「手に職をつけたい。その先に、何をやりたいの?」株式会社ユーネット・丸尾社長が語る、AI時代に選ばれるエンジニアの条件

「手に職をつけたい」。そう思ってIT業界を調べてみたものの、未経験の自分に本当に務まるのだろうかと、画面を閉じてしまったことはありませんか?
株式会社ユーネットの丸尾厚彦(まるお あつひこ)社長は、高校卒業と同時にアルバイトを掛け持ちする日々を送り、23歳のときに求人情報誌でたまたま開いたページから、システム開発の世界に飛び込みました。そこから9年を経て独立し、1994年に設立した会社は、今年で32期を迎えています。
今回はそんな丸尾社長に、これまでの歩みや、社員に伝え続けている「誠実と挑戦」という言葉、そしてAI時代のエンジニアに求められる力まで、じっくりお話を伺いました。読み終わる頃には、「手に職」のその先にある景色が、少しずつ見えてくるはずです。
株式会社ユーネット
代表取締役 丸尾 厚彦
高校卒業と同時に親からの仕送りが途絶え、アルバイトを掛け持ちしながら生活。正社員を目指して求人情報誌を開いたことがきっかけで、23歳のときに未経験からシステム開発の世界へ。プログラマーとして企業の業務アプリケーション開発に携わり、9年近くを過ごしたのち課長を務める。その後、周囲の後押しを受けて独立を決意し、1994年に株式会社ユーネットを設立。元同僚を含む10人で立ち上げた会社は、今年で32期を迎えている。
求人情報誌で開いたページに、「未経験者大歓迎」と書いてあった
編集部ユーネットさんは今年で32期と伺いました。それだけ長く続く会社の始まりが、どんなところにあったのか気になります。丸尾社長は、どんなふうにこの業界に入られたんですか?



私は高卒で、大学には行っていないんです。高校時代から一人暮らしで、親からの仕送りで生活していたんですが、卒業と同時にそれが打ち切られてしまって。自分で生活しなければいけないので、アルバイトを掛け持ちしていました。



高校時代から一人暮らし…!そうだったんですね。



この業界とは何の縁もゆかりもない仕事を、とにかく食べるためだけにやっていましたね。ただ、正社員にはちゃんとならなければいけないなと思って。当時はネットがなかったので、就職情報誌を開いてみたら、「未経験者大歓迎」と書いてあったページが、たまたまこの業界の会社だったんです。



たまたまですか。



本当にたまたまです。やりたかったわけではなくて、給料をくれるというから始めてみたら、はまってしまったという感じですね(笑)。それが、23歳のときでした。



とはいえ、システム開発というと専門的な知識が必要な印象があります。まったくの未経験で入られて、大変ではなかったですか?



確かに知識はあった方がいいんでしょうけど、当時はまだコンピューターが世の中に広まる前ですから、そもそも誰も知らないわけです。知っている人を入れること自体が無理なんですよ。大手さんなら別でしょうけど、中小のシステム開発会社は猫の手も借りたい状態でしたから。だから、そこが私にとってはチャンスだったんです。



誰も知らない時代だったからこそ、入り込む隙があったんですね。入社されてからは、どんなふうに学ばれたんですか?



本当に、ゼロから教えてもらったような感じですね。とはいえ教育体制があったとは言い切れないですけど。昭和ですから、力づくです。自分で学べよ、という世界でした。必死に先輩に食いついて、自分でも本を読んで、一生懸命勉強したという感じですかね。



知識がないことを引け目にせず、まず飛び込んだ。その一歩が、すべての起点になっているのだと感じます。
理想が膨らみ、独立へ。集まってくれたのは元同僚たちだった





先輩に食いついて学ばれた最初の会社には、どのくらいいらっしゃったんですか?



9年近くですね。プログラマーとして、企業が使う業務アプリケーションを作るお手伝いを、一生懸命していました。



9年というと、かなり長く腰を据えられたんですね。そこから独立を選ばれたのは、どうしてだったんでしょう?



本当に、いい会社だったんですよ。人数こそ20人、30人ぐらいの小さな会社でしたが、お客様もいっぱいいて、経営的にも問題がない。でも、だからこそ希望が膨らむわけですよね。私は課長をやっていたので、なおさらです。でも、ちょっと膨らみすぎて、経営者と価値観の相違が起きてしまいまして(笑)。



希望が膨らみすぎて、というのは?



もっとこうするべきだ、お客様にはこうした方がいい、こういう技術を持っていった方がいい…要するに理想ですよ。若気の至りで、理想をバンバン突きつけるわけです。それで少し居づらくなったな、と。



そのタイミングだと、転職という道もあったのでは?



一応、転職活動はしました。ただ、それが後輩や、先に辞めていた元部下たちに知れてきて。「丸尾さん、会社辞めるんですか」と聞かれるわけです。で、さっきのような理想の話をすると、「だったら、自分でやるべきじゃないですか」とみんなに言われてしまって。



まわりから背中を押されたんですね。



そうなんです。辞めた会社の経営者とも喧嘩したわけではないので、「お前もそっちの道を目指せば」と言ってくださって。それで立ち上げたのが、この会社です。ありがたいことに、元部下たちが「丸尾さんがやるなら」と集まってくれて、最初から10人で始められました。技術者が私を入れて10人いる状態です。



創業初期にしては、かなり恵まれたスタートですね。



この業界って、自分にお客様がつくところがあるんです。私のお客様も応援してくださったので、最初からお客様も仲間もいる状態でした。今考えれば、すごく大変なことをやったなと思うんですがね。



理想を言い続けた人のところに、人が集まってくる。言葉にしてきたものが、そのまま会社の始まりになったのだと感じます。
「誠実と挑戦」だけ守れば、あとは自由。人生の3分の1は働いている



元部下の方々が集まってこられたお話を伺うと、丸尾社長が何を大事にされているのかが気になります。社員のみなさんには、どんなことを伝えていらっしゃるんですか?



常々言っているのは、「誠実と挑戦」という2つだけです。何事に対しても誠実であること、そして挑戦者であること。この2つを守ってくれたら、何をやってもいいよ、と。



2つだけ、というのは潔いですね。まず「挑戦」から伺ってもいいですか?



挑戦のほうが先にあるんです。世の中には不公平もいっぱいありますが、1日24時間なのは世界共通じゃないですか。そのうち一番フレッシュに働いている時間が8時間だとすると、1日の3分の1。ということは1年の3分の1で、簡単に言えば、人生の3分の1は働いていることになるんです。



そう言われると、たしかに大きな時間ですね。



その時間が、ただ給料のためとか、ただやらされているだけではつまらないよね、というのが元々の考えで。そこはやっぱり自分自身が主体となって働くべきで、そうすると人生が良くなる。まさにそれは、すべて挑戦じゃないかなと思うんです。



失敗が怖くて動けない、という方も多いと思うのですが…。



失敗も経験なんですよね。挑戦があって初めて成功があるわけで、挑戦がない成功ってないと思っているので。



なるほど。では、もう一つの「誠実」のほうはいかがでしょう?



誠実さは、世の中に結構欠けているなと思っていて。例えば、社長だから偉いとか、部長だから偉いわけじゃなくて、それはただの役割なんですよね。私より社長にふさわしい人がいたら、その人がやればいいじゃんと、社員にも言い続けています。偉い偉くないではなく、人に対してしっかり向き合うこと。それを誠実という言葉に表しているつもりです。



ただの役割、という捉え方は、社内の仕組みにも表れているんですか?



弊社は2年に1度、再編成をする会社なんです。部長も課長も係長も含めて、役職を全部見直します。2年間任せるから、そこで実績を出せば継続なり昇格だし、できなければ降格なりある、と伝えていて。しかもそれを私の一存で決めるのではなく、社員たちが認めるというやり方をしています。運営は基本的に社員がしているのが実態で、私から指示を出すことは、まずないですね。



社長が指示を出さない会社。年功序列とはまるで逆の考え方が、この会社の土台にあるのだと感じます。
社名は「You(みんな)+ネットワーク」。会社はステージであって、主役だけの場所ではない



社員のみなさんが運営される会社、というお話でしたが、そもそも「ユーネット」という社名にも、何か思いが込められているんでしょうか?



人と人を繋ぐという意味での、「You」プラス「ネットワーク」なんです。当時はインターネットもない時代だったので、ネットワークは本当に“繋がり”という意味で使いました。



繋がり、ですか。



ええ。私は会社ってステージだと思っているんです。よく「会社は誰のものか」という話がありますよね。株主のものか、社員のものか、と。でも私は、みんなのものだと思っていて。経営者もいるし、社員もいるし、お客様もいるし、社会もある。そのみんなのネットワークになっていく会社、そういうステージになってほしいという意味を込めました。



ステージという言葉が、すごく丸尾社長らしいですね。



舞台を考えてもらえばいいんですけど、主役だけじゃなくて、いろんな脇役もいて、照明もいて、いろんな役が揃っているわけです。その時に自分が何をやるかは、自分で選べるようにしているつもりです。エンジニアには物静かな方も多い業界だと思いますし、弊社にもそういう方はいらっしゃいます。でも、そういう人たちも認めるというか。



ありのままを尊重されているんですね。



人って変われるとも信じているんですよ。弊社に20年以上いる社員でも、最初の頃は物静かだった方が、今では部長になっていたりね。時間の中で、お互いに補っていく。それもユーネットの、ネットワークの話だと思っているんです。



その「繋ぐ」という考え方は、お客様との仕事にも表れているのでしょうか。中小企業のDX支援もされていると伺いました。



中小企業でも、それなりにシステム化はされているんです。ただ、ご相談いただく社長や部長のご不満としてよく聞くのが、寄り添ってもらえない、という話で。難しい言葉を一方的に言われてしまう、と。システムって作って終わりではなく、そこからが始まりなんですが、入れてもらっても使えない、相談すると仕事は終わったと言われてしまう、という状況があるんですね。



どこに相談すればいいのかも、わかりにくそうです。



そうなんです。だから弊社が気をつけているのは、ITの言葉を使わないこと。「じゃあ一緒に考えましょう」というスタンスをいつも取っています。すると、話をわかってくれる人たちなんだな、となる。中小企業はシステム部門がない会社が多いので、「じゃあ弊社が代わりにシステム部門になりますよ」という形で仕事をお受けすることが多いですね。



専門用語をあえて手放して、同じ側に立つ。人と人を繋ぐという社名が、そのまま仕事のかたちになっているのだと感じます。
AIと勝負しない。輝いているのは「自分の言葉で喋れる人」





お客様の頭の中を一緒に整理していく仕事、と伺うと、最近のAIの進化がどう影響するのかも気になります。エンジニアの仕事がAIに置き換わるのでは、という声もありますが…。



先週も全社会議をやったので、みんなに話したんですよ。「良かったじゃないか」と。



良かったじゃないか、ですか?



そんな面倒なことをAIがやってくれるならいいじゃないか、そこで勝負する必要ないでしょう、と。AIと勝負するという発想は、やめなさいという話をしています。機械がやってくれて、精度も品質も高いなら、それでいいじゃないかと。



では、これからのエンジニアは何で勝負すればいいのでしょう?



やっぱり、課題を見つけることは、AIには難しいと思っているんです。課題を分析することはできるけれど、お客様に寄り添って、お客様の頭の中にあるものをどう整理して、具現化してあげるか。そこは今のAIには難しい。お客様自身がAIを使ったところで、頭の中のモヤモヤをどう話せばいいのかがわからないので、そこはやっぱり人間じゃないかなと。もちろん、AIも使うんですけどね。



技術力よりも、人と向き合う力ということですね。



一言で言えば、AIを使った上での問題解決能力だと思っています。弊社で一番重要な力も、問題解決能力なんです。抽象的で大きいですけど、それを分解していくと、傾聴力が必要だったり、といろいろ出てくる。でも一番上に置いているのは、問題解決力ですね。



実際に社内で「この方は伸びるな」と感じるのは、どんな方ですか?



これは抽象的なんですが、やっぱり自分の言葉で喋れる方ですね。先週、研修を受けた内容を社内で報告する会があったんです。10人が同じテーマで、全員きちんと研修の内容を報告している。でも、輝いている人とそうでない人の違いって、自分のものにしているかどうかなんですよ。



同じ報告でも、そこに差が出るんですね。



「研修でこういうことを学びました。私はここからこう感じ取って、その後こういうことを試してみたんです」とか、「講師はこう言っていたけれど、私はこう解釈しています」とか。そうやって自分のことに置き換えて話す報告って、わかりやすいし、みんなからも質問が出て、わっと盛り上がるんです。これがAI時代に必要とされる能力だと、本当に思っていて。



当事者としての発信が、その中にあるかどうか、ということですね。最後に、これからITの世界を目指す20代の方へ、メッセージをいただけますか?



「手に職をつけたい」という方は、弊社にもよく応募してくださるんです。ただ、手に職って何かと聞くと、プログラムを作ることだとイメージしている。AI時代になると、それは少し違うよなと思うんですね。仕事って結局は営業だと思っていて、お客様の問題を解決してあげることなんです。その源が、自分ごとにするとか、当事者意識を持つとか、自分の言葉で発することに繋がっていくんじゃないかなと。だから、手に職をつけたい、その先に何を自分がやりたいのか。そこをもっとイメージしてほしいなと思います。



人生の3分の1を過ごす時間だからこそ、ただ言われたことをやるのではなく、自分の言葉で。丸尾社長ご自身が、求人情報誌のたまたま開いたページから、そうやって歩んでこられたのだと感じます。今日いただいた言葉は、これから一歩を踏み出すあなたにとって、迷ったときに顔を上げさせてくれる、静かな道しるべになるはずです。丸尾社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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