「売上を止めろ」。株式会社マネジメントオフィス・K・川原社長が語る、35億円の債務を抱えた企業の再生と、人に向き合う経営改革

バブル崩壊によって相次ぐ企業の倒産。その影響は、経営者や従業員だけでなく、その家族の生活にも及んでいました。
当時、不動産関連企業で働いていた株式会社マネジメントオフィス・Kの川原一紀社長は、親の会社が倒産して学校に通えなくなった子どもたちのために、高校生が街頭で募金活動をしている姿を目にします。
その光景が、経営コンサルタントを志すきっかけになりました。
その後、経営コンサルティング会社で経験を積み、2008年に独立。現在は、経営が厳しい企業の再生を中心に支援しています。
これまでに携わった案件の中には、35億円規模の債務を抱えた建設会社もありました。売上を増やすことに必死だったその会社に対し、川原社長が最初に伝えたのは「売上を止めろ」という言葉だったといいます。
なぜ、経営が苦しい会社に売上を止めるよう伝えたのでしょうか。
今回は、川原社長が経営コンサルタントになった経緯から、実際の企業再生で向き合ってきた課題、仕事を通じて大切にしている考え方までお話を伺いました。
株式会社マネジメントオフィス・K
代表取締役 川原 一紀
集団就職で愛知県に渡り、警備会社や不動産関連企業に勤務。バブル崩壊を経験したことをきっかけに経営コンサルティング会社へ転職する。経営者の意識改革や企業経営について学び、会社の事業拡大にも携わった後、2008年に独立。現在は金融機関からの依頼などを受け、経営改善や企業再生に取り組んでいる。
バブル崩壊で目にした高校生の募金活動。経営コンサルタントを志した理由

編集部まずは、川原社長のこれまでのご経歴から伺いたいと思います。最初はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?



集団就職で愛知県に来て、最初は警備会社で働きました。24時間勤務をして休んで、また24時間勤務という働き方でしたね。トータルだと月に240時間くらい働いていたんですよ。



月240時間ですか。かなりハードな働き方だったんですね…。



そうなんです。それでは体も持たないですし、当時付き合っていた女性ともなかなか時間が取れなかったので、不動産系の開発会社に転職しました。そこで数年働いた頃に、バブルが崩壊したんです。当時は、会社の倒産件数もすごく増えていました。



当時は大変な状況だったと思いますが、特に印象に残っている出来事はありますか?



あるとき、街頭で高校生が募金活動をしているのを見かけたんです。「何の募金なんだろう」と思って見たら、親御さんの会社が倒産して、学校に行けなくなった子どもたちを支えるための募金だったんですよ。それを見て、「本来、会社や国が何とかしなければいけないことを、高校生たちがやっているのはおかしいんじゃないか」と思いましたね。



会社の倒産が、子どもたちの学校生活にまで影響していたんですね…。



そうなんです。その光景がきっかけで、経営コンサルティング会社へ転職しようと思ったんですよ。
売上を上げるテクニックよりも大切だった、経営者の考え方





経営コンサルティング会社に転職されてからは、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?



最初は経営について学ぶところからでしたね。ただ、僕が想像していた内容とは違ったんです。当時は、売上を上げるための手法やツールを身につければ、経営が厳しい会社を立て直せると思っていました。ところが、入った会社では「人間の教育」や「意識改革」を大切にしていたんです。経営者自身の考え方やあり方が変わらなければ、会社も変わらないという教えでした。



なるほど…。当初は、その教えに戸惑いもあったのでしょうか?



戸惑いというより、反発していましたよ(笑)。売上を上げる方法を学びたかったので、「そんなことで会社が変わるのか」と思っていたんです。でも、学んで、叱られて、実際の会社を見ていくうちに、少しずつその意味がわかるようになってきました。例えば、資金繰りが苦しい会社に一時的にお金を入れても、なぜ資金繰りが悪くなったのかという原因が変わらなければ、また同じことを繰り返してしまいます。経営者自身がそこに気づかなければ、根本的な解決にはならないんですよ。最初の3年間くらいは、給料も少なく、成果もなかなか出なくて苦しかったですけどね。ただ、今振り返れば、経営の本質を学んでいた期間だったと思います。



最初の3年間はかなり苦労されたんですね。その後、仕事に変化はありましたか?



そうですね。もともとは小さな会社だったんですが、全国に事業を広げるための仕組みづくりにも関わるようになりました。



その後、2008年に独立されていますが、何かきっかけがあったのでしょうか?



当時の会社の代表は、もともと「ご縁があった会社を必ず成功させる」という強い志を持っていた方で、僕もその考え方に共感していたんです。ただ、会社が大きくなって役員や社員が増えていく中で、その志が十分に受け継がれなくなっていったように感じましてね。それなら、最初に共感した志を自分で持ち続けようと思って、2008年に独立しました。今もその考え方は大切にしています。
35億円規模の債務を抱えた会社に「売上を止めろ」と伝えた理由





独立後は、どのような企業を支援されてきたのでしょうか?



金融機関からの依頼がほとんどでした。経営が厳しく、このままでは倒産しかねないけれど、何とか残さなければいけない会社に入って、立て直してほしいという相談ですね。



そうした企業の再生では、実際にどのような課題に直面するのでしょうか?



会社の数字だけを見ていても、改善できないことが多いんですよ。売上や経費に問題があっても、その背景には経営者の判断や、社内の人間関係が関わっていることがあります。問題をたどっていくと、結局は人に行き着くことが多いんです。



実際に支援された企業の中で、印象に残っているエピソードはありますか?



35億円規模の債務を抱えた建設会社の案件がありました。その会社では、社長がとにかく「売上を上げろ」「受注を取れ」と言っていたんです。でも、現場はすでに仕事が回らない状態でした。新しく受注しても、後の工程を担当する人たちに負担がかかるばかりで、従業員も辞めていく。それなのに、さらに受注を増やそうとしていたんですよ。



それでは、仕事を増やすほど現場の負担が大きくなってしまいますよね…。



そうなんです。だから、僕が最初に言ったのは「売上を止めろ」でした。まず、会社に必要な原価や経費はいくらなのかを把握する。現場の人手が足りないのであれば、定年退職した人を呼び戻せないかという話もしました。売上を増やすことより先に、今の仕事をきちんと回せる状態にしなければいけなかったんです。



ただ、経営が厳しい状況で売上を止めるという提案は、簡単には受け入れてもらえなかったのではないでしょうか?



納得しませんよ。実際、「売上を止めたら会社が潰れるじゃないですか」と言われました。でも、僕からすれば「もうすでに会社は止まっているんだ」という話なんです。実際、受注を止めるよう伝えても、社長が内緒で仕事を取っていたこともありました。そこで経営体制の変更にも踏み込み、息子さんに社長を引き継いでもらうことになったんです。僕自身はその会社に7年間関わりましたが、それくらい厳しく対応しなければ、立て直せない状況だったんですよ。
人を増やす前に、組織を見直す。企業再生で欠かせない人材育成の考え方



先ほど、企業の問題をたどっていくと、人に行き着くことが多いとおっしゃっていましたよね。具体的には、どのような問題があるのでしょうか?



例えば、仕事が回らなくなると、経営者は「人が足りないから採用しよう」と考えますよね。でも、本当に人手が足りないのかという話なんです。仕事が忙しいという人がいる一方で、余裕がある人もいる。上司と部下で意見が食い違って、何が正しいのか判断できないまま時間だけが過ぎていることもあります。そうした問題を解決しないまま人を増やしても、根本的な改善にはならないんですよ。



人手不足だと決めつけずに、まずは仕事が回らなくなっている原因を確かめる必要があるんですね。



そうです。管理職が本来やるべきことをやっているのか、業務の進め方は正しいのか。そうしたところを一つずつ見ていくんです。単に仕事を増やしたり、人を増やしたりするのではなく、誰が何をするべきなのか、どうすれば効率よく仕事を進められるのかを考える。必要であれば仕事の分担や管理の仕方も見直します。そうやって組織全体を改善していくんです。



そうした改善を進める際、従業員の方にはどのように働きかけているのでしょうか?



まず、会社が今どのような状況にあるのかをきちんと伝えます。そのうえで、改善に取り組む意思があるかどうかを本人に確認するんです。会社を立て直すとなれば、今までの仕事のやり方を変えてもらうこともありますし、厳しいことを言わなければならない場面もあります。だからこそ、本人が本気で変わろうと思っているかどうかが大切なんですよ。改善したいという人には、僕も本気で向き合います。



働く人自身にも、変わろうとする意思が必要なんですね。



そうですね。それは新しく人を採用するときも同じです。最初から会社の考え方や、どんな仕事をしてほしいのかを伝える必要があります。例えば、「何か月後には一人でこの仕事ができるようになってほしい。そのために厳しく教えることもあるけれど、それでもやっていけますか」と確認するんです。ただ給料や条件を伝えて採用するのではなく、会社が求めていることを理解してもらったうえで、一緒に働くかどうかを決める。そうした入り口の部分から見直すことも、人の問題を繰り返さないためには大切なんです。
会社を立て直すだけではない。働く人の人生にも向き合うという使命





これまで多くの企業再生に関わってこられた中で、川原社長がこの仕事をやっていて良かったと思うのは、どのようなときですか?



やっぱり、赤字だった会社が単月でも黒字になったときはうれしいですね。それと同じくらいうれしいのが、従業員の方の考え方や行動が変わったと感じられるときです。以前、長野県の会社で支援を終える際、従業員の方と最後に面談したことがあったんです。そのときに「川原さんが来る前と比べて、いろいろなことに気づけるようになった」「視野が広がった」と話してくださって。そういう言葉を聞くと、この仕事をやっていて良かったなと思いますね。



会社の業績が良くなるだけでなく、そこで働く人自身にも変化が生まれるんですね。



そうなんです。僕は、ただ業務を改善するだけではなく、そこにいる人の生き方まで変えていきたいという思いを持っているんですよ。人間は、人生の中で仕事をしている時間が長いじゃないですか。だからこそ、後から振り返ったときに、後悔ばかりが残るような生き方はしてほしくないんです。仕事だけ良ければいいということでもありません。家庭も仕事も、どちらも大切なものですからね。そのためには、まず自分自身が変わらなければいけない。でも、それは会社のためだけでも、誰かのためだけでもないんです。自分自身が幸せになるために変わるんだということを、いつも伝えています。



自分自身の幸せのために変わる、ということなんですね。一方で、過去の失敗や経験が気になって、なかなか前に進めない方もいると思います。



人間は、過去の経験を持って未来を見ようとするから、不安になるんですよ。過去に経験したつらさや苦しさは、なかなか手放せないものです。だから「また失敗するんじゃないか」「自分にはできないんじゃないか」と考えてしまう。でも、本来は「これから自分はどうなりたいのか」を考えることが大切なんです。過去を見ながら未来を考えるのではなく、自分が望む未来に向かって、今をどう変えていくか。そこに目を向けてほしいですね。



川原社長のお話を伺って、企業再生とは、単に会社の業績を立て直すことではないのだと感じました。バブル崩壊をきっかけに経営コンサルタントの道を志し、現在は経営者や従業員と向き合いながら、企業の再生に取り組んでいる川原社長。35億円規模の債務を抱えた会社に「売上を止めろ」と伝えたエピソードからも、目先の数字だけではなく、会社が抱える根本的な問題と向き合う姿勢が伝わってきます。そして、その先に見据えているのは、そこで働く一人ひとりの人生です。「自分自身が幸せになるために変わるんだ」この言葉は、経営者や企業で働く人だけでなく、これからの仕事や人生に悩む方にとっても、自分がどうなりたいのかを考えるきっかけになるのではないでしょうか。川原社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。

