「眠っている資格を、もう一度武器に」株式会社Fortune 家永社長が語る、美容業界で長く働くという選択

「好きだから」で飛び込んだ仕事なのに、数年で辞めていく人が後を絶たない。美容業界にかぎらず、そんな話を耳にして「自分の“好き”は、仕事として続けられるんだろうか」と不安になったこと、あなたにもありませんか?
都内で7店舗のサロンを運営する株式会社Fortuneの家永沙緒里(いえなが さおり)社長は、バレーボール一筋のスポーツ選手から、教員を経て、未経験で美容の世界へ飛び込みました。
そんな家永社長がいま力を注いでいるのは、「好き」を長く続けられる働き方を、仕組みでつくること。読み終わる頃には、長く働ける場所の選び方が、少し見えてくるはずです。
株式会社Fortune
家永 沙緒里 代表取締役
学生時代はバレーボールに打ち込み、大学まで推薦で進学。卒業後は教員や役所など、美容とは縁遠い仕事に就く。知人がネイリストとして働く姿をきっかけに美容の世界へ。働きながら通信でネイルを学び、美容学校で美容師免許(国家資格)を取得。13年前にサロン「ミンクスタイルをM&Aで引き継ぎ、当時2店舗だった規模を、2026年現在は都内7店舗まで広げている。代表を務めて今期で14期目。
株式会社Fortuneでは、「Mink Style」というネイル・まつげ・アイブロウの美容サロンを、東京都内で7店舗運営しています。店舗は、駒沢、代々木公園、恵比寿、飯田橋、赤坂、浜松町、高田馬場にあります。ネイルとまつげを同時に受けられる「同時施術」を強みとしていて、仕事や家事、子育てなどで忙しい女性にも、時間を大切にしながら美容を楽しんでいただけるサロンを目指しています。
「教えるのは向いてなかった」バレー漬けの元教員が、美容にたどり着くまで
編集部家永社長って、いまでこそ7店舗を運営するサロンの代表ですけど、もともとは美容とは全然違う世界にいらっしゃったんですよね?



そうなんです。学生の頃からずっとスポーツで、バレーボール一筋。大学まで受験は一切せず、全部推薦で来たようなタイプで。卒業してからは教員をやったり役所で働いたり、どちらかというと硬い仕事のほうにいました。美容とは無縁の世界でしたね。



意外です!もともとのキャリアは学校の先生だったんですね。



はい。それでバレー部の顧問を任されたんですけど、そこで人生で初めてのスランプに入ったんですよ。自分はずっとエリートコースでやってきたので、正直、運動に苦手意識を持つ子の気持ちに寄り添い切ることができなくて…。「なんでできないんだろう」って思うこともありました。



あぁ…それ、すごくわかります。実は私も体育会出身で、柔道をやっていたんです。選手としてはやれても、高校でコーチを任されたら全然うまくいかなくて。



まさにそれです(笑)。やるのは楽しいのに、教えるとなると全然違う。教え方もわからないし、楽しさも忘れてしまって。そのとき、「私はやるのは好きだけど、教えるのは向いてないんだ」って気づいたんですよ。



それは大きな気づきですね。そこから、どうやって美容の世界へ?



知人がネイリストをホームサロンでやっていて、「こんな楽しい仕事があるんだ」ってのめり込んでいったんです。働きながら通信でネイルを学んで、そこからはもう取り憑かれたように美容学校に通って。資格がまだない頃に雇ってくれたサロンがあって、そこに転職して、この業界に入りました。



本当に、ちょっとしたきっかけからだったんですね。



そうなんです。もしかしたら、違う仕事だったかもしれない。でも、初めてのスランプがあったから「一度、自分がまったく知らない仕事に飛び込んでみよう」と思えた。それがきっかけでした。



向いていないと気づいたことが、次の一歩につながったんですね。「できない」を認めることが、新しい道の入り口になる。これからキャリアを選ぶ人にとっても、大きなヒントだと思います。


「強みがあるのに、知られていない」14期目に感じた危機感



教員からネイリスト、そして経営者へ。まさに動きながら道を切り拓いてきた家永社長ですが、今回こうして取材を受けてくださったのは、どんな思いからだったんですか?



代表を務めて今期で14期目になるんですけど、これまでは仕組みで集客もできて、求人も取れていたんですね。でも、コロナ禍が明けたあたりから、時代の変化の速さをすごく感じるようになって。AIもそうですけど、「今のままじゃやばい」って、ここ2〜3年、特に感じていたんです。



それは、どういう「やばさ」だったんでしょう?



自分たちには本当に強いものがあるのに、それが知られていない。ブランディングが、まったくできていないと気づいたんです。この業種って個人事業主の方もすごく多いんですけど、弊社は会社として、チームでみんなを育て上げていく。そのいいところを、もっと多くの人に知ってもらう種まきをしなきゃ、と思って。



それで、発信を始めようと。



はい。今年のお正月に、「自分がオウンドメディアになろう」って決めたんです。YouTubeやnoteで、企業理念や「こういう会社にしていきたい」という思いを発信しようと思って。社内では言っているつもりでも、全然伝わっていなかったな、という反省もあって。だからちゃんと、オープンに出そうと。



なるほど。だから当メディアの取材を引き受けてくれたんですね。



そうなんです。実は先日、ネイル専門の雑誌に特集で取り上げていただいて。求人につながったり、ほかのサロンやネイリストさんへの認知が広がったりという手応えもあって。ただ、まだまだ発信していかないといけないな、と思っています。



自分の会社の強みを、自分の言葉で外に出していく。それができる経営者のもとには、共感して人が集まってくるんだろうな、と感じます。
金額で戦わない。眠った国家資格を、もう一度武器にする



発信していきたい「強み」のお話、もう少し深く聞かせてください。そもそもネイリストというお仕事は、外から見ると華やかですが…。



華やかに見えますよね。でも実際は、覚える技術もすごく多いし、接客のスキルも必要で、そのわりに単価は低い。かなり過酷な仕事なんですよ。



私もネイリストの方から「一本で食べていくには、よほど好きじゃないと難しい」という話を聞いたことがあります。



そうなんです。しかもネイリストって、美容学校に行かなくてもなれるポジションで、YouTubeである程度学べたりもする。だから「楽しそう」「楽して稼げそう」というイメージで入ってくる子が多いんですけど、働いてみたら大変で。長くネイリストを続けられる人って、そうそういないんですよ。



入り口のイメージと、現実のギャップが大きいんですね。家永社長のサロンでは、そこをどう変えているんですか?



弊社は基本的に、美容師免許を持っている方を採用しているんです。髪は切らないけど、国家資格を持っている。だから入った時点で、美容リテラシーが出来上がっているんですよ。ネイルだけで勝負すると、結局は金額の戦いになっちゃう。安くするか、施術時間を早く終わらせるか。でも、弊社は長く雇用できる環境をつくりたいので、その戦場からは外しているんです。



なるほど、価格競争に巻き込まれない場所で戦っている、と。



そうです。それに、美容師免許を取ったのに、それを使えないまま、安いお給料でキラキラしていない仕事をしている子がすごく多いんですよ。だから、「その眠った武器を、もう一度戦いに使えませんか」という求人ページを作っていて。同じ美容業界で、自分が楽しく働ける現場がありますよ、と伝えているんです。



眠っている資格や経験を、もう一度武器に変える。それは、一度美容業界をあきらめかけた人にとって、すごく希望のある言葉ですね。
聞けないなら、動画で。「従業員ファースト」を支える仕組み



「長く働ける環境をつくりたい」という言葉、一貫していますよね。具体的には、どんな仕組みをつくっているんですか?



たとえば教育は、Googleクラスルームで全部オンラインで学べるようにしています。今の若い子って、人に聞くのがちょっと抵抗あったりするんですよ。「上司が忙しそうだから聞けない」「でも、わからないままどうしよう」って。



あぁ、その気持ちはわかります。忙しそうな先輩に、なかなか声をかけられなかったり。



そうですよね。だから、社内マニュアルも全部クラウドで見られるようにしていて。ブランクがあっても、マニュアルを見れば動ける。わからなければ、リモートで働いているメンバーに相談もできる。そういう状態をつくっているんです。



それは働く側からすると、すごく安心ですね。



面接のときにも「こんなサロン、ほかにない」ってよく言われます。そもそもネイルサロンって、教育システムがしっかりしているところがほとんどないんですよ。昔は弊社もそうでした。人はどんどん入れるけど、先輩が忙しくて教えられなくて、結局1〜2ヶ月で辞めちゃう。それなら、Webで見られることは動画にして、オンラインでできるようにしよう、というのがスタートだったんです。



頭ではわかっていても、実際にやりきるのは大変ですよね。そこをやっているサロンは強いな、と感じます。



新卒の方には、4月にまとめて研修をやるんですけど、これがなかなかハードなんです。ただ、階段の1段目ができたら2段目、できなかったら1個戻って、というふうに指標を目に見えるようにして。半年かけて伴走します。ほかだと1ヶ月でデビューさせる会社もある中で、「ずっと聞ける状態でいてくれたのが助かった」って、よく言ってもらえますね。



ママさんワーカーの方も多いと伺いました。



どの店舗にもいますね。子どもが熱を出して出勤できないこともあるけど、いる時間はめちゃくちゃ効率よく働いてくれる。育児で「AパターンがダメならBパターン」って常に切り替えている人って、その脳の使い方が接客でも活きるんですよ。お客様の要望が変わっても、すぐ次の提案に切り替えられる。だから、子育てで美容業界に復帰したいけどできない、という人も大歓迎なんです。



働き方の違いを、弱みじゃなく強みとして活かす。従業員ファーストって、こういうことなんだな、と腑に落ちました。
目指すのは「ここに来れば、理想の自分になれる」場所



ここまで伺ってきて、家永社長が見ている先は、ネイルサロンの枠を超えているように感じます。



そうですね。弊社はいま定額制のサロンで、毎月通ってくださるお客様が多いんですけど、最終的には、弊社に来れば美容も健康もウェルネスも全部知れる、そういう場所にしたいんです。ネイルやまつ毛だけじゃなくて、トータルで「この人に任せたい」と思ってもらえる存在になりたくて。



だからこそ、スタッフにも探求心を求めているんですね。



そこは絶対条件です。根底に「美容が好き」があって、さらに探求心がある子。ネイルってトレンドの移り変わりが本当に早いんですよ。美容師さんより圧倒的に早いくらいで。昔は雑誌のデザインから選んでいたのが、今はInstagramですし。常に知識をアップデートしていかないと、続けるのがしんどくなってしまう。



好きだからこそ、学び続けられる。逆に言うと、そこを楽しめる人にとっては最高の環境ですね。



そう思います。あとは、働く人が長く続けられるように、環境そのものも変えていきたくて。実は、ネイルのダストや、オフに使うアセトンって、体への負担が大きいんです。だから、アセトンを使わずにオフできる「LaShade(ラシェード)」というジェルブランドを取り入れて、オンライン講座で広める活動もしています。お客様にとっては爪が傷みにくいし、働く側にとっても安全。両方にメリットがあるんです。





お客様の心地よさと、働く人の安全が、つながっているんですね。最後に、これから美容業界を目指す若い人へ、伝えたいことはありますか?



美容業界にかぎらずだと思うんですけど、まずは「好き」があること。私自身、バレーしか知らなかった人間が、興味から飛び込んでここまで来たので。そして、もし今持っている資格や経験が眠っているなら、それを活かせる場所は必ずあります。あきらめる前に、環境を変えてみてほしいんです。



家永社長のお話を聞いて、「向いていないと気づくこと」も、「眠った武器を持っていること」も、決してマイナスじゃないんだと感じました。むしろ、それが次の一歩の入り口になる。今日は貴重なお話を、ありがとうございました!
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