「自分を追い込みたいタイプなんです。」VOICHAT株式会社・小野木さんが語る、ジャンヌダルクなキャリアのつくり方

これといった専門がない自分は、何かを極めた人にはかなわない。そんなふうに思うことは、ないでしょうか?
VOICHAT株式会社の小野木恭子取締役は「たとえできるかわからなくても、やりたくなっちゃう。自分を追い込みたいタイプなんです。」と話します。システム開発から営業へ、渡米、そしてマーケティング、広報、独立。職種も会社も変えながら、いまは音声コミュニケーションツールをつくるスタートアップ企業の取締役です。
なぜ、できるかわからないほうばかりを選べるのか。そして、広げてきたことは、何になったのか。詳しくお話を伺いました。読み終わる頃には、いろいろやってきたことも、いつか点と点がつながり、強みになるんだと思えてくるはずです。
VOICHAT株式会社
取締役COO/PdM 小野木 恭子
NTTドコモでシステム開発と法人営業、プロモーションを経験。夫の赴任に伴い渡米し、現地でデザインを学ぶ。帰国後はカオナビでコンテンツマーケティングやCS、タウンキッチンで地域活性化に携わり、2021年に独立。フリーランスを経てVOICHAT(ボイチャ)に参画し、プロダクトマネージャーとして開発を主導。2023年にCOO、2024年に取締役に就任している。
開発から、営業へ。育児と両立しながら
編集部小野木さんは、いまは音声ツールの会社で取締役をされてらっしゃいますが、そこに至るまでの歩みから伺えますか?



新卒で入ったのはNTTドコモでした。大学で理系を専攻していたこともあって、IT関連企業で仕事を探していました。当時ドコモが通信業界を牽引しており、”人々の生活インフラになる”という将来像にも夢があり、強い意欲を持って応募したのを覚えています。配属されたのはグループ全体で使う社内システムの開発担当だったんですけど、これが当時としては画期的で。予定を入れると、それに伴って残業の申請も、出張旅費も、日当の申請も、全部自動で処理されるんですよ。



予定を入れるだけで、申請が全部…! 大半の企業では、それぞれ別のサービスを使うのが一般的ですよね。



そうなんです。今はAPI公開しているサービス同士を連携させて、各社が自社に合わせてカスタマイズしやすくなってますが、当時はシステム同士連携させるためには開発費がかかる、というのが一般的でした。スケジュール管理、契約管理、会計管理、勤怠管理…それぞれの領域のシステムが存在しますが、起因はすべて人(従業員)の行動なんですよね。このシステムでは、そこに着目し、規定をセットしておけばそれに則ってデータを自動生成・連携していく仕組みなので、データ入力のミスや二度手間が発生しないんです。最初はドコモ本体やグループ内の基盤として使っていたんですけど、これは他の会社でも需要があるんじゃないか、ということで外販の担当が立ち上がったんです。そこに私が行きまして、グループ外の一般企業に対しプロモーションや営業、導入支援をしていました。



開発から、営業へ。同じ会社の中で、職種が変わったんですね。



はい。ちょうどその前に、結婚と出産と育休がありまして。復帰後に外販部隊へ移ったのですが、意外にこれがまた育児と両立しやすかったんですよ。自分も外向きの仕事のほうが合っていると自覚しました。



育児と、営業と。正直、逆のイメージを持っていました。



そうですよね。育児や介護をサポートする制度が充実していたのもありますし、職場の上司や先輩にも助けられました。時短勤務や突然の早退もありましたが、逆に、限られた時間でいかに成果を出せるか、どこまで人に依頼すべきかを常に考えて仕事するようになりました。育児との両立で、思考回路がプラスに変わったように思います。子供が年長になり、時短からフルタイムに戻したんですけど、このタイミングでまさかのアメリカ移住が決まりまして。主人がアメリカで仕事することになり、私は退職を決意しました。



働きやすい環境が整っていたのに、泣く泣く…?



いえ、逆に私はすごく行きたかったんです(笑)。アメリカ生活に昔から憧れがあったので、こんなチャンスは2度とない、と思って。子どももちょうど小学校に上がるタイミングでしたし、いまが最適だなと。
渡米を経て、1から挑める会社へ





ご自分から、飛び込んでいかれたんですね。アメリカでは、どう過ごされていたんですか?



3年弱いたのですが、向こうにいる間に、デザインの学校に通っていたんですよ。興味があることは一旦やってみる、という性格で。



アメリカで、デザインの学校…!



もともとシステムの人間なので、まったく違う世界でした。現地の学生に交じって授業を受け、英語で作品をプレゼンするという刺激的な場でしたね。クリエイティブが好きなので、課題に取り組むのは楽しかったですね!



なるほど。帰国後は、どんな会社に行きたいと思われたんですか?



競争意識の高い、これから成長する会社に行きたいと思うようになりましたね。日本を一度離れてみると、見え方が変わるんですね。



とはいえ、ドコモに戻る道もあったのでは?



ありました。実は人事から連絡をいただき、再雇用の面談も受けたんです。結果が出るまで1週間程度かかるとのことだったので、並行して転職活動も進めていたのですが、2、3日後に採用の連絡をいただきました。この時点では、まだ他企業は選考中の状態でしたが、アメリカで裸一貫の経験をしたのもあり、1から挑める会社に行きたい、と辞退しました。



受かったほうを、断って…!?それは、どうしてなんでしょう?



割と昔から、自分を追い込みたいタイプなんですかね。ワクワクできれば、例えばやったことなくて自信なくても、苦労するだろうなと思っても選びたくなっちゃうんです。



まるで、ジャンヌダルクですね。自分から、戦場に立ちに行くような。



戦場に立ちたい、という表現は初めて言われました(笑)。でも、そうなのかもしれないです。子育てだって、無知の状態からのスタートじゃないですか。そこに足を踏み入れていくのが楽しみで仕方ないんです。
昨日と同じことを今日したくないんです



帰国されてからは、どちらへ?



カオナビという会社です。まさに事業が伸びてる最中で、組織の規模も拡大中、人をどんどん採用していたのが幸運でしたね。Webマーケティングのメディアチームに入り、コンテンツを作る仕事をメインにやっていました。その後にプロダクトチーム、最後はCSチームと、自分自身の仕事内容にも変化があり、目を回しながらがむしゃらにやってた記憶があります(笑)。



1社の中で、また3つも…! 同じところに留まらないんですね。



どの会社にいても、そういう運命みたいです(笑)。1つの仕事に長く携わり、専門性を高めていくやり方もありますが、私はどちらかというと広く浅くタイプ。いつでもオープンな自分でいたい。木のように根を生やすのではなく、風のように常に向きを変えながらいろんな景色を見たいと思っちゃうんです。開発から営業、営業からマーケ、マーケから広報といくと、その界隈のプロたちと一緒に仕事ができて、刺激になるじゃないですか。自分はなんて世間知らずだったんだ、視野が狭かったんだ、って思いたいんです。その気づきが大事だと思っています。



深さよりも、広さ。それで次は、どんな戦場に?



コロナが来て、企業の上層部や人事に訴求するサービスよりも、もっと地域に根ざした、街が活気づく仕事をやってみたくなって。インキュベーション事業や街づくり事業を手掛けるタウンキッチンへ、広報マネージャーとして入りました。JR中央線の高架下にできたスペースで、シェアオフィスやシェアキッチンを運営したり。



ITから、街づくりへ…。振り幅がすごいです。



初めてのtoC事業だったので新鮮でした。プレスリリースを書いたり、外との交渉をしたり、関係性を作る仕事はコミュニケーション能力が肝なので、今まで様々な現場を渡り歩いてきた経験を活かし、食らいついていきました。社内ミーティングでも異を唱えるのが自分のポジションみたいなところがありましたね(笑)。



小野木さんのそういう振舞い、なんとなくイメージできます(笑)。



常に目をギラギラさせて仕事してます(笑)タウンキッチンは、大きく事業拡大していくというより、地域に寄り添う事業だったので、しばらく経つと、何となく余力がある感覚になりました。そこで、副業でWebライターをやってみようかと思ったんです。あまり先々を考えず始めたのですが、コンテンツを生み出す仕事がやっぱり好きなんだと再認識し、完全に1人で独立してやってみようと思ったんです。



おぉ…!副業のほうが、本業を追い越してしまった。



ちょうど後任の方も採用できたので、会社からは離脱しました。独立するにあたり、戦略的なことは何も考えていなかったんですけど、これも本当に運よく、紹介や知り合い経由で取引先が7社くらいになって。会社員の時以上に収入が増えるようになったので、これでやれるとこまでやってみようと思ったんです。
私なんて、と言ってお断りしていたんです



そこまで順調だったのに、また会社に入られたんですね。



たまたま、名古屋にあるWebマーケティングの会社の募集を見つけまして。それが、いまのVOICHAT株式会社の代表の会社だったんです。ちょうどその頃、コロナでフルリモートになった自社経験を活かし、最適な社内コミュニケーションツールを自らの手で創ろうという構想があったようで、私はそのスタートメンバーとしてジョインしました。



立ち上げから。役員のお話は、すぐに出たんですか?



はい、社長からすぐオファーをいただいたのですが、正直、自分で務まるのか?もっと最適な方がいらっしゃるのではと思い、私には無理ですとお断りしたんです。



私なんて、と…。ここまでのお話からすると、意外です。



知り合って間もなかったので、私のことを過大解釈されている可能性もあるなと思いました。ただ、実現しようとしている世界観には強く共感したので、PdMとしてプロジェクトを引っ張っていくポジションからスタートすることにしました。サービスを無事ローンチした後は、いろんなピッチイベントや登壇の場でアピールして認知度を上げねば、となり、ローンチした年にCOO、翌年取締役に就任しました。



肩書きが、戦場への入場券だったんですね。



肩書きといっても、片手に収まる人数の会社なので上下関係はありません。どちらかというと、社内より社外とのリレーション構築に活かせてると思います。役員になって他社の経営者とのつながりが、すごく増えたんですよ。こんなに毎日のように、いろんな会社の経営者と話す自分を想定していなかったので、人生何が起きるかわからないです、本当に。



社長とは、役割が分かれているんでしょうか?



社長は想像力豊かでインプット量も多く、毎日アイデアが降って来ちゃうような方で。私はどちらかというと、抽象度の高いアイデアを、具体的なプロダクトやタスクに落とし込んで、前に進めていく推進力が武器だと思っています。エンジニアメンバー、デザイナーメンバー、セールスメンバーそれぞれに共感してもらい、実行フェーズを進めていく感じですね。


テキストと音声って、まるで違うんですよね



0から1の幹となる部分が社長、1から10の枝葉の部分が小野木さん、そうやって生まれたのがVOICHATなんですね。





はい。一言でいうと、音声が主役のビジネス向けコミュニケーションツールです。リモートでもハイブリッドでも移動中でも、もちろんオフィスでも、いつでも声をかけ合える。1クリックで話せて、相手の状況もわかる、というものですね。



Discordの、ビジネス版のような?



まさにそうなんです。私たちももともとはDiscordを使っていて、これがビジネスでもっと使えたら、と思いヒントを得ました。余計な機能を全部外して、代わりにビジネス利用を前提とした機能を実装したんです。カレンダーと連携して当日予定をアプリ上で見えるようにしたり、誰が何をやっているかステータスでわかるようにしたり。コア業務への集中は妨げず、クイックに相談や確認、共有ができる環境を、という本業ファーストの考え方を、ずっと大事にしてきましたね。



主役はあくまで本業であるべき、ということですね。



そうなんです。そして、仕事の合間に相談しようと思った時、テキストより音声の方が圧倒的に初手が早いと思っています。テキストと音声って、情報伝達における利便性がまるで違うんですよね。



わかります。テキストだけだと、本気度や人間味がセットで伝わらないので、誤解されてしまうこともあって…。



そうなんですよ。VOICHATだといつでもメンバーが同じアプリ上にいて声が届くので、ちょっとした緊張感もありますし。顔出しはなしなので、そこもちょうどいいかなと思っています。



顔出しは無しがいいけど、適度に緊張感を保ちつつ気軽なコミュニケーションはしたい、というニーズもありますもんね。VOICHATの事業拡大に切磋琢磨されていると思いますが、小野木さんは次どんな挑戦をされたいと考えていますか?



そうですね、あれこれ興味があるものに飛び移ってきた人生ですが、今はVOICHATを通じて、もっとフレキシブルに人と人とのコミュニケーションが取れる世界観を創っていきたいです。フリーランスも副業もますます活発化していく。AIを使えばパラレルに複数の仕事を進めやすくなりますし、データ収集や作業的なことはAIに任せながら、イノベーションのきっかけになるような対人会話をVOICHATで後押しできればと思っています。



これだけ戦場を移ってこられた方が、いまは1つのプロダクトに集中したい、と。でも、これまで戦いの場を広げてきたからこそ、留まりたい場所が見つかったのかもしれません。特定分野を深めて専門性を高めるというキャリアの積み上げ方もあるかもしれませんが、様々な企業カルチャーや業務を経験して、多方面に精通していることも、キャリアの強みになりますね。小野木さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

