「自分が必要だと思ったことを、やったんです」株式会社マザーグース・柴崎会長が、保育園やベビーシッターのない町で”預け先を自分で作った”理由

「資格がないから、この仕事は無理かな」。そう思って求人を閉じたことはないでしょうか?
株式会社マザーグースの柴崎方恵会長は、ベビーシッターの会社がまだほとんどなかった時代に、自分の子どもの預け先がなくて事業を始めた立場として「自分が必要だと思ったことをやったんです。それが世の中にも必要だったのかな」と話します。
もとは大手メーカーの海外営業部にいた柴崎会長が、なぜ保育の世界へ移ったのか。ベビーシッターの依頼が、なぜ海外や客船まで広がっているのか。そして、経験も資格もない方が、どこから現場に入っていくのか。詳しくお話を伺いました。読み終わる頃には、資格のあるなしより先に問われているものが見えてくるはずです。
株式会社マザーグース
代表取締役会長 柴崎 方恵
大学卒業後、ソニーへ入社。情報機器事業部で秘書を務めたのち、社内で異動して海外営業部で西海岸を担当する。27歳頃に結婚し、先に独立した夫の事業を手伝うため退職。自身の子どもの預け先がないことをきっかけに、1994年、神奈川県茅ヶ崎市でベビーシッター事業を立ち上げる。病院内保育の受託、入札資格の取得を経て、現在は認可・認可外あわせて12の園を運営。全国ベビーシッター協会の理事も6年ほど務めている。
茅ヶ崎に、ベビーシッターがなかったんです

編集部柴崎会長は、もともとは、保育とはまったく別の世界にいらっしゃったと伺いました。海外営業部で西海岸のご担当だったとか。



そうですね。大学を卒業してソニーに入りまして、最初は情報機器事業部で課長の秘書のようなことをやった後に、社内で異動して海外営業部に行ったんです。海外とやり取りしたり、お客様を接待したり。そういうことをやっていましたね。



海外を相手にお仕事をされていたんですね。そこから、どういう流れで…?



27くらいの時に社内結婚をしたんですけれども、相手が先に独立をしたんですよ。ソフトウェアの開発ということで。それで、「手伝ってほしい」と言われて私も会社を辞めたんですが、すぐに子どもができて、預け先がなかったんです。



ご両親は、近くにいらっしゃらなかったんですか?



近くにはいたんですけれども、しょっちゅう親に預けるわけにもいかないので…。都内だとベビーシッターさんが結構いっぱいあったんですが、うちは神奈川県の茅ヶ崎で、ベビーシッターという業態がなかったんですよ。なので、じゃあ作ればいいかなっていう。それが最初の思いつきです。



ないから、作る。その行動力がすごいですね…!まず何から手をつけられたんですか?



最初に厚労省に連絡して、「全国ベビーシッターサービス協会というのが立ち上がったから、そこに電話してごらんなさい」と言われて。次にそこに電話して、すぐ加盟したというところから始まりましたね。



省庁に直接お電話を…! そこからお客様は、どうやって集められたんでしょう。



営業したのは1つだけで、こういったベビーシッターを始めましたと、新聞折込にチラシを1万枚巻いたんです。そうしたら、弁護士の奥様、お医者様の奥様、JALのパイロットの奥様の3人組が来てくださって。その方たちがうちのベビーシッターを使ってくださって、良い口コミを広めてくれたというのが最初なんです。
あれよあれよという間に、12園





はじめは個人のお家に伺うお仕事からスタートされて、いまは保育園も運営されてらっしゃいますが…。どこで形が変わったんですか?



2年ぐらいやっていた時に、茅ヶ崎市の方から「病院内の保育を委託したいんだけれど、やってくれないか」と声がかかったんですよ。それで、ぜひやらせてくださいと。



市役所のほうから声が。実際にやってみて、いかがでしたか?



私も自分の子どもを抱えながら仕事をしていたので、その委託型がすごくいいなと思ったんですよ。箱はあって、家賃もいらない。支出に関しては、うちは人件費だけという感じなので、これはいいなと思って。次に入札制度(※)というのがあるんだなということに気がついて、入札の資格を取ったんです。それから県立病院とか市立病院の入札を取るようになって、それを10年ぐらいやっていましたね。
※入札制度…自治体や公的機関が保育所の運営委託、施設整備・建設工事、調査業務などを発注する際、複数の事業者から見積価格や提案を募り、条件に合う相手を公正に選定する仕組み



10年、病院の中で。そこから園を作られたのは、どういうきっかけだったんですか?



自宅を改装するにあたって、たまたま企業内保育をやろうかなと思い立って保育所を作ったんです。認可外でやっていたんですけど、それもまたたまたま、市役所の方が来られた際に「認可にしませんか」と言ってくださって。それで、できるんならやりたいですということで始まって。あれよあれよという間に、病院も含めて12園できたというのが、いまに至るというところですね。



あれよあれよという間に、12園…! お話を伺っていると、ご自身が必要だと思ったことが、そのまま仕事になっていったように聞こえます。



そうです。私自身が必要だと思ったことをやったんです。それが、世の中にも必要だったのかなというところですね。



ただ、1994年ですと、まだベビーシッターという言葉自体が知られていなかった頃ですよね。



大手さんが先駆けで少しやっていましたけど、ほとんどなかったですね。うちは茅ヶ崎から平塚、大磯、箱根の方までやっていましたけど、下っていくほど「なんでお金を払って預けるんだ?」と、相当言われましたから。知らない人が家に入ることへの抵抗も、日本人はやはり結構あったので、最初は厳しかったですね。



いまのように当たり前ではなかったんですね。使いやすくするために、外に働きかけられたこともあったんでしょうか。



協会の理事を6年ほどやっているんですけど、その時に、「割引券を作ってほしい」と国会に提出してお願いしたんですよ。それが、ありがたいことに許可いただけて。1日2,300円のチケットが1日2枚使えて、それを人数分。福利厚生の会社が出しているチケットもあるので、それを組み合わせるとほとんど無料みたいに使える方もいるんですね。利用者側は、昔と比べればすごく利用しやすくなっていると思います。
豪華客船に、一緒に乗ってきてくれと



割引券のことは、まったく知りませんでした。ちなみに、保育園とベビーシッター、両方を運営されていますが、預ける方はどう使い分けていらっしゃるんですか?



今は保育園に預けていても、お母様が残業でお迎えに行けないことがあるじゃないですか。そういった時のための、送迎のベビーシッターもあるんですよ。働いていなくて、単に美容院に行きたい、どこかに出かけたいから、その間見ていてねというのもあります。だから、いろんな用途があるんですよね。



保育園の代わり、というだけではないんですね。



イベント保育もあって、企業さんの研修の間だけ見てほしいというニーズもあれば、パーティーの一角でやることもあります。クリスマスのシーズンになると、ディズニーのホテルの中でパーティーをやるから、その一角でイベント保育をやってほしいと頼まれることもあるんですよ。用途によっていろんな形態があるので、臨機応変にどのようにでもなるというのがベビーシッターですね。



ホテルのパーティーの一角で…! ちなみに、これまでで一番変わったご依頼はどんなものでしたか?



海外までついてきてほしい、というご依頼がありましたね。ドクターの方が1ヶ月間、どこかで勉強会をやるということで、その間1ヶ月一緒に住んでもらって自分の子どもを見てくれないかと。



1ヶ月、海外で住み込み…。それは、実際にお受けできるものなんですか?



1ヶ月単位での契約という形でやりましたけど、そういう人材がいれば、大丈夫です。うちは結構、英語に長けたシッターが多かったんですよ。TOEIC900点の方もいたので、そういう方に行ってもらいました。あとは、豪華客船に一緒に乗ってきてほしいというご依頼もありますね。



豪華客船…!



逆に言うと、そういうのをやりたい方は多いんですよ。仕事をしながら、無料で乗れるわけじゃないですか。



たしかに、行ってみたさはあります…! そこまで幅があると、園の中だけでは経験できないことも多そうですね。
10人を先生2人では、ハグしてあげられない



認可の園も運営されていますが、ホームページを見ると小規模の園が多いですよね。これは意図されているんですか?



うちは全部が認可の小規模保育園なんですよ。なぜかというと、私自身があまり保育園にいいイメージがなかったんですね。大きい保育園でも、0歳の子どもが10人に対して先生2人という体制で見ることもあるんですが、正直、すごく少ないなと。



10人を、お2人で。その体制で、十分に子どもの同行を見られるんでしょうか…。



そうですよね。うちの保育園は子ども2人に対して先生1人で見るんですね。そうすると、みんなハグしてあげられるじゃないですか。



ハグ、ですか。



0歳から3歳が、一番愛情を受ける時期なんですよ。その時期って、やっぱりハグがすごく大切なんです。大人でも子どもでも、ハグを1日10回すると精神が安定すると言われていて。人がいなかったら、ぬいぐるみでもワンちゃんでも何でもいいんですよ。



1日10回…! ご両親に代わって愛情を込めてお世話する、というのが御社のモットーだと伺いましたが、その手厚さが理念そのものになっているんですね。



そうですね。うちの園は、ただの預かりではないので。モンテッソーリ教育を取り入れたり、ドイツ発祥のコーディネーショントレーニングというのもやっています。体を動かすことによって、言語能力とか運動神経の発達が良くなるんですね。それを0歳から取り入れているんですよ。



0歳から、できるんですね。それだけ人を手厚く置くと、当然コストはかかりそうですが…。



利益率の話で言うと、大手だと預かる人数が多い分、1人の単価が低くなるところもあるんですよ。そういうのもあって、削っているところは結構あると思います。



子どもを預ける側にとっても、そこは大きな違いですね。



あとは、「子ども起業スクール」というのもやっているんです。子どもたちに早くから、お金の使い方と稼ぎ方を教えようと思って。100円のものをいかに安く仕入れるか、いかに高く売るか、という簡単なシミュレーションなんですけど。それに付随して、いまカードゲームも作っているんですよ。遊びながら覚えるタイプの。



カードゲームまで…! お金の教育を、子どものうちから。



私自身が経営者の家系に生まれているんですね。祖父が結構、やり手の経営者で、小さい時から祖父のそばにいて見ていたので。それが今の経営に役立っているというのは、実際に感じたことなんですよ。
子どもが好きであれば、トライして来ていただければ





現場を支える方については、いまどういった方が活躍されているんですか?



ベビーシッターのスタッフは、もともと保育園にいたけれど、大勢よりも1対1がいいという方とか、昔保育園にいて資格はあるけどやっていなかったという方は、活躍されている傾向にありますね。あとは、孫はいるけどあまり孫に会えないからということで、ちょっと年配の方もいらっしゃいます。



お子さんと触れ合いたい、という動機なんですね。ベビーシッターのお仕事は、資格がないと難しいものなんでしょうか。



資格という資格は特にないんですけど、最近は研修や資格を取らないとダメになってきたので、皆さんにはそういう研修会に出てもらうようにはしています。全国ベビーシッターサービス協会が出している認定試験もありますし、県が出している研修プログラムを修了すると修了証がもらえたり、子育て支援という形で取れるものもあるんですよ。



安全面や、万一の時の対処もありますものね。ということは、応募される時点で未経験、実績も資格もない方でも大丈夫なんですか?



もちろん大丈夫ですよ。うちに来ていただいて、研修を受けていただいて。最初はイベント保育で皆さんと一緒に入ってもらい、徐々に慣れていってもらって、慣れたら1対1で行ってもらう。そんな感じになりますね。



いきなりお1人ではなく、まず皆さんの中に混ざって。それでも採用は難航されている、と伺いました。



ベビーシッターが、なかなか難航しているんです。お客様からのご依頼はすごく多いんですけどね。ベビーシッターってどうしても不定期じゃないですか。そうすると、安定収入にはならないので、そこが一つの不安要素でもあると思うんですよ。



いつ依頼が入るかわからない、という不安はありそうです。そこは、どう解決されているんですか?



最初に伺うんですよ。報酬は月5万ぐらいがいいのか、10万なのか、15万か20万なのか、と。20万稼ぎたいという方なら、毎日の固定のお客様についていただく形になりますし、半分ベビーシッターをやって、半分保育園の補助をやるという方もいます。



希望の金額を先に聞いて、そこから組み立てるんですね。年間では、どのくらいの方を迎えていらっしゃるんですか?



入れ替えもあるので何とも言えないですけど、パートも含めて年間10人ぐらいは採用していると思います。ベビーシッターだけでも、10人ぐらいは採用したいですね。



10人…! そこまで人が必要な中で、採用のときに外せない条件はありますか?



1つ、お子さんが嫌いな方はちょっと困ってしまいますね。子どもが好きじゃないと、やれないので。そこが大前提です。あとは、しょっちゅう転職している方はやっぱりちょっと難しいかもしれないですね。



子どもが好きであること、そして1つの場所に留まれること。この2つが揃っていれば、資格も経験も入ってからでいい、と。



そうです。若い方でしたら、まだまだ保育士の資格を取る機会もあると思いますし、資格を取るための補助も国から支援があるんですよ。うちのような認可保育園ですと、無料でそういう講習会に出られたりという支援もできますので。新しいことにチャレンジするのはすごく大事なことですし、自分がやりたいと思うことは、ぜひやってほしいと思っています。本当にお子さんが好きであれば、ぜひトライして、来ていただければと思います。



資格がないから無理かな、と手前で止まってしまいがちですが、その資格を取る費用まで支えてもらえるんですね。柴崎会長も、預け先がないところからチラシ1万枚で始められています。先に問われているのは、資格の有無ではなく、子どもが好きかどうかと、そこに居続けられるかどうかなのかなと思いました。柴崎会長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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