「会社員時代の経験が、起業の原点になった。」ワンナップ英会話・海渡さんが語る、独立への決断と経営の舞台裏

中央大学経済学部を卒業後、オーディオメーカーのアイワ株式会社に入社した、ワンナップ英会話の創業者・海渡寛記さん。
生産管理や商品企画に携わり、海外の営業担当者に英語でプレゼンテーションを行うなど、世界各国のビジネスの現場で経験を積んできました。
そんな海渡さんが英語を使う仕事を通じて気づいたのは、「話す場面を決めて、徹底的に準備すること」の大切さでした。
準備を重ねたプレゼンテーションでは英語で話せるようになった一方、現地スタッフとの何気ない会話では、思うように言葉が出てこない。その経験から英語の学習方法に可能性を感じ、2002年にワンナップ英会話を創業しました。
しかし、開業後は経営に苦戦。そこで力を注いだのが、生徒一人ひとりの英語力向上と満足度を高めることでした。
今回は、海渡さんのこれまでのキャリアや起業の背景、ワンナップ英会話が大切にしてきた考え方、そしてAI時代における英語学習の価値について伺いました。
ワンナップ英会話
ファウンダー兼事業責任者 海渡 寛記
中央大学経済学部を卒業後、オーディオメーカーのアイワ株式会社に入社。生産管理部門で中国や東南アジアの生産拠点との業務に携わり、その後、商品企画部門でCDラジカセやポータブルCDプレーヤーなどの商品企画を担当。海外市場での英語によるプレゼンテーションを通じて、ビジネス英語の学習方法に着想を得る。約5年間の会社員経験を経て、2002年に新宿でワンナップ英会話を創業。現在はファウンダー兼事業責任者として、英会話事業に携わっている。
海外での仕事を通じて気づいた、「準備すれば英語は話せる」ということ
編集部まずは海渡さんのこれまでのキャリアから伺いたいのですが、大学を卒業されてからは、どのようなお仕事をされていたんですか?



中央大学の経済学部を卒業して、最初はアイワというオーディオメーカーに入社しました。入社後に配属されたのは生産管理部門で、中国や東南アジアにある工場の生産状況を確認したり、現地の担当者とやり取りしたりする仕事でしたね。そこで仕事上、英語が必要になったんですよ。



新卒で入社して、すぐに海外の方と英語でやり取りすることになったんですね…!



そうなんです。その仕事を一生懸命やっていたら、今度は商品企画部門に異動することになりまして。CDラジカセやポータブルCDプレーヤーなどの商品企画を担当するようになりました。



商品企画となると、生産管理とは仕事内容も大きく変わりそうですね。



かなり変わりましたね。当時は担当する商品カテゴリーの企画を、基本的に僕一人で見ていたんです。もちろん開発する技術者や営業担当者はたくさんいるんですけど、その人たちと相談しながら商品を形にしていく役割ですね。営業から市場のニーズを聞いて、技術者と必要な機能を考えて、デザイナーにデザインをお願いする。僕が指揮者のような立場になって、全体をまとめていました。



一つの商品をつくるために、さまざまな部署の方と調整されていたんですね。



そうですね。しかも、アイワは海外での売上が非常に大きい会社だったので、企画した商品を海外の営業担当者に説明する必要があったんです。試作品を持ってアジアやヨーロッパ、北米などを回って、「来年こういう商品を出します」と英語でプレゼンテーションするんですよ。そこで十分な販売台数の見込みが集まらないと、商品化できないこともありました。



商品化にも関わるって、それはプレッシャーですね…。英語で説明するのは大変ではなかったですか?



大変でしたよ(笑)。海外で働いた経験が豊富だったわけでもないので、必死に準備しました。プレゼンテーションの台本を覚えて、聞かれそうな質問とその答えも全部用意するんです。でも、そうやって準備しているうちに、あることに気づいたんですよ。話す内容を決めて徹底的に準備すれば、英語でも会議は乗り切れるんです。逆に、想定していない質問は聞き取れなくても、あらかじめ考えていた質問なら結構聞き取れる。同じ商品について海外のいろいろな地域で説明するので、2回目、3回目となると、だんだん話せるようになっていくんですよね。



同じ内容を繰り返し話すことが、英語の練習にもなっていたんですね。



そうなんです。最後に北米でプレゼンテーションをする頃には、かなりスムーズに話せるようになっていました。…ところが、その後に現地スタッフと食事に行ったら、全然会話が成立しなかったんですよ(笑)。



えっ、プレゼンテーションはできたのに、食事の席では話せなかったんですか?



そうなんです。「最近、日本では何が流行っているの?」なんて聞かれても、何も出てこない(笑)。そこは練習していなかったからなんですよね。それで、準備したことは話せるけど、準備していないことは話せないんだなと気づいたんです。だったら、話したい場面を決めて、その場面で使う英語を徹底的に練習すればいい。その経験が、後にワンナップ英会話をつくるきっかけになりました。
「社長になる」と宣言した会社を離れ、自分で事業を始めるまで



英語学習のヒントを見つけられた一方で、当時はメーカーで商品企画のお仕事をされていたんですよね。もともと独立することも考えていたんですか?



実は、大学生の頃から「将来は社長になりたい」と思っていたんです。父が事業をやっていたこともあって、会社を率いる仕事に何となく憧れがあったんですよね。ただ、最初から独立を目指していたわけではなくて、アイワに入社した時は、この会社で社長になろうと思っていました。



学生時代から、会社を率いることに憧れがあったんですね。



でも、入社後の新人研修で、アイワの株式の51%をソニーが保有していると知って驚いたんです。しかも、社長もソニーから来ることが多いと聞いて、「それじゃあ、アイワの社員である自分が社長になるのは難しいじゃないか」と思いました。ただ、それが悔しくて…。そこで新人研修の最後に、同期の前で「時間はかかるかもしれないけど、いつかこの会社の社長になります」と宣言したんです(笑)。



新人研修の時点で、そこまで宣言されたんですか…!



はい(笑)。30年、40年かかるかもしれないけど、努力して社長になると話しました。実際、入社して最初の1〜2年は思うように仕事ができなかったんですけど、その時から「会社に辞めないでほしいと言ってもらえるようになるまでは頑張ろう」と決めていました。



うまくいかない時期も、そこを目標に頑張ってこられたんですね。でもその後、会社を離れることになったのはなぜだったんでしょうか?



2002年に、ソニーがアイワの株式をすべて取得して、完全子会社化することになったんです。もともとソニーが過半数の株式を持っていましたけど、それでも僕は、いつかアイワの社長になりたいと思って頑張っていました。…でも、完全子会社になれば、アイワはさらにソニーの経営体制に組み込まれることになりますよね。そうなると、自分が思い描いていた形で社長を目指すのは、いよいよ現実的ではないなと感じたんです。それで退職を決意しましたね。実は退職後に、ソニーの商品部門の方から 「うちでまた働かないか」と声をかけてもらったんですけどね。ありがたい話でしたし、正直かなり迷いました。でも、最終的には戻らず、自分で事業を始めることにしました。



そこでもう一度会社員として働くのではなく、独立する道を選ばれたんですね。



はい。独立後は、メーカー時代に身につけたビジネス英語の学び方を生かした事業ができないかと思ったんです。仕事で使う英語は、場面を絞って練習することで身につけやすくなる。その方法をほかのビジネスパーソンにも伝えられたら、英会話を学ぶハードルを下げられるんじゃないかと考えました。それで2002年に、新宿でワンナップ英会話を立ち上げたんです。
開業後の約5年間は苦労の連続。それでも「生徒のためにできること」を続けた





実際に経営を始めてみて、いかがでしたか?



独立してからの最初の5年間くらいは、なかなか売上が伸びなくて本当に大変だったんですよ(笑)。当時の英会話スクール業界は、広告にたくさんお金を使える大手企業が有利な状況でした。でも、うちは同じように広告費をかけることはできなかったですから…。そこで、広告ではなく、顧客満足度に力を入れるようにしたんですよ。



広告に頼って新しく生徒さんを増やすのではなく、現在の生徒さんに満足してもらい、リピートしていただくことを重視されたということですよね。具体的には、どのような取り組みをされたんですか?



生徒さんの英語力を上げるためだったら、もう何でもやろうという考えでした。当時はネイティブ講師と英語で話す機会を提供するのが、英会話スクールの中心的な役割だったんです。でも、レッスンを受けるだけで英語が上達するわけではありませんよね。だから、ネイティブ講師によるレッスンに加えて、日本人のアドバイザーが自宅学習の方法を伝えたり、定期的にカウンセリングをしたりするようにしました。今でいう英語コーチングに近い考え方ですね。



レッスン以外の時間に、どう勉強するかまでサポートされていたんですね。



そうですね。それから、英語学習のコツを伝える無料セミナーも開催しました。僕自身がメーカー時代に経験したことを話して、「こういう場面で英語を使うなら、このように準備するといいですよ」と伝えたり。あとは、勉強のことだけじゃなくて、生徒さんがスクールに来るのを楽しみにしてくれるようなことも考えていましたね。例えば、誕生日にちょっとしたプレゼントを渡したり、季節のお花を飾ったり、イベントを開催したりしていました。家でも会社でもない、もう一つの居場所という意味で、「サードプレイス」という考え方がありますよね。英会話スクールも、そういう場所にできるんじゃないかと思ったんです。



英語を勉強するだけでなく、通うこと自体が楽しくなる場所を目指されたんですね。



そうなんです。生徒さんと食事に行くこともありました。スクールの中だと、どうしてもサービスを提供する側と受ける側という関係になりますよね。でも、一緒にご飯を食べている時は、もっと気軽に話せるんです。そこで本音を聞くこともできますし、「英語はやっぱり自分で勉強しないと上達しないですよ」という話もできる。そうやって、生徒さんとの距離を少しずつ縮めていきましたね。



その積み重ねが、経営にも良い影響を与えたんでしょうか?



そうですね。生徒さんに満足してもらえると、継続して通っていただけるようになりますし、知り合いを紹介してくださることもあります。弊社は本当に、顧客満足度を高めることで成長してきた会社なんです。今でもイベントは開催していて、先日も生徒さんやネイティブ講師たちと、50人くらいで食事に行きました。そういう関係性は、これからも大切にしたいですね。
英語学習に近道はない。だからこそ、20代のうちに経験を積んでほしい



海渡さんは仕事や英語学習で試行錯誤を重ねてこられたわけですけど、これから英語を学びたい人には、どんなことを伝えたいですか?



まず、英語は勉強しなければ上達しないということですね。当たり前のことですけど、本当にそうなんです。ただ、仕事で使う英語については、必要な場面を絞ることで、比較的短い期間でも対応できるようになると思いますよ。僕自身、会議で使う英語は準備を重ねることで話せるようになりましたから。



最初から何でも英語で話せるようになろうとするのではなく、必要な場面から練習していくんですね。



そうですね。例えば、仕事で出席する会議が決まっているなら、その会議で使う表現や、聞かれそうな質問を徹底的に練習する。そうやって対応できる場面を少しずつ増やしていくことが大切なんです。 でも、それで英語が何でも話せるようになるかというと、そうではありません。僕がプレゼンテーションの後の食事で話せなかったのと同じです。だからこそ、話せる場面を少しずつ増やしていくことが大切なんですよね。



一度できるようになったら終わりではなく、少しずつ積み重ねていくものなんですね。



そう思います。英語を学んでいくと、終わりがないことにも気づくんですよ。仕事で話せるようになっても、別の場面ではまた新しい表現が必要になりますから。これは仕事そのものにも通じると思っています。特に20代は、経験を積むことが大切な時期だと思うんです。30代、40代になると、また違った仕事の仕方になってきますよね。でも、20代のうちは体力もありますし、いろいろな経験ができる。そこで一生懸命取り組んだことが、30代以降の土台になっていくと思っています。



海渡さんも、会社員時代に経験したことが、今の英会話事業につながっていますもんね。



そうなんですよ。メーカーで仕事をしていた時は、英会話スクールをつくるために英語を勉強していたわけではありません。目の前の仕事で英語が必要だったから、一生懸命準備して、何度もプレゼンテーションを繰り返した。その結果、自分なりの学び方が見えてきて、それが後の事業につながったんです。だから、努力してみる前から「自分には合わない」と決めてしまうのは、もったいないと思いますね。
AIで翻訳できる時代。それでも「自分の言葉で話す」ことに価値がある





最後に、これからの英会話スクールについて伺いたいのですが、AIによる翻訳なども進化する中で、英語を学ぶ意味は変わっていくと思いますか?



変わっていくと思いますね。AIがここまで進化しているので、5年後、10年後にどうなっているかを予測するのは難しいです。でも、僕は人間が何かを学びたいと思う気持ちは、なくならないんじゃないかと考えています。



それは、どうしてでしょうか?



例えば、車ができたからといって、人間が走ることをやめたわけではないですよね。今でもオリンピックでは100メートルを少しでも速く走ろうとしていますし、健康や体力のためにジムで身体を鍛える人もいます。便利なものができても、自分自身の能力を高めたいという気持ちは残ると思うんです。英語も、それと同じようになっていくんじゃないでしょうか。



翻訳する手段があっても、自分で英語を話せるようになりたいということですね。



そうですね。これからは、自分の声で英語を話せること自体に、今とは違った価値が生まれるかもしれません。特に大切になると思うのが、人との信頼関係です。相手の国の言葉を知ろうとすることは、その人に対するリスペクトにもなりますよね。たとえ完璧な英語ではなくても、自分の言葉で伝えようとすることが、相手の心を動かす場合もあると思うんです。



確かに、言葉が完璧でなくても、相手が一生懸命伝えようとしてくれたらうれしいですよね。



そうなんです。仕事や旅行で必要な情報を伝えるだけなら、AIの翻訳で十分になる場面も増えていくと思います。でも、例えば食事をしながら何気ない話をしたり、お互いのことを知ったりする時間は、また別ですよね。そういう会話は、これからもっと価値が高まっていくんじゃないかと考えています。



そうした変化の中で、ワンナップ英会話として大切にしていきたいことはありますか?



やっぱり、コミュニケーションの場であることですね。英語を勉強するだけなら、これからはもっといろいろな方法が出てくると思います。でも、実際に人と話して、相手のことを知って、関係をつくっていく。そういう体験ができる場所には、これからも意味があると思うんです。だから、ワンナップ英会話も、単に英語を教えるだけではなく、人が集まるコミュニティとしての役割を大切にしていきたいですね。



メーカーで働いていた頃、何度も英語のプレゼンテーションを繰り返し、仕事に必要な英語を身につけてきた海渡さん。その一方で、プレゼンテーション後の食事では思うように話せなかった経験が、英語学習の方法を考えるきっかけになりました。そして独立後は、思うように経営が軌道に乗らない時期を経験しながらも、生徒一人ひとりと向き合い、学習を支えることに力を注いできました。今回のお話で印象的だったのは、どの経験も、最初から次の仕事につながるとわかっていたわけではないということです。目の前の仕事に一生懸命取り組み、うまくいかなかったことからも学ぶ。その積み重ねが、後になって自分だけの強みや、新しい仕事のきっかけになることがある。そしてAIが進化するこれからの時代にも、自分で学び、自分の言葉で誰かと向き合うことには、変わらない価値があるのかもしれません。海渡さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

