「日本を、デザイン系の経営者がいる国にしたい」株式会社シセイラボ・武山代表が、中小企業とクリエイティブ人材をつなぐ新サービス「D4U」を立ち上げるまで

日本の中小企業の経営層には、デザインを担うクリエイティブ人材がいない。株式会社シセイラボの武山和代表が、300社以上の企業と10年以上も企業と1対1で向き合ってきた中で、ずっと感じてきた課題です。

その課題を解くために、2026年8月に立ち上げたのが中小企業とクリエイティブ人材をつなぐプラットフォーム、「D4U」です。デザイン経験がある方はもちろん、未経験者や学生でも登録でき、いずれは中小企業のブランディングやデザインの”責任者”を目指せます。

日本を、デザイン系の経営者がいる国にしたいんです」。そう語る武山代表に、「D4U」を立ち上げるまでの道のりを伺いました。デザインが経営の仕事になるとは、どういうことなのか。ひとつの答えが、ここにあります。

お話を伺った人

株式会社シセイラボ

代表取締役CMO 武山 和

高校卒業後、2年間ホテルの契約社員として働く。その後、山口大学工学部で建築とデザイン、認知心理学を学ぶ。個人事業主を経て、2015年に山形市で株式会社シセイラボを設立。企業のマーケティング、ブランディング、制作、プロモーションを一貫して手がける。2026年8月、中小企業とクリエイティブ人材をつなぐ「D4U」を立ち上げる。

目次

建築で何かしたいというより、学んでみたかった

編集部

武山代表のこれまでの歩みから伺いたいのですが、大学では建築を学ばれていたんですよね。

武山代表

そうですね。ただ、その前に高校を出てから2年ほど、西武新宿のホテルで働いていました。契約社員という形でしたけど、やっていたのはキッチンの雑用で、ほぼフリーターのようなものでしたね。

編集部

高校卒業後に契約社員として働き、その後に大学へ行かれたと。また「学びたい」と思われたのには、どんなきっかけがあったんですか?

武山代表

ル・コルビュジエという建築家の展覧会が六本木でやっていて、たまたま行ってみたんですよ。そうしたら、建築の世界がいろんな要素で成り立っているとわかりましてね。街づくりの情報や、住んでいる人の人口。建物ひとつにしても、周りに与える影響があるのだなと感じたのを覚えています。

編集部

建物を建てる話だけではなかった、と。

武山代表

ええ。それで、建築の世界で何かしたいというより、建築の世界を学んでみたいと思ったんです。それが、大学へ行った理由ですね。

編集部

山口大学を選ばれたのは、なぜでしょう?

武山代表

コルビュジェ(※)を深く調べていくと、人の行動や生活、暮らしを中心にする建築をやってきた人なんだとわかってきましてね。山口大学は建築とデザイン、それから認知心理学を横断的に学べるところだったんです。あとは国立で、学費が年間56万円ぐらいと安かったんです(笑)。

※…コルビジェ:20世紀を代表するスイス出身の建築家 

編集部

認知心理学まで。そこで学んだことが、いまのマーケティングにつながっているんですね…!

武山代表

そうですね。ただ、卒業してからは半年ほど、建築系の会社に籍はあったんですけど出勤もしていなくて。ニートのような状態でした。そのあと、自分で仕事をしてみようと思って、個人事業主から始めたんです。

クリエイティブも、一人では成り立たないんですよ

編集部

そこから、2015年に山形で会社を。

武山代表

はい。いま12期目になります。企業のマーケティングやブランディング、制作、プロモーションを一貫して行うような仕事をしていますね。基本は年間契約で、12ヶ月分の計画をご提案し、毎月の戦略会議で伴走していきます。

編集部

年間契約ということは、クライアントさんとは毎月お会いになるんですか?

武山代表

ええ、毎月の戦略会議でお会いします。議題は早い流れで変わっていきますから、そのときどきで誰にどうアプローチすべきかを考えることになります。プロダクトについても、「このままでは市場に納得して買っていただけませんよ」と正直にお伝えすることもあります。

編集部

完全に建築の分野、というわけではないんですね。

武山代表

いまやっているのは、企業やブランドがどうやったら生活者を豊かにするか、というところなんですよ。つまり人を中心に考えるという意味では、コルビュジェと同じです。そこに貢献するための手段として、システム開発があり、広告運用があり、採用のブランディングがあります。

編集部

手段が違うだけで、見ているものは変わっていないと。

武山代表

そうですね。あとは、クリエイティブも建築と同じで、一人では成り立たないんですよ。デザインを作る人もいれば、プロダクトそのものを開発する人もいる。広告ひとつ打つにも、どんなキャッチコピーがいるかを考える人がいる。だから、どれかひとつを極めるより、全体を包括的に見られるほうが役に立つと思っていましてね。それもあって、私自身は何かひとつの専門性を尖らせているわけではないんですよ。

編集部

全体を、包括的に見る…!

武山代表

ただ、契約する企業の数は最小限にして、1社ずつ深く経営の話までしっかり入っていきたい考えですね。

4割を5割に、という話ではなかった

編集部

包括的に見る、というのが実際に効いた例はありますか?

武山代表

不登校の支援をされている、神戸の企業様ですね。その企業様は初回のご相談を無料にされていて、そこから有料相談に進む方が4割ぐらい。残りの6割は1回の無料相談で終わってしまうというお悩みを抱えていました。

編集部

その6割をどう引き上げるか、という話になりそうです。

武山代表

そうですよね。おそらく多くのマーケティング会社は、4割を5割に、6割にしましょう、という議論になると思うんです。ただ私たちは、1回の無料相談で6割の方が解決している、という事実をポジティブに捉えるところからコミュニケーションを始めました。

編集部

そこに目をつけられたんですね…!

武山代表

親御さんが1回相談することで、ご家族のいまの状況が整理されるんですよ。というのも、お子さんが不登校であることが自分たちの責任なのか、周りの環境の責任なのか。そこがきちんと見えるから、4割の方しか次に進まない。そう捉え直したわけです。

編集部

捉え方を変えるだけで、打ち手が変わりますね…!

武山代表

新しく来る方の数字を上げましょう、という話にすると、どうしても入り口の広告の話になるんですよ。でも本当に見るべきなのは、一度相談に来てくださった方に何が起きているかでした。

編集部

そこから、具体的には何をされたんでしょう?

武山代表

1回目の無料相談の質がどれだけ高いか、そしてその先にどれだけの価値があるかを、きちんとお伝えするようにしましたね。そうしたら、無料相談を受けた方が、もう少し聞いてみよう、お金を払ってやってみようと考えていただけたようで、結果的に2回目の相談に進む方がかなり増えたんです。

編集部

数字を追うのではなく、意味を置き直したんですね。

武山代表

そういう提案ができてきたのは、クリエイティブな人材が周りにたくさんいたからだと思っているんですよ。

何かを作ることは、正直、誰がやってもいい

編集部

クリエイティブな人材…!いまはAIが文章もデザインも作れる時代です。クリエイティブの仕事について、武山代表はどう変わっていくとお考えですか?

武山代表

AIは、作業すること自体はできます。ただ正直に言うと、何かを作ることは、誰がやってもいいと思っているんです。

編集部

作り手ご自身が、そこまで言い切られるとは…!作ることを手放したら、人には何が残るんでしょう?

武山代表

なぜそのクリエイティブなのか、なぜそのコピーなのか。それを説得力を持って相手に納得してもらうところは、やっぱり人がやるべきだと考えています。誰が作ったかではなく、なぜこれなのか。そこに、デザイナーやコピーライターの今後の価値が出てくるんじゃないかと。

編集部

なるほど。理由まで説明されているものって、実際にあるんでしょうか? 

武山代表

たとえば、Instagramのロゴが新しくなりましたよね。筆記体が含まれているんですけど、あれは個人がオリジナル性を持って自らの個性を投稿していく、その人間性を出すために入れたのだと聞きました。そういう”理由を持ったロゴ”は、AIにはなかなか作れないんじゃないかと思うんですよ。

編集部

ロゴに、意味が入っている…!作るところまでではなく、説明までがデザインの仕事なんですね…!

武山代表

そうです。ロゴを変えました、で終わらせずに、こういう理念があってここに込めました、と伝える。それだけで、その企業のブランドは変わってくると思うんですよ。

編集部

たしかに…!!

武山代表

新しい価値を創造したり、いまの世の中の人の感覚や感情をキャッチアップして何かを生み出したり。そこは、AIに求めるところではないと思っています。

編集部

ちなみに、ほかにも人にしかできないことはありますか?

武山代表

やっぱり、人と人との関係性を丁寧に考えたり、思い合ったりするところですね。そこもAIには決してできないと思っています。

学生のうちから、経営の側へ

編集部

その、関係性を考える力は、どうやって身につくんでしょう?

武山代表

それこそ、質問力だと思っています。例えば話す中で、相手が気づいていなかったことを意味にしてあげる。あるいは相手の歴史を、違う角度で褒め称えるような投げかけをする。それができるのは、クリエイティブなことをやっている人たちなんですよ。

編集部

その力を持った方は、経営の場にはいらっしゃらないかもしれない、というのが武山代表のお考えですよね。

武山代表

そうなんです。10年以上、企業と1対1でやってくる中で、日本の中小企業の経営層にクリエイティブ人材がいないことに課題を感じていましてね。そこで立ち上げたのが、クリエイティブ人材と中小企業をつなぐキャリアプラットフォーム「D4U」です。

編集部

クリエイティブ人材と中小企業をつなぐ、というのは…。

武山代表

学生さんやデザイナー、ディレクター側に登録していただく「クリエイティブパートナー」と、お仕事を発注する側に登録していただく「企業パートナー」の2種類のパターンがあります。「クリエイティブパートナー」は、デザインを経営や社会で活かせないという課題を抱えていて、「企業パートナー」は経営にクリエイティブな視点がないという課題を抱えている。ここがマッチすることで、相互に課題の解決ができるという仕組みです。

編集部

そのクリエイティブ人材の中に、学生さんも含まれるのがおもしろいですね。

武山代表

学生さんや第二新卒の方、フリーターの方にも参加していただこうと思っています。こんなビジョンで仕事がしたい、こういうことがわからない。そういう話を雑談も含めて聞いてもらえるプラットフォームで、私自身もひとりひとりに寄り添う形でやっていきたいんです。まだ実績がなく不安な方向けに、プロの方にメンターについていただく仕組みも用意しています。

編集部

なるほど。だからこそ学生さん側からすると「いずれ中小企業のブランディングやデザインの責任者を目指せる場」ということなんですね。単にお仕事を発注したり受注したりするだけの場ではない、と。

武山代表

もちろん、クリエイティブパートナーさんが企業から指名を受けたら、まず私たちも入ってオンラインでお話しして、相性が良さそうならそのまま受託といった流れもあります。

編集部

ここまで手をかけて「D4U」をつくられたのは、その先に何を見ているからなんでしょう?

武山代表

私がミッションとして掲げているのが「すべての企業に、デザインという経営力を」 というものでしてね。つまり日本を、デザイン系の経営者がいる国にしたいんです。デザイナーやディレクターの価値がもっと高まっていけば、そこに近づいていくんじゃないかと考えています。

編集部

建築やデザインを学び、これまで10年以上も企業と1対1でやってこられた武山代表が8月に用意した「D4U」は、まさにそのための一歩でした。このプロダクトが活性化することで、デザイナーやディレクターの価値がもっと高まっていく。そうして、日本の企業に”デザイン”という概念が加わり、強化され、クリエイティブな仕事がもっとわくわくするようになる…。いつか、そんな未来がやってくるかもしれません。武山代表、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

目次