広告代理店から介護の世界へ。「人の手でしかできないところに、時間を使えるようにしたい。」株式会社バイタルヴォイス・安原社長が挑む、介護現場の課題解決

介護施設では、入居者一人ひとりの体調を確認するため、毎日のバイタル測定や夜間の見回りが行われています。

しかし、限られた人数で何十人もの入居者を見守り続けるのは簡単ではありません。しかも、その瞬間は問題がなくても、夜中に急に体調が悪化することもあるといいます。

株式会社バイタルヴォイスが取り組んでいるのは、腕時計型のセンサーを使い、バイタルデータを継続的に測定する「オンラインでの見守り」です。

代表である安原大輔社長は、もともと広告代理店で働いており、介護業界は未経験でした。それでも実際に介護施設で夜勤を経験し、現場で働く人の負担を目の当たりにしたことで、「現場の役に立つものをつくる意味」を強く感じるようになったといいます。

機械に任せることと、人にしかできないこと。その役割をどう分ければ、介護する側にも、される側にもより良い環境をつくれるのか。安原社長に、現在の取り組みや介護DXのこれからについて伺いました。

お話を伺った人

株式会社バイタルヴォイス

代表取締役 安原 大輔

大学卒業後、広告代理店に勤務。顧客だった現オーナーが、介護事業の現場で抱えていた課題をテクノロジーで解決するために株式会社バイタルヴォイスを設立。その立ち上げに誘われて同社へ参画し、その後、代表に就任。現在は介護施設や在宅介護における見守りの負担軽減に向け、腕時計型センサーを活用したサービスの普及に取り組んでいる。

目次

実際に夜勤をしてみて、これは大変だなと感じました

編集部

安原社長は、もともと介護業界で働かれていたわけではないんですよね。

安原社長

そうなんです。僕は創業者ではなくて、もともとは広告代理店で働いていました。そのときのお客様だった現在のオーナーが介護事業をしていて、現場でいろいろな課題が出てきていたんです。「機械の力を使って、この課題を解決できないか」ということでバイタルヴォイスを立ち上げて、そのチームに一緒に入ってほしいと声をかけてもらったのがきっかけですね。

編集部

介護については、ほとんどゼロからのスタートだったんですね。

安原社長

本当にそうですね。前職ではクリエイティブをつくったり、ホームページをつくったり、新しいお客様を開拓したりしていたので、その経験を生かせる部分はありました。ただ、介護そのものについては全然詳しくなかったです。

編集部

実際に入ってみて、介護現場への見方も変わりましたか?

安原社長

変わりました。僕自身、グループの介護施設で夜勤をしたこともあるんです。実際に現場へ入ってみると、本当に大変で。人がなかなか続かなかったり、出入りが激しかったりという話はニュースでも聞きますけど、「本当にその通りなんだな」と体感しました。

編集部

外から聞くのと、自分で働いてみるのでは全然違いますよね。

安原社長

そうですね。そこから、現場で働く方の役に立つものをつくることには、すごく意味があると思うようになりました。製品も、こちらだけで考えて完成させるのではなくて、現場の意見を聞きながら改良していく。そこは今もずっと続いています。

人の手でしかできないところに、時間を使えるようにしたい

編集部

バイタルヴォイスさんが目指している「オンラインでの見守り」は、具体的にはどういうものなんでしょう?

安原社長

介護施設では、毎日バイタルチェックをしているんです。ただ、それって基本的には、その瞬間の数値なんですよ。健康診断と似ていて、そのとき異常が出れば気づけますけど、普段は何ともない方が夜中に急に体調を崩すこともあります。

編集部

測ったときに正常だから、その後も大丈夫とは限らない…。

安原社長

そうなんです。なので、僕たちの製品では腕時計型のセンサーをつけていただいて、脈拍、血圧、血中酸素など複数のバイタルを2分ごとに測定しています。連続してデータを取り続けることで、体調の変化を見られるようにするんです。病院にある生体モニターほど大がかりなものではないですけど、介護施設でも、もっと簡単に同じような見守りができないかという発想ですね。

編集部

ずっと人が見続けるのではなく、機械が見ていて、必要なときに人が動く、と。

安原社長

そういうイメージです。もちろん、僕たちの製品を入れたら全部解決するとは思っていません。最後は、人の手が必要な仕事ですから。でも、機械に頼れる部分まで全部人がやる必要はないと思っています。そこを機械に任せられれば、人の手でしかできないところに時間を使えるようになる。たとえば、入居者の方と会話する時間が増えるかもしれない。そのための一つの手段として、僕たちの製品を使ってもらいたいと思っています。

「バイタルヴォイス」の社名は、見た目では気づきにくい体の声をしっかり聞いていこうというところから来ています

編集部

ちなみに、実際の夜間の見回りって、どんな形で行われているんですか?

安原社長

少ない人数で、2時間、3時間おきに見回りをすることが多いです。ただ、寝ている方を起こさないように、ドアを少し開けて「寝ているな」と確認するような形になることもあるんですね。そこで毎回きちんと数値を測る、というのは現実的には難しいわけです。

編集部

見てはいるけれど、体の中で起きていることまではわからないんですね。

安原社長

そうなんです。実際には体調が変化しているのに、見た目ではわからない方もいます。だから機械で測定して、変化のある方を抽出したり、必要であればアラートを出したりする。まず「今、誰をより注意して見たほうがいいのか」に気づくきっかけをつくりたいんです。

編集部

そこで、「バイタルヴォイス」という名前にもつながるんですね。

安原社長

そうです。「Voice」の部分は、体の声をしっかり聞いていこうというところから来ています。本人自身も気づいていないような変化を、データから拾っていく。そこから必要であれば介護計画の参考にしたり、最終的に医療が必要なら病院や医師につないだりする。僕たちは医療機器ではないので診断はできませんけど、そのきっかけをつくるところはできると思っています。

現場の声を受け、30回以上の改良を重ねてきました 

編集部

この腕時計型の製品は、開発にどのくらいかかったんでしょう?

安原社長

僕が入る前からなので、足かけで6年くらいかかっていますね。ただ、介護施設の現場から生まれた製品なので、「これで終わり」ということはないんです。今でも30回以上は、現場の声を聞いて、それを製品へ反映するということを繰り返しています。

編集部

つくる側が「便利だろう」と思うだけでは駄目なんですね。

安原社長

そうですね。僕たちは現場に行って営業したり、取り付けをしたりして、直接声を聞く側なんです。一方で、実際にそれを製品として形にするにはエンジニアの力が必要になります。

編集部

現場が求めていることと、技術側が考えることには違いもありそうですね。 

安原社長

違いますね。現場の意見をそのままエンジニアに伝えても、「その機能、本当に必要なの?」と疑問に感じられることもあります。なので、僕たちが間に入ることが大事だと思っています。なぜ現場でその機能が必要なのかを技術側へ伝えて、「なるほど、それなら必要だね」と同じ方向を向いてもらう。大変なところですけど、そこが僕たちの価値でもあると思っています。

編集部

実際に導入した施設からは、どんな声があるんですか?

安原社長

大きく2つあります。一つは、やっぱり業務負担の軽減ですね。30人、40人くらいの施設で、朝昼晩それぞれバイタルを測ろうとすると、測定する作業だけで毎月150時間、200時間くらいかかることもあるんです。しかも、一度で正常に測れなければ、また測り直さないといけない…。そこが自動になるだけでも、かなり業務は減ります。

編集部

150時間、200時間…。測るだけでも、それだけかかるんですね。

安原社長

そうなんです。もう一つは、やっぱり体調の変化に早く気づけることですね。季節の変わり目などで体調が変化しても、本人も周りも気づかないことがあります。でも連続で測定していれば、普段との違いを見つけやすくなる。早い段階で気づければ、重症化する前に対応できる可能性もあります。

編集部

介護する側の負担だけではなく、入居者の方にとっても意味がある…。

安原社長

はい。実際に、施設さんから「バイタルヴォイスを導入して、バイタル測定を自動化していることを求人にも載せたい」と言っていただいたこともあります。それだけ、現場にとって負担の大きい仕事だということだと思います。

介護の経験がないとダメ、とは一切思っていません

編集部

それだけ革新的で便利なプロダクトは、今後のニーズも高まっていくんでしょうね。それに伴って事業も拡大していかれるとは思うのですが、もしこれから人を増やすとしたら、どんな方と働きたいですか?

安原社長

今すぐというわけではないのですが、営業のポジションですね。実際に施設へ行って、製品をご説明したり、現場の声を聞いたりする担当者です。

編集部

売り込むのがメイン、ということではなくお客様との架け橋的なポジションですね。

安原社長

そうですね。扱っているものがIoTの分野なので、営業だから営業だけできればいいというわけではなくて。そういう技術にも興味を持っていただける方がいいと思っています。

編集部

それって、これまでに介護業界やIoTの経験がまったくなくても大丈夫なんでしょうか?

安原社長

そこは全然大丈夫です。僕自身、介護業界とはまったく違うところから来ていますし、いろいろな転職を経て今のポジションにいますから。「介護業界にいた人じゃないとダメ」とか、「この経験がないとダメ」ということは一切ないです。興味を持って学んでくれる方であれば、入り口は設けたいと考えています。

編集部

広告代理店から介護というまったく違う世界に入り、実際に夜勤まで経験したことで、現場で働く人の大変さを知った安原社長。だからこそ、目指しているのは「人を機械に置き換えること」ではなく、機械に任せられることは任せて、人にしかできない仕事へ時間を戻していくことなんですね。現場の声を聞きながら製品の改良を重ね、その時間を少しでも増やしていこうとしている想いが伝わってきました。安原社長、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。 

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