「山の草刈りは、すごくクリエイティブなんですよ。」株式会社矢藤園・矢藤さんが造園職人として完成させたい”自然を理解できる場所”

きれいに整えられた庭も、山も、ひとりでにそうなったわけではありません。誰かが木を切り、草を刈って、その形を決めている。それが、造園という仕事です。
株式会社矢藤園の矢藤さんは、東京・世田谷で造園会社を継いだ4代目。街で庭の木の手入れを引き受けながら、いまは祖父が買った静岡の山、約9ヘクタールに手を入れています。「山の草刈りは、すごくクリエイティブなんですよ」。そう話す矢藤さんが山を整えている理由のひとつは、子どもの頃の山を取り戻すためです。
今回はそんな矢藤さんに、現在手がけているこちらの事業や、長年にわたり造園職人として働いてきた中で感じる本音について、じっくりお話を伺いました。
株式会社矢藤園
矢藤 昭憲
創業から1世紀を超える、東京都世田谷区の造園会社、株式会社矢藤園の4代目。造園の業界を歩みながら、一時期は広告代理店の下請けでマーケティングやリサーチの仕事にも携わる。現在は静岡県長泉町にある祖父が購入した約9ヘクタールの山で、来春のオープンに向けてキャンプ場を整備している。
一番多い仕事は、庭の手入れなんです

編集部矢藤さんが現在4代目を務める株式会社矢藤園さんは、創業から1世紀を超えるとのことで。老舗の企業ですね。



一応4代目ですね。でも、別にもともと継ぐと決めていたわけでもなくて、他にやりたいことがあんまりなかったという(笑)。そんなに格好いい理由はないんですよ。会社を継ぐ前も、造園の業界にはいつつも、広告代理店の下請け会社にいた時期もあったりで。



造園というと、お庭を作るお仕事、という認識で宜しいでしょうか?



一番多い仕事は庭の”手入れ”なんですよね。木を切ったりとか。



なるほど。つまり、新しく庭を作る工事というよりも、すでにある庭の木を切る手入れのほうが多いんですね。



そうですね。コロナぐらいまでは従業員がいたんですけど、いまは社員が1人でやっています。静岡にいて、僕と一緒にセンターハウスを作ったりしている、造園職人みたいな感じですね。



木の量はお庭によって違いそうですが、1件でどのくらいの作業期間がかかるものなんですか?



1日で終わることもあるし、1週間かかる現場もありますよ。



1週間かかる現場もあるんですね…!工事のほうは、どういう流れになるんでしょう?



お客さんが家を建てて外構とか庭を作る時に、直接オーダーが来る場合もあります。うちはあまりないですけど、ハウスメーカーさんから見積もりしてねと頼まれることもありますね。図面を書いて、駐車場を作ったりウッドデッキを作ったりして、結構な時間がかかることもあります。
カブトムシを、1匹も捕まえられなかった



その東京のお仕事をされながら、いまは静岡にいらっしゃると伺いました。



そうなんです。会社は東京にあるんですが、いまは静岡県の長泉町にいます。ここには僕の祖父が買った、約9ヘクタールの山があるんですよ。



9ヘクタール…!かなり広いですね。



いまは別荘みたいになっているんですけど、とても環境がいいので、ここで自然を理解できるような場所を作りたいと思いまして。



自然を理解する場所を作る…!そう思われたきっかけは、何かあったんですか?



そうですね。僕が子供の頃から、ずっとここに遊びに来ていたんです。当時はバケツにいっぱいのカブトムシを捕まえられました。でも自分に子供ができて連れてきた時に、1匹も捕まえられなくて。「あれ、カブトムシいないじゃん…」と。



同じ山なのに、いなくなっていたんですね…!



なんでかなと考えたのですが、人の手が適切に入っていないと、やっぱり生態系は衰退していくんですよね。だから僕がこのまま何もしないと、僕の孫は遊べないんですよ。



手を入れないと、荒れていく…。



せっかく自然がいっぱいだとしても、遊ぶことがなかったら藪になって終わるんですよ。だから、クマも来る。人が入ってくるような仕組みを作っていかないと、都市でしか生活できなくなってしまう…。そういう本質的なことを伝え、理解し、整備していくのは大人の役割だと思っています。



正直、ちゃんと山を手入れしないと生態系が衰退していくことについては、これまで考えもしませんでした…。



大人が知らないことは、子供は絶対知らないんですよ。親が知らないと、そこに生まれた子も知らないまま生きることになりますから…。
生態系を壊したくないから





その手入れの一環として矢藤さんが現在手掛けているのが、キャンプ場というわけですね。



そうなんです。自然を理解しようとした時に、泊まったり滞在したりできる場所がないと、なかなかうまくいかないなと思いまして。まあ法律上それしかできないので、キャンプ場と言っているだけなんですけど。



法律上、といいますと。



市街化調整区域という法律があって、建物を建てちゃいけないんですよ。ただ、ある一定の条件を満たせば少しは建てていいので、それでいまセンターハウスを作っているんですね。



その条件とは、どういうものなんでしょう?



土地利用申請という制度があって、1ヘクタール以内で開発しますと申告をすると、2%まで建物を建てていいんですよ。ただ、調整池を作れと言われるんです。雨が降った場合に、雨水を自分の敷地の中から出さないでね、ということですね。



調整池というのは、初めて聞きました。それは、どう作られたんですか?



普通だったらコンクリートのダムを作るとか、プールみたいなものを地下に埋めて、そこで1回貯留するという感じにするんですけど。森の中で土を動かしたりコンクリートを使うのは、結局は生態系が変わる破壊行為になってしまうんですよ。



えっ、そうなんですか。それも初めて知りました…。



それで、石とか落ち葉とか、そういう有機物だけを使って貯留する申請を通したんですね。ただ、前例がないというので、最初は自治体も渋ってはいたんですけど。





前例がないと、なかなか通りにくいですよね…。



でも頑張って1年半ぐらいかけて、論文みたいなものを僕が書いて、それで通しました。センターハウスも、普通はコンクリートの上に家を建てるんですけど、昔のお寺みたいに石の上に柱を立てて作っているんですよ。



コンクリートではなく、石の上に柱を。そこまで、こだわられるんですね…!



とにかくその土地にダメージを与えないような建築物を作って、それがいいか悪いか検証しながら、植物なり生き物なりを観察して勉強していく。そういう場所にしたかったからですね。
何を残すか、何を刈るかを判断するんです



作ったあとも検証しながら、という場所なんですね。一方で、東京で受けているお庭のお仕事は、どういうご依頼が多いんでしょう?



街のお庭は、草が伸びたから刈ってほしい、というご依頼が多いんです。時にはやらなきゃいけない、重要な仕事ですよ。でもそれが大半を占めたら、働き手はやっていけないかもしれないです。やっぱりちょっと、離脱したくなるんですよね。



働く人のほうが、離れてしまうんですね。



求人を出していいことを言う。でも、実態は違う。そんなことばっかりやらせるのは、僕からしたら飼い殺しなんですよ。



山の草刈りは、違うんですか?



山の草刈りは、すごくクリエイティブなんです。何を残すか、何を刈るかを判断しながらやるんですよね。だから生態系が多様になったり、季節の花が咲くようになるんです。



刈り方で、咲く花まで変わるんですね…!



街の草刈りであれば、全部根こそぎ刈ってしまえばいい。でもそれって、次には繋がらないんです。



その、何を残して何を刈るかという判断は、どこかで学べるものなんでしょうか?



うーん。そういう判断の仕方は、学校では教えてくれないですから、やって覚えるしか…。気候変動はあるし、街も荒れていく。なかなか難しいところはあるかもしれないですけどね。
「面白れえ仕事を残してくれたな」と思ってくれれば





いまはその山で一緒に働く人を、探していらっしゃるんですよね。



そうですね。来年の春にオープンするので、そろそろ動き出さないと。僕がずっと張り付いているわけにいかないですし、人がいないとお客さんの要望に即答もできないですから。



これまでは、どうやって募集されていたんですか?



求人にお金を使っていたんですけど、人を取るのが結構難しくなってきて。給料がいくらとか休みがどうとか、そんな話ばっかりで、結局何を目指して何をやるっていうことに行き着かないのがすごく嫌なんですよね。



条件ではなく、そこを見てほしいということですね…!



もうちょっと正しく情報を伝えて、同じ方向を見る人に来てほしいなというのがあっての、今ですね。



同じ方向を見る人…!具体的には、どんな方に来ていただきたいですか?



受付して掃除して、というだけの仕事ではなくて。環境教育にも、造園でその人の住む環境を整えることにも興味がある人がいいかなと。本当はハイブリッドで行きたいんです。



ハイブリッド、といいますと。造園の経験がない人には、難しそうにも思えます。



今週はキャンプ場で働いて、来週はよそで環境造園の仕事をする。そんな形ですね。静岡をメインに、ある程度フットワーク軽く動ける人が理想ですね。造園の経験は全然なくても大丈夫です。外部から先生を呼ぶ勉強会もありますから、学びも多いと思いますよ。



未経験からでも学べる…!最後に、矢藤さんはこれから会社をどうしていきたいとお考えですか?



お金を残すのも大事でしょうけど、結局仕事が残ることが大事だと思っているんですよ。継ぐ継がないは本人が決めることですけど、「面白れえ仕事を残してくれたな」と思ってくれればいいかなと。僕は、カブトムシがバケツにいっぱい取れた環境を、もう1回取り戻すだけです。それを次の世代がまた頑張って、その次も頑張ってという風にすれば、日本はめちゃめちゃ楽しいところになると思いますよ。



東京の庭で木を切り、静岡の山で草を刈る。どちらでも矢藤さんは、何を残すかを決めていました。自分の代でやることは、ひとつだけ。カブトムシがバケツにいっぱい取れた環境を、もう1回取り戻すこと。矢藤さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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