要な支援を届ける。そういうことを業界全体で考えないといけないと思っています。



なるほど。だから社員にも、「自分の担当業務だけ見ていればいい」ではなく、社会全体まで見てほしいんですね…。
訪問介護×不動産。自分たちが大家になる



今は訪問介護を中心にさまざまな事業をされていますけど、特に力を入れているものは何ですか?



今力を入れているのは、障害のある方向けの賃貸住宅ですね。不動産と訪問介護を掛け合わせた事業です。



介護の会社が賃貸住宅までやるのは、かなり珍しく感じます。どうしてそこまでやろうと思ったんですか?



発想としてはすごく単純なんですよ。僕たちはもともと、賃貸住宅に住んでいる利用者さんの家へ訪問して、介護サービスを提供しています。でも障害のある方って、家を借りること自体がすごく難しいケースがあるんです。



障害があることを理由に、賃貸契約ができないことがあるということですか?



そうなんです。保証会社の審査が通らなかったり、大家さん側が受け入れることに不安を感じたりすることもあります。それで家探しに困っている方がいる…。だったら、福祉の会社である僕たちが大家になってしまえばいいと思ったんです。



なるほど。それなら住まいの問題と、介護の問題を一緒に解決できますね。



そうです。家を用意したうえで、必要であれば僕たちがいつも通り訪問介護をすればいい。本当にそれだけの、シンプルな発想です。



その物件は、ご自身で探されるんですか?



はい。1件目はネットで見つけました。近所で価格もちょうど良い物件が出てきたので、これは運が良かったですね。すぐ買いました。2件目は新築のアパートで、不動産会社さんに建ててもらって、弊社がサブリースする形です。



聞けば聞くほど、訪問介護×不動産の世界が斬新というか…。今村社長って、こういう新しい事業を立ち上げることへのハードルって感じないタイプなんですね。



あまり感じないですね(笑)。わからないことは、不動産の知り合いに聞けばいい。契約の結び方や進め方も、詳しい人に教えてもらいながらやっています。
「結果を出すには、行動するしかない」。役者時代に身についたもの



30代前半で独立して、介護だけでなく不動産まで広げている。この行動力って、やっぱり介護の経験から身についたものなんでしょうか?



いや、僕は役者時代の経験の方が大きいと思っています。役者って、演技だけしていればいいわけではないんですよ。裏方もするし、チケットを売るために営業もする。だから365日、24時間動いているような生活でした。僕の中では、あの経験が一番大きいですね。



それはハードですね…。でも役者の世界って、頑張れば必ず結果が出る世界でもないですよね…。



そうですね。役者時代も今も、僕の中では結果がすべてなんです。その結果を出すために、自分が行動する以外に方法はない。結果が出なくても、行動し続けるしかない。



一見すると介護とはまったく関係のない経験ですけど、その行動力や熱量が今の経営につながっているんですね。



そうですね。普通の社会人とは少し違う経験をしてきたとは思います。でも、今振り返ると、そこで身についたものはすごく大きいですね。



その考え方って、社員の育成にもつながっているんでしょうか。



つながっていると思います。弊社ではキャリアアップ制度を作っていて、スタッフ自身に目標を3つ決めてもらっています。管理職になりたいなら、そのために何をするのか。役職には就かず、現場のスペシャリストになりたいなら、どんな技術を身につけるのか。会社が決めたゴールに全員を合わせるのではなく、自分自身がどうなりたいのかを考えてもらうんです。



評価制度について、かなり作り込まれているんですね。ただ、介護の仕事は営業職とは違って、やったことやその結果を定量的に判断するのは難しそうなイメージです。



そうですね。なので目標に対してどう取り組んだのかという過程を大事にしていて、しっかりそこは見るようにしています。適切な評価のもと成長をしていく中で、とてもやる気があって「将来は独立したい」という人がいれば、それも応援しますよ。



えっ?せっかく育てた社員が独立してしまってもいいんですか?



はい、全然かまいません。介護業界で独立したいのであれば、僕自身が近い立場にいるので相談にも乗れますし。うちの会社の仕組みを使ってもいいし、自分で創業してもいい。地域で頑張りたい人、起業して頑張りたい人を増やすことも、一つの地域貢献だと思っています。
まず自分、その次に周り、そして社会へ





ここまで聞いていると、利用者さん、社員、地域と、今村社長が考えなければならない対象ってかなり多いですよね。実は、自分自身が消耗してしまうこともあるんじゃないかな、って…。



うーん、そうですね。僕が大事にしているのは、順番です。まず自分。その次に、自分の手の届く範囲の人。そして、その先に社会があります。



おぉ…意外と、最初に「自分」が来るんですね。



そうです。自分の軸がしっかりして、自分が幸せでなければ、周りの人を幸せにすることはできないと思っています。まず自分の軸をつくる。自分が幸せになる。それが周りに伝わって、その人たちも幸せになる。その先に、社会へ広がっていく。だから、相手に軸を置きすぎるのではなくて、まず自分がしっかり地に足をつけて立つことを意識しています。



その「自分から始まって、周りへ、社会へ広がっていく」という考え方は、これから会社としてやっていきたいことにもつながっていそうですね。今後、株式会社つなぐてをどんな会社にしていきたいですか?



まずこの5年で、障害のある方向けの賃貸住宅を増やしていきたいです。ただ、住む場所をつくるだけではなくて、その先の就職先もつくりたい。たとえば飲食店でもいいと思っています。僕たちが用意した住宅に住んでいる方が、そこで働ける。そうやって、障害があっても社会の中でしっかり生活していける基盤を、会社としてつくっていきたいですね。



住まいをつくって終わりではなく、その先の仕事や生活までつないでいく。今村社長が社員に伝えている「会社人ではなく、社会人になってほしい」という言葉も、障害のある方の住まいや働く場所までつくろうとしていることも、根っこにある考え方は同じなのかもしれません。まず自分がしっかり立つ。その力を、手の届く人へ。そして、社会へ広げていく。株式会社つなぐてという社名の通り、人から人へ、支援から暮らしへと、必要なものをつないでいく今村社長の取り組みは、これからさらに広がっていきそうです。今村社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。

