自分を表現するんじゃなくて、クライアントの代わりに表現するんです。ヨーク社株式会社・山本社長が、クリエイターを「役者」と呼ぶ理由

デザインやクリエイティブの仕事は、センスがあるかどうかで決まってしまう。そう思ってはいないでしょうか。
ヨーク社株式会社の山本洋二社長はクリエイターのことを「役者」と呼び、「自分を表現するんじゃなくて、クライアントがやりたいことを代行して表現する」と話します。カタログもウェブサイトもムービーも、媒体を決めずに引き受けている会社で、いまは大阪の本社と東京支社の2拠点をベースに仕事をしています。
広告代理店でディレクターをしていた山本社長が、なぜクリエイターを「役者」と呼ぶのか。そして、AIが絵をつくれる時代に、人間に残る仕事はどこなのか。詳しくお話を伺いました。
読み終わる頃には、この仕事に必要なのはセンスだけではないのだと、気づきが一つ増えているはずです。
ヨーク社株式会社
代表取締役 山本 洋二
デザインの学校を卒業後、デザインスタジオに入社。制作会社を経て広告代理店に移り、ディレクターとして案件の全体をまとめる立場に。その後独立し、ヨーク社株式会社を設立。企業のパンフレットやカタログ、ウェブサイト、紹介ムービー、ロゴ、CGまで、媒体を限定せずに引き受けている。大阪の本社と東京支社の2拠点で活動中。
クリエイターを支援する会社を、つくりたかったんです
編集部山本社長は、もともとはデザインの世界からのご出発と伺いました。最初は、どんなお仕事を?



学校を卒業して、最初は小さなデザインスタジオに入社したんですけども、そこから、プロダクションと言われるもう少し大きな制作会社に移りまして。さらにそこから広告代理店に転職しました。代理店ではずっとディレクターをやっていたので、そこでこの業種の仕事の全体が把握できるようになりましたね。



ディレクターは、案件の全体をまとめる役ですよね。



そうですね。それで、やっぱり自分の力でやりたいというのと、実現したかどうかは別にして、クリエイターをもっと支援する会社を目指したいなと思いまして。代理店や制作会社だと、どうしてもクリエイターがなんとなく下になるというか、営業の方が偉い、という風潮が当時はありました。



手を動かしている人が、後ろに置かれていたと。



そうなんです。とにかく独立することばかり考えていました。もちろん、クリエイターを支援する会社は当時もいっぱいありましたので、いま考えると独立は怖いもの知らずだったと思います。



その勢いのまま、会社を立ち上げられたんですね。「ヨーク」という社名は、どうやって決められたんですか?



まず最初に考えたのは、辞書に載っていない単語にしようということでした。有名なところで言えば、ソニーがそうなんですよね。もともと意味のある単語ではない。そんなような感じで、特定の意味を持たない社名にしたいなと。まあ、これはもうオリジナリティかなと思います。



意味が決まっていない言葉を、自分で作るということですね。



社名のヨークという言葉は、ニューヨークにも使われていますし、テニスラケットの真ん中のブリッジ部分もヨークと言うんです。卵の黄身も同じヨークですね。ただ、英語の綴りはそれぞれ違うんですよ。そのどれとも違う、新しい綴りYohkをつくりました。
丸投げしてもらって、あとはこっちで全部やりますよ



その名前で、いまはどんな仕事を引き受けていらっしゃるんですか?



販売や広告に関わる、ほぼ一切の業務ですね。広告代理店経由もありますし、企業から直接もありますし、仕事のルートはあまりこだわらずにお受けしています。



作られているものは、どんなものですか?



会社のパンフレットであったり、セールのチラシみたいなものもあります。ホームページの制作もありますし、企業の紹介ムービーの制作もやっていますし、結構幅広くやっていますね。



パンフレットからムービーまで…!



「丸投げしてもらって、あとはこっちで全部やりますよ」というのを信条にしています。クライアントさんの「こんなことをしたいんだけど」というご相談を受けて、それを実現するには何が必要か、という組み立てから始めています。



何を作るかが決まる前から、入っていくわけですね。



そうですね。ですので、うちは媒体を先に決めないんです。ご相談の中身によって、チラシになることもあれば、ムービーになることもある、という形ですね。



作るものが、あとから決まるわけですか。



はい。何を作るかは、目的が決まってからでいいと思っています。



長くお付き合いのある企業からは、どういう点を評価されているんですか?



やっぱり、小回りが効くということじゃないかなと思います。「これが専門です」「これしかやりません」じゃなくて、相談を受ければ何でもやる。そういうところかなと思っています。



その相談を受ける体制は、何名なんですか?



クリエイターは5名ですね。弊社の特徴としては、割と真面目にコツコツやる、というところだろうと思っています。
自分を表現するんじゃなくて、代わりに表現するんです



その5名の方を、御社では「役者」と表現されていた時期があると伺いました。どういう意図だったんでしょう。



常に役者と呼んでいるわけではないんですけど、そうであるべきかなと。というのは、芸術家というのは自己表現ですよね。何を表現したいかということで、いろんなものをつくる。



その、ちょうど反対側にいるということですか。



我々はそうじゃなくて、クライアントが何をしたいのかということに合わせて動く、そのための物づくりですから。自分を表現するんじゃなくて、クライアントがやりたいことを代行して表現する。そんな意味で、役者みたいな考え方であるべきかなと思っています。



主役ではなく、役を引き受ける側だと。ただ、作る方の個性は、出さないものなんですか?



もちろん個性は出ると思うんですけど、自分の自己表現ばっかりではなくて、企業が求めているものを作り上げるには、自分はどういう立場でどういう振る舞いをすればいいのか。それを考えながら動くというのは大事かなと思っています。



何を作るかより先に、どう振る舞うかを決めるんですね。それは、企業ごとに変えていくものなんですか?



役によって、立ち方は変わりますから。企業ごとに、そこは違ってきますね。同じ作り方をしていては、合わないんです。



なるほど。この仕事をやっていてよかったな、と感じるのはどんな時でしょう?



やっぱり、自分の手がけた仕事を自分の生活の中で見かけたりすると、嬉しいですよね。広告でやったものを、たまたま目にしたりとか。役として引き受けたものが、街の中に出ている。単純に、いいものだなと思います。
AIは、どこまで行ってもアシスタントなんです



媒体を広げていく中で、AIについては率直にどうご覧になっていますか?



AIは非常に興味がある分野で、今後おそらくもっと発達していくでしょうし、我々ができることが増えると同時に、我々がやってきた領域もどんどん奪われていくだろうな、と考えています。



できることが増えるのと、奪われるのが、同時に来ると。



ただ、AIって、どこまで行ってもやっぱりアシスタントなんですね。少なくとも、我々が生きている間ぐらいは、そうだと思います。



なるほど。主役ではない、ということですか。



優秀なアシスタントがいたり、ちょっと個性的すぎて扱いにくい子がいたり、というのが今のAIの現状かなと思っています。だから、それをいかにうまく手なずけながら統括していくかというのは、まだまだ人間の部分なのかなと。



手なずけて、統括する。実際には、御社ではどんなところでAIを使われているんですか?



手元の作業の一部ですかね。そんなに本格的なAIを、システムとしてどんと導入しているわけではなくて。たとえば写真の切り抜きなんかはAIの方が早く出してくれますし、あとは文字起こしですよね。昔はテキストを見ながら入力したりしていましたけど、いまはAIがすべてやってくれますね。



手を動かす時間が減った分は、どこに回していかれるんでしょう。



会社であっても商品であっても、その魅力をいかに伝えるか。そこに絞ってやっていきたいなと思っています。だからこそ、引き続き媒体は限定しません。TikTokのような新しいところも、こだわりなく広げていきたいですね。
素敵なビジュアルは、この仕事のごく一部





クリエイティブやデザインの業界を目指したい、という若い方が、弊社にもよく相談に来られます。そういう方に、伝えたいことはありますか?



我々の業界で言えば、ビジュアルの部分を意識される方が多いと思いますし、ビジュアルが素敵なものを作りたい、という方が多いのかなとは思っています。我々自身も、そういう時代を過ごしてきましたし。ただ、この業界は、デザイン全体そうですけども、それはごく一部なんだなというのは、自分がこの世界でずっとやってきて思うところですね。



ごく一部、ですか。



たとえばですけども、見出しの文字があるとしますよね。それが大きいのがいいのか、小さいのがいいのか。太いほうがいいのか、細いほうがいいのか。そういうところで、人間ってこう、心理的にいろんな作用が起こるんです。



文字の太さひとつで、気分が変わる…!



なんとなく不安が残る気分になるデザインもあると思いますし、安心感があるデザインもあると思うんですよ。その辺りは、いろんな分野がいっぱい重なって関わってきて、興味深いかなとは思っています。



たしかに、なぜそのフォントでその大きさなのか、なぜその配置なのか、なぜその色なのか、デザインには全てにおいて意味やメッセージがある、という話は聞いたことがあります。そのあたりを深堀り出来る方は、デザイン業界以外の業界でも重宝しそうですね。



作るのが上手な人と、作ってもらうのが上手な人がいると思うんですよね。作ってもらうのも、発注書とお金だけあればいいわけじゃないので。クリエイターをドライブしていくというのも非常に重要で、そういう立場で活躍される方もいますし、それも十分なクリエイティブです。幅は広いと思うんですよね。



作るのが上手な人と、作ってもらうのが上手な人。センスがあるかどうかで測る前に、この仕事には入り口が2つあるということですね。デザインやクリエイティブの仕事は、センスだけで決まるわけではない。誰かのやりたいことを代わりに形にする、という道もあるのだということがわかりました。山本社長、本日はとても勉強になるお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

