「どっちもやれるんで、どっちもやります。」アニメ監督とプロレスラーを続ける天狗工房・福士赤天狗社長が語る、作品と仲間を守るための仕事

アニメ監督とプロレスラー。一見するとまったく違う二つの仕事を、どちらも現役で続けている人がいます。

天狗工房(天狗株式会社)の代表取締役、福士赤天狗社長です。

空手、キックボクサーとして活動した後、アニメ業界へ進み、サンライズなどで制作経験を積んできた福士社長。現在は自ら会社を経営しながら、監督、原作、CG監督、モーションアクターと、幅広い工程に携わっています。

福士社長いわく、クリエイターとアスリートには共通するものがあるといいます。

ただ、アニメ制作の現場には、作品をつくること以外にも向き合わなければならない問題があります。制作費や業界の構造、そして作品やスタッフを守るための経営者としての仕事です。

今回は、福士社長の異色のキャリアから、アニメ監督の具体的な仕事内容、オリジナル作品へのこだわり、日本のアニメ業界が抱える課題まで、詳しくお話を伺いました。

お話を伺った人

天狗株式会社 天狗工房

代表取締役 福士 赤天狗

空手、キックボクサーとして活動した後、アニメ業界へ進む。サンライズなどで経験を積み、アニメ監督、CG監督として複数の作品に携わる。その後、独立して天狗株式会社を設立。現在は会社経営に加え、アニメの企画・脚本・絵コンテ・監督・モーションアクターなど幅広い業務を担当し、オリジナル作品の制作にも取り組む。また、プロレスラー、武術家としても活動を続けている。

目次

キックボクサーからアニメ監督へ。二つの世界を歩んできたキャリア

編集部

福士社長は現在、アニメ監督でありながら、プロレスラーとしても活動されているんですよね。まずは、これまでどんな道を歩んでこられたのか教えていただけますか?

福士社長

最初は空手、キックボクシングをやっていました。その後、もともと好きだったフィギュアやアニメの仕事をしたいと思うようになって、アニメ業界に入ったんです。サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス) などで経験を積んで、比較的早い段階からCG監督もやらせていただきました。その後はフリーになって、いろいろな作品に携わって、最終的に自分で会社をつくったという感じですね。アニメの仕事をしながら、町興しでアイドルユニットをつくったり、プロレスにスカウトされデビューしたり。本当にいろいろやってきました。プロレスキャリアはもう12年くらいになりますし、会社も現在14期目ですね。

編集部

それだけいろいろな活動をしているってすごいことですけど、どれか一つに絞ろうと思ったことはありませんでしたか?

福士社長

まったくないですね。どっちもやれるんで、どっちもやります。

編集部

即答ですね(笑)。でも、アニメ制作に会社経営、さらにプロレスとなると、相当お忙しいんじゃないですか?

福士社長

それは、もうめちゃくちゃですよ(笑)。隙を見てトレーニングできるタイミングで練習。絵コンテも描くし、カットもやるし、イベントや急な案件が入ったらその都度全力で対応する。そんな感じです。

編集部

すごいバイタリティですけど…睡眠時間はちゃんと取れているんでしょうか?

福士社長

今は大丈夫ですよ。昔は本当に1日2時間くらいしか寝ないでやっていたこともありましたけど。今はスタッフが育ってきてくれているので、そこは助けられていますね。

編集部

ちなみに、トレーニングは今も定期的にされているんですか?

福士社長

週に2、3回くらいは時間を取っています。練習しておかないと、試合で死んじゃうんで(笑)。

編集部

確かに、リングに上がる以上は稽古は欠かせないですよね。

「クリエイターはアスリートと同じ」。作品を届けるために全力を尽くす

編集部

福士社長が発信されている言葉の中に、「クリエイターはアスリートと同じ」というものがあったのですが、どういう意味なのか教えてもらえますか?

福士社長

そうですね。アスリートって、大会や試合に向けて全力を尽くすじゃないですか。そのために体調をコントロールして、メンタルも整えて、練習メニューも考える。試合で力を出し切るために、自分にできることを全部やるわけです。クリエイターも同じなんですよ。作品には発売日や配信日があるので、そこに向けて全力を尽くす。言い訳をしないで、自分にできることを全部やる。アウトプットに責任を持って行動しましょう、ということですね。

編集部

試合でもアニメ制作でも、決められた日に自分の力を発揮できるように準備することが大切なんですね。実際に福士社長は、アニメ監督としてはどんな仕事を担当されているのでしょうか?

福士社長

基本的には作品全体のことを決める立場ですね。ただ、自分の場合は実際の作業もやります。先ほどお伝えしたように、絵コンテも作画もやるし、背景に必要なものがあれば描く。資料が足りなかったら自分で作りますし。伝達が難しかったり、直さなきゃいけないところがあれば、そこも自分で直しますよ。

編集部

監督というと、スタッフに指示を出したり、完成した映像を確認したりするイメージがあったのですが、ご自身でもそこまで手を動かされるんですね。

福士社長

そうですね。ただ、これは監督によって違います。出身や経歴によって、できる工程とできない工程があるので。自分は一通りできるから、必要なところは全部やるという感じです。

編集部

例えば、絵コンテの内容を変えたいと思ったら、ご自身で描き直すこともあるということですか?

福士社長

もちろんありますよ。違うなと思ったら自分で描いて、それで進めることもあります。ただ、原作がある作品の場合は調整も必要なので、そのあたりも含めてやっていますね。

編集部

そこまで幅広く担当していると、かなりハードなお仕事に感じます。

福士社長

いや、自分としては別にハードじゃないんですよ。ライフワークなので。何時から何時までが仕事ですって決められた方が、逆に倒れちゃうんじゃないですかね(笑)。

編集部

仕事だからやっている、という感覚がないんですね…!いろいろな工程を担当されている中で、特に面白いと感じるのはどんなときですか?

福士社長

全部楽しいんですけど、格闘技をやっていることもあって、アニメの動きを自分でつけるのは面白いですね。例えば、格闘シーンだったら、自分で実際に動いてみせて、アニメーターさんに指示を出すんです。そこで作品に自分なりのスパイスを入れられた瞬間は、特に楽しいですよ。

編集部

実際に格闘技の動きを見せながら、アニメーターさんに伝えるんですか?

福士社長

そうです。現実の動きをアニメに落とし込むために、自分で動いて指示することもあります。モーションキャプチャーの監修なんかもやっていますね。

編集部

プロレスラーとしての経験が、アニメのアクションシーンをつくるときにも役立っているんですね。

福士社長

そうですね。自分以外にこういうことをやっている監督は、知らないです(笑)。

作品づくりだけでは終わらない。アニメ制作会社の経営者が向き合う現実

編集部

アニメ制作そのものは楽しんでいらっしゃるとのことですが、逆に大変だと感じるのはどんなところでしょうか?

福士社長

うーん、やっぱりお金ですね。制作自体は全然つらくないんですけど、経営となると別の問題があります。あとは、普通に作品をつくっているだけでも、外部に邪魔をされたりすることがあるんですよ。

編集部

邪魔をされるというのは、どういうことですか?

福士社長

自分たちの立場や利益を守ろうとして、ちゃんと仕事をしている人を排除しようとするような動きのことですね。実際にそういう嫌がらせを受けたり、周りに働きかけられたりすることが、ゼロではないんですよ。

編集部

そんなことがあるんですね…。

福士社長

これを対応しないわけにはいかないですよね。作品だけじゃなくて、原作もスタッフもお金も守らないといけない。そこを守れなかったら、制作自体が続けられなくなりますから。正直、そういうことは好きじゃないです。全くクリエイティブな仕事ではないですし、別にやりたくてやっているわけじゃない。ただ、何もしなかったらやられっぱなしになっちゃうので、自分が動くしかないんですよ。

編集部

そこは代表が出ていかざるを得ない部分もあると思うんですけど、それでいくと福士社長は、もともと会社を経営したいというお気持ちはあったんですか?

福士社長

いや、最初から会社のトップになろうなんて思っていなかったですよ。監督になるつもりもありませんでしたし。

編集部

そうだったんですね。では、どうしてご自身で会社を立ち上げようと思われたのでしょうか?

福士社長

自分でやらないと、作品のクオリティを守れなくなったからですね。ちゃんと責任を持って作品をつくろうと思ったら、自分でやるしかない。そうなると、会社をつくるしかないよね、ということです。

オリジナルアニメは、つくれる機会自体が少ない。作品に込めるメッセージ

編集部

御社では原作のある作品だけでなく、オリジナルアニメも制作されていますよね。そういった機会というのは、一般的には結構あるものなのでしょうか?

福士社長

いや、そんなにないですよ。というか、結構珍しいです。事実、「オリジナルでつくっていいですよ」と言われた機会は、25年くらいやってきて、6回か7回くらいですかね。

編集部

そんなに少ないんですね。ちなみに、オリジナル作品というと、制作会社が自分たちで企画して売り込むものだと思っていたのですが、実際はどうなんですか?

福士社長

うちの場合は、勝手につくって売り込むということはしていないですね。「この枠で放送したいので、中身はお任せします」という依頼もあれば、「こういうものをつくってほしい」という話もあります。オーダーの仕方はいろいろですけど、依頼を受けてから制作することが多いです。

編集部

依頼を受けて、そこからオリジナルストーリーを考えるんですね。そのお仕事って、制作会社の中のどういった方が主に担当されるのでしょうか?

福士社長

弊社の場合は、これまでのオリジナル作品の原作は、全部自分で書いていますよ。取材から始めて、内容を考えて、脚本を書いて、準備するところまでやっています。

編集部

えっ、それも福士社長が…!ストーリーをゼロから考えるとなると、発想の幅も必要そうですけど、福士社長はどんなジャンルがお得意なんですか?

福士社長

メカですね。格闘技の経験をロボットアニメに落とし込んで作品を作っています。

編集部

確かに、ロボット同士の戦闘シーンでも、格闘技で培った動きの知識が生かせそうですね。そういえば、以前、岩手県を舞台にしたオリジナルアニメも手がけられていますよね。東日本大震災からの復興にも関わる作品ですが、あれはどういう思いで制作されたのでしょうか?

福士社長

やっぱり、作品をつくる以上は何か意味がないといけないと思っているんです。東日本大震災があって、今は被災した町も人々の力で復興してきています。だから、「どんなに理不尽なことが起きても、町民の想いと強さが溢れている。そんな町を知って欲しい。そしてできれば、視聴したみんなも来てくださいね」、というメッセージを入れたかったんですよ。

編集部

作品を見た人が、その町に興味を持って足を運んでくれるようにと…。たしかに、「聖地巡礼」という言葉があるように、アニメの舞台になった場所に実際に行かれる方も多いみたいですよね。

福士社長

そうですね。何年かたってから見返してもらうこともあるでしょうし、そういう意味でもやりがいがありますよ。

「支援するなら、実際につくっている現場に届けてほしい」。アニメ業界への問題意識

編集部

アニメには、見た人を楽しませるだけでなく、地域のことを知ってもらう役割もあるんですね。一方で、先ほど制作費や経営上のトラブルについてもお話がありましたけど、日本のアニメ業界ではそうした問題が長く続いているのでしょうか?

福士社長

もう、ずっとありますよ。特に国の支援については、実際にアニメをつくっている現場まで十分に行き届いていないと感じますね。

編集部

支援制度には、どんな問題があるんでしょうか?

福士社長

僕たちは日々の制作がありますから、助成金の情報を調べたり、申請書類を用意したりすることに、そこまで時間をかけられないんですよ。一方で、アニメ制作に直接携わっていない会社が申請して、助成金を受け取るようなケースがあるんです。

編集部

えっ、実際にアニメをつくっていない会社が助成金を受け取っているんですか?それでは、本来支援を必要としている制作会社が報われないですよね。

福士社長

そうですね。例えば、アニメ制作の実績がない会社にはお金を渡さないとか、参加作品の実績とか、設立年数とか、そういうルールにするべきだと思います。制度をつくって、申請を受け付けて、それで終わりでは意味がないですよね。実際にアニメをつくっている会社に届くようにしないと。

編集部

アニメ業界というと、長時間労働の問題もよく耳にします。働く環境については、以前と比べて変わってきているのでしょうか?

福士社長

昔よりは全然ましになっていますよ。ただ、業界の仕組み自体は簡単には変わらないですし、作品をつくるために頑張らなければいけない、越えなければならない部分は、中々変えることはできないです。

編集部

福士社長ご自身も、以前は1日2時間ほどしか眠らずに働いていた時期があったとおっしゃっていましたよね。今はスタッフの働き方についても意識されているのでしょうか?

福士社長

はい。昔からのやり方をそのまま続けていたら、心も体も壊してしまいますから。そうならないようにしなきゃいけないし、今の時代に合わせて、どれだけスタッフに寄り添えるかは考えています。ただ、業界全体の仕組みそのものはなかなか変わらないのも現実ですね。スケジュールと、越えなければならないクオリティと現実のバランスは、永久の課題だとおもいます。

編集部

会社の中で改善できることがあっても、業界全体の問題となると簡単にはいかないですよね。今日のお話は、普段アニメを楽しんでいるだけではなかなか知ることのできない内容でした。

福士社長

そうですね。でも、”そういう問題とも戦っている企業がある”ということは、ぜひ知ってほしいですね。

編集部

福士社長はプロレスのリングでも、アニメ業界でも戦っていらっしゃるんですね。リングではプロレスラーとして試合に臨み、アニメ制作の現場では監督として作品に責任を持つ。そして経営者として、業界が抱える問題にも向き合っていらっしゃる。戦う場所も相手も違いますが、それぞれの立場で自分の役割を果たそうとする福士社長の姿勢が印象的でした。アニメ業界にはまだ多くの課題があります。ただ、そうした現実の中でも、作品づくりを支えるために行動している人たちがいる。だからこそ、これからアニメ業界を目指す若い方には、華やかな作品の裏側にある厳しさだけでなく、仕事に責任を持って向き合う人たちの存在も知ってほしいと思います。福士社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。

天狗株式会社_採用情報

目次