「世の中には、縁の下の力持ちみたいな会社もあるんです。」株式会社セイコーウェーブ・新村社長が、世界で唯一の解析技術を日本でつくるまで

求人サイトを一通り見ても、やってみたいと思える仕事が見つからない。そんなふうに手が止まったことはありませんか?実はこの世の中には、まだあなたが知らない仕事がたくさんあります。
株式会社セイコーウェーブの新村稔社長は、製油所や工場の設備がまだ安全に使えるかどうかを調べる技術をつくってきました。「世の中には、縁の下の力持ちみたいな会社もあるんです」と話します。
もとはシリコンバレーでパソコンを設計していた新村社長が、なぜ鉄の腐食を測る仕事に移ったのか。そして、その技術の詳細とは…。詳しくお話を伺いました。
読み終わる頃には、自分が知っている仕事は、ほんの一部だったとわかるはずです。
株式会社セイコーウェーブ
新村 稔 代表取締役社長
大手電機メーカーに25年勤め、1987年からはシリコンバレーでパソコンの設計を担当する。在職中に出会ったアメリカ人とともに、退職後の2010年、日米で株式会社セイコーウェーブを創業。3次元計測装置と、腐食の解析・評価ソフトウェアの開発を続けている。これらは製油所や石油化学工場の生産設備、橋やコンクリートの構造物などの点検に使われ、日本のほかアメリカ、韓国、台湾、南アフリカなど各地に届いている。
1987年のシリコンバレーで、パソコンを設計していました
編集部新村社長は、いまは3次元計測装置の会社を経営されていますが、そこに至るまでの歩みから伺えますか?



この会社を創業する前は、大手の電機メーカーに25年おりました。シリコンバレーで、パソコンの設計をやっていたんです。向こうにいたのが1987年からなので、日本がジャパン・アズ・ナンバーワンと言われていた頃ですね。



1987年のシリコンバレーで…! そこから独立されるまでは、一体どういった経緯で…?



辞める2、3年前に、あるアメリカ人と共同で仕事をする機会がありまして。彼のやっている事業に興味を持ったので、退職したあとに一度その会社に転職したんです。ただ、転職して半年で、その会社が潰れてしまいましてね。2007年、2008年の頃です。



半年で…! そのあとは、どうされたんですか?



しばらく個人でコンサルティングをやっていたんですけれども、2009年にまたそのパートナーから、一緒に仕事をやらないかという話になりまして。それで2010年に、日本とアメリカで会社を起こしています。日本では川崎が最初の地で、アメリカはケンタッキー大学のインキュベーションセンターを使って創業しました。



一度潰れたところから、同じ方ともう一度。いまも日米の両方で動いていらっしゃるんですか?



アメリカの会社が2年半ほど前に、別の会社に買収されまして。もともとアメリカ側が開発の主体だったんですけれども、その舞台が全部そちらに移ってしまったものですから、今は日本だけで開発しています。創業は2010年ですので、今年で17年目に入りました。
爆発します。本当です





その開発されているものについて、詳しく伺えますか?



製油所や石油化学工場には、大きなタンクや配管がありますよね。それらは鉄でできているので、外側に腐食が出るんです。弊社の技術は、まずその腐食を計測します。そのうえで、腐食が出た設備が、いまの運転圧力のまま安全に使えるかどうかを評価します。安全でなければ、止めて補修をすることになります。



腐食というのは、鉄が錆びて薄くなっていくことですよね。それを測って、この設備はまだ使えるのかどうかまで判断される、と。もし腐食が進んで、穴が開いてしまったらどうなるんですか?



爆発します。



爆発…! それは、実際に起きうることなんでしょうか?



本当です。計測を全く行っていなければ、穴が開いて爆発ということも起こりえます。ただ、計測をしないこと自体が経済産業省の規定に反するので、タンクであれば5年に1回くらいの期間で中を開けて検査して、穴が開くのかどうかを予想するんです。



決められた周期で、必ず見ているんですね。ちなみに、その検査ってどのように行うんでしょう?



従来は全部、目視の手作業でやっていたんですね。ただ、効率が悪いのはもちろんですが、人によって結果も違いますので、再現性が悪いんです。弊社の装置を使っていただければ、誰がやっても一定の精度に収まります。効率も上がりますよ。
3次元で撮るところまでは、世界中にあります



誰がやっても、同じ結果になる。その仕組みは世界でここにしかない、と伺いましたが、何が唯一なんでしょう?



実は、3次元の形状を取るものは世界中にたくさんあるんです。弊社の特徴は、3次元のスキャナーで捉えたデータを解析するところですね。腐食の深さが色でわかるカラーマップを作る。そこが弊社の技術です。





撮るところまでは他社さんもできて、そこから先が唯一なんですね。どのくらい細かく測れるものなんですか?



縦横が0.1mmくらいの分解能で、奥行きはその10分の1です。それだけ細かく、対象物の表面の形を測ることができます。そのデータを使って、今の運転圧力に耐えられるかどうかを評価するわけですね。



0.1mmの、さらに10分の1…! 目で見てわかる差ではないですね。その技術は、特許で守られているんですか?



いくつか特許は取っています。2019年のものは、大分県の金属の精錬所に弊社の製品を納めたときに作った技術で、そのお客様と一緒に申請しました。それ以外にも、ドローンを使って点検できる仕組みや、コンクリートの壁の内側にどれくらい空隙があるかを測るものがあります。ただ、ノウハウのほうは特許を取らずに、門外不出にしています。特許にすると真似される可能性があるものですから。



あえて公開しない、という守り方もあるんですね。ちなみに、この技術は海外でも使われているんでしょうか?



弊社の初期の投資家に、アメリカの石油メジャーがありまして。今も製品を購入いただいて、製油所で使っていただいています。去年から今年にかけては、現地で取っていただいたデータを弊社が引き受けて解析し、結果をお返ししました。
神のような機械だな、と言われました





実際に現場で使われている方から、声が届くことはありますか?



滅多に聞くことはないんですけれども、それでも、今まで手作業で行っていた作業者の方からは「これをもっと早く知りたかった」と言われますね。暑いところで何時間もかけていた作業が、これを使うと数分で終わってしまう。「神のような機械だな」と。



何時間が数分に。それは言いたくなりますね…! 今後、広げていきたい現場はありますか?



鉄橋ですね。かなり老朽化が進んでいますから。ただ、これまでは足場があるか、人が歩いていける点検路がある場所でしか検査ができなかったんです。しかも足場を作るのに何億円とかかるので、足場を作ったのであれば、もう検査なしで全部補修しましょう、となってしまうんですね。



見るための足場に何億円もかかるなら、見ずに直したほうが早い、と。



そうなんです。ですので、鉄橋の保全の管理者の方やオーナーの方からは、足場を作らずに検査ができるという技術であれば提供してください、と言われています。それにあたるのが、弊社の装置をドローンに載せて、近くまで飛ばして検査をする、という方法です。



足場の代わりに、ドローンが飛ぶ。技術の進歩はここまで来たんですね…!
縁の下の力持ちみたいな会社も、あるんです





新村社長ご自身は、この仕事のどこに面白みを感じていらっしゃいますか?



光で一定のパターン、縞模様を当てると、3次元の形状が取れるんですね。こんなことができるんだ、という、いわゆる理学的な面白みなんです。今までやったことのないような技術で、「あ、これだ」と。



縞模様を当てるだけで、形がわかってしまう。そこに面白みを感じるのもわかる気がします…!



それに、世の中で誰もあまりやっていなかった仕事ですから、ブルーオーシャンですね。そういうところをもっと本格的にやっていきたいな、と思いました。



ちなみに、この仕事をするにはどんな知識が必要になるんでしょう?専門的な知識がないと難しいようにも思えますが…。



使うだけであれば学術的な知識はあまりいらないんですけれども、中身までわかろうとすると、機械工学の力学が要りますね。腐食に関しては、化学の知識も必要になります。あとは、装置を売って終わりではなくて、現場に実際に行って計測もしますので、体力も必要ですね。



技術と体力の両方なんですね。コミュニケーションスキルのほうは、どうでしょう?



社内で開発するのに必要なのは技術力ですけれども、お客様のところに行って説明をするには人間力なんですね。お客様に信頼されないとダメです。技術を持っていて、人当たりが良い人は向いているかもしれないですね。あとは、ドローンの操縦ができる方。国家資格の2等操縦士を持っていれば、将来的に仕事をお願いすることがあるかもしれません。



ドローンの資格が、この仕事につながることもあるんですね。最後に、キャリアを考える若い方に向けて、伝えたいことはありますか?



世の中には、こういう縁の下の力持ちみたいな会社もあります。安全安心を守っているんですよ、ということですね。特に女性の技術者が増えてくれると、個人的にはもっと嬉しいです。



縁の下の力持ち、という言葉のとおりですね。製油所のタンクも、鉄橋も、誰かが測っているから使い続けられている…。お話を聞いて、これまで知ることも触れることもなかったお仕事の知識がひとつ増えました。新村社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

