「人と同じことをしていたらダメだ。」株式会社テイト微研・首藤代表が、35年にわたって微生物と向き合ってきた理由

悪臭のする排水や汚泥、災害時にすぐに処理できない排泄物。こうしたものを、微生物の力で分解できるとしたら。
株式会社テイト微研の首藤隆利さんは、35年近くにわたって微生物を活用した環境分野の研究に携わってきました。
ただ、最初から微生物の研究者を目指していたわけではありません。大学では化学工学を学び、卒業後は地元で仕事を転々とした時期もありました。その後、偶然入った会社で生ごみ処理の研究を任されたことをきっかけに、ほとんど知識のなかった微生物の世界へ。大学や図書館へ通い、論文を探し、実際の現場で試しながら、一から学んでいったといいます。
今回は、そんな首藤代表に、なぜここまで一つの分野を追い続けてきたのか。微生物を使った研究の面白さや、その研究や商品開発をするうえで大切にしていることについて伺いました。
株式会社テイト微研
代表取締役社長 首藤 隆利
大学では化学工学を専攻。卒業後、複数の仕事を経験したのち、微生物を活用した生ごみ処理の研究に携わる。実際の現場で試験を行いながら独学で微生物学を学び、その後は大学でも学び直す。以来、約35年にわたって微生物を使った環境分野の研究・開発に携わり、現在は株式会社テイト微研で排水や悪臭、防災などの課題解決に取り組んでいる。
微生物についての知識はほとんどありませんでした

編集部首藤代表は、学生の頃から微生物の研究者を目指していたんでしょうか?



いや、それは全くなかったですね。大学では化学工学を専攻していて、微生物についての知識はほとんどありませんでした。



それは、意外です…!



大学を出たあと、当時は田舎に住んでいたんですけど、理系の仕事を探しても地方にはなかなかなくて。地元の工場でも、本社採用は東京や大阪だったり。僕自身、悩みながらも入社と転職をして、そのたびに少しずつスキルを上げていった感じです。その中でたまたま、「理系の人間を募集している」という会社があって、そこに入ったところから微生物に関わるようになりました。



本当に、偶然だったんですね。



そうなんです。その会社がちょうど、生ごみを微生物で処理する装置を開発したばかりだったんですよ。まだ誰も十分に使ったことがなくて、市の教育委員会と話をして、学校給食から出る生ごみを1年間処理してみることになりました。



そこで首藤代表が研究を担当された。



はい。ただ、誰も詳しくわからないんですよ。だから僕も独学です。大学や図書館へ行って微生物学の資料を探したり、論文を読んだりしながら、「これは乾燥なのか」「発酵なのか」と一つずつ調べていきました。その後、働きながら大学でも微生物学を学びましたね。



最初は専門外だったのに、現場と勉強の両方から入っていったんですね。



そうですね。基本を学んで、それが実際の現場ではどうなるのか。その両方をずっと見てきました。運が良かったのもありますけど、結果的にこの世界でずっと続けてきた、という感じですね。
チャンスがあったら、見逃さない



知識がないところから、なぜそこまでストイックになれるんでしょう?



チャンスがあったら見逃さない、と意識するような性分だからかなと思いますね。昔、営業をしていたときに、ある先生の論文を見つけたんです。読んで、「これは完璧だ」「お会いしてみたいな」と思いました。でも、その先生にどうやったら会えるかなんてわからないじゃないですか。



今みたいに、簡単に調べて連絡できる時代でもないですもんね。



そうですよね。ところが、その後たまたま、以前お世話になった大学の先生のところに、その方が講演へ来たんです。そこに足を運び、ご本人ともつながることができて。本当に運もありますけど、積極的な行動の一つひとつが大事だったのかもしれません。



チャンスがあったら見逃さない姿勢…。首藤代表は、「人と同じことをしない」という話も何度かされていましたよね。



そうですね。昔、知り合いのおばあさんから聞いた話が、ずっと頭に残っているんですよ。戦後、みんなが同じような仕事を始める中で、そのおばあさんは「人と同じことをしていたらダメだ」と言って、人がやりたがらない仕事を始めたんです。人がやらないことなら競争も少ないし、そこに仕事がある、という考え方ですよね。



その考え方は、結果的に首藤代表のキャリアにも重なっていったんですね。



そうですね。当時、微生物の世界は今ほど研究者も多くなかったですから。だったら、ここで一生懸命やればいい。ただ、どう勉強したらいいかもわからなかったので、とにかく人より3倍勉強しようと思っていましたね。今でもそうですけど。
微生物を使って、環境の中で起きている問題を解決していく仕事ですね





テイト微研さんのお仕事を、専門知識のない人にもわかるように伝えるとすると、どんな仕事になるんでしょう?



簡単に言うと、微生物を使って、環境の中で起きている問題を解決していく仕事ですね。たとえば昔からやっているものでいうと、悪臭です。バキュームカーや排水、汚泥とか。その匂いの原因になっているものを、微生物を使って分解していきます。



「匂いを消す薬のようなものを入れる」というのとは違うんでしょうか?



正式には、分解ですね。物理や化学の方法とは違って、微生物そのものの働きを利用するんです。



ということは、問題によって使う微生物も違うんですか?



そうです。この問題にはこの微生物、こっちの問題には別の微生物、と適したものがそれぞれ違います。そこを研究して、現場で確かめるんですね。ただ、目に見えない世界なので、理論ではいけると思っても失敗することもあります。逆に、困るのは「うまくいっちゃったとき」なんですよ。



うまくいったのに、困る?



「どうして成功したのか」を説明できないといけないですから。結果だけ出ても、それを理論として説明できなかったら論文にはできない。「なぜそうなったのか」をまた考えないといけないんです。



結果を出すだけじゃなくて、そこからもう一度研究が始まるんですね。



そうですね。そこが研究の難しいところでもあるし、面白いところでもあります。
絶対失敗するから、やめたほうがいいと言われたんですよ



今取り組まれている中で、特に印象に残っている研究はありますか?



防災関係の研究ですね。災害が起きると、水洗トイレが使えなくなるじゃないですか。そうすると排泄物を袋に入れて保管することになるんですけど、問題になるのが匂いなんですよ。



避難所で長期間保管するとなると、かなり大きな問題になりますよね。



そうなんです。尿だけなら袋を閉じれば比較的大丈夫なんですけど、便はそうはいかない。それを何とかできないかと、10年くらい前から考えていました。



10年も前から…!それで、うまくいったんですか?



最初は全然うまくいきませんでした。研究所の方からも、「絶対失敗するから、やめたほうがいい」と言われたんですよ。実際、最初に夏場で実験したときは、ものすごく臭くなって失敗しました(笑)。



本当に失敗した(笑)。



しましたね。でも、そこで終わらずに条件を変えて、6年ほど前ですけどもう一度試したんです。そのときは、一発でうまくいきました。微生物が働いて、臭いを抑えるだけではなく、排泄物自体も分解していくんです。



「無理だ」と言われたものが、実際に形になったんですね。



そうですね。その後、東京都が行っている新しい製品・サービスを試験的に認定する制度に応募して、審査を通過し、正式に認定していただきました。
真似だけじゃ、何も生まれないんですよ



首藤代表は35年近くこの仕事を続けていますよね。研究や商品開発をするうえで、大事だと思うことはありますか?



難しいですね。でも、真似だけじゃ何も生まれないと思っています。誰かがやった実験をそのまま真似することはできます。でも、それだけでは新しい論文も書けないし、応用もできない。



「これをやればこうなる」という答えを覚えるだけでは足りないんですね。



そうです。そこから、「じゃあ、こうしたらどうなるんだろう」と自分で考えられるか。それが大事ですね。



首藤代表自身も、成功したときほど「本当にこれで合っているのか」と考えるとおっしゃっていましたよね。



そうなんです。うまくいったときでも、「ひょっとしたら、これは間違っているんじゃないか」と考える。「条件を変えたら失敗するんじゃないか」と思ったら、じゃあ次を試してみる。好奇心がなかったら、そこで発展しないと思います。



首藤代表にとっては、そうやって仮説を立てて、次を試していく過程自体が、この仕事の面白さなんですか?



そうですね。たとえば現場から「こういう問題が起きています」と相談を受けたときです。まず状況を聞いて、「原因はこのあたりじゃないか」と考える。そこから、どうすれば改善できそうかを考えて、実際に試しながら確かめていくんです。答えが決まっていない中で、自分で考えて試していく。その過程が面白いですね。
飯を食うのも忘れるくらい、面白いんですよ



お話を聞いていると、首藤代表は本当に研究そのものが好きなんですね。



好きですね(笑)。やり始めたら、飯を食うのも忘れるくらい面白いですよ。今でも論文を読んで、「これは参考になるな」と思ったりします。



仕事だから勉強している、という感じではなさそうです。



そうですね。SF映画を見ていても、「これは使えるな」とか、「これは科学的には違うだろう」と考えたりしますし。昔から、どうして空気の中に酸素がこれくらいあって、人間がどうやって生きているんだろう、とか、そういうことを考えるのは好きだったんですよ。



最初から「微生物の研究者になる」と決めていたわけではないけれど、昔から持っていた好奇心が、今の仕事にもつながっているんですね。



そうだと思います。微生物って、本当に面白いんですよ。目には見えないですけど、「こいつはどうやって栄養を取っているんだ」とか、「どうして油を分解できるんだ」とか、調べれば調べるほど疑問が出てくる。知れば知るほど、また次のことが気になってくるんです。だから飽きずに続けられるんでしょうね。



大学卒業後にいくつもの仕事を経験し、微生物についてほとんど知らないところから、この世界に入った首藤代表。それでも、人がやっていないことに興味を持ち、わからないことは自分で調べ、試しながら35年近く研究を続けてきました。今では、悪臭や排水、災害時の排泄物処理など、微生物の力を生かしてさまざまな課題に取り組んでいます。一つ答えが見つかっても、そこで終わらず「次はどうなるんだろう」と考える。その好奇心が、今も首藤代表を研究へ向かわせているんですね。首藤代表、本日は貴重なお話をありがとうございました。

