「言葉にできたら、自分の人生を豊かにする一つの力になる。」株式会社Ripple生涯教育研究所・ミクーチさんが考える、“言葉を学ぶ”ということ

大学卒業後にアメリカへ渡り、現地の特別支援学校で教員として働いたミクーチ淑美さん。その日々を、「人が生きるっていうことに、真正面からぶつかるようだった」と振り返ります。
帰国後は大学院へ進み、教師の専門性について研究。2013年に株式会社Ripple生涯教育研究所を立ち上げ、現在は乳幼児から大人までを対象に、日本語や英語、アートなどを通じた学びの場をつくっています。
なぜミクーチさんは、「言葉を学ぶこと」を人生を豊かにすることまでつなげて考えているのか。実際の授業で大切にしていることや、これから一緒に働きたい人についても伺いました。
株式会社Ripple生涯教育研究所
代表取締役 ミクーチ 淑美
大学卒業後、アメリカへ渡り、現地の特別支援学校で教員として勤務。帰国後は大学院へ進み、教師の専門性などについて研究。その後、株式会社Ripple生涯教育研究所を設立。乳幼児から大人までを対象に、日本語・英語をはじめとした教育事業を展開している。
人が生きるっていうことに、真正面からぶつかるような日々でした

編集部「言語」「コトバ」を大事にされているミクーチさんですが、まず現在の事業を始められるまでの経緯から伺ってもいいですか?



大学を卒業して、そのままアメリカへ渡りました。現地で教員の仕事をしていて、勤務先が特別支援学校だったんです。そこで働いているとき、「人が生きるっていうこと」に真正面からぶつかるような日々だったんですよね。



そこで、「教える」よりもさらに根本の部分を考えるようになったんですね。



そうですね。もっと「生きる」ということをちゃんと考えたり、「生きていていいんだ」と思えたりするような形で、人は育っていく必要があるんじゃないか。そんなことを考えるようになりました。



帰国後は、そのまま教育現場に戻るのではなく、大学院へ進まれたんですよね。



はい。大学院では、先生たちの専門性がどう形成されていくのかということや、先生たちが自身を守るためにやっていることが、逆に能力の伸びを止めてしまっているんじゃないか、というような研究をしていましたね。



日本の教育そのものにも、感じることがあったんでしょうか。



ありましたね。日本の教育や、人が育っていく場所を見ていると、スキルが重視されていたり、「失敗しないこと」「順調に進むこと」が良いとされていたりするように感じていて。もっとその人自身のことを考えた上で学べる場所があってもいいんじゃないか、というのは大学院にいる頃からすごく考えていました。
言葉にできたら、自分の人生を豊かにする一つの力になる





会社を立ち上げるまでには、東日本大震災も大きく影響したそうですね。



そうですね。当時、「絆」とか、人と人とのつながりということがすごく言われていましたよね。何もなくなってしまったとき、人は人に頼るしかない。でも、頼り方がわからなかったり、「助けて」と言えなかったりする。



わかる気がします…。



「そこにいてくれればいいんだよ」と伝えることもできない。そういうことで、より追い詰められてしまう人もいたんじゃないかと思ったんです。



誰かとつながろうとしても、伝える言葉がないと難しい…。



そうなんです。自分がどこへ行きたいのか、反対にどこへは行きたくないのか。何をしてほしいのか。そういうことをちゃんと言葉にできるようになったら、自分の人生を豊かにする一つの大きな力になるんじゃないかと思いました。それで「言葉」にフォーカスして、言葉の学習を通して人生を豊かにしましょう、という考えで会社をスタートしました。



だから「生涯教育研究所」なんですね。



そうですね。人は生まれてから亡くなるまで、人との関係の中で生きていきます。英語や日本語を身につけること自体が目的というより、それを使って人との関係や人生が豊かになっていくことを大事にしたい。それで2013年に開業しました。



人生を、豊かに…。実際には、どのくらいの年代の方が通われているんでしょう?



かなり幅広いです。乳幼児とお母さんを対象にしたものから、幼稚園から中学生、高校生以降まで年代ごとにあります。大学生や大学院生、大人の方もいますね。大人の方だと、「英語を学び直したい」とか、「もう少し論理的に話せるようになりたい」とか、目的がはっきりしている方が多いので、個別で取り組むことも多いです。
何を言っても正解だから、ひとまず今あるものを出してごらん



お話を聞いていると、一般的な英会話スクールや塾とは、授業の進め方もかなり違いそうです。



そうだと思います。英語でも日本語でも、テキストをたくさんやって、知識を入れて終わりということではないんです。まず考えて、自分の言葉で出してみる。その中で、「こういうことを言いたいなら、この文法が使えるよね」「こういう単語があるよね」と必要なものを入れていきます。



最初から、正しい答えに持っていくわけではないと。



基本的には、講師側から形を決めてしまうことはあまりしません。こちらから投げかけて、本人から出てきた言葉を大事にします。あまり否定もしないですね。「何を言っても正解だから、ひとまず今あるものを出してごらん」というところから始めます。



出てきた言葉を見てから、次に必要なものを渡していくんですね。



そうです。「こういうことを言いたいなら、こういう文章にするといいよね」とか、「文章の形を変えると伝わり方も変わるよね」と一緒に考えていきます。そういうアプローチを「リプルメソッド」として、カリキュラムの中に入れています。



実際の授業だと、どんなやり取りになるんでしょう?



たとえば日本語なら、小学6年生くらいの子が何かを話したときに、「その感覚なら、こういう熟語も使えるよ」と、いま持っている言葉の一つ上を渡してあげることがあります。高校生なら、「そういう現象を四字熟語で言うと、こういう言葉があるよね」とか。



その場面と一緒に言葉を覚えていくんですね。



そうなんです。状況と言葉がくっつくから覚えられるし、そのあと使えるようになるんですよね。



英語でも同じようにですか?



英語の場合は、もう少し手前からですね。まずは単語だけでもいいから、言いたいことを出してもらって。日本人って、英語になると「間違えたらどうしよう」と、発信すること自体を怖がることが多いので。絵を見せて、「どう思う?」「この人はどんな表情?」「どうしてそう思った?」と聞くこともあります。そこで、自分が持っている英単語を引っ張り出してもらうんですね。「わからない、なんて言うんだろう」となったら、講師が「英語ではこう言うんだよ」と教える。大人の方でも、基本的には同じですね。



アートにも取り組まれているのは、表現の仕方を増やすという意味もあるんでしょうか?



そうですね。書道などもやっていますけど、芸術と言葉って、私たちの中では切り離せないんです。表現する方法を変える、という感覚ですね。
合格率って出そうと思えば、ほぼ100%出てるんですよね



一般的なスクールの訴求のように、成果を点数や合格率で見せて宣伝しようと思えば、それもできるんですよね。



そうなんです。日本で通っていただいているお子さんは、ほぼ皆さん行きたいところへ行けているので、合格率を出そうと思えば、ほぼ100%出てるんですよね。ただ正直、出したくないんです。進学塾みたいな形にしたくないので。



結果より、その過程で身についたものを見てほしいと。



そうですね。塾と併用しているお子さんも多いですし、ちゃんと取り組んでいれば塾の成績が伸びてくることもあります。ただ、その裏にあるのが、自分で進路を決められるだけの判断力だったり、親御さんときちんと話せるようになることだと思っていて。



「親に言われたから」ではなく。



はい。「親がこうしなさいと言ったから、こうします」ではなくて、「私はこうしたい。だからここへ行きたい」と、自分の考えを親御さんと話せる。そういうところが育った結果として、自分ごとになっている進路につながっているんじゃないかと思っています。



長く通われている方も多いんですよね。



長いですね。6年とか10年とか、ずっと来てくださる方もいます。ご家族からも、「話し方が変わったよね」「考えていることがまとまるようになったよね」と言っていただくことがあります。大々的な告知を10年以上ほとんどしてこなかったのに続けてこられたのは、そういうところもあるんじゃないかなと思っています。
先生も頑張ってるじゃん、って見せられる





今後は、スタッフも増やしていきたいとおっしゃっていましたよね。教育業界が未経験でも、スタッフとして採用してもらえる可能性はあるんでしょうか。



未経験でも、人によると思っています。大学で教育を学んだけど教えたことはないとか、一度学校で働いたけれど学校が合わなかったとか、違う学部を卒業したけれど、「教育をやってみたい」という方もいると思うんです。そういう方が、うちの理念や会社の雰囲気、仕事の内容を見て、「やりたいです」と前向きに来てくださるのであれば、しっかり教えていければいいなと思っています。



ただ、英語の先生になる場合は、英語力が必要になりますよね?



そうですね。英語のセクションで入っていただくなら、英語スキルは必要です。でも、日本語の先生として入って、社内で英語に触れながら自分も勉強してもらうのは全然いいと思っています。



先生自身が、まだ勉強している途中でもいいんですね。



むしろ、それが子どもたちにとって良い刺激になることもあると思うんですよ。日本語の先生が英語のプログラムを手伝って、一生懸命英語を使っている姿を見たら、子どもたちも「先生も頑張ってるじゃん」って思えるじゃないですか。先生と一緒に成長していけるというのは、教育の仕事の面白さだと思います。



それでいくと、新しいことには挑戦しやすい環境だったりするんでしょうか?



そうですね。スタッフから「これをやってみたい」と出てきたら、「じゃあ、とりあえずやってみるか」と動くことが結構あります。Spotifyでラジオをやっているのもそうですし、挑戦すること自体は文化としてあると思いますね。一方で、これからはスタッフが仕事から少し離れて学ぶ時間もつくりたいと考えています。大学の先生には「サバティカル」といって、何年か勤めたら半年や1年、自分の研究や勉強に使える時間をもらえる制度がありますよね。まだ具体的に決まっているわけではないですけど、うちでも、スタッフが自分なりに研鑽を積める時間を持てるようにしたいんです。



教育の仕事をしていると、教えることばかりになってしまいがちですけど、インプットも重要であると。



そうなんですよ。この業界って、どうしてもアウトプットが多いので、知識をどんどん出すことはできるんです。でも忙しくて、新しい知識に触れることがなかなかできないんですよね。だから、先生たちが学び続けながら、仕事ができる環境を整えたいと思っています。それに、その学ぶ姿勢を子どもや大人の生徒さんが見ることで、良い刺激にもなりますから。



アメリカの特別支援学校で「人が生きる」ということに真正面から向き合った経験が、「言葉の学習を通して人生を豊かにする」という今の教育につながっていったんですね。授業では、最初から正解を渡すのではなく、まず本人の中にあるものを言葉にしてもらう。そしてこれからは、教える先生自身も学び続け、その経験をまた子どもや大人の生徒さんに返していく。ミクーチさんのお話を伺っていると、学ぶことは知識を増やすだけではなく、自分の考えを持ち、人と関わっていくための力でもあるのだと感じました。ミクーチさん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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