「特別なスキルが、なくてもいい」株式会社ブランド総合研究所・田中社長が採用で重視する、”地域に興味があるかどうか”

胸を張れるスキルはないけれど、好きなものならある。でも、それでは仕事にならない、と思っていませんか?

株式会社ブランド総合研究所の田中章雄社長は、「地域ブランド」という言葉の定義をつくった立場として「特別なスキルがなくても、仕事をやりながら見つけていけばいい」と語ります。

もともとは企業のブランディングに取り組んでいたとのことですが、国からの依頼をきっかけに地方へ向かいました。いまは毎年、「都道府県の魅力度ランキング」を発表しています。

今回は田中社長に、企業のブランディングから、どうして地域へ移ったのか。小さくていい取り組みを30並べても、なぜ伝わらないのか。そして、スキルの代わりに何を見ているのか。詳しくお話を伺いました。読み終わる頃には、スキルより先に何が要るのか、見え方が少し変わっているはずです。

お話を伺った人

株式会社ブランド総合研究所

代表取締役社長 田中 章雄

福井県福井市出身。日経BP社で企業のブランディングに取り組むなかで、消費者からの評価が企業の価値を左右することに着目。国から地方への協力を求められたことをきっかけに研究会を立ち上げ、予算に左右されず継続できる民間組織として現在の会社を設立。「地域ブランド」という言葉の定義をつくり、いまは「都道府県魅力度ランキング」をはじめとする地域活性化に関する調査とコンサルティングを行っている。

目次

消費者の目から、強みと弱みを見つける

編集部

都道府県の魅力度ランキングで、毎年お名前を拝見します。ランキングをつくっている会社、という印象が強いのですが、普段はどんな仕事をされているんですか?

田中社長

弊社は民間の立場で、国や都道府県、市町村と協力して、地域を活性化しようという活動をやっている会社なんですね。ただ、地域に入って商品を作ったりイベントをやったり、ということではないんですよ。消費者がその地域に対してどんな意識を持っているか。認知度だったり、魅力だったり、イメージだったり。そういうものを調べていくと、強みと弱みが明確に見えてくると思うんです。

編集部

なるほど…。調べたあとは、どうされるんですか?

田中社長

活性化のために何が必要なのか、課題を明確にして戦略を立てるんです。商品開発も観光の集客も、直接やるんじゃなくて、それをサポートするという感じですね。だからランキングも、目的ではなくてその中の一部でしかないんですよ。重要なのは、その地域の何が良くなくて、何がいいのかがわかることなんです。実は「地域ブランド」という言葉の定義をつくったのは私なんですけどね。

編集部

地域は、もともとブランドとは呼ばれていなかった…!

田中社長

ええ。最初はなかなか通じなくてね。地域ブランドというと、松阪牛のような、地域名を冠した商品のことだと思っていた人が多くて。「いや、そうじゃない、地域の魅力づくりのことなんだ」というのは、結構口を酸っぱくして言っていったんですけどね。

編集部

たしかに、特産品はイメージしやすいですが、もっと上の概念なんですね。

田中社長

そうそう。沖縄と言った時に、その魅力って何かというと、南国リゾートとか島とか、そういうイメージがあるじゃないですか。だからこそ商品じゃなくて、観光のイメージでもあるし、住んだらこんなに素晴らしいという居住のイメージでもある。歴史や文化、そこにある企業。いろんなものが絡み合って、その地域全体のイメージができ上がっている。それが地域のブランド力だと思いますね。

予算ありきでは、続かない

編集部

地域全体のイメージ、というスケールの話でしたが、田中社長ご自身は、最初から地域を見ていらっしゃったんですか?

田中社長

いえ、最初は日本経済新聞社グループの雑誌部門にいましてね。そもそも、企業の株価の伸びというのは何に影響されているかというと、売上や収益性の伸びや将来性なんですよ。じゃあその将来性は何に支えられているかというと、商品やサービスに対する消費者や顧客からの評価なんですね。消費者や顧客がいいと思って買いたいと思うかどうか。それが企業イメージに直結して、株価に反映するわけです。

編集部

そこから、ブランディングという話になるんですね。

田中社長

ええ。バブルが崩壊して経済が低迷して、人口も減り始めた。そうすると、物を作って売るだけじゃなくて、いかに付加価値を高めていくかに変えていかないといけない。この付加価値を高める、評価を高めるというのが、実はブランディングなんですよ。それを企業向けにやっていたところ、国のほうから相談がありましてね。地方は都会と比べて魅力がないと思われがちだから、地域を活性化するには、地域の魅力を高めなければならない。そのための地方のブランディングを手伝ってくれないか、という相談が来たんです。

編集部

国からの相談だったんですね…!

田中社長

そうです。それで、じゃあ一緒に考えましょうということで「地域ブランド研究会」を立ち上げましてね。やっていくと、これは本格的にやらなくちゃいけないなと。まず地方がどう思われているかを数値化しなくちゃいけないし、強みと弱みを明確にして戦略を立てていかなくちゃいけない。まぁ、企業の戦略で考えれば当たり前の話なんですけどね。

編集部

それを、国や自治体が中心になってやる形は考えなかったんでしょうか?

田中社長

国や自治体というのは予算ありきで、その予算が何年も続くことはないんですよ。1年限りの事業予算でやっていたんじゃ、うまくいかない。だからこれは、民間組織として継続的にやっていく組織を作らなくちゃいけない、ということで作ったのが弊社なんです。ちょうど市町村の合併が盛んな頃で、それまであった市町村が半分ほどに減っていましてね…。名前が変われば、そこがどう思われているかも変わる。だから地域のブランド力を数値化しないといけなかったんです。

30本の線香花火より、1本の打ち上げ花火

編集部

定義をつくってから、全国のいろんな地域に関わってこられたと思いますが、なかでも思い入れのある場所はありますか?

田中社長

これはね、弊社の立場ではすごく言いにくいことで…、どこが成功した、という言い方はできないんですよ。ただ、思い入れがあるとすれば、やっぱり出身地である福井ですよね。福井県のイメージって、実はあまり浸透していないんですよ。場所もわからない、何があるのかわからない。そういう方が少なくないと思うんです。

編集部

浸透していない、というのを動かすきっかけがあったんですか?

田中社長

北陸新幹線ができる時ですね。最初は金沢までしか通っていなくて、福井まで行かなかったんですよ。だから北陸の中の一部の福井が、取り残されてしまう可能性がある。そうならないようにしよう、ということで、福井の新しい観光を考える委員会ができて、そこに私が委員として入りました。

編集部

その委員会で、具体的にはどのようなやりとりを?

田中社長

福井としてこんなことをやります、という取組案が30数件出てきたんですよ。それを聞いた後で、当時の知事が「田中さん、どうですか」と聞いてきたので、私はこう言ったんです。「30何本の線香花火をまとめて火をつけたって、誰も見やしないよね。それよりも大きな打ち上げ花火を上げないといけない」と。ドーンとやれば、「あ、何かやってるんだ」とたくさんの人が気づいてくれる。そういうアイキャッチにつながることをやらないと、大きくイメージを変えることはできないんです。

編集部

たしかに、仰ることはわかります…!

田中社長

ちっちゃいものはいろいろやっているんですけど、目立つものがなかった。だから私の提案は、30いくつやっている中で、どれか1つに集中しましょう、と。ブランディングというのは選択と集中なんです。それで、その年から福井県が始めたのが、恐竜王国なんですよ。恐竜学部が県立大学にできたり、恐竜電車が走ったり、駅前に大きなモニュメントもある。私が直接設営をやったわけじゃないですけど、1つのきっかけを提案したのかなとは思いますね。福井県に必要なのは、「福井県」のイメージを明確にすること。いわゆる「コアコンピタンス」です。そのうえで、それに連動して実践的な複数の取組を構築するわけです。

編集部

集中する、というのは、届ける相手を選ぶことにもなりますか?

田中社長

そうですね。新幹線の延伸をやろうという時に、普通は東京で発信しようとするじゃないですか。ところが調べてみると、新幹線沿線の長野や高崎、大宮などがある北関東の人たちも福井にすごく興味があるわけですよ。東京でやるというのはマスマーケティングの手法で、人が多くて情報が多いところにたくさんの情報を提供する。これはもう古いやり方なんですよね。北関東は情報が逆に少ないじゃないですか。そこで北陸新幹線や福井のイベントやPRをやると、すごく目立つし効果が高い。それで福井への観光は大きく伸びました。

得意分野がないと、ルーティンワークになる

編集部

地域ごとに発信していく、というのは人手もかかりそうですね。いま募集されているのは、どんなポジションなんですか?

田中社長

来てもらいたいのは、地域活性化に興味のある人、やってみたいと思っている人ですね。まだ日の当たっていないところに日を当てるためのお手伝いをする、というのが弊社のやり方です。消費者の思いから強みと弱みを見つけ出して、それをどう改善していくのかを考えられる人。企画だったり、提案だったり、そういうことがすごく重要ですね。

編集部

調査の担当、企画の担当、という分け方ではないんですね。

田中社長

弊社がやっているのは、各人が自分の得意分野を作るように、ということなんですよね。例えば食が得意だと言えば、それを中心として地域を活性化しようという風にやっていけば、具体的な事業にもつながると思うんです。歯車というかね、得意分野を持たないと、どうしてもルーティンワークになっちゃうんですよ。でも得意分野があれば、そこから自分で作ることも、回すことも、考えることもできる。それが、面白さにつながると思っていて。

編集部

実際に、そうやって得意分野を作られた方はいらっしゃいますか?

田中社長

まずある一人の社員は、統計処理がすごく強い。ただし、出身は理系ではない。ところが地元を活性化したいという気持ちは強く、それを分析しているうちに調査や統計に強くなった。数字というのは、その裏側に隠れているものがあるわけですよね。いろんな手法を使いながら、そこに隠れている特徴を見つけ出す、ということを結構やっています。調査データから、いろいろなことを引き出してくるんですよ。やっぱり分析して何かが見えてくると、面白くなってくるんですよね。

編集部

なるほど…。他にもいらっしゃるんですか?

田中社長

ギネス世界記録の挑戦をサポートするのが得意な社員がいましてね。弊社は地域での記録の挑戦について、ギネス世界記録の公式パートナーになっているんですが、もちろん簡単に挑戦して簡単に世界記録が取れるものではないので、本当に相手の気持ちになってサポートしなくちゃいけないわけです。「当日こういう問題が起きると思うので、あらかじめ準備しましょう」とか、一緒になって考えて、行動に移す。ここは、地域からも非常に信頼されていますね。もちろん、彼女は入社して初めてギネス世界記録に携わったのに、1年もしないうちに、今では挑戦者からも、そしてギネス世界記録の認定委員などから頼られ、とても信頼されています。

旅行が好き、でもいいんですよ

編集部

統計にもギネスにも縁がない、という人には、なんとなく入口が遠く感じられそうです。完全に未経験の方でも、一度会ってみたいと思われるものですか?

田中社長

そうですね。新卒も取っていますからね。だからそういう意味では、自分の経歴というか、特技だったり特別なスキルがなくても、仕事をやりながら、自分が「おもしろい」と思う分野や仕事をを見つけていけばいいと思うんですよね。

編集部

スキルより先に、見ているものがあるんですね。

田中社長

旅行好きな人でもいいし、地方出身者でもいいですし、どこかの地域が特別に好きという人でもいいかもしれない。日本には47都道府県ありますから、いろんな地域に興味が持てる人がいいですよね。ただ大前提として、地域には興味がないという人は難しいと思いますけどね。

編集部

好きだ、というところから始まっていいんですね。

田中社長

いろんな地域に興味を持って、そこを徹底的に調べて、好きになる。自分が好きになれば、それをどうやって伝えようかということを考えられると思うんですよ。いま弊社は滋賀県の調査を結構やっているんですけど、滋賀県というとみんな琵琶湖のイメージがあるじゃないですか。でも県の中でどれくらいの面積があるのか、それを支える産業は何なのか、びわ湖が生んだ歴史や食、文化にはどんなものがあるのか。実は、日本が誇る大手商社の多くは、滋賀県の近江商人がルーツになっているのです。こういうことが、あんまり知られていないのですよね。よく知らないと、魅力を伝える話もできないんです。

編集部

徹底的に調べて好きになる。ちなみに、その先でいま一番の課題だと感じているのはどんなことですか?

田中社長

地域は担い手不足になっているんですよ。伝統工芸というのは、平均年齢が70歳、80歳になっているところもある。若い人たちが今さら弟子入りするかというと、しないじゃないですか。でも、そういったところに興味を持つ若い人たちは、たくさんいるわけなので。その人たちにもっと興味を持ってもらって、なんとかその産業が担われるような形を作っていきたいと考えています。弊社は人材を提供する立場ではないので、その仕組みを提言する役割があるのかなと思っていましてね。できれば数年以内には、国の施策の1つとして通じるようにしていければと思っています。

編集部

琵琶湖の面積も、それを支える産業も、言われてみれば知らないままでした。知らないことに気づいて、調べて、好きになる。その順番でいいのなら、特別なスキルがないうちから始められるのかなと思いました。田中社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。自分の「好き」を仕事につなげられる20代の方が一人でも増えるように…私たちもキャリア支援の現場から伴走していければと思います。

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